表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の最強暗殺者、七歳の幼女に転生してスローライフを目指す~孤児院を脅かす悪党は裏でこっそり始末します~  作者: 黒崎 隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/15

第2話「闇を歩く足音」

 夜の帳が下りた。


 孤児院は静まり返っている。


 子供たちは不安を抱えたまま眠りについた。


 マリアも礼拝堂で祈り疲れて眠っている。


 リリアはベッドから抜け出した。


 黒い粗末な服を身にまとう。


 窓枠に足をかけた。


 夜風が冷たく頬を撫でる。


 彼女は音もなく外へ飛び降りた。


 膝を柔らかく使って着地の衝撃を殺す。


 枯れ葉の落ちる音さえしなかった。


 闇夜に小さな影が溶け込む。


 街の石畳を走る。


 靴底が地面に触れる瞬間を精密に制御する。


 骨格の隙間を縫うような特殊な歩法だ。


 前世で極めた技術である。


 暗殺者としての記憶が身体を動かしていた。


◆ ◆ ◆


 夜の街は静かだった。


 酔っ払いの声が遠くで聞こえる。


 リリアは路地裏の影を縫って進む。


 月明かりを避けて建物の隙間を抜けた。


 バルドの屋敷が見えてくる。


 高い石造りの塀がそびえ立っている。


 鉄格子の門には鍵がかかっていた。


 警備の男たちが松明を持って巡回している。


 リリアは壁の影に身を潜める。


 呼吸を深く静かに整えた。


 男たちの足音の規則性を測る。


 視線が交差する死角を見極める。


 リリアは地面を蹴って跳躍した。


 高い壁のわずかな凹凸に指をかける。


 石の冷たい感触が指先に伝わる。


 腕力だけで身体を引き上げた。


 音もなく敷地内へ侵入する。


 芝生の上に静かに着地した。


 屋敷の壁に張り付く。


 二階の窓に明かりが灯っていた。


 バルドの書斎だろう。


 リリアは雨樋を掴んだ。


 軽やかな身のこなしで二階へ登る。


 窓枠に手をかける。


 鍵は開いていた。


 隙間から室内の様子をうかがう。


 バルドが巨大なマホガニーの机に向かっていた。


 彼は羽ペンを走らせている。


 顔には欲深い笑みが浮かんでいた。


 インクと古い紙の匂いが漂ってくる。


 リリアは窓を静かに押し開ける。


 部屋の中に滑り込んだ。


 絨毯の毛足が足音を飲み込む。


 バルドは気づいていない。


 リリアは彼の背後に回る。


 息を潜め心音の響きすら抑え込む。


 彼女は冷ややかな視線を送った。


 部屋の温度が急激に下がったように感じられる。


 バルドの首筋に冷や汗が浮かんだ。


 彼は羽ペンを止める。


 背後の異変に本能で気づいた。


 ゆっくりと振り向く。


 そこに無表情な幼女が立っていた。


 バルドは目を大きく見開く。


 喉の奥で息を呑む音が響いた。


 悲鳴を上げようと口を開く。


 リリアは素早く動いた。


 バルドの視界から一瞬で消える。


 彼の背後に回り込んだ。


 小さな手が彼の首筋に触れる。


 動脈のすぐ横の急所を的確に押さえた。


「静かにして。声を出す前に命を刈り取るわ」


 リリアの声は氷のように冷たかった。


 バルドは激しく身震いする。


 額から滝のように汗が流れる。


 彼は小さく頷いた。


 リリアは首筋から手を離す。


 バルドの前に回り込む。


 机の上の引き出しに視線を向けた。


「その右の引き出しを開けて」


 バルドは震える手で引き出しを引く。


 中には黒い革張りの手帳が入っていた。


 裏帳簿だ。


 孤児院の書類を偽造した証拠が記されている。


 リリアは手帳を手に取る。


 ページを素早くめくる。


 暗闇でも彼女の目は文字を捉えた。


「見つけたわ。偽造の記録ね」


 バルドの顔から血の気が引いた。


「なっ。なぜそれを」


 リリアは手帳を机の上に放り投げる。


 革の表紙が鈍い音を立てた。


「孤児院の借金はこれで帳消しよ」


「明日の朝マリアに謝罪の手紙を出しなさい」


「二度とあの場所に近づかないで」


 バルドは椅子から崩れ落ちた。


 床に這いつくばって見上げる。


 目の前の幼女が底知れない化物に見えた。


「わかった。言う通りにする。だから命だけは」


 リリアは何も答えない。


 ただ冷たい瞳で見下ろした。


 彼女は背を向けて立ち去る。


 窓枠に足を乗せた。


 夜の闇へ音もなく溶け込んでいく。


 書斎には冷たい風だけが残された。


 バルドは床に伏せたまま長く震え続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ