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伝説の最強暗殺者、七歳の幼女に転生してスローライフを目指す~孤児院を脅かす悪党は裏でこっそり始末します~  作者: 黒崎 隼人


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第13話「雪解けの音と芽吹く命」

 長い冬が終わろうとしている。


 屋根に積もった白い雪が輪郭を崩し始めていた。


 軒先から溶けた水が滴り落ちている。


 地面のぬかるみが跳ねる小さな音が一定の間隔で響く。


 冷たい風の中に微かな春の匂いが混ざっていた。


 湿った土と新しい草の青臭い香りだ。


 リリアは孤児院の裏庭に立っていた。


 分厚い上着を脱いで身軽な格好になっている。


 彼女の足元には黒い土が広がっていた。


 雪が溶けて水分をたっぷりと含んでいる。


 春の種まきに備えて土を返す作業が必要だった。


 リリアは木製のクワを手に取る。


 柄の表面は長年の使用で滑らかに削れている。


 手のひらにぴったりと馴染む感触があった。


 彼女は足を肩幅に開く。


 重心を深く沈めた。


 腕の力ではなく腰の回転を利用して土を掘り起こす。


 重い金属の刃が湿った土に深く突き刺さる。


 腕の筋肉が滑らかに収縮した。


 土の塊がごくりと裏返る。


 古い根や石が混ざった土の断面が空気に触れた。


 前世で人を殺めるために鍛え上げた身体操作だ。


 今はただ命を育むために使われている。


 彼女は無心でクワを振り下ろし続けた。


 額に薄っすらと汗がにじむ。


 冷たい春風が火照った肌を撫でていく。


 呼吸は乱れていない。


 心臓の鼓動も静かで規則正しいリズムを刻んでいた。


「リリア。少し休まないかしら」


 背後から優しい声が聞こえた。


 マリアが木の盆を持って立っている。


 盆の上には湯気を立てる木の実のお茶が載っていた。


 リリアはクワを止める。


 柄を土に突き刺して体を起こした。


 呼吸を整えてからマリアの方へ振り返る。


 太陽の光がマリアの銀色の髪をきらきらと照らしている。


 彼女の表情は穏やかで満ち足りていた。


「ありがとうマリア」


 リリアは土で汚れた手を布で拭く。


 木の盆から温かい陶器の茶碗を受け取る。


 指先からじんわりと熱が伝わってきた。


 お茶を一口すする。


 香ばしい風味が口の中に広がった。


 乾いた喉が潤っていく。


 マリアはリリアの隣にしゃがみ込んだ。


 掘り起こされた黒い土を指先でそっと触れる。


「土が温かくなってきたわ。今年はたくさん野菜が育ちそうね」


 マリアの目は未来への希望に満ちていた。


 孤児院の借金は消滅した。


 冬を越すための食料も十分にある。


 悪徳貴族や魔族の脅威も去った。


 街は活気を取り戻している。


 リリアはお茶の入った器を両手で包み込んだ。


 彼女の視線が庭の隅へ向かう。


 小さな子供たちが雪の残りで遊んでいた。


 笑い声が青い空に吸い込まれていく。


 平和な風景だった。


 この景色を守るために彼女は手を汚した。


 闇に潜み他者の命を冷酷に奪い取った。


 その事実に後悔はない。


 もし再び脅威がこの場所に近づくなら何度でも同じことをする。


 彼女の心の中に迷いはなかった。


『これでいいのよ』


 リリアは心の中で静かに呟いた。


 空を見上げる。


 雲の隙間から眩しい陽光が降り注いでいた。


 光が彼女の小さな身体を包み込む。


 前世の暗い記憶が少しずつ薄れていくのを感じた。

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