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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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激闘






「始まったか…」


「はい、見てください…北の辺境方面の空が…」


「なんという魔獣の数だ…空が真っ黒だな…」


「大丈夫でしょうか?」


「増援が必要なら、いつでも通達するように言ってある。

 こちらも戦力は温存せねばならん。今は、待機するしかあるまい」


「はい…」



情けないことに、北の騎士団が崩れたら、

我が国の勝率は一気に下がる。


北の精鋭部隊よ…グレン…サトミ殿…どうか無事で…

頼む…どうか、どうか踏ん張ってくれ。




「見ろよ…何だあれ…」


「北の辺境の騎士団は大丈夫なのか?

 いくら精鋭部隊でも…あの数は…」


「おい、お前たち配置に付け!」


「は、はいっ!」



空を覆う黒い魔獣を見て、王宮の騎士団員達は騒ついていた。

そして皆一同、北の精鋭部隊の勝利を祈るしかなかった。




* * * * * * *




「アレン!風で飛行魔獣を一か所に、まとめられるか?

 そこに一気に火魔法で始末する」


「はい!グレン団長やってみます」


「俺が援護する、アレン風魔法に集中しろ!」


「はい、ありがとうございます。サイラスさん!」



アレンは、両手を上げて強力な竜巻を起こし、

そこへ魔獣を次々巻き込んだ。



「グレン団長!」


「よし、離れろアレン」



グレンが右手を上げて竜巻に業火を放つ。

火は風に煽られてグルグルと凄い速さで上がって火炎旋風の如く、

その姿は、まるで火竜が空に登っていくような荘厳さだった。

飛行型魔獣がなす術も無く、炎に巻き込まれバタバタと暴れ回りながら、

あっという間に黒い煙に消えていった。



「うわぁあああっ、すっげぇえええっ‼︎ 流石グレン団長!」


「地上の魔獣も囲い込んで、一気に始末しろ!」


「おーっ‼︎ 」


「アレン、次は向こうの飛行型魔獣だ。来い!」


「はいっ!」


「こっちも、まとめて始末するぞ!

 俺が土魔法で大穴開けるから、地上の魔獣を追い込んで落とせ!」


「はい!サイラス補佐!」


「レイ副団長、皆が効率的に魔獣を始末する作戦を編み出しています。

 こちらもやりますか? 飛行魔獣は私が風魔法で集めて、火で焼き払います」


「そうだな。飛行魔獣は頼めるか?ステラ師団長。

 こちらは地上の魔獣を追い込んで、土魔法持ちに穴を開けもらって片付ける」


「任せてくださいっ‼︎ 」



野営テントから、外を眺めていたトウジは、

目を丸くして北の騎士団の強さに驚嘆していた。



「流石だなぁ、普通あんな数の魔獣の大群見たら怖気付くだろ。 

 それどころか、団長が率先して確実に減らす方法を編み出して、

 更に士気上げして、それに習って皆んな対処してる。見えるか、姫さん」


「うん…凄いね」


「姫さんがいない時も北の精鋭は、ああやってずっと戦ってきたんだ。

 俺は敵ながら、いつも恐ろしく感じていたし、

 戦力もだが…あの統制と団結力はスゲーの一言だ」


「トウジさんは、グレンさんと戦った事あるの?」


「いいや?団長こえーし、こんがり焼かれたくなかったしなぁ…

 レガリアは魔獣を嗾けるばっかのコソコソ攻撃に徹していたから、

 正面対決は殆どねぇな。戦える戦力もこっちみたいに人材を育てないから、

 レガリアは人間の軍人や騎士は少ねーし…

 お、すげ…ほとんど居なくなったぞ…」


「凄い、収束した…」


「な?精鋭部隊って呼ばれてるのは伊達じゃねぇだろ?

 あんなに居た魔獣があっという間だったな」


「うんっ」



本当に凄い…

北の騎士団は、本当に…強いんだ。




『まだ終わっていない。さあ、出てこい稀人』




「…瘴気の気配… 団長!同じ方向から第二波来ます!」


「分かった。ありがとう、レイ。

 次来るぞ!各自配置に戻って備えろ!」


「はいっ‼︎ 」



収束したかに見えたが、バタバタとまた騎士団が臨戦態勢になったのを見て、

トウジは眉を顰める。



「また来るのか?配置にまた戻っていくぞ…」


「…瘴気がっ……」


「どうした?姫さん」


「あの丘の向こうから、瘴気の気配がする…

 多分、レイさんも探知したんだ!」


「…もしかして魔力戻ったのか?」


「あっ、うん。そうだ、戻った‼︎

 トウジさん、あの丘の辺りに転移できる?」


「あそこに何かあんの?」


「多分、魔獣を発生させている誰かが、あそこにいる」


「分かった。行こうぜ」


「転移先は地上じゃなくて、少しの間でいいから空に浮いていられる?

 上から奇襲したいの」


「オッケー、任せな!」



上着を脱いだレガリア王子は、シャツの前をあける。

彼の腹部にはドス黒い大きな穴が開き、トンネルのような空間があった。

そこから百鬼夜行の如く次から次へと魔獣の大群が雪崩のように、

膨大な熱量で放出され、空と大地を黒く染めていく。



『はははははっ、さっきの倍の魔獣を嗾けて、

 圧倒的な物量戦で消耗させて押し潰してくれるわ!

 この時のために、産み出して作り上げた魔獣がどれほどいると思っている?

 いくら最強でも所詮は人間だ。いつか限界がくる。

 いつまで、その自慢の戦力で耐えられるか見ものだな。

 忌々しい、北の騎士団と厄災の忌み子ごときがっ‼︎ 』


「国王陛下、待機している護衛騎士と魔術師はどうしますか?」


『北の辺境を先に潰す。奴らが疲弊してから、

 他の辺境部隊と王宮に魔獣を嗾ける。まだ待機でいい』


「はっ、では、私は知らせて参ります」



みるみる暗くなる空と大地。

北の騎士団は、それを目視して大剣を構える。



「魔獣の第二波を確認した‼︎ 全員備えろ‼︎ 」


「あそこに…出現する物があるのか?」


「くそっ、どれだけ来るんだよっ。さっきより多いじゃねーかっ!」


「おらっ、気合入れ直せ!行くぞっ‼︎ 」


「はいっ‼︎ 」




* * * * * * *




トウジさんの転移は正確だった。

眼下の10m程の先には、瘴気を纏った人物が立っていた。


既に魔獣が放たれた後で、空と大地は再び黒く染まっている。


その光景を一瞥して、サトミは眉間にシワを寄せ唇を固く閉じ、

無言で弓を構え、矢を引き標的に合わせた。


斜め上の上空から気配を感じたその人物は、ふと顔を上げる。


フワリと翻る白い聖女衣装の女が、上空に浮いている。

その女を後ろから抱きかかえ、支えているのはトウジだった。


予想外の上空から現れた、サトミとトウジに気がついた時はもう遅かった。

弓を構えたサトミの鋭い眼光は、レガリアにピタリと標的を絞り、

矢を射る寸前だった。




キヌ…?


なぜだ、


なぜ、私に────武器を向ける?




いや、落ち着け。よく見ろ。

あの女は、キヌじゃない。




ああ…だが、なぜ…なぜだ。


どうして、こんなにも───似ている。




眼下にいる金髪碧眼の驚愕に見開いた瞳をして見上げている青年を

ヴァニタリス王子かと見紛い一瞬躊躇した。

似てはいるものの、よく見ると別人だ。


これがレガリア王子だと、すぐに認識するが、聞いていた外見と随分違う。

キリキリと矢を引き、サトミは少し困惑していた。



この人…人間なの?


気配が…まるで魔獣なんだけど。


いや…誰だろうと、


悪意を持って、あの魔獣を放った元凶だ。




迷っては駄目。




「陛下‼︎ 」



矢を放った瞬間、誰かがその青年の前へ庇うように転移してきたのだ。

神聖力を纏った矢を腹のど真ん中に受け、体が黒い霧になり、

瞬く間に弾けて消え去った。



『オリオッ‼︎ 』



…どういう事?…陛下?


それに、これ…魔獣が消滅する時と同じ消え方…


この人たち…人間じゃないの?



『おのれっ…よく、も……』


「姫さん!」


「分かってる」



サトミはすぐに次の矢を構え、怒りに震える青年に向かって放った。

しかし、その瞬間に姿は消えさり、

こちらに向かって転移して目の前に現れたのだ。



『厄災のっ、忌み子がぁっ!』



その青年の手には、神殺し魔石が握られている。

サトミは弓を手放して腰の長剣を素早く引き抜き、斜めに振り切った。

青年の触れそうな手を肘部から、前腕部ゴト切り落としたのだ。

それと同時に、後ろで支えていたトウジも大剣で青年の脇腹を貫いていた。



『…っ、ガッ……グアアッ‼︎ 』



青年は腹を抱き込むように、前屈みの体勢で落下していく。

そして、地上に落ちる寸前で、フッと転移し姿を消した。



「…あっ‼︎ 」


「チッ、逃したかっ!しかも、遠くに転移しやがった。

 気配が追えねー…ちきしょうっ!」



二人で地上に降り立ち、矢を拾う。

青年の切り落とした右腕は、同じ様に黒い霧になり消滅した。


何あれ…彼のお腹にトンネルみたいな黒い空間があって、

あそこから凄い量の瘴気が溢れていた。

あれは…自分の体を媒介にして、魔獣がいる場所との空間を繋げて、

魔獣を放出する出口になっているんだ。


それに…さっき庇って消えた男が…呼んでいた名は…



「…ねえ、トウジさん。さっき…“陛下”って言ってたよね?」


「ああ、恐らくあれがレガリア国王だろう。顔を見たのは俺も初めてだ。

 だが、国王は代変わりしてないはずだし、俺より若いのが腑に落ちねぇな。

 まあ、姿変えてるのかもしれないが…。

 俺たちは王族とは面通りが許されてねぇから、その辺は分からん。

 だが、あの親善大使の庇い方は間違いねぇよ。

 国王が、王子に姿を変えて、ガレリアに入国して来たんだろ」


「あんなに若いの?私勝手にガレリア国王と同じ位かと思っていた。

 それとも、代変わりしたばかりなのかな?

 それに、あの親善大使の消滅の仕方見たでしょ?

 彼の腕も、同じ消滅の仕方だった…」


「体に色々取り込んで弄ってんだろ。

 その結果、魔獣に近い存在に成り下がったんじゃねぇの?」


「…王族全員?」


「多分な。前も言ったが、強力な魔力持ちがレガリアは少ないから、

 魔道具や稀人の召喚やら魔術の研究が進んでんだ。

 ガレリアに対抗する為に、自分達の体にも何かしてても不思議じゃない。 

 しかし…何で今までレガリア国王が姿を隠していたのかは不明だが…

 若いから舐められないようにか?…よく、分からんな…」


「…うん、…分からない事だらけだね」


「逃しはしちまったが…奴は手負いだ。

 直ぐには反撃してこないだろ」


「そうだね。とりあえず出現させられた、魔獣を先に片付けないと…」



そして、もう一つ引っかかる。

私を見て、何故あんなに驚愕した表情をしていたのだろう。

あれは予想外に突然現れたのを驚いただけの顔じゃなかった。



「一度、空と大地に神聖力を放つから…トウジさん、周りの警戒をお願い」


「任せな。何も近づかせねぇよ」



私は弓を構えて、黒い空に向かい1本、

そして地上に跋扈している魔獣の塊に1本、

神聖力と共に連続で矢を放った。




* * * * * * *




「うわっ!何だこの光、眩しい‼︎ 」


「あれ、聖女様の神聖力の光の柱だろ?」


「すげええええっ、魔獣が殆ど消えた!」



うわあああああ─────っ



安堵した王宮騎士から一斉に歓声が上がっていた。

そして、転移をして戻ったサトミに、グレンが走って駆け寄ってくる。



「サトミ!」


「グレンさん!」


「魔力が戻ったのか?体は大丈夫か?」


「うん。魔石に触れたのは短時間だったから…遅くなってごめんね。

 それより、魔獣を発生させていた人物を仕留め損ねてしまったの…」



私は、さっきの出来事をグレンさんと、

合流して来たレイさんとサイラスさんに説明した。



「では、親善大使は死んだのか…」


「うん。多分…」


「そのレガリア国王は手負いとしても…まだ護衛騎士と魔術師がいる」


「探知できない…。後の二人は遠くにいるか、気配を消しているか…」


「レイさん、私も引き続き気配を探ります」


「いや、今残ってる雑魚魔獣にトドメを刺してから、少し休憩しよう。

 また絶対に嗾けてくる」


「そうだな。少し休ませた方がいいな」


「じゃあ、私食堂から何か食べ物持ってくる!」



私はトウジさんを伴い、

急いで北の騎士塔の厨房に料理を作りに行った。




* * * * * * *




「は~、あったかいクリームシューが体に染みるわ…」


「ベーコン目玉焼きサンドウィッチうめー♪力が漲る!」


「チーズオムレツ最高!幸せ~」


「時間無くて、こんなのしか用意できなくて、ごめんね」


「何言ってんの?充分だって、サトミさん」


「あんな短時間で、こんなにありがとうよ」


「終わったら、打ち上げしよう!死ぬほど沢山作るよ」


「やったぜー!」


「俺、唐揚げがいい!あとミートパイとプリン!薫製チーズ!」


「ハンバーグ!スパゲティミートソース!ピーマンの肉詰め!」


「グラタン!チキン南蛮!ラザニア!アスパラベーコン巻き!」


「シュークリーム!ゴンリーシャーベット!アップルパイ!」


「餃子!豚カツ!ロールキャベツ!包み焼き!ロールケーキ!」


「あはははははっ、分かったってば!」



野営テントの周りにみんなで集まり、賑やかに食事をとった。

まだ余裕があるのか元気いっぱいで、ホッとする。

私は、全員に食事を配り終わり、グレンさんの隣に座った。



「サトミ、お疲れ様」


「うん。グレンさんもしっかり食べてね」


「ああ、お陰で、まだまだ戦える」


「グレン団長、状況報告の伝令鳥を王宮に飛ばして来ました」


「ご苦労だった、ありがとう。レイも食事して体を休めろ」


「はい!」


「はい、レイさんのぶんだよ」


「ありがとう、サトミさん。おー、美味そう」



グレンさんは、団長モードになるとキリッと雰囲気が変わって、カッコイイ。

なんて、私は呑気な事を考えるほど、この騎士団は安心感があるのだ。

さっきまでの緊迫した雰囲気が、嘘のように今は和気あいあいとしていた。



「……今日で、終わると思う?」


「向こうも手負いだ…余裕がないだろうから、畳み掛けてくるだろうね」


「うん…」


「大丈夫、勝てるよ」


「うんっ」




* * * * * * *




「王宮騎士団員が、歓声を上げておったな…

 いつ見ても神々しい光の柱だ。流石、聖女サトミ殿だ」


「取り敢えず、危機は脱したのでしょうか?」


「まだ分からん。北からの報告待ちだ。油断するな」


「はっ」


「失礼いたします。

 国王陛下、北の辺境騎士団からの状況報告と、

 ヴァニティーナ王女より伝令鳥で手紙が届いております」


「おお、来たか!…ん?ヴァニティーナもか?」


「はい。こちらを」


「うむ、何かあったのか?

 あの子がいる僻地は離れているから、大丈夫なはずだが…

 ともあれ、先に北の状況確認を急ごう」



国王は手紙を受け取り、ヴァニティーナの手紙は机に置き、

北の辺境から読み始めた。



「うむ…取り敢えず、今現在は敵を退けたが…予断を許さぬ状況のようだ。

 そして、遊学で来ていた王子にレガリア国王が姿を変えておったとある。

 彼らが魔獣を発生させている元凶で、自分の体と魔獣のいる空間に繋げて

 発生させているらしい…国王を庇った親善大使は死亡、国王は取り逃して

 捜索中。手負いにした為、反撃はまだと予想される。隣国の護衛騎士と

 魔術師は未だ消息不明。あの短時間でもの凄い情報量だな。

 報告は以上だが………

 最悪なことに…また我が王族が、サトミ殿に迷惑をかけたそうだ…」


「…そうですか…まだ油断できませんね。…え?あの…王族とは?」


「ヴァニタリスが神殺し魔石を勝手に持ち出して、サトミ殿に触れ、

 魔力が一時的に無効化された。何でもサトミ殿を王宮に保護するつもりで、

 北の騎士塔に先触れなしで、勝手に面会に行ったらしい…

 淡々と報告に書いているが…相当ご立腹だ」


「…不味いですね…益々、聖女サトミ様の王族嫌いが加速しそうです…」


「あああああっ!何をやっておるんだ、あのバカはっ!

 こんな時に足を引っ張るような真似をっ‼︎

 ヴァニティーナといい、ヴァニタリスといい…はあああああ──っ…」


「へ、陛下…」


「……さて、気を散り直して、ヴァニティーナの手紙を読んでみるか…」




* * * * * * *




私は、万が一の事を考えて、自分の愛馬のユキを厩舎から連れ出して、

野営テントの近くに待機させていた。

基本トウジさんが転移で移動してくれるが、彼の魔力も無限ではない。



「ユキ、いい子で待機しててね」


「ブッフウゥ‼︎ 」


「へぇ〜、綺麗な馬だな。姫さんに似合う」



ガチンガチンッ!



「何で威嚇してんだよ、こいつ」


「ごめんごめん、人見知りなの。こらっ、歯むかないの!」


「第三波が来たぞーっ!皆、配置に付け!」


「おっと、来たか」


「うん、行こう。トウジさん」



第三波の魔獣は順調に始末したが、相手も学習したのか、

魔獣を出現させた後に、すぐ転移で姿を消し、元凶を倒すには至らなかった。



「くそっ、物量戦でこっちを疲弊させる気かよっ」


「これじゃあ、いつまでも同じことの繰り返しだわ。

 元凶をどうにかしないと…」


「だなー…俺の転移もだが、姫さんの神聖力だって、その内枯渇しちまう」


「うん、それが狙いだと思う」


「サトミ」


「グレンさん!」


「少し話がある」


「うん…」



グレンさんに提案されたのは、ここでの討伐は自分達が引き受ける。

だから、私とトウジさんが別行動で、元凶の後3人を探すのを

優先して欲しいという事だった。


神聖力を持つ私が離れる事で、現場の騎士は消耗するが、

探知能力のレイさんが事前に敵襲は察知できるし、まだ皆んな全然戦える。


とりあえず魔獣発生元を潰さない事には、この戦いは終わらない。

頼んでもいいだろうか、と相談された。



「うん、分かった。私もその方がいいと思う」


「すまない…結局サトミに大役を任せてしまうな」


「ううん。その為に私はいるんだよ?

 それより、早く終わらせて皆で打ち上げしよう。ね?」


「ああ、そうだな」



グレンさんは、私の髪を撫でながら、そっと抱き寄せた。

大丈夫、私はこの腕の中に必ず帰って来る。

彼の広く逞しい背中に腕を回し、私も彼を強く強く抱きしめた。




* * * * * * *




「気配ねぇなぁ…」


「うん…」



トウジさんと転移を繰り返して、元凶を探しているが、

ナカナカ見つからない。

一体どこに姿を隠しているのか。



「新たな魔獣の襲来はねぇな…」


「…そうだね。様子を伺っているんだろうけど…あっ!そうだ!」



私は蹲み込んで、両手を地面に付けた。

土魔法で大地の気配を探ればいい…移動していれば地面に足を付けているし、

あれだけの瘴気を含んだ体だもの…何か伝わってくるはずだ。



「どうしたんだ?姫さん。具合悪いのか?」


「シ─────ッ……」


「……………」



脈々と流れる川の音が聞こえる…

ああ、大地の音ってなんて神秘的なんだろう。



もっと集中して…


瘴気の気配を探るの…




……ォ…コォォ──…コ─…ゴゴゴ…─ン…ゴボゴボゴゴ…コォオォ──…




身体中の産毛が総毛立つ。

まるで、底の見えない暗い深淵の穴から、聞こえてくる音だった。



これだ…


この音が、瘴気の音だ。



私は立ち上がり、その方向へ目を向ける。

奥深い森が見える。間違いない、あそこにいる。



「トウジさん、あっちの森の奥。国境近くまで飛んで」


「あ?ああ。見つけたのか?」


「多分、また上空で止まってくれる?」


「おう、任せておけ!」




* * * * * * *




「陛下…大丈夫ですか?」


『ああ…いや、あまり良くはない。

 だが、そろそろこの体も限界だ…今までよく持ったものだ。

 この戦いに勝てさえすれば…もう、心残りはない…』


「……こちらで休んでいてください。我々が出向いてきます。

 さっきのように、すぐに転移すれば稀人にも気取られません」


『気を付けろ。あの女…予想外な事をしてくるぞ』


「はっ」



目の前で転移していく、魔術師と護衛騎士を見送りながら、

満身創痍のレガリア国王は、目線の定まらない瞳でぼんやりしていた。



キヌ…



“このままでは、ガレリア王子に殺されてしまう。


お願い、逃げてください。レガリア様。


私はいつまでも待っていますから、あなたを持っていますから、

 

逃げて、生きてください。


そして、いつか、いつか私を迎えに来て──── ”




逃げなければ良かった。


例え殺されようとも、君の側を離れるべきでは無かったのだ。




キヌ…




私は、愛する女性一人も守れず、幸せにもできなかった。


腰抜けで、情けなくて、最低な…弱い男だ。


この果てしなく永遠に続く長い年月の中で、


君との約束でさえ、果たせずにいた。


だから、最後に()()だけは果たそう。



そろそろ私の寿命も尽きる頃、最後の聖女召喚したのが、

どういう運命の悪戯なのか、よりによって君にそっくりな顔をした、

あの稀人、最強の魔力を持つ聖女だった。



君と同じ顔をして、憎いガレリア国を守り、私に殺意をむけている。


なんという皮肉なのだろう───。




* * * * * * *




「セオドア文官殿、外は、どうなっている?」


「魔獣の群れが次々襲来してきています。その波が只今第三波まで押し寄せ、

 全て北の騎士団が退けています。ですが、元凶の隣国王子が逃亡中で、

 それを探しているとの事です」


「そう、か…」


「どうぞ、お静かにお待ちください。ヴァニタリス王子殿下。

 我々は、足手まといにしかなりませんので」


「分かっている。私の微量な魔力と探知能力では、役に立たないのは」


「あなたには、あなたの正義があります。

 ですが、先程の状況でのあの行動は、明らかに不適切でしたし、

 あなたの過失です。一体どうしたのです?あなたらしくもない」


「……守って、あげたかったのだ」


「サトミ様をですか?」


「ああ。王宮の先代聖女の墓前で倒れた時、私が抱き上げて運んだろう?

 あの細い体と涙の跡を見て、なんとも言えない庇護欲と愛おしさが私の心に

 溢れてしまったんだ…だけど、彼女は保護されるのを望むような女性では、

 なかったんだね…あそこまでハッキリ言われてしまってはね…」


「……恋をして、いらっしゃるので?」


「私が、かい?……そう、なのだろうか?自分でも良く分からないのだ。

 気がついたら、ここに来ていた」


「彼女には、グレン団長がいます」


「それは、分かっているよ」


「……………」



この理性的な王子が、無意識でこんな行動をしたのか。

本当に、サトミ様は人たらしで困ったものだ…。




* * * * * * *




「姫さん、正反対の方向に転移魔力の気配がする」


「えっ?やだ、移動したの?」


「戻るぞ!」


「う、うんっ」



また魔獣を放つつもりなんだ…

国境近くの森へ行くのをやめて、私たちは慌てて引き返した。



「グレン団長、第四波来ます!」


「くそっ、いつまで続くんだ…」



そして、まさに魔獣を放っている人物が上空から見えた。

いつもは、北の騎士団の方向のみだったが、

今度は全方向に魔獣が放たれてしまったのだ。



「トウジさん、あそこ!」


「おっしゃ、見つけた!しっかり捕まってな!」



私達は元凶の人物の至近距離に転移すると同時に、

その人物は振り向いた。このローブ姿は魔術師だろう。

彼は反射的に、顔の前で両腕を交差させ身を守る仕草をする。


私は、こちらに殺意もなく、見ず知らずの人物に攻撃するのは胸が痛んだが、

彼を生かしておくと…この戦いは終わらない。


心の中で、謝罪しながら両手で長剣を握り、

神聖力を込めて彼の左胸を貫いた。


魔術師は最後の足掻きで片手を伸ばして、魔力を放ったが、

それは私の頬を少し傷つけただけだった。


彼は、私の顔を見て瞳を見開き、躊躇したのだ。

そして膝をつき倒れながら、私に縋るように手を伸ばした。



「キ、ヌ…様?…どう、して…」


「え…?」


「…っ、…」



私の手を握りながら、

彼は黒い霧となって飛散して消えていった。




 キ ヌ ?




初代聖女の名前…


どうして…?


どういう事?



「やったな!あと二人だ。……姫さん?」


「あっ、うん…」


「頬から血が出てる…痛くねぇか?」


「大丈夫。かすっただけだよ。

 それより、広範囲に魔獣が放たれてしまったから、

 神聖力を多めに空と地上に打たないと…」


「ああ、大丈夫か?ずっと魔力使いっぱなしだろ?」


「うん。周りの警戒お願いね」



初代聖女が、この世界に落ちてきたのは約400年前だ。

肖像画もなかったし、その素顔を知る者は、今この世にはいないはず。


あの青年…レガリア国王も同じ瞳をして私を見ていた。


私は、釈然としない疑念を抱きながら、

空に向かって、神聖力の矢を放った───。






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