第4話「戦士の戸惑いと遊びの作法」
倒れた魔物の巨体から濃い血の匂いが立ち昇る。
レオンは地面にへたり込んでいた。
彼は息を荒くしている。
土に汚れた顔は蒼白だった。
彼の視線が魔物とリリアを激しく往復する。
リリアは静かに魔物の骸から離れた。
足元に転がる石を避けて歩く。
「お前がやったのか」
レオンの声はかすれていた。
喉がひどく渇き切っている。
リリアは彼を見下ろす。
まばたき一つしない。
「魔物が勝手に転んだの。当たり所が悪かったみたいね」
彼女は淡々と嘘をつく。
レオンは信じられないという顔をする。
だが魔物の首の関節は砕けていた。
ただの転倒で起きる損傷ではない。
彼は額の汗を手の甲で拭った。
立ち上がろうとして足がもつれる。
リリアは彼に手を差し出さない。
ただ静かに見つめて待つ。
レオンは自力で立ち上がった。
剣を鞘に収める。
「助かった。俺たちの命の恩人だ」
彼は深く頭を下げた。
仲間たちも次々と立ち上がる。
彼らも同様にリリアへ頭を下げた。
リリアは少しだけ目を伏せる。
『面倒なことになったわね』
彼女は木の陰に隠していた麻袋を取りに行く。
依頼された薬草が中に入っている。
レオンが背後から駆け寄ってきた。
彼は大きな手で麻袋を奪うように持った。
「俺が持つ。せめて街まで荷物を持たせてくれ」
リリアは彼の目を見た。
真剣な光が宿っている。
断る方が不自然だと判断した。
「ありがとう」
◆ ◆ ◆
彼らは連れ立って森を歩く。
レオンの仲間たちが魔物の素材を解体して運んでいる。
硬い外殻は高く売れる。
街の門が見えてきた。
ギルドへ向かう道中もレオンはリリアを気遣う。
大きな身体を丸めて歩幅を彼女に合わせていた。
ギルドのカウンターに獲物を提出する。
受付の女性が目を見開いた。
「森の浅い階層にこんな魔物が」
彼女の顔が青ざめる。
レオンは硬い表情で頷いた。
「異常事態だ。奥から押し出されたのかもしれない」
彼は報酬の銀貨を受け取る。
その半分をリリアに差し出した。
リリアは首を横に振る。
「私は何もしていないわ」
レオンは強引に彼女の手に銀貨を握らせる。
金属の重みが手のひらに伝わる。
「これは護衛代だ」
「お前がいなければ俺たちは死んでいた」
リリアは銀貨を見つめた。
孤児院の冬を越すための資金になる。
彼女は静かにそれを受け取る。
「もらうわ」
◆ ◆ ◆
孤児院へ戻る。
夕暮れの赤い光が建物を照らしていた。
庭で子供たちが遊んでいる。
リリアは彼らの輪に入った。
鬼ごっこが始まる。
リリアは決して捕まらない。
足音を消して死角へ入り込む。
重心を常に低く保った。
子供たちは不思議そうに彼女を探す。
「リリアの歩き方を真似してみて」
彼女は遊びの延長として身体操作を教える。
踵から着地しないこと。
呼吸を歩みに合わせること。
孤児院の子供たちに自衛の術を授ける。
世界は安全ではない。
彼女は誰にも気づかれないように種を蒔き続けていた。




