第10話「癒える街と剣士の誓い」
街の復興作業が進んでいる。
石畳の上の瓦礫は片付けられていた。
冷たい風が新しい木材の香りを運んでくる。
大工たちが柱の修繕に取り掛かっていた。
木と鉄がぶつかる重い音が一定の間隔で響く。
人々の顔には深い疲労が刻み込まれている。
しかし瞳の奥には確かな安堵の光があった。
領主の館に騎士団が突入したという噂が街を駆け巡る。
悪徳貴族はすべての地位を剥奪されたらしい。
魔族との密約を示す証拠が机の上に残されていたからだ。
誰がその証拠を揃えたのかは誰も知らない。
噂では王都の隠密部隊の仕業だと言われている。
リリアは荷馬車を避けて路地の端を歩く。
周囲の大人たちは復興の話題で持ちきりだ。
彼女は自分の影を見つめて静かに歩幅を調整する。
◆ ◆ ◆
冒険者ギルドの前に到着した。
扉の蝶番が油を差されて滑らかに動く。
中に入るとむせ返るような熱気が顔を打った。
魔物の群れを退けた冒険者たちが酒盛りをしている。
勝利の余韻が空間を満たしていた。
こぼれた酒の匂いが床から立ち昇っている。
剣を掲げて武勇伝を語る声が響く。
リリアは人混みの隙間を縫って進む。
誰の身体にも触れない。
気配を消してカウンターの隅へ向かう。
そこにレオンの姿があった。
彼は仲間と騒ぐことなく一人で木の杯を傾けている。
顔にはいくつかの新しい切り傷があった。
鎧にも深い爪痕が残されている。
死線を潜り抜けた男の静かな佇まいだった。
彼は杯を置いてリリアを見下ろす。
瞳の奥に鋭い光が宿る。
「嬢ちゃん。怪我はなかったか」
彼の声は酒場のざわめきの中でもはっきりと聞こえた。
リリアは小さく頷く。
「孤児院の裏庭に隠れていたの。マリアと一緒に扉に鍵をかけていたわ」
レオンは彼女の顔をじっと見つめた。
視線が交差する。
沈黙が二人の間に落ちた。
周囲の騒めきが遠くへ退いていくように感じる。
レオンは大きく息を吐いた。
彼の手が腰の革袋を掴む。
硬貨が擦れ合う鈍い音が鳴った。
「領主軍から防衛の特別報酬が出た。これは孤児院への寄付だ」
彼は革袋をリリアの前に置く。
かなりの重さがある。
「俺たちはただ門を守っていただけだ」
「魔物の動きが急に止まらなければ全滅していた」
「誰かが元凶を絶ってくれたんだろうな」
彼の言葉には深い意味が込められている。
リリアは表情を崩さない。
革袋の紐に指をかける。
「匿名の恩人に感謝しないとね」
レオンは口元をわずかに緩める。
「ああ。本当に感謝している」
彼はそれ以上何も聞かない。
詮索しないことが彼なりの礼儀なのだろう。
リリアは革袋を胸に抱いた。
重たい銀貨の感触が冬の寒さを和らげてくれる気がした。




