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【完結済】飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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蘇生





「素晴らしい。毎日凄い数の身代わり魔石が届いておる。

 王宮の一室が、もう埋まりそうだ」


「何故…身代わり魔石の事に、早く気が付けなかったのでしょう。

 私も、まだまだですね」


「そう自分を卑下するな、ステラ師団長。人間とは、そういうモノだ。

 特に責任ある地位にいる者は、何でも難しく考えすぎてしまって答えを迷う。

 私もそうだ。だから、側近や臣下がいるのだろう?一人で抱え込むでない。

 それに、そなたは良くやってくれている」


「…ありがとうございます。そうですね、陛下。

 今回は、ヴァニティーナ王女殿下と朝露の精霊に助けられました」


「あの、ご歓談中失礼します、水の都より身代わり魔石が、

 持ち込まれました。こちらに運んでよろしいでしょうか?」


「おお、遠い所から来てくれたのだな。通してやれ。

 今日は、王宮に泊まってもらおう。宿泊する部屋の用意を頼む。

 客人の為に、お茶と菓子も頼む」


「はっ」


「わざわざ自ら、届けに来たのですか?

 王都以外の村は、伝令鳥で知らせてくれれば、

 集まった魔石を王宮の騎士が、受け取りに行っていましたよね?」


「ああ、自分で届けたいと、水の都の騎士の希望でな」


「浄化遠征に行った都ですね。

 サトミさんが、あそこのピザを気に入って、毎日食べていました」


「ほう?サトミ殿が好きなら、さぞ旨いものなのだろうな。

 私も食べてみたいものだ」


「ええ、私も頂きましたが、トマトベースの薄いパンの上にたっぷりのチーズ、

 旬の野菜や果物、肉や魚介類等などの具沢山で、非常に美味しかったです。

 そういえば…瘴気で傷を負った騎士が、サトミさんに懸想していたような…」


「お初にお目にかかります。ブランシャル領主の代理で水の都から来ました。

 都の騎士を務めております。ブルー・バルダと申します。

 聖女サトミ様から譲り受けた、身代わり魔石を返却に参りました」


「おお、遠い所からご苦労であった。感謝するバルダ騎士殿。

 今日は王宮に泊まるといい。部屋を用意させてある」


「勿体なきお言葉、そしてお気遣い、ありがとう存じます」


「おや、あなたでしたか、ブルー騎士殿」


「お久しぶりです。ステラ師団長殿」



ブルー騎士は、真綿の中に大量の身代わり魔石を入れた、

大きな木の箱を抱えて、ペコリと頭を下げて微笑んだ。




* * * * * * *




「身代わり魔石、足りるのだろうか?」


「これだけあれば、足りるでしょう?

 まだ、全部集まってないみたいですが」


「これで、本当にサトミを蘇生出来るのか…」


「そうだねー、まだ足りないと思う。あの聖女様、凄い魔力量だもん」


「……ん?」


「誰だ、この子供」


「デューリーンでーす♪」


「……………」


「こらっ、こんな所に居ましたの⁉︎ ウロウロしないのっ」


「ヴァニティーナ王女殿下⁉︎」


「…あ、あら、ご機嫌よう。グレン団長、レイ副団長」


「いいじゃん、別にっ!暇なんだもんっ‼︎」


「あなたは少し落ち着きなさいっ」


「……いつ、子供産んだんですか?」


「違いますっ!…何でみんな同じ事をいうのかしら。

 この子は朝露の精霊ですわっ」


「精霊…」


「この二人の騎士さん魔力強いね!

 でも僕、具合悪くないし魔力相性いいみたい。ねえ、遊ぼうよ~」


「ダメです。二人は仕事中なの。こっち、いらっしゃい‼︎」


「…ああ、そうだ。国王陛下より聞きました。

 ヴァニティーナ王女殿下、朝露の精霊殿。

 あなた方が、サトミの蘇生の方法を提言してくれたと。

 ありがとうございます。北の辺境騎士団一同、感謝いたします」


「いいえ……サトミ様の献身には、本当に頭が下がるわ。御礼なんて結構よ。

 今まで私のしてきた事に比べれば…こんなのでは全然足りないもの…

 では、失礼しますわ。ご機嫌よう」


「にゃーっ、やだーっ!あーそーぶーっ‼︎」



ジタバタと駄々をこねる精霊をズルズル引きずって行く様は、

母と子の姿にしか見えなかった。

グレン団長とレイ副団長は、ポカンとしながら顔を見合わせる。



「随分、変わったなぁ。あれ本当に同一人物?」


「そうだな。ふっ…」


「魔石が全部集まるのは、もう少しかかりそうだが、

 ともあれ…良かったな。グレン団長」


「ああ…」



蘇生の方法が分かった途端、周りの雰囲気が一気に明るくなり好転した。

その切っ掛けになったのが、かつてサトミに敵対心剥き出しだった、

ヴァニティーナ王女殿下が連れてきた精霊というのも、

何とも不思議な繋がりだが、あの王女の変わりようは、

今までのサトミの振る舞いや考え方が、影響を与えたのだろうと、

グレンは自己完結して納得する事にした。




* * * * * * *




「今の所は、初代聖女の部分だけで大丈夫です…ええ…」


「セオドア文官、この部分はどうしましょう?」


「そうですね…辻褄が合いませんね…丸ごと書き換えましょう」



禁書庫にて、聖女と歴史の文献書の訂正部分に付箋を貼り、

文部文化省の文官達で手分けをして、書き換え作業を進めていた。



「うわぁ、これ大変だ…文献から始まって、教科書も勿論、

 戸籍と家系図も書き換えなきゃいけない…」


「後世に残す大事な文献だ…仕方ないだろ」


「ガレリア国王の王子が側妃の子だったなんてなぁ…名前どうする?」


「名前は、そのままでいいんじゃないのか?

 あ、そうすると、聖女キヌ様の息子の名前が…どう表記しようか…」


「聖女キヌ様の生きた年数も、文献と違って短いし、嘘だらけ…

 あ~面倒臭い…過去の王族の変な見栄のせいで、

 何で俺らが、こんな苦労を強いられるんだ」


「そういえば、レガリア王子って…まだ生きてるんだよな?」


「ああ、オマケに、まだ捕まってない」


「彼の人生は…酷いものだったな、同情はする…」


「おい、やめろ。サトミ様が居なかったら、

 俺たち全員、その王子に殺されていたかもしれないんだぞ」


「まあ、そうだけどさ。余裕があるゆえの第三者の同情心だよ」


「確かに余裕がない時に、他人に優しくは出来ませんね」


「サトミ様、身代わり魔石足りるといいな…」


「あの人は命懸けで、この国を守ってくれたんだ。

 書き換えぐらいで、ウダウダ言うな、お前ら」


「そうだ、これ終わったら、

 サトミ様の功績も歴史書に付け加えないとっ!」



文官達は、愚痴りながらも必死に手を動かす。

それを微笑ましく見ていたセオドアに、一人の侍従が近づいて来て、

声を低くして耳打ちする。



「国王陛下より伝言です。ヴァニタリス王子殿下とその支持者一派は、

 身代わり魔石の返却を拒否しているそうです」


「やはりですか…取引するつもりでしょうね」


「こんな時に、不謹慎過ぎやしませんか?」


「卑怯者は、こういうのも利用するのが、賢いと思い違いをするのですよ」

 

「国王陛下は、交渉するつもりはないそうです。もし、押し通すなら、

 ヴァニタリス王子殿下を王位継承候補から外すとご立腹です」


「でしょうね…全く愚かな。心配しなくとも大丈夫です。

 どんなに足掻いても、聖女召喚肯定派の意見が通ることはありません」


「今生の国王陛下がいる限りは、ですよね?」


「嫌な事を言いますね。クーデターが起こるとでも?」


「聖女の魔力に目が眩む王族は、いつも何かしらやらかしています。

 どうぞ、念の為にご注意を…」


「そうですね。ヴァニタリス王子殿下とその支持者に、

 監視を付けて警戒した方がいいかもしれない」




* * * * * * *




「集まって来ている身代わり魔石の横取りは無理そうです。

 警備がガチガチで隙がない…」


「やはり、今大人しく眠っている聖女の方が手に入れやすい」


「魔法塔に居るのにですか?無理ですよ。それこそ結界がありますし、

 我々は既にマークされています」


「マークされていない者を抱き込めばいい、弱みのありそうな人員を

 ピックアップしています」


「その人選も十分注意してください。どこから漏れるか分からない。

 最近、動きにくいのです。多分、影の監視も付いています」


「まあいい。まさか国王陛下が、こちらの提案もとい、

 交渉を拒否するとは思わなかったが…少し小休止だ。

 聖女もまだ復活は先だろう。その間に作戦を練り直すぞ」


「第一王子はどうしますか? 迷っているというか、及び腰というか…

 あまりアテになリません。足手纏いになりかねませんか?」


「最初から奴などアテになどしておらん。無能な傀儡のままで結構。

 いざとなったら、全ての責任を押し付けて切り捨てやすく、利用しやすい

 王族が必要だっただけ。今は下手な行動を取らないように安心させて、

 言いくるめておけ。聖女に懸想しているようだから、女に現を抜かす男は、

 思考が浅くなり、愚かで操りやすい」


「はっ」


「たかが、一人の異世界人の人権を重んじるより、

 多くの貴族や国民が安全に暮らせた方が、いいに決まっている。

 偽善的な綺麗事を抜かしおって…国王陛下は、現実が見えていないだけだ…」



…何だ、コイツらは…

聖女サトミ様に何をするつもりだ。


王宮に一泊させて貰い、帰り際に北の騎士塔に立ち寄り、

サトミの大好物のお土産のピザに保存魔法をかけて持参していた、

ブルー騎士は、その道中で怪しげな貴族集団が廃墟の屋敷へ入って行くのを見て、

騎士としての勘が働き、無意識に跡をつけて、話を立ち聞きしてしまったのだ。


北の騎士団に、念のために知らせておいた方がいいな…

こいつらの顔の特徴をよく見ておこう。

それに彼女はまだ、聖女の魔力が戻っていないし、無防備の状態…

良からぬことを画策している奴らに、狙われているのかもしれない。




* * * * * * *




「これで全部?う~ん、ちょっと足りないけど、

 まあ、蘇生に問題はないかなー?」


「そうか、ではステラ師団長、魔力の返還を頼めるか?」


「はい。では準備を…」


「え?一気に魔力返す気?そんな事したら、彼女ショック死しちゃうよ?」


「は?…」


「お腹空いている人に、いっぺんに大量に食べさせると具合悪くなるでしょ?

 それと同じ原理だよ。

 しかも彼女の膨大な魔力量は、体に馴染むのにも相当時間がいる。

 それに、君は優秀な魔術師だけど、彼女とは魔力の波長と質が違いすぎる。

 体の中に戻すのなら尚更ね。彼女も消耗するし、君も消耗するよ」


「…なるほど。では、どうすればいいでしょうか」


「僕がやる。この世界の自然と繋がっている僕がやった方が、

 彼女の体には優しいよ」


「確かに、精霊殿のおっしゃる通りです」



幼い見た目をしてはいるが、やはりこの世に長きに渡り存在していた精霊は、

知識も感覚も人間より並外れて優れていた。



「精霊殿、お願い出来るだろうか」


「うん、いいよ!この聖女様の神聖力には僕も助けられたし、

 僕は、ヴァニティーナの友達だからね!」




* * * * * * *




「ご無沙汰してます。グレン団長」


「ブルー騎士殿…わざわざ遠いところから、

 身代わり魔石を王宮へ届けて頂いたそうで、ありがとうございます」


「いいえ。元々あれはサトミ様の魔力です。それをお返ししただけの事。

 皆…聖女サトミ様を心配しております。

 皆様の浄化遠征のお陰で、水の都は変わらず平和に過ごしておりますし、

 そして、先の大戦でも、あなた方の尽力で何の被害もありませんでした」


「それが俺たちの仕事です。でも、そう言っていただけて光栄です」


「…それで、これをサトミ様にと思いまして、立ち寄らせていただきました」


「これは?随分大きな箱だが…」


「サトミ様がお好きだったピザです。保存魔法をかけてあります。

 ピザ屋の店主が是非にと、張り切って全種類作ったのです。

 お目覚めになった時にでもお召し上がりいただければ…と思いまして。

 新作も幾つかあります」


「はははっ、これはいいですね。彼女、絶対に喜びます。

 毎日食べに行ってましたからね」


「ええ、立場上高貴な方にもかかわらず、気さくで飾らない…

 とても可愛らしい方でした。

 何より、私のあの醜い瘴気の傷を治癒して頂いた恩があります。

 聖女サトミ様のご回復を心よりお祈り申し上げます」


「ああ、ありがとうございます。ピザも有り難く受け取ります」


「それから…ここに来る道中に、怪しい連中を見たのです。

 それをお耳に入れようと思いまして…」


「…連中?」



グレンは、彼が言わんとしている事を察して、

ブルー騎士が顔を寄せて耳打ちする内容に聴き入った。




* * * * * * *




準備が整い、少しずつサトミに身代わり魔石の神聖力が返還され始めた。

精霊は報酬のお菓子を貰いながら、毎日付きっきりで作業をこなし、

そして、2ヶ月後サトミに魔力を返し終えた。



「…ふぅ~、終わったぁ。疲れた─────っ」


「終わりましたの?」


「うん。多分大丈夫だと思う。全快には少し魔力量は足りないけど、

 その分は、体を休めていれば回復するよ。

 だから目が覚めても、すぐに彼女は動けないから労ってあげてね。

 もう、凍結魔法は解除して大丈夫。呼吸も出来るようになってる」


「ありがとう…本当に。

 今回はあなたのお陰で、サトミ様を助けることが出来たの。皆も喜ぶわ」


「ううん。これは僕の為でもあるし。

 これから体に馴染むのに1ヶ月位掛かるから、目覚めるのはその後だよ。

 それから…僕も、疲れたから少し1ヶ月位眠りにつくね。

 隣の部屋のふかふかベッド使っていい?」


「え?ええ。構いませんわ。…1ヶ月も眠りに、つくのですか?」


「うん。流石に2ヶ月も魔力に触れてたから、疲れたよぉ…

 …ふあぁぁ~……またねーヴァニティーナ~…」



余程疲れたのか、デューリーンはすぐにベッドに横になり眠りについた。

ヴァニティーナは、眠る精霊に小さくお礼を言い、彼に布団をかける。



「本当にありがとう、ご苦労様。おやすみなさい。デューリーン」




* * * * * * *




「グレン団長、レガリア国王はまだ見つかりません。

 あらゆる場所を虱潰しに、探知しているのですが…

 東西南の騎士団からの報告も同様です。

 魔獣の件は、もう殲滅したと言っていいでしょう」


「そうか…もうレガリア国王は、死んでいる可能性はないのか?」


「いいえ、微かに気配が残っているのです。

 はっきりとした場所が、特定できないのですが…」


「攻撃も仕掛けてこないし、そんな気力が無いのかもしれない。

 しかし、油断は出来ないな…」


「引き続き、捜索と警戒を行うしかありませんね」


「ああ、早く終わらせたいのだが…」


「グレン団長‼︎」



そこに、トウジが何かを手に持って、こちらに走ってくる。

グレンとレイが向き直ると、明るい表情のトウジが手紙を差し出す。



「魔法塔からの伝令鳥でっ、姫さん、蘇生準備出来たから、

 凍結魔法の解除をしに、魔法塔に来てくれって!」


「…っ、本当か?」


「ああ、やっと精霊の魔力返還作業が終わったらしい」


「分かった、すぐ行く。ありがとう」


「良かったな」


「ああ…そうだ、皆には、まだ内密にしておいてくれ。

 凍結魔法解除するまでは、彼女の状況が分からないから」


「分かった。気をつけてな!」


「ああ」



姫さん、早く帰って来いよ。

大の大人が皆んな、しょげちまって見てらんねーよ。

なぁ?



「ユキは、まだ食欲ないか?」


「は、はい。申し訳ありません…大好物の人参も咥えはするんですが…

 その後放り投げてしまって…そして、何度か噛み付かれました…」


「困った奴だな。俺の馬は準備出来ているか?」


「はい。馬装具も装着済みです」


「ありがとう。ユキの様子を見てから、魔法塔に行ってくる」


「はい。お気を付けて、グレン団長」



馬の世話係に声をかけ、一番奥の厩舎に向かった。

そして、そこにサトミの愛馬、ユキは頭を垂れて佇んでいた。

見るからに元気がない。馬は繊細で賢い生き物だ。

自分の主人に、何かあったのかを感じ取っているのだろう。



「ユキ、サトミの蘇生の準備が整ったぞ」


「ブルルッ…」


「元気出せよ。まあ、俺もお前の事言えないが…」


「…ブッフゥ…」


「大丈夫だ。サトミは絶対に戻ってくる。だから…ちゃんと食べろ。

 お前、痩せて筋力落ちただろう?サトミを乗せられるのか?」


「…ガチンッ」


「はっ、まだ威嚇する元気はあるか。じゃあ、行ってくる」


「ヒヒーンッ‼︎」



急ぎ、魔法塔に向かい、グレンはサトミの凍結魔法を解除した。


そして、彼女の止まっていた呼吸が動き出したのだ。

微かに唇が開いてスウーと空気を吸い込んで、少しだけ咳き込み、

息を吐き出し、胸が連動して上下している。


その様子を見守る、グレン団長、エリカ、ステラ師団長、セオドア文官は、

皆、静かに息を飲んだ。



「……息を…息をしてる…」


「…サトミ様ぁっ、……」


「良かったです…これで魔力が体に馴染むまで、後1ヶ月…

 目覚めるのは、その後ですね」


「聖女召喚肯定派の妨害で、身代わり魔石が魔力全快する量には

 達しませんでしたが、蘇生には問題ないそうです。

 ただ、精霊殿が言うには、サトミ様は目覚めてすぐに、

 普通の生活は出来ません。足りない分の魔力を補う為に、

 当分休養が必要だそうです。

 そして2ヶ月間、助力してくれた朝露の精霊デューリーン殿は、

 ただ今、疲労で1ヶ月程の眠りについておられます」


「分かった、ありがとう、セオドア殿。

 俺は彼女が生きていてくれれば何でもいい…充分だ。

 精霊殿には、感謝してもしきれないな…」


「よ、良かった…これからも、サトミ様をお世話させていただきます。

 目を覚まされたら、すぐ皆様に知らせますね」


「ああ、頼むエリカさん」


「全く、冷や冷やさせますね。サトミさんは…」


「まだ当分、我々以外はこの部屋には入室禁止です。

 北の騎士団員が押し寄せないよう、その辺の注意突起はお願いします。

 グレン団長」


「ああ…了解した」



息をして眠っているサトミの頬をそっと撫でるグレンは、

今にも泣き出しそうな顔で、微笑んでいた。


無事蘇生に成功したこの吉報は、国王陛下に早急に知らされた。

陛下はずっと危惧し、懸念を抱いていた事から解放され、

その場で両手で顔を覆ってしばらく沈黙し、

安心したように、フゥーと長い息を吐いたという。


北の辺境騎士団員と王宮騎士団員にも、蘇生の成功を知らされ、

皆子供のように、欣喜雀躍して大喜びした。


後は、サトミが目覚めるのを待つだけであった。


そして、第一王子ヴァニタリス殿下は、

何かを決意した国王陛下に、秘密裏に呼び出されていた。


それに続き、グレン団長、ステラ師団長、セオドア文官、レイ副団長、

サイラス副団長補佐、エリカ、トウジ、アキラ、

そして、北の騎士塔に留まっていたブルー騎士が、次々召集され、

国王陛下より内密の話がされたのだった。




* * * * * * *




ここ…どこ…



霧が濃くて、見えにくい。


黒い海…?


目の前に大海原が広がって、白い波が押し寄せてくる。


私は…何処に…行けばいいんだろう。



「ああ、違う。こっち、こっちだよ」


「…え?」


「このまま真っ直ぐ行くと、白い灯台があるからそれに登って。

 それが生者への指標だから」


「ありがとう、あなたは何処にいるの?姿が見えない…」


「時間がない、とりあえず急いで」


「うん…」



しばらく歩くと、目の前の白い灯台が見えてきた。

小さな穴のような入り口から、足を踏み入れて、壁に沿った螺旋階段を登る。

手摺りが無いから、壁に手を沿わせて内側に行かないようにした。

体が信じられない程重い…もう少しで上に着くのに…5段の階段が登れない。

少し休んで息を整えて、四つん這いになって重い足を動かす。


一番上の出口の向こうには、青空が見えている。

もう少し…もう少しだ…

そして、目の前が真っ白になった。



何も…見えない。


どっちへ行けばいいの?



「そのまま、まっすぐ歩いて、その内に目が覚めるから」


「目が、覚める?ねえ、あなたは誰なの?」


「うーん、会ったことないからなぁ。ああ、そうだ。

 トウジとアキラを開放してくれて、ありがとね」


「…え?あなた………もしかして、ナツミさん⁉︎」


「そー、正解。あれ?何で私の名前知ってるの?」


「トウジさんとアキラさんに聞きました。自分達の母親の名前だって…」


「そっかー、嬉しいな。あの子達が小さい頃に、私死んだからさ、

 もう、忘れられていると思ってた」


「随分…レガリアで酷い目に会ったと聞いています。

 …今は、苦しくありませんか?」


「もう、大丈夫だよ。ありがとう、優しいね。

 まあ…私があんまり暴れるから、いつも眠らされたんだ。

 その間に仕込まれたっぽい。だから、正直覚えてないの。

 訳も分からない中で、支配的な奴らに、無理やり孕まされたけどさ、

 あの子達には、罪はないでしょ?」


「……あなたは、強いですね」


「あはははっ、元々の性格だと思うわ。

 リンドゥーテって赤毛の大将は、少し話が通じそうだったから、

 色々話したんだけど…結局、変わらなかったな。

 常に国王に忠実で、何考えてるか分かんない奴だったわ」


「ああ、あの人ですか。トウジさんの父親ですよね?」


「そう。外見そっくりで、バレバレだよねぇ」


「あ、そうだ。聞きたい事があるんです。

 レガリアの多くの人達…特に稀人の子供は、洗脳されて支配されてました。

 でも、あなたの子供、トウジさんとアキラさんだけは免れていました。

 ナツミさんは、そういう魔力を持っていたんですか?」


「ああ…あの子達が生まれて、その後は奴隷のように使われるのは、

 分かっていたから、産まれた時に暗示をかけたんだよ。

 “ 常に自分の心に従うように ” って。

 そうすりゃ、どんなに酷い目にあっても洗脳されないし、

 チャンスがあれば、自分の意思で逃げる事が出来るでしょ?

 それが働いたのかは分かんないけど、そのお陰かな?」


「暗示…きっとそうです。だから、二人は正気を保ち続けて、

 自由になれたんですよ。ナツミさんの、お母さんのおかげです」


「はははっ、そうだといいけど。

 後さ、私すぐ死んじゃったから…助けられなくて、

 母親らしい事してあげられなくて、ごめんねって…

 愛してるって、二人に伝えてくれる?」


「わかりました。必ず伝えます」


「あんたもまだ色々大変そうだけど、大丈夫でしょ。

 強い味方が、沢山いるもんね。

 あ…そろそろ抜けられそうね。じゃあ、頑張ってね‼︎」


「はい、ありがとう…ありがとう!ナツミさんっ」






ありがとう…






微かに動いた手にガサリと触れる、

久しぶりに感じるシーツの感触…



「………っ、…」



眩しい…



サトミは、約3ヶ月ぶりに目蓋を開く。



「お目覚めですか、サトミさん」



そして、ベッドのすぐ近くの椅子に座っている、

第一王子、ヴァニタリス殿下の姿が目に入った。



「……………」



その後ろには、見た事のない貴族らしき人物が数名、

少し離れた場所でソファに座り、声を潜めて話し込んでいる。



ここ、どこなの…?



グレンさん、エリカさん、レイさん、サイラスさん、

アレンくん、ステラ様、セオドア様、トウジさん、アキラさん、

みんな…どこ?

何で…第一王子が居るの?



「予定より早く、目が覚めましたね。

 いいですか?そのまま目を閉じて、まだ目覚めていないフリをしてください。

 悪いようにはしません。俺を信じてください…」



唇に人差し指を押し当てながら、囁くように言われ、

サトミはこの状況を疑問に思ったが、

まだ動かない体を横たえたまま、とりあえず目蓋を閉じた。








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