食えない男
「う〜ん、まっ、良いけど。そっちも受かってる友達教えてよ?どう?これで相子じゃない?」プロデューサーがニヤッと聞いてくる。
「……」大人は、だから嫌なんだ!琴子はプイッと笠原の横に戻る。
「まあ、タダで旅行できると割り切れよ。推しのおごりだぜ?ラッキーじゃん?」笠原が笑う。
思えば、笠原もかなり打ち解けた気がする。最初は本当にドライで論客然としてたが。今は大学の同級生って感じがする。
「そう言えば、大学入ったって事は将来成りたいものとかあるの?漠然とアナタは大学入った人だと思えないわ。」そうなのだ、何となく大学入る人間とは思えない気骨ある男子なのだ。
そこも琴子が気に入ってる部分だ。
「それ、面接でも聞かれたよ。配信者の後は何になるの?って。」笠原が笑う。
が、琴子は驚く。
「すごい!良い質問だね。思ったより良い事務所かもね!」そうなのだ。配信を続けるモチベは、多分そこにあると思う。多分だが、推しにはそれが無かった気がする。
他のメンツにはそれが明確にあるから、皆少しマンネリ化しても続けられた。
ただ推しには無かった…気がする。
「面白そう!
楽しそう!」で飛び込んでしまったのだ。
だから、マンネリ化したら…もう続けられないのだ。
「俺は…弁護士か検事成りたい。いや、成るために大学入った。」笠原が話す。
「やっぱり、そうなんだ。」琴子の大学は弁護士や検事を多く輩出してる大学なのだ。公認会計士も多い。
「オヤジの事故さあ、個人のミスで片付けられたんだ。工期が無茶苦茶タイトで、働く人間も寄せ集めで現場監督のオヤジはスゲ〜困ってた。
親父の真上で作業してたのは、当日入ったはかりのバイトだったんだよ。なのに、作業を教える人も足りなくて。安全装置を繋いでから吊るすのを教えてなかったんだ。で、心配して様子を見に行ったオヤジの頭の上から鉄骨が降ったんだ…」笠原が辛そうに話す。
「でも大手デベロッパーには沢山の弁護士軍団が付いてる。オヤジの事故は現場の問題だと個人のミス扱いになったんだ。貧しくて日雇いしてる人間が刑期食らって賠償金払うとか…おかしくないか?
まだ中学だった俺は、オカシイと思うが無力だった。
だから弁護士なるか、検事なってちゃんと事業者の責任を追及するデベロッパーハンターに成りたいんだ!」笠原が琴子をヒタッと見ながら話す。
「スゴいよ!格好いいよ!」思わず琴子は半泣きなりながら拍手してしまった!
「笠原くんこそ、大学行くべき来るべき人だよ!
面接でそれ話したの?」琴子が聞く。
「うん、成り行きで…恥ずかしかったけどな。
でもバイト減らして司法試験の準備したいと本気で思ってる。だから、この話は本当に渡りに船なんだ。」とまた照れた。
『私って、いい仕事するわ〜っ!さすが!』と心の中で自画自賛する。
「必ず受かろうね!謎を解こうね!」と笠原の手を握った。
だんだん気持ちが分かって来たかも?
限界だったんだなあ〜と。歌手なりたいとかキングになりたいとか、配信者の先に夢や希望があれば良かったのにね〜
楽しそう!面白そう!で世界に入ったから。
自分も何者かに成りたいって夢がない人間だからなあ〜
好きなことだけして生きるってのが、夢だったような。




