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【完結済】飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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精霊の助言






「は…?嘘だろ…」



トウジは、南からの帰還時に転移魔力が枯渇してしまい、

途中から馬を借りて、騎乗で北へ帰ってきた為、

サトミの訃報を遅れて知り、唖然としていた。



「本当だ。南にいても、あの光は見えただろう」


「姫さんは…今、どこに?」


「魔法塔の時間凍結の部屋に、厳重に保護されている」


「…会えない、のか…」


「グレン団長が2日に1度、様子を見に行く事になっている。

 その時に、同行させてもらえばいい」


「分かった…」


「気を落とすな、赤頭。今、魔術師団員達が総力を上げて、

 必死で蘇生の方法を考えてくれている」


「………ああ…」



目が見えていないのに、笑顔で自分を見送った、

サトミの顔が脳裏に浮かぶ。



“また、会えるよな?”


“うん、勿論 ”



あの時には、もう決めていたんだな…



人の為に、自分の命を犠牲にする人間は、

架空の物語の中の勇者だけだと思っていた。


それが現実に起こったのは、

あろうことか、誰よりも犠牲になって欲しくない人物。


あの真っ直ぐな性格と善良さ、女とは思えない度胸と勇敢さ。

いつか、自己犠牲も厭わない行動に出るんじゃないかと、思ってはいたが…


だけど、あの戦況での姫さんの決断と覚悟は正しかった。

皆に反対されるのを分かっていて、黙って実行したのだろう。

そして、そうするしかなかった、姫さんの気持ちも理解できる。


だが、誰だって死ぬのは怖い。彼女だって怖かったはずだ。

実際やろうとしても、普通は怖気づくし躊躇する。


守りたい者達の為に、無私無欲の献身が打ち勝って、

死の恐怖を乗り越えたんだ。 




すげーよ……あんた。




だけど、何で、あんたなんだ。


他に死ねばいい奴なんて、幾らでもいるだろ。


なんで、姫さんが、犠牲にならなきゃいけないんだよ。




* * * * * * *




「たまに見るのは、瀕死の雑魚ばっかだし…

 この辺はもう…見当たらないか」


「住居や建造物が、少し破壊されているだけ。

 あのバカみたいな魔獣の大群で、この程度の被害って…奇跡だろ」


「死者もゼロだ」


「これだけで済んでるのは、最前線で食い止めた、北の騎士団員のお陰だ。

 それに加えて、聖女様のあの強大な神聖力。

 お陰で俺達は、命に関わらない楽な仕事ばっかで、

 申し訳ないやら、助かるやら…まあ、ありがたいけどよ。

 だけど、聖女様が魔力切れで、寝込んでいるんだっけ?

 早く良くなるといいけど…」


「ああ、そうだな…俺たち何も出来なくて、申し訳ないなぁ…」


「おーい、こっちの廃材運ぶの手伝ってくれー!」


「おー、今行く‼︎ 」



各騎士団員達は、サトミの回復を祈りつつ、後始末に追われていた。

北と王宮騎士団以外の東西南の騎士団員たちには、

聖女サトミは、魔力切れで休養していると伝えられている。


そして北の騎士団は、レガリア国王の捜索を優先で行なっていた。

トウジの証言を元に、以前サトミが暗黒力の気配を察知した、

国境近くの森の中を捜索したが、誰か居た痕跡はあったものの、

レガリア国王本人は、何処にも居なかった。


片腕を切り落とされ、脇腹を大剣で貫かれている満身創痍の状態で、

側近も全員やられ、彼は一人きりで動くのも困難だと予想されていた。


しかし、レイ副団長とステラ師団長も、気配が薄くなった彼の魔力を

察知出来ず、レガリア国王の捜索は、今現在も難航している。




* * * * * * *




エリカは、魔法塔の一室で、目の前で眠っているサトミの美しい黒髪を

櫛でとかし、彼女の世話を侍女として毎日規則正しく努めていた。

蘇生させる方法が全く見つからず、彼女が目を覚ますのは絶望的で、

もう、サトミの可愛い笑顔を見れないのかと、エリカは悲痛な面持ちだった。


そして、ドアがノックされ、グレンが入室してくる。

彼の顔にも、悲壮感と疲れが見えていた。



「…お疲れ様です。グレン団長」


「ああ…お疲れ様。エリカさん」


「さっき丁度、洗浄魔法でサトミ様のお身体を清めたんですよ」


「そうか…いつもありがとう」


「いいえ。私の仕事ですから…サトミ様の髪って本当にお綺麗で…

 いつも可愛らしい笑顔でお礼を言われて…私、お世話するの大好きなんです」


「うん…そうか……あれから1週間か…」


「そうですね。魔獣の討伐と、レガリア国王の捜索は順調ですか?」


「ああ、生き残りの魔獣は、大方片付けたが…

 レガリア国王の方は、まるっきり気配がない…どこに隠れているのか…」



グレンはため息を吐き、ベッドの近くの椅子に腰掛けて、サトミの手を取る。

冷たくヒヤリとした体温のない細い指…

左腕にある腕輪に口付けを落とし、自分の額に押し当てる。



「ごめんね、サトミ…もう少し、待っていてくれ」


「……仮死状態でも、夢って…見るんでしょうか?」


「どう、だろうな…」



コンコン



「おや、グレン団長。いらっしゃったのですか」


「ああ、お疲れ様、ステラ師団長」


「お疲れ様です。ステラ師団長。…お顔の色が優れませんが、大丈夫ですか?」


「ええ、少し寝不足なだけです」


「あまり根を詰めすぎないで下さいね。気持ちは分かりますが…」


「ええ、分かっています。ですが…気が急いてしまって…

 自分の無力さが歯痒いです」


「ところで、ステラ師団長、高位貴族の方でおかしな動きがあるらしいな?」


「お耳に入りましたか、グレン団長…貴族共の欲深さには、本当に呆れますよ」


「…え…何の、動きですか?」


「そうですね。エリカさんも、知っておいた方がいいでしょう。

 聖女召喚肯定派が、人為的な稀人の召喚の再開を訴えているのです」


「はあ?サトミ様が、こんな状態になっている時にですか⁉︎ 」


「だからこそです。今は実質、使える聖女がいないのが不安なのでしょう。

 それに、彼女のあの圧倒的な神聖力。あれを目の前で見せられて、

 聖女は、この世界に必要だと盲目で彼らは神格化しているのです」


「要は、自分達の豊かで快適な暮らしと安全の為に、

 惜しみなく命を差し出す、都合のいい存在もとい、奴隷が欲しいだけだ。

 一人の力に頼るのは、国全体が怠惰になり、非常に危険だからと、

 廃止されたのをすっかり忘れているらしいな」


「そして、その召喚肯定派が、次期国王へ指示して押しているのが、

 第一王子ヴァニタリス殿下です」


「アイツか……国王陛下は、どう言っている?」


「勿論、却下しています。ですが、その一派は、ヴァニタリス王子殿下を

 抱き込んで、実現の為に協力体制を組もうとしています」


「利害の一致か。クズ共め…」


「人を何だと思っているんですか?

 サトミ様は神聖力を持っているだけで、普通の一人の女性なんですっ‼︎

 しかも、彼女の善意を当然の役目みたいにっ… 」


「あの連中には、そう思えないこそ、こんな考えになっているのです。

 昔も今も、貴族共は欲深い。文献の中に記載されている過去の悲劇を

 何一つ学んでいない」


「文献といえば、この後、国王陛下に王宮へ呼ばれているんだ。

 何でも記載に間違いがあったらしく、初代聖女と双子の王子に何があったか、

 国王陛下から聞いて欲しいと通達があった」


「それ、私も呼ばれています。では一緒に行きましょうか、グレン団長」


「エリカさん、サトミを頼む。門番もいるし大丈夫だと思うが、

 第一王子とその一派の訪問があるかもしれない。

 彼らは、サトミの聖女としての魔力を欲しているし、

 不愉快なことに、第一王子は、まだサトミを諦めていない」


「は、はいっ!サトミ様を死守します!」


「大丈夫ですよ、お二人とも。

 疑わしい人物指定済みで結界張ってますから、入室は愚か門も通れません。

 魔法塔の防御力は、鉄壁です」


「そうか、流石だな。ありがとう」




* * * * * * *




主に上層部の人員が、会議室に集められていた。

知っている顔は、隣にいるステラ師団長、セオドア文官、エダーヴァルト宰相、

他は王宮の臣下や側近、普段は表に出ない上位役職員の文官達だろう。

3人の王子は、今回は同席していなかった。

王族として、彼らの耳に入れたくない内容なのが、大方予想できた。


そして、過去の文献の間違いについて、話を最後まで聞いた後に、

どうするのが最善か、皆の意見を聞かせて欲しいと国王陛下から伝えられる。



「これは、ヴァニティーナから来た手紙だ。

 双子の王子と初代聖女キヌ殿との関係について、書かれている。

 朝露の精霊と友人になり、彼がその当時の事を知っていたそうだ。

 同じ内容の手紙をサトミ殿にも出したそうだが、タイミング悪く届く前に、

 魔獣討伐が始まり、恐らくサトミ殿はまだ知らないだろう。

 だから、ここにいる皆にも知ってもらい、意見を聞かせて欲しいのだ。

 そして、私としては、改めて文献を訂正しようと思っておる」



───文献と違う事実


文献では、兄ガレリアと聖女キヌが出会い結婚したとあるが、

実は、出会ったのも恋に落ちたのも、弟レガリアの方だった。


しかも、次期国王として聖女の力を欲した兄ガレリアは、

愛し合う二人を引き裂いて、弟を暗殺しようと王家も協力し何度も画策した。

自分さえ守る魔力も術もない彼を生かす為、キヌは弟に逃げるよう懇願する。

そして、兄に対抗できる力を手に入れて、必ず迎えに来ると約束し、

二人は別れた。


弟は側近を伴い国土の半分で国を作り体制を整えて、レガリア国王となった。

兄も自分の領域にいなければ、魔力なしの弟など眼中になかったのだろう。

特に弟の動きには干渉せずに、国を分割する件も反対ぜず承認したのである。



ここまで聞いていた皆は余りに違う内容に、一瞬騒つくが、

国王陛下に手で制される。



前置きとして、双子の王子とキヌは、朝露の精霊の姿が見えていなかった。

精霊は、己の姿を認識できない人物には、声も届かない。

なので、手助けする事が出来なかったという。

デューリーンは、キヌを見ている事しか出来ず、悲しい思いをしたそうだ。



───文献と違う事実、続き


キヌが生んだ二人の子供、一男一女の王子と王女。

王子は、弟レガリアの子。

王女は、兄ガレリアの子。


キヌが弟レガリアに拐われ、一度目の戦になった時に懐妊している。


二人は別れてから国境近くで偶然再会し、二人の恋心は再燃する。

弟はキヌと離れ難く、堪らず彼女を連れ去ってしまう。

王宮で今までの隙間を埋めるように、二人は濃密な逢瀬を過ごした。


だが、姿を消したキヌの行方を察知した兄は、

レガリア国に軍事侵攻して、キヌの返還を要求する。


もう二度と二人で合わないと誓えば、国は滅ぼさないし、

弟の命は奪わないと条件を述べる。


まだ戦う術のない弟と、彼を守りたいキヌは再び別れ、

ガレリア国に連れ戻される。



そして、別れ際でキヌは、弟レガリアに言ったのだ。


“ 私に何かあったら、あの国を滅ぼして ”



帰国後、キヌの懐妊が発覚。

後継が出来たと、周りは祝福ムード一色になるが、

兄とキヌは、まだ閨を共にしていなかった。


彼なりに、彼女の心が落ち着くのを待っていたのだが、その腹の子の

本当の相手を唯一知っている兄は、内心烈火のごとく激昂していた。

しかし、この雰囲気の中、違うとも言えず体裁を繕い事実を隠したのだ。


そして、弟の子の男児を産み落としたキヌ。

よりによって、後継になる可能性の高い王子の誕生だった。


次は己の血筋の王子を産ませようと、兄は強引に彼女を懐妊させる。

だが、皮肉にも生まれたのは、女児の王女だった。


しかも、キヌと弟の子である王子は、魔力量が膨大で、

次期国王にと、周りからの後押しが益々高まったのである。


その事実に、兄はプライドをズタズタに傷つけられた。

目の前で、弟とキヌの強い絆を見せつけられ、

妬み嫉みに苦しみ踠き、とうとう限界に達したのだ。

そして、どうやっても自分に靡かないキヌに愛想が尽き、

公務以外は、彼女の存在を完全に無視するようになった。


キヌはこの出産のせいで、兄が自分と弟を憎悪しているのを肌で感じていた。

少しでも刺激すると、弟とその息子に害を及ぼされるかもしれない。


そして、兄の子を懐妊して産んでしまった自分は、弟の元へ帰る資格はないと

思い悩み、私の事など忘れて自分の人生を生きて欲しいと、

秘密裏に手紙を出し、弟に別れを告げる。


弟は、手紙を受け取ったが、彼女が脅されていると思い込み信じず、

キヌを取り戻すために、魔術研究を続けていた。


その後、兄は側妃を3人迎え、その中の一人が王子を産む。


側妃の王子誕生後、ずっと王宮内で行動制限されていたキヌと息子は、

何故か久しぶりの街への外出を兄より、許可されたのだ。

そして、その道中、馬車が崖から滑落しキヌと息子は死亡。

これは事故を装った、暗殺だったと朝露の精霊は証言している。



皆、信じられないとお互いに顔を見合わせ始める。

一拍、大きく息を吐き、そして吸って、国王陛下は周りを見渡し、話を続けた。



───文献と違う事実、続き


文献では、キヌは病死とあり、

息子の王子の事故死は、無かった事にされている。


そして、キヌと弟の息子が、キヌと兄の息子として、書き換えられ、

次期国王になったとされている。

実際、次期国王には、兄と側妃の息子がなっていたのだ。

因みに、兄とキヌの娘は、文献通りに政略結婚で他国に嫁いでいる。



キヌと息子の訃報を知った、弟の嘆きと絶望は、

どれ程のものだったのか。


彼の目的は、対抗できる力を備え、

兄から、キヌと息子を取り戻すことだった。


その約束を果たす前に、キヌは息子と共に死んでしまった。



再び神聖力を求めた兄のガレリア国王は、文献にあるように、

魔術師団へ莫大な予算を積んで、研究を重ねた結果、見事成功した。

そして、早々に次の聖女を人為的に召喚したのだ。



それが2代目聖女 “アキ” である。



キヌの死後、すぐに他の聖女を召喚した兄の不誠実さに、

弟レガリアは、悪鬼の如く怒り狂った。

今や守る者も無くなった彼の兄へ向ける憎悪は凄まじく、

キヌのあの最後の言葉に従い、

ガレリア国を滅ぼすべく、完全にシフトして行ったのである。


そして、再び聖女である “アキ” を連れ去った。

所が “アキ” は、膨大な暗黒力を保有していた。

皮肉にも暗黒力は相性が良く、そのお陰でレガリア国の魔術研究が、

劇的に進化していく。


彼女を利用するだけして、遺体は全て材料として使用した。

そして、膨大な “アキ” の暗黒力を抽出し、それを弟が引き継ぎ、

自分が暗黒力の核となったのである。



ここで、兄のガレリア国による2度目の軍事侵攻である。



しかし弟は、聖女は連れ去ったが、彼女は逃げたと証言。

実際、彼女は跡形もなく証拠は見つからなかった。


証拠不十分で、罪には問えず、疑わしい事だらけの敵対心剥き出しの弟。

そして、兄自身も、弟に恨まれている自覚はあったのだろう。

しかも、もう彼を脅して従わせる人質キヌは、この世にはいない。


久しぶりに目にする弟は陰惨で、すっかり雰囲気が変わっていた。

さらに不気味だったのは、外見が変わらず若い青年のまま。

兄は、ただならぬ雰囲気を感じて、早々に引き返したという。


そして、“アキ” が居なくとも、

人為的に召喚が可能な今は、また召喚すればいいと考えたのだ。



そこからの国交断絶であった。


レガリア国からの魔獣の襲撃が増えたのも、その時期からだった。



弟は、暗黒力で魔力研究を発展させ、様々な魔道具や魔獣を生み出し続けた。


ガレリア国に諜報員を侵入させて、人為的に稀人を召喚する術も手に入れ、

次々稀人を召喚して魔道具の材料にし、更に稀人に子を産ませて、

魔力持ちを増やし、トウジとアキラのように奴隷化し支配していったのだ。


魔獣を次々嗾けて攻撃し続け、ガレリアの国力を削っていった。

しかし、ガレリア国が追い詰められたのは最初だけだった。

彼らは、抗戦して耐え抜き、その攻撃に対応していったのだ。


終わらない攻撃の意味を分かっていた兄ガレリアは、

次第に疲弊して追い詰められていき、精神を蝕まれ、最後は狂乱死したという。


ガレリア国は、国王が代替わりしてからも、次々に聖女を召喚して、

神聖力で瘴気を払い、魔獣の攻撃に抵抗していく。

次に頭角を表し始めたのは、一番魔獣の襲撃の多い北の辺境騎士団だった。


長い抗戦を続ける中で、ガレリア国は強くなり発展していく一方で、

弟レガリアは、行き詰まっていく。


そして、他の方法にシフトした。それが、あの流行病。

女性が死にやすい病、妊娠しても男ばかりが生まれてくる病原菌を研究開発し、

ガレリア国内の飲み水に混入して蔓延させたのだ。

こうして、国全体をジワジワと衰えさせ、滅びの道へ導こうとしていた。


その後もまじないと称して、暗黒力付与のアクセサリー等をガレリアに広め、

闇ルートを確立して、呪物をガレリア国内に流通させて行ったのだ。


この辺りから、朝露の精霊はどんどん充溢する魔獣と瘴気のせいで、

側にいる事が出来なくなり、森の奥深くに隠れて長い眠りについたそうだ。


その後も抗戦は続き、ガレリア国はレガリアの攻撃にしぶとく耐え凌ぎ、

やがて北の辺境の騎士団の団長に、グレンが昇任する。

そこから、戦況の流れが逆転しつつあった。


弟レガリアは、自分の魂と体の限界を感じ、

召喚する為の生贄を最大にして、最後の稀人召喚を試みたのである。

膨大な魔力量を持つ稀人を呼び出し、その人物を追い詰め、

ガレリアの北の辺境で、魔力暴走を起こさせる。

そして、北の騎士団もろとも、国を半壊させようと画策した。


その計画に利用しようと最後に召喚したのが、サトミだったのだ。


しかし、サトミは生き残り、よりによって北の騎士団に助けられ、

ガレリア国で聖女になり、敵側になってしまった。

彼にとってそれは、最大の誤算だったのだ。



そして─────現在にいたるのである。



国王陛下は、手紙を持っていた手を下ろし、大きく息を吐いた。



会議室は、静まり返っていた。

そして、上位役職員の文官の一人が疑問に思っていた事を

手を上げて国王陛下に問う。



「あの…今の話を聞いていると…レガリア国王というか、弟王子は…

 400年以上前から…現代まで生きているように聞こえるのですが…」


「いかにも。信じられぬ事に、彼は魔術研究の成果なのか、

 400年以上生き続けて、今も尚、我が国を攻撃しているのだ。

 聖女キヌ殿との約束を果たす為にな…」


「そんなっ……信じ、られない…」


「この400年…我が国はずっと同じ人物から、攻撃を受けていたというのか」


「しかも、あの疫病も隣国の仕業だったなんて…」


「気の毒な身の上だとは思いますが…これまでの悪行は、許されない…

 関係のない騎士達や貴族、国民が、どれほど犠牲になったか…」



レガリア王子に残っているのは、

自分を殺そうとし、愛しい女性を奪い、挙句に自分の息子も殺した、

双子の兄ガレリアと、それに追従した王族達と臣下、貴族達、

そして、その王族が治めるガレリア国民全員への “憎悪” だけ。



言葉を失っている文官達の後に、

セオドア文官、ステラ師団長、グレン団長が話に参加する。



「しかも、我が国の文献も…都合良く書き換えられていたのですね。

 まるでガレリア王子と聖女キヌ殿を運命の相手のように。

 不都合な事実をこんなに…隠して…

 ですが、聖女キヌを愛していながら、なぜ隣国では “厄災の忌み子” などと、

 プロパガンダ教育で、聖女を悪者にしていたのでしょうか?」


「レガリアが愛したのは、キヌ殿ただ一人だ。聖女だからではない。

 彼にとって彼女以外の異世界人など、魔道具の材料にする程度の

 価値しかなかったのだろう。そして、憎いガレリア国を攻撃する為の

 理由として、それらしい口実が必要だったのだ」


「ああ、なるほど…では、今までと違う最近の隣国からの

 攻撃の活発化は、何故でしょうか…」


「それには理由がある。

 先ほども話したが、400年以上生き長らえた、体と魂の迫りくる寿命。

 そして精霊が言うには、サトミ殿が、キヌ殿とそっくりだそうだ。

 レガリア国王にとって、別人とはいえ、愛しい人の姿を目にしたのだ。

 冷静ではいられなかったのであろう」


「サトミに…⁉︎ そうか…合点がいきました。

 だから何度も、彼女を連れ去ろうとしたのか」


「ここまで聞いて…今更レガリアとの和解は、到底無理でしょうね」


「ですが、これを知った所で、我々に何が出来るのですか?

 もう、過ぎ去った過去の事です。聖女キヌも、ガレリア王子もいない…

 今や当事者は、レガリア王子のみ。

 正直…今の我々には、ほとんど関係のない他人事であり、

 遠い昔の確執ではないですか」


「そうだな。

 だが、キヌ殿にそっくりなサトミ殿が召喚されたのも、

 運命やもしれぬと思わんか? そして、サトミ殿は聡明だ。

 レガリア王子の心に寄り添って、彼の怒りを鎮めてくれるかも知れぬ」



また、サトミ頼みか…と少しイラついたグレンだったが、

その考えを言葉にするのは控えた。


そして、満場一致で、文献と義務教育の歴史書の

訂正をすることに決定する。



会議が終わって人心地ついた頃、

国王陛下の元へ、ヴァニティーナ王女が王宮へ帰還したと報告された。




* * * * * * *




「お父様、ただいま帰りました」


「おお、遠い所から難儀であった。息災だったか?

 よく戻ってき…」



ヴァニティーナの横に、ちょこんと立っている子供が目に入り、

国王はギョッとして肩を揺らす。



「ヴァ、ヴァニティーナ!お前、いつ子供を産んだのだ⁉︎」


「…は?」


「……もしかして僕、息子だと思われてる?」


「違いますわ、お父様!

 ほら、手紙に書いていた、朝露の精霊のデューリーンです」


「あ、ああ!そうか。そうだな。良く見たら、水色の髪と瞳など、

 精霊以外ありえん色合いだった…すまぬ、動揺した。

 王宮によく来てくれた、精霊殿。歓迎する」


「初めましてー♪ 僕、お腹空いたな。お菓子ある?」


「ちょっと、デューリーン⁉︎」


「ははは、構わん。精霊殿は、お菓子がお好きですかな?」


「うん、甘いの大好き!」


「分かった、ここに運ばせよう。侍従、料理長に伝えよ」


「はっ」


「それより、サトミ様は大丈夫なのですか?

 デューリーンが、彼女が死の一歩手前の状況だと言っていたので、

 急ぎ戻ったのですが…」


「ああ、残念ながら…その通りだ。

 彼女のお陰で、とりあえず魔獣の大群の襲来は沈静化したが、

 サトミ殿が命懸けで…魔力を使い切ってしまってな…

 グレンの凍結魔法で仮死状態にして、今現在魔法塔に保護している」


「…何て、事…」


「蘇生するのに、彼女が保有している同量の魔力が必要なのだ…

 色々模索しているのだが…今現在、不可能に近い」


「デューリーンも、同じことを言っていました…」


「わ~♪お菓子いっぱい!これ全部食べていいの⁉︎ やったー‼︎」


「ねえ、デューリーン、他にサトミ様を蘇生させる方法は、知らないの?」


「う~ん……」



焼き菓子を頬張りながら、朝露の精霊はキョロキョロと周りを見渡す。

そして、国王陛下の胸の装飾品に目を止め、じっと見つめた。



「ん?これが気になるのか?

 これはサトミ殿が皆に配布してくれた、身代わり魔石だ。

 美しいだろう?」


「それ、どれ位作ったの?

 国のあちこちから、相当の数を感じるけど」


「王族、貴族、上層部、側近、臣下、騎士団員…

 浄化遠征に行った村人達にも、配布されていたな。

 確か国民にも配り始めていたが…まだ全員には行き渡っておらんな。

 正確な数は、ステラ師団長に確認しよう」


「そっかぁ…その魔石は神聖力を付与してあるんでしょ。

 元々は聖女様の魔力だから、それを彼女に返してみたら?」


「…な、なんと、盲点であった!そ、そうか、そうかっ‼︎ 」


「陛下!早速、身代わり魔石の返却を呼び掛けましょう‼︎ 」


「礼を言う精霊殿。他に欲しい物はあるかな?」


「え~本当?じゃあ、もっとお菓子欲しいっ‼︎ 」


「はははははっ、そんな事でいいのなら、いくらでも献上しよう」


「ちょっと、お父様ったら!食べ過ぎよ、虫歯になるわ」


「僕、精霊だから、そんな人間みたいな病気になんか、

 ならないも~んだっ♪」



こうして、聖女の魔力切れを救う為に、身代わり魔石の返却が呼びかけられた。

そして、国中から毎日続々と王宮に魔石が届き、凄い数が集まって来ていた。


“聖女召喚肯定派” を除いては。




* * * * * * *




「なぜ、身代わり魔石を返却しては駄目なのだ、公爵殿。

 サトミ殿が、目覚めなくてもいいというのですか?」


「落ち着いてください、ヴァニタリス王子殿下。

 これは妨害目的ではなく、取引をする為です」


「取引…何の?」


「もし、我々が持っているこの身代わり魔石が、必要になった時に、

 こちらの条件を飲んで貰う為ですよ」


「…聖女召喚の再開を?」


「そうです。そして、聖女サトミ様の保護の為に、彼女の王家入りを

 条件にします。さすれば、あなたのお側に彼女を置くことが出来ます」


「しかし…父上は、聞き入れぬと思う」


「あの神聖力は、国王陛下も本心では、王家に取り入れたいはずです。

 別に悪い取引ではありません」


「………そう、だろうか…」



ヴァニタリスは、自分の父と敵対しているようで、落ち着かなかったが、

次期国王へと推薦してくれている高位貴族の後押しと、

自分の考えを肯定して同調し、理解を示してくれている、

支援者達の意見に流されていた。




* * * * * * *




「レイさん、それサトミさんの弓具?」


「ああ、あの激戦で握り革が、随分擦り減ってたから、

 新しい牛革を巻き直してる」


「……………」


「アレン、気を落とすな。みんな諦めていない」


「…サトミさんに…会いたい…」


「そうだな。俺もだ。彼女の元気な配膳がないと、

 食堂の飯が旨くないしな」


「…うん…」


「おーい、そこのお二人さん。

 国王陛下から、身代わり魔石の返却の呼びかけがあったんだ。

 北の騎士団の分をまとめて送るから、俺に寄越してくれ」


「えっ?何で?」


「何でも、その魔力をサトミさんに返して、蘇生に使うらしいぞ」


「ほ、本当に?返す返す!はいはいっ‼︎」


「どうやら糸口が見つかったようだな。俺のも頼む」


「おう、確かに預かったぜ。

 おーい、そっちの奴等も身代わり魔石返却してくれー!」


「そっか、あれ神聖力付与されてるもんね。全然気がつかなかった!」


「良かったな、アレン」


「はいっ!俺も集めるの手伝ってきます!」




* * * * * * *




「どうしたの、母さん。ぼんやりして」


「あ、ううん…今、夕飯作るね」


「それ、姉ちゃんの部屋に置いてあった、

 母さんへの誕生日プレゼントの財布だろ。飾ってないで使ったら?」


「こんないい革の財布…勿体なくて使えないよ」


「姉ちゃん聞いたら怒るよ?財布は使って、なんぼでしょって」


「ふっ、あははははっ…言いそうね、あの子なら」


「…どこ、行ったんだろうね。

 俺は何故か、姉ちゃんは生きていると、何処かで確信してるんだ。

 ただの勘だけどさ…」


「そうね。お母さんもだよ…あの子のアパートの部屋を見ても、

 いつも通り綺麗に整理されていたし、姿を眩ますような感じもなかったし…

 人の恨みを買うような子じゃない…

 弓道サークルの練習場に向かう姿が、最後の目撃証言だったろう?

 いつもの慣れた山道で、迷子になるなんてあり得ないし…」


「争った形跡もなかったし、人攫いも可能性低いんだろ?

 本当に途中から、足跡が忽然と消えて無くなっていたって…」


「今流行の異世界転移とか?」


「あ、おかえり(あきら)


「たっだいまー、腹減った…部活きっつー」


「何だよ、異世界転移って。おい、竹刀そこに置くな。玄関に置けよ」


「わーたよ。冬士(とうじ)兄ちゃん知らないの?そういう創作小説が流行ってんの」


「知らね。俺そういうの興味ねーもん」


「紗都美が、苦しんでいなければ…お母さんはなんでもいい。

 例え異世界に行って、戻って来れなくともね。

 あの子には、この世界で辛い思いばかりさせたから…」


「…きっと、元気にしてるよ…」


「うん、俺もそう思う。姉ちゃんタフだもん」



グゥ~…キュルルルル…



「あらあら、あははははっ、ごめんね。すぐ夕飯用意するよ」


「聖、お前…」


「仕方ないだろ、剣道の部活で疲れてんだからっ‼︎」


「先にお風呂入っておいで。今日はハンバーグだよ」


「やったー‼︎ 」



前の世界では、紗都美が失踪してから1年半が過ぎようとしていた。


そして、これが永遠の別れになるかもしれないと、

この絆の強い家族は、なんとなく感じていたのだ。







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