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【完結済】飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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消えた光






「レイ副団長!国王陛下から火急の伝令です!これをっ」


「何だ?援軍の事か?」


「援軍は今こちらに向かっているそうです。それとは別件のようで…」


「分かった、確認する」



便箋を開くと、動揺していたのか、急いでいたのか、

いつもの国王らしからぬ、酷く乱れた短い文章で、

殴り書きで示されていた。



“ 至急、サトミ殿を退避させよ。

 絶対に戦場に出すな。

セラデュードが予知夢を見た。

 このままでは、彼女は死ぬ ”



「なんだっ、これ…サトミさん、今野営テントだよな?おいっ‼︎」


「うわぁっ、何だこの光っ⁉︎ 」


「眩しくて何も見えない‼︎ 」


「みんな、伏せろ─────っ」



中央陣営の方向から、尋常ではない強い光がまるで爆発するように、

景色を丸ごと飲み込んで迫ってくる。


騎士団員達は、咄嗟に姿勢を低くして、身構え備えていた。




リィ─────ン、リィ──ン…リ─ンリ─ン、ィィ───ン…


アァ──…イィ──…オォォ──…エ──…、ヒィ──…ィィ─…


リィ──ン…リ─ン……リィ──ン…アァ──…オォォォ──…




光を纏った、目に見えない超自然的存在、あるいは、

この世の絶対者が降臨し、空と大地へ、止まることなく前進し続けている姿が

見えているような光景だった。


今まで耳にしたことのない、神々しい旋律は、

錫杖を打ち鳴らしながら、共に美しい低音と高音の歌唱している。

それは、まるで神託を伝える荘厳な聖歌のようにも聞こえた。


これが、神聖力が神の力と言われ、神格化される由縁だろうか。

そんな事を考えながら、ステラ師団長は、大きくなる光を凝視していた。



「ステラ師団長!これは、何が起こってるんですか⁉︎

 何も、何も見えないっ…」


「サトミさんは、魔力切れだったはず…まさか、こんな…

 この巨大な神聖力…人間がこんな…膨大な魔力を放出するなんてっ…

 信じられない…これでは、まるで…まるで、神の召喚ではないですかっ‼︎ 」



飲み込まれた光の中で、伏せていたアレンは不安になり、

近くにいたサイラスを見やって、疑問をぶつけた。



「サイラスさん、眩しくて何も見えません!なんですか、これ?

 そ、それにこの歌?音?なにっ?」


「その場で伏せろ、アレン。この光で一時的に視界が奪われる。

 恐らくサトミちゃんだろう…こんな事出来るの…あの子以外いねぇよ」


「え?でも、これ…こんな膨大な光、普通じゃないですって!

 それに、サトミさん魔力切れじゃなかったんですか?」


「さっき中央陣営に、向かって行ったのをお前も見ただろう?

 俺たちを…国を守るために…決断したんだ…」


「…何、言ってんですか?それって、まるで…」


「……………」


「サイラス…さん?」


「いいから、伏せてろ…アレン」



サイラスが言わんとした事を察したアレンは、

両手で頭を抱え込み、その場に蹲み込んだ。



「セオドア殿……外のこの凄い光は…⁉︎ 」


「これが可能なのは、サトミ様だけです…ご無事だといいのですが…」


「彼女は、歴代最強の聖女なのだろう?大丈夫では…ないのか?」


「いくら魔力量が規格外とはいえ、こんな…恐れを抱き萎縮するような、

 圧倒的な神聖力は、普通ではありません。

 それに、北の騎士団員とサトミ様は、ずっと戦い続けていました。

 相当疲弊しているはずなのに…こんな、爆発するような魔力……

 …まるで、最後の力を…振り絞ったような…」


「まさか…そんっ…」


「微量でも、魔力持ちなら感じる事が出来るはずです。

 この魔力量は、余りにも…異常です」


「彼女は…無事なのか?」


「…分かりません」



茫然としたヴァニタリス王子と、

眉間にシワを寄せて、何かに耐えるような顔をしたセオドア文官は、

窓の向こうの全てを消し去る光を見やり、沈黙した。



「エリカちゃん、何だい…この眩しいの。

 目が潰れそうだよ。外で何が起きてんだい?」


「多分…サトミ様の神聖力です。

 でも、こんなに大きくて強力な光は、初めてみました。

 サトミ様は…大丈夫なのでしょうか…」


「何だあれ!上に何か、何か…翼みたいなのが現れたぞっ‼︎ 」



サトミの放った神聖力の矢は、軌道をまっすぐ描いて空を引き裂き、

上昇して、光の柱になっていく。


魔獣の断末魔と共に、光の柱がみるみる膨れあがり、

美しい旋律を纏いながら、一面を消し去るほどの眩しさで照らしきった。

やがて、その巨大な光は、国全体を抱き込むように飲み込んで行く。


そして、中心にある光の柱は形を変えていき、巨大な翼の7翼の姿で現れた。

天高くにバサリと美しい7翼を広げて、雄大にゆっくり羽ばたかせ、

そのまま水平に薙ぎ払うように、グルリと大きく飛翔したのだ。


羽ばたいた後、波紋のように金色に光り輝く輪が次々放出され、

何重もの美しい輪の波紋が、連続して広がっていく。



まるで、魔獣を全て薙ぎ払い、国全体を抱きしめて守るように───。



人智を超越した圧倒的な存在、そして神々しいその光景に、

皆声も出せず空を見上げていた。


正に、神の存在を信じ、証明するに値する情景。

 

王国中を包み込んだ、

このまばゆい光は、隣国まで達したという。






真っ白な世界。


何も見えない。





もう、これで魔力は尽きた。





…息が…苦し……


心臓が信じられない程の早鐘を打っている。


視界が完全に失われる。


私は、暗い闇の中に一人きりになった。




覚悟は して いた。




けど…


そうか、私 …本当 に… 死 ぬ ん だ ……


グレ、ン…さ…




体から力が抜けて、グラリと傾き倒れ込む。

地面に体が付く前に、誰かが私の体を力強く抱き込んだ。




「サトミ!…何でっ、何で…こんな真似をっ…」




グレンさん…


ああ…良かった、無事だったんだ…


でも、私が死んだらきっと悲しむよね…




「…魔獣、は?」


「殆ど消えたよ…君の、君のお陰だ…」


「そっか、良かった…あのね、私が…王宮や他の辺境騎士団に、魔獣が…

 くるかもでしょ?…だからトウジさんに、伝達をお願いしたの…だから、

 私の側にいない…彼を責めない、であげて…」


「…分かった。だけど、どうして…魔力は枯渇していたはずだ…」


「追放村から…歴代聖女の、神聖力の水晶を譲って、もらったの…

 最後の手段で…使おうと、思っ……ゲホッ…ゴホゴホッ…」


「喋らなくていい、苦しいだろ? 今、ステラ師団長を呼ぶから…」


「……ごめ…ん、ね……豊穣、祭…行けない…や…」


「サトミ…?」


「グレン、さん、…大好き……ありが、と…う……」




ああ、もう声も発せられない。

もう何も映さない目を開き、声を絞り出して、

彼に精一杯の思いを伝える。


こんなことして、ごめんね。


でも、私は…あなたに生きていて欲しい。


それで…私が、居なくなった後も、


たまには…少しでも、思い出してくれたら、


嬉しいなぁ。






こんな私を…愛してくれてありがとう。



この世界で、あなたに出会えて良かった。






最後に 好きな人の、腕 の中…なん て……



幸 せ、だよ……ね ?……… …───




───────── … ───



… ───── ─



─ ─ …



─・



・・







「サトミ……サトミ?…


 目を、開けろ…っ…息をするんだ…


 ……駄目だっ……


 頼む…息をしろ!息をするんだっ‼︎…頼むっ、からっ…


 サト、ミ……サトミ──────────────ッ‼︎‼︎‼︎ 」






最後に聞いたのは、


彼の懇願と、


悲鳴のような絶叫だった。




* * * * * * *




「国王陛下‼︎ そ、外を‼︎ 窓の外を見てください!」


「…何だ、あの翼は…っ。おおおおっ…なんという…

 あんなに魔獣で真っ暗だった空がっ…」


「だ、誰か北に使いを!状況確認を‼︎」


「…セラデュードの予知夢は、これなのか?

 こちらの伝達は間に合わなかったのか、否か…違う事を願うばかりだが…」


「そんなっ…では、サトミ様は…」


「信じたくはないが……我々は、報告を待つしかあるまい…」



そして、その約30分後だった。

聖女サトミの訃報が、国王の元に届いたのは───。




* * * * * * *




トウジは、王宮→東→西→南と近い順に伝達に回っていた。

王宮へ行った時は、何だか騒がしく国王に面通りが難しかったので、

アキラに口頭で伝えて、後ほど上層部へ伝達をお願いをした。


隣国親善大使に一度命を奪われて死に損い、気まずそうにしているアキラの

背中をバンバン叩いて叱咤し、王宮を後にする。


そして、今現在は一番離れている南の辺境騎士塔に、

最後の転移をして伝達に来ていた。



「北の辺境騎士団からの伝達かい?」


「聖女サトミからの使いで来たんだ。

 俺はトウジ、転移魔法が使える。あんたが、ここの団長?」


「ああ、俺はレッド。以前北の辺境騎士団と聖女サトミ様には、

 調査派遣の時に世話になったんだ。君の話は聞いてるよ。

 北は今、魔獣の最前線で大変なのだろう?持ち堪えられそうか?」


「はい、何とか。ですが、恐らく最後と思われる魔獣の大群が、

 予想外に膨大な量で北だけでは押さえきれず、取りこぼしたのが、

 国内全域に向かっているんだ。こっちは一番離れているが、

 そのうち到達する恐れがある。それを伝えに来…」


「なあ、向こうの空…随分明るくないか?」


「おいおいおい、どんどん広がって…こっちくるじゃねえかっ!

 デ、デカくなってるっ!うわあぁぁっ」


「皆、騎士塔の中に入れ‼︎ 」


「あれは…北の辺境の方向だ…」



くるりと北の方向へ顔を向けると、

巨大な光が全ての風景を飲み込んで、消え行くように見える、

壮絶な光景だった。


トウジは目を見開き、その光を凝視する。



「姫、さん…?」



何が…起こっている?


何だ、この膨大な…感じたことのない、恐ろしいエネルギー量は。


まるで…爆発じゃねぇか。


俺を遠ざけたのは…この為だったのか?


なあ、姫さん…


あんた…生きてるよな?




* * * * * * *




「な、なんですのっ。この光はっ、外が真っ白…」


「ヴァニティーナ、念のために避難をっ‼︎ 」


「大丈夫よ、イケレス。もう、治りそうだわ。

 手紙…届いているといいけれど…」


「あー、怖かったぁ~」


「デューリーン⁉︎」


「いやー、凄いね。あの聖女様。歴代最強だけあるなー。

 魔獣どもを一網打尽してくれた。まだ雑魚は生き残ってるけど瀕死だし。

 はぁー、助かったぁ~」


「ねえ…サトミ様は無事なの?」


「ううん。もう魔力使い切ったみたい。

 今は…う~ん…何だろう、この気配…生命が停止する寸前っていうか…」


「…何ですって⁉︎」


「自分の命と引き換えに、大天使を召喚したんだよ。

 ああ、大天使ってのは、この世界を統べる絶対的な存在の一人ね。

 君たち人間が良く言ってる、神様みたいなもの。

 もっと上もいるっぽいけど、僕はその辺はよく分かんない。

 この世界のバランスを保つために、色々やってるみたいだけどね。

 滅多に姿を表さないし、こっちの要求なんて聞いてくれないしさ。

 神の力を持つ聖女の願いは、やっぱ別なのかなー?

 今回のこれは、大天使がそれに応えて、彼女に力を貸したっていうかー…」


「そんなっ、……」


「でも、まだ…何だろう…誰かが、魔力で引き留めてるね。

 完全には死んでいない…かな?」


「助けられる、のですか?」


「う~ん、出来ないこともないけど…

 ただ、相当の魔力量が必要だし…可哀想だけど、不可能に近いと思うよ」


「王都に帰ります‼︎ デューリーンあなたもいらっしゃい!」


「えっ、僕も?嫌だよ‼︎

 王都って魔力持ちだらけじゃん。具合悪くなるもん!」


「いいから、一緒にいらっしゃい‼︎ イケレス、馬車の用意をお願い」






ああ…


何だ…この強烈な光は。


眩しすぎる…


今まで、何も感じなかった、私の心が喜びで打ち震えている。


無くしていた感情が…蘇ってくるようだ…


この温かな光は、…キヌ…君、なのか?



光に包まれ、今にも消え入りようなレガリア国王は、

幸せそうに微笑んで、空を見上げていた。




* * * * * * *




「殆どの魔獣が消えた…嘘だろ…

 何だよあの巨大な光と翼はっ、あと金色の輪っか!

 おいっ、見たよな?」


「見たよ。…サトミさん、だよな?これ…」


「ああ、彼女は大丈夫なのか?」


「おい、あれ…」


「グレン団長だ…何してんだ?」


「腕に抱えてるの、サトミさんだろ?」


「…え、……」


「…動いて、なくないか…?」




さっきまで、暗黒世界のように暗かった空が晴れ、青空が広がる。

北の騎士団員達は、光の発生元の中央に、自然に足を運び集まってきた。


魔獣が一掃された中央陣営の場に、寄り添うように側にいるサトミの愛馬と、

動かなくなったサトミを抱えた無表情のグレン。

皆、茫然とその光景を見ていた。




「グレン団長…?」


「…………」


「…サトミさん…大丈夫なんですか?…」


「グレン…団長?」


「…さっきの異常な光の柱を見ただろう。

 彼女は魔力を使い切った…俺たちを…守る、ために…」


「…え?─────」


「嘘、だろ…」


「息は止まったが…全ての細胞が死滅する前に、

 俺が…凍結魔法を掛けた」


「で、でも、それって……」


「死んでない」


「団長…」




「彼女は まだ 死んでない」




動かなくなったサトミを腕に抱きながら、力無く反論するグレンの声は、

まるで、自分に言い聞かせているようだった。


表情の抜け落ちたグレンは、彼女を守るように抱え込む。

その姿は痛々しく、少しでも近づくと、威嚇する野生動物のような

雰囲気の彼に誰も近づけない。


皆、動けず、声も発せられない。


そして、皆の脳裏に浮かぶのは、

元気に笑い、優しげに微笑む、サトミの顔だった。




* * * * * * *




空を埋め尽くしていた、魔獣もほとんど消え去り、

本来なら、皆で喜びを分かち合い、祝う朗報のはずだった。


北の騎士団は、怪我人はいるものの、死者はゼロ。



命を賭して、王国を守った、

聖女サトミを除いては。



そして、状況報告をせよと北の騎士団の上層部のみ

王宮に一時帰還の命令が下された。

増援で到着した王宮騎士団と北の騎士団は、

生き残りの魔獣の始末と、被害にあった建造物の片付けを続け、

今現在、王宮の一室での報告と対策会議が行われている。


聖女の訃報は、国民には内密にされる事となった。

国民の動揺と周辺国の影響を考えての結論だった。


騎士団と王族関係者の彼女の人柄を知っている多くの人々は、

悲しみに暮れ、拠り所を失い、空虚感に苛まれていた。



「しかし…何と言うことだ…サトミ殿がこんな…まだ信じられん…」


「申し訳ありません、父上…僕がもっと早く予知できていればっ」


「違う、お前のせいではない…セラデュード」


「でもっ…」


「お言葉ですが、彼女は死んでいません」


「ああ、そうだな…だが…」


「彼女は死んでいない。息は止まりましたが…

 脈も心臓も弱々しいが、まだ辛うじて動いていた…

 彼女の体の臓器、細胞は…まだ生きています」


「分かりやすく言うと、仮死状態です。ほとんど死亡と断定されますが…

 それよりグレン団長、彼女を魔法塔に預けてくださいませんか?

 時間凍結の部屋に保護します」


「蘇生する…方法はあるのか?」


「相当の魔力量が必要ですが…何とか考えます。

 サトミさんの件ですが、あなたの手元にずっと置いておくつもりですか?

 いくら凍結しているといっても…

 常温の部屋では、細胞は少なからず干渉を受け老化していきます」


「分かっている…魔法塔に預けよう」



体のすべての機能が止まる直前に、

グレン団長の凍結魔法で、彼女の体を仮死状態にした。

だが、魔力切れ状態の彼女の蘇生には、膨大な魔力量が必要だった。

問題は、この国の魔術師や魔力持ちをいくらかき集めても、

全然足りないという事だ。



「…何でだ」


「サイラス…」


「サトミちゃんは、いつだって俺達をっ…この国を助けてくれた。

 それなのに…何で俺達は、彼女を助けられないんだ‼︎

 なぜ何も、出来ないんだ…」



普段温厚なサイラスが震える拳を握りしめ、怒りを露わにする様に、

室内がシンと沈黙する。



「王宮で彼女を預かり、保護します」



そこに空気を読まない、場違いな言葉を投げかける、ヴァニタリス王子殿下。

一斉に軽蔑と怒りと呆れの視線を一身に浴びるが、彼は意に返さなかった。



「…は?」


「ヴァニタリス王子殿下…あなたは、まだ分からないのですか?」


「だって、そうでしょう?騎士団なんかに所属していなければ、

 彼女は、こんな事にならなかった‼︎

 蘇生する方法を見つけるまで、安全な王宮で預かります‼︎ 」


「黙っていろ、ヴァニタリス。お前のそれは、ただの結果論だ。

 それに、サトミ殿の体は、魔法塔で保護するのが筋だろう。

 王家が口を出す事ではない」


「ですが、父上!大事な事です。王家として貴重な聖女の保護をっ…」



「 黙 れ 」



グレンが王子の言葉を遮る。

怒りで魔力を押さえきれず、パキパキと霜の結晶が部屋に広がり始める。

そして、次々にグレン団長、ステラ師団長、セオドア文官から、

王子へ非難の声が向けられる。



「俺は…俺達は…1人の人間として彼女を愛しんで…

 自分達の力不足を嘆いている…

 この国の道具として、彼女の魔力を王家の権威として、

 利用しようとしてる、お前と違ってな‼︎ 」


「ええ。あなたは口出し無用。

 サトミさんは私達の仲間です。あなたは関係ない部外者だ。

 それに、こんな事をしても彼女は手に入りませんよ」


「私も、聖女として彼女を大事に思っています!だから保護を…」


「会議から抜けて頂けますか?ヴァニタリス王子殿下。

 あなたは、ただでさえ、余計な事ばかりしているのですよ?

 お忘れですか?あなたは最悪のタイミングで、神殺し魔石を行使して、

 魔力を無効化して足を引っ張り、魔獣討伐の妨害行為をした。

 そして、サトミ様の逆鱗に触れ、彼女にもハッキリ言われたはずです。

 以上の問題行動と今回の発言を鑑みても、いくらあなたが第一王子でも、

 到底許容できるものではありません」


「下がれ、ヴァニタリス。会議が進まん」


「……分かりました……父上、皆様…申し訳、ありませんでした」



部屋の空気は凍て付き、静かな怒りが充満していた。

これ以上、彼らを刺激してはならない…今は大人しく引いた方がいい。

だが、サトミを諦めた訳では無かった。

ヴァニタリスは、名残惜しそうに会議室を後にした。




* * * * * * *




そして、王族と側近、王宮騎士団員、北の騎士団員達以外には、

聖女サトミの仮死状態は、秘匿にされる事となった。


彼女の状態を心配する、北の騎士団員達を訓練場へ集合させ、

グレン団長は、彼らに今の状況を説明していた。



「サトミは…聖女サトミは、魔力を使い果たし、

 今現在、凍結状態にある。……つまり、死の一歩手前だ。

 蘇生には、彼女が所有する同量の魔力量が必要になる。

 それは残念ながら、今現在不可能だ。

 そして、その方法に関しては、今ステラ師団長や魔術師団が、

 懸命に模索してくれている」



シン…と静まり返る北の騎士団。

皆、瞬き一つせず、グレンの言葉に集中していた。



「魔獣の大きな波の襲来が引いたとはいえ、

 瀕死で生き残っている魔獣が、まだ国内にいる状況だ。

 そして、手負いとはいえ、元凶のレガリア国王が未だ行方が不明のまま。

 我々に今出来るのは、魔獣と戦い続けること。

 そして、レガリア国王の捜索だ。

 聖女サトミが、命をかけて守り、愛したこの国の平和を維持し、

 健全で変わらぬ姿を存続できるよう、努めるのが我々の役目だ。

 そして、再び彼女が目覚めた時に、その景色を見せてやろう。

 それが唯一、我々ができる彼女への恩返しだ」


「はいっ‼︎」





この世界は理不尽だ。


いつも善良な人間が傷つき、犠牲になる。


善良な俺の両親、勇敢な先代の団長、忠実な北の団員達。


みんな……逝ってしまった。





サトミ…





君は、こんな運命になる為に…こんな役割の為に、


この世界に来たというのか?


優しい君に、この仕打ちは…あまりに理不尽で残酷だ。




いつ死ぬか分からない辺境の騎士の俺に、


サトミは、偽物じゃない愛を与えてくれた。


思い描いた事のない未来を一緒に生きたいと思わせてくれた。




だから、俺は諦めない。


この理不尽が運命だというのなら、それを変えてみせる。


そして、君を必ず取り戻す。





「全員、引き続き、残りの魔獣の討伐と、レガリア国王の捜索に備えろ‼︎ 」


「はいっ‼︎」





皆、唇を噛み、目を潤ませながら涙を堪え、力強く従った。




大丈夫だ。


サトミ、君が与えた希望の光は、


まだ、我々の心に生きている。







光は消えた。


でも、戦い続けるしかない。


彼女が戻ってくる、その日まで────。










只今、ヴァニティーナは嫌がるデューリーンを引きずって王都へ爆走中。

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