1章 第13話 『信頼』
なかなかダンジョン攻略が上手くいかないですね……
学校に帰り、起きた出来事をオルドに話した。オルドはよく無事だったと言ってくれたが、ヘルはそれどころではない。
ダンジョンからの帰り道、トゥルバの『真実の正義』を知った。きっとあれが彼の生き方なんだと思う。
そして、ヘルはトゥルバみたいに『真実の正義』なんて持っていない。ただの犯罪者だ。
ヘルはダンジョンで殺した2人を思い出していた。あの時、ピコと呼ばれた男の恐怖を勘付いていた。それを知った上で、話を振った。
ピコは嫌々付き合ってたのかもしれない。彼の剣は震えていた。
ヘルは自らの意思でピコの恐怖を煽り、魔法発動の引き金を引いた。それはトゥルバを助けるために、2人を殺した。
寮では寝付けなかった。この1年で周りでは誰も恐怖を抱かなかったため、ヘルの魔法はこんな簡単に発動するものだと忘れていた。
「遅刻とは珍しいなヘル。今日はジンとダンジョンだろ? 早くジンの所に行ってこい」
教室に入ると、オルド以外の姿はなかった。ジンとは昨日落ち合う場所を決めていた。
学校を出て近くの噴水の前にジンが立っている。
「おっと、お寝坊さんのヘル君。何か言う事はないのかね??」
「……遅れてごめん」
「へへぇー、謝れるなら許してしんぜよう」
ジンは笑いながら言ってくる。ヘルは下を向いたまま歩き出そうとすると、
「昨日トゥルバから聞いたんだけど、人を殺した事を後悔してるんだって?」
「——っ」
「確かに人殺しは良くないかもしれない。でも、殺さなかったらトゥルバを助けられなかったんだろ?」
そんな事を聞いてくる。いつものジンはふざけていて掴みどころがない。振り回されるだけだった。でも、今は違う。
普段のジンはどこに行ったのか、目の前には別人なくらい落ち着いた口調で話出すジンがいた。
そのジンに驚きつつヘルは口を開く。
「たし、かに、殺さなかったらトゥルバの元に駆けつけるのは遅れたかもしれない。でも、だからって殺す必要は……なかった」
「……ヘル。ヘルは強くない。守れるものはどれだけある? 片手が限界だろ? 全部を救うなんてのは英雄じゃなきゃ無理だ」
「……それは、そうだけど」
「なら、助けるものは選ぶべきだ。ヘルの魔法がどんなものかは知らない。過去に何があったかも分からない。だから、今助けられる人を助けろよ」
ジンはヘルの顔を見ながら普段の顔とは違う、本当に真面目な顔をして話してくれる。
「俺が選んでいいのか……? そんな、人の命を俺の基準で……」
「ヘルが選ばなきゃ誰が選ぶんだよ? 自分で決めろよ」
「……」
助けるものを選ぶ……。
俺は強くない。英雄でもない。
何かを守るには限界がある。
なら、全部を助けるんじゃなくて……俺が助けたいのは……
「……俺が、助けたいのは友達。手の届く範囲の人達を助けたい」
時間をたっぷり使って答えを出した。ジンに聞こえるように、自分の魂に言い聞かせるように。
人を殺す力に飲まれるんじゃない。友を助けるために、力を使う。
罪が増えるとしても、俺は助けたい。
「……あはぁー、いいじゃんその顔。マシになったよ」
ジンはヘルの顔を見て、いつもの甲高い音を立てた不気味な笑い声を出す。ヘルはジンに感謝していた。
言葉には出さない。けれど、これから行動で示していこうと決めて。
「それじゃ、ダンジョンに行こう。あ、その前にご飯食べて行かない?」
ジンとご飯を済ませてダンジョンに向かう。
「ほへぇ〜、これがダンジョンか。なんか不気味ぃ」
「そうだな、2回目だけど慣れないな」
「そう言えば、昨日の生徒狩り? 今日はいないよね? いたら俺拉致られちゃーう」
ジンは体をくねくねさせて言っているが触れないでおく。そして、ジンと顔を合わせて、一つ頷く。
「トイレなら、そこで済ませられるよ? 耳は塞ぐ必要ないでしょ?」
「トイレじゃねぇよ。済ませるとしても、耳は塞いでくれ。恥ずかしい、ふざけてないで行くぞ」
緊張感のないジンに釘を刺して、ダンジョンの階段を降りていく。
相変わらず薄い赤の明かりがダンジョン内を照らしていると、早速モンスターが出てくる。
「あはぁー、目が痛い色だなー。お? ゴブリンじゃん」
「はぁ……油断するなよ?」
ダンジョンの中でも変わらないジンの態度にため息を付きつつ腰から斧を取り構える。
ゴブリンが正面から突っ込んでくるのをジンが左に避けて、腹から真っ二つに切る。
「ふぅ……どお? どお?? 今の俺結構かっこよくなかった?」
「かっこよかったよ。今日こそ2階層まで降りるから慎重に行こう」
昨日も2階層まで降りる予定だったが、生徒狩りと遭遇したせいで降りられなかった。そのため今日こそ2階層まで降りる事になった。
一瞬、『魔気』を解いたヘルの横合いから暗闇に潜んでいたモンスターに攻撃される。
「——っ! くそ!」
腕に引っ掻き傷をつけられたヘルは、痛む腕を庇う前にモンスターの頭に斧を一閃する。
「はぁ、はぁ……これは、シャドーか?」
真っ黒で影の様な体に鋭い鉤爪のモンスター。通常2階層にいると聞いていたが……
「その傷大丈夫か? これでも貼っときな」
そう言って渡されたのは、細長い日本でお世話になっていた絆創膏……ではなく、チーズだった。
「ってこれ、チーズじゃねぇか! 変なもん貼らせようとすんな!」
「あはぁー、チーズ貼れば治ると思って」
ヘルが怒鳴って投げつけたチーズを、ジンは笑いながらポケットしまう。
そんな大声を出していたらモンスターが集まるのは自然の事だった。
「——っ! おい! ジン、逃げるぞ!」
「あはぁー、数が多すぎるね! これは流石に逃げないとね」
そう言って2人で走り出そうとした時にジンが口を開いた。
「ヘル今しかないよ。あの有名なセリフを使うのは」
「有名なセリフ? そんな事はいいから早く逃げるぞ」
「俺を置いて先に行けって言ってくれない?」
「お前、本当にはっ倒すぞ?」
ジンのふざけた態度を見ていると緊張感がどこかに行ってしまう。ヘルはジンの手を掴みダンジョンから脱出した。
「はぁ、はぁ……いつんなったら2階層行けるんだ……?」
ダンジョンの入り口付近まで来て、モンスターが追ってきていないのを確認してヘル尻もちをつく。
「あっはぁー、楽しかったな。もっかい行く?」
「行かねぇよ! ったく、本っ当に態度変わらないなぁ」
「……ちゃんと笑えんじゃん」
「……?」
ジンは何かを呟いたが、ヘルの耳には届かなかった。そして、手を差し伸べてくるジンを見る。
「……」
その手を無言のままヘルは強く握って立ち上がる。
「2階層は明日の人に任せようぜ?」
「……明日も俺なんだよ」
「あっはぁー、そうだった」
ジンと話す時、自分でも分かるくらい口数が増えている。これはジンと話すのが楽しいからなのか、それとも……
「早く帰ろうぜ、ヘル」
「そうだな、帰るか」
この言葉はまだ出さないでおこう。いつかジンに直接伝える日まで。
そしてヘルとジンは学校に戻り、モンスターから逃げたと伝えてオルドに怒られた。
読んでいただきありがとうございます。
ジンの笑い方って普段なかなか聞かないので新鮮に感じます。「あはぁー」って笑う人見たことあります……?




