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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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黒い空






「自由で平和な雰囲気の学院ですね」


「ありがとうございます。レガリアは、どんな感じなのですか?」


「そうですね、校則が沢山あって少し窮屈に感じます」


「そうですか、授業の内容はどうです?」


「全然違います。こちらの方が進んでいますね。

 ちょっと付いていけるか…自信がありません」


「大丈夫です。私がお手伝いします。学院生活は楽しめそうですか?」


「はい、とても楽しいです。来て良かったです」



この1ヶ月間、王子は大人しく過ごしていた。特に不審な動きもない。


そう、大人し過ぎるのだ。


時々、レガリアの親善大使が訪ねて来て何か小声で話しているが…

すぐに退室していくのだ。


辺境の騎士団員達からは、魔獣の姿を一切見なくなったと

報告が上がって来ており警戒レベルを上げているが特に何も無かった。

その沈黙が一層不気味さを増していた。


監視役の影は、気配を消せる特殊能力を持っている者しか出来ない為、

俺ともう2人しか王宮にはいない。

あとの二人の影は、護衛騎士と魔術師についている。


これだけ動きがないとなると、王子から少し離れて、

他の同伴者も監視する必要がある。

親善大使に一番近い位置にいるのは、俺だ。


影としてレガリアのエイダン王子の様子を監視しているアキラは、

親善大使の方の動きも探ろうと後を追った。




* * * * * * *




ステラ師団長に呼ばれ騎士塔裏の倉庫に行くと、

すごい量の荷が積み上げてあった。馬車で3台分あったらしい。



「うわー、何これ。凄い量」


「全て浄化遠征先の村からのお礼の品々です。

 後半に回った村から後続で届いたようですね。主に食材や苗が多いです」


「ふふっ、私が欲しがるのが、そういうのばっかりだったからだと思う。

 嬉し~い♪畑もっと大きく広げなくちゃ」


「ああ、それから…こちらは、隣国の童話の本です。

 検閲終わったのでどうぞ」


「ありがとうございます。後で読みます」


「お、ハンモックだ。ほらサトミちゃん、追放者の村の宿の…」


「あっ、やっと届いたんだ。実はこっそり発注してたんだ。

 みんなの分もあるよ」


「これ気持ちいいんだよな~」


「姫さーん、何それ」


「そっか、トウジさんは知らないんだっけ?」


「ああ、赤頭は遠征帰りに襲って来た側だったからな」


「あ…そうだった。敵だったんだよね、あの時は。何か変な感じ~」


「確かに自由になれて、しかもこっち側の仲間になるなんて、

 想像してなかったなぁ…」


「ふふっ、そうだよねぇ。サイラスさ~ん、そっち持ってー」


「おう」



ハンモックをビローンとサトミとサイラスで、

両端を持って広げてトウジに見せる。

それでもまだピンときていないのか首を傾げる。



「これ、どうやって使うんだ?」


「この両端を木の枝とか、フックに掛けて結ぶの。

 で、この真ん中で横になって寝る。

 宙に浮いて風通し良くて涼しいし、ゆらゆら揺れるのが、

 凄く心地いいんだよ」


「へえ~…面白れぇなぁ~不安定そうに見えるけど大丈夫なん?」


「体の重みで安定するから大丈夫!」



目を輝かせてる皆んなにハンモックを配って、

野菜や加工肉などの食材類は、厨房の保存庫に移動して、

その中には、水の都のブルー騎士から、お礼の手紙とピザの新メニューが

詳細に書いてあり、またいつでも食べに来てくださいとあった。

砂漠の村の領主からも、農作物が育ちまくった喜びの言葉と、

お礼が認められた長文の手紙と、綺麗なヌリーも送られて来ていた。


そして、残りの荷を整理していると、

追放者の村の領主、ユニ・アゼリア様から手紙と共に、

何か大切な物を保管してそうな頑丈な箱が出てきた。


私は先に手紙を開き、読んでみる。



“ご無沙汰しております。

 息災でいらっしゃいますでしょうか?

 浄化遠征の際は、大変お世話になりました。


 お陰様であれ依頼、日の光がよく当たって村が明るくなり、

 作物も育ち、村の人間も元気になりました。

 身代わり魔石も、皆これで一度は死を回避できるし安心だと、

 喜んでいつも身に付けております。

 私も妻も、前より断然体が健康になり元気にしております。

 本当にありがとうございました。心より感謝いたします。


 さて、ご注文のハンモックも人数分出来上がりましたのでお送りします。

 どうぞ少しでも体を休める物として、お役に立てれば幸いです。 

 今年のワインもお送りします。ぜひ皆様でお楽しみください。

 そして、新しい品種改良に成功した野菜の苗も何種類かお送りしましたので、

 どうぞ北の辺境騎士団の方々と育てて、召し上がってください。

 丈夫に改良しましたので、多少雑に扱ってもしっかり育つと思います。


 そして、遠征の際に渡し損ねていた物をお送りします。

 黒い箱に納めている “神聖力が込められている水晶” です。

 先祖代々引き継いで来た物ですが、ただ家宝のように保管しているだけで、

 今の私たちでは役立てられない代物です。

 この水晶は歴代の聖女様の物で、追放時に預けられたと聞いております。

 聖女サトミ様に託します。どうぞお役立てください。


 近いうちに、隣国と全面戦争の可能性があると、

 こちらにも通達がございました。

 北の辺境が、恐らく前線になる事でしょう。

 どうぞお気をつけて、ご武運を祈っております ”



「…神聖力?」



そっと黒い箱を開けてみる。

中には、大きな虹色の水晶が鎮座していた。


どうして、王家で保管してなかったんだろう。

どうして、追放した王族に持たせていたんだろう。


ああ、そうか。


チエコさんを最後に、聖女召喚を行わない事にしたんだっけ。

だから、その力に縋らないように手放して彼らに託したのか。

それに、こんな物があると知れたら、争いの元になるかもしれないもんね。


この水晶は…魔力切れを起こした時に役立つかもしれない。


私は検閲を終えた童話の本と、水晶を箱ごと大事に両手で抱き、

私室に持ち帰った。




* * * * * * *




「ヴァニタリス王子殿下が?」


「はい、王宮の護衛騎士1名を伴って…

 何でもサトミ様に渡したい物があるとかで…」


「先触れは?」


「ありません」


「…会わせる訳には行きません。いくら王子でも約束は守って貰わねば。

 恐らく陛下にも、内密で赴いているのでしょう」


「どうしますか?正直迷惑なんです。ただでさえ今ピリピリしてますし…」


「任せてください。私が対応します」



全く、こんな時に余計な仕事を増やしてくれる。

門番の騎士からの報告を受けて、

少し苛立ちながら、セオドアは応接室に向かった。




* * * * * * *




親善大使の後をつけて来たが、突然姿が見えなくなった。

アキラは、周りを見渡し立ち尽くしていた。


あいつ、何処に行った?

ここは…先代の聖女の墓前じゃないか。



「何をコソコソと付け回っている」


「…っ‼︎…」


「かかったな、バカが。私が気付かないとでも思ったか?」



まるで瞬間移動したように、いつの間にか後ろに立っていた。

そして、ドンッとぶつかって来たかと思いきや、短剣が左胸を貫通している。



「幻覚魔法で誤魔化そうとも、お前の気配など覚えている。

 この裏切り者がっ 」


「……うっ、…」


「これは魂を吸う暗黒石が付与されている短剣だ。

 可哀想になぁ、アキラ。お前は死ぬんだ」


「……っ、……」



あの王子は、妙に大人しかった…大人しすぎた。


後から入国して来た王子に、当然皆注目して警戒する。

そして動きがなければ、疑問に思う。

動き出すのは王子ではないのか、と…


同伴者として来た、親善大使、護衛騎士、あるいは魔術師、

それらに警戒先が分散されるのを…

俺が王子から離れるのを…



それを───待っていたのか?


今エイダン王子は、俺が離れたせいで監視が緩んでいる…


不味い…



「死ぬのを見届けたいが、こちらも暇じゃないんでね。

 お前たちが必死で守ろうとしている、聖女も、この国も、全て壊してやる。

 じゃあな、惨めに死にさらせ、このゴミが!」



シュンッ‼︎



転移魔石を…持ってやがったのか。

そうか…邪魔な(おれ)を人知れず始末するために、

俺が動きのない王子から離れて、

他の同伴者に監視先を変えるのを待っていたのか。


クソッ、痛ってぇ…

トウジに気を付けろと言われていたのに、こりゃ怒られるな。


サトミさんの身代わり魔石のお陰で助かった…

しかし凄いな…暗黒力も神の力と言われているが、

神聖力には敵わないのか。


間違いなく、レガリアが開戦の準備をしている。

そして、あいつは俺が絶命すると思い込んで油断している。

早く皆に知らせないと。




「父上、エイダン王子が姿を消しました!」


「それは誠か?ウィルアルド」


「護衛騎士も、魔術師も…親善大使も、どこにも居ないのです。

 まるで、示し合わせたように消えてしまって…

 申し訳ありません、少し目を離した隙に…

 しかも、影のアキラ殿も姿が見えないのです」


「なん、だと?…まさか、始まったのか…」


「今現在も手分けして探していますが、所在確認報告はありません」


「分かった。侍従、宰相を呼んでこい。各関係者と騎士団に通達する。

 レガリア王子達が姿を消した。全員配置につき臨戦態勢で備えろと。

 大丈夫だと思うが、ヴァニティーナにも通達が必要だな」


「は、はいっ‼︎ 畏まりました。すぐ呼んでまいります!」


「ち、父上っ…」


「狼狽えるな。隣国の王子を受け入れて、こうなる事は分かっていた。

 ヴァニタリスとセラデュードと共に、結界のある地下室に落ち着いて避難しろ。

 護衛騎士も増員して向かわせる。いいな?」


「はいっ!」


「狙いはサトミ殿だ。急がねば…」



東西南北の辺境と王宮の騎士団、臣下、側近、衛兵、傭兵、

王国内の王族と貴族達に、国王陛下より全面戦争に備えるよう、

火急の伝令鳥が飛ばされた。


そして、身代わり魔石により命拾いしたアキラが王宮に戻り、

隣国がとうとう開戦に動き出したのが、明らかになったのだった。




* * * * * * *




「忌々しい北の騎士塔はあそこか…ふん。全く変わっとらんな」


「ここから攻撃しますか?」


「いや、確実にさせる為にもう少し近づく。

 北の騎士団とあの稀人を壊滅させれば、後は容易いからな」


「はい。アキラは始末しましたので、

 こちらの動きはまだ気取られていません」


「死んだか」


「暗黒石付与の短剣で心臓を貫きました。助かる訳がありません」


「ふん。トウジが怒り狂うだろうな、いい気味だ。

 大事な者を奪われる苦しみを存分に味わうがいい」


「今日、実行しますか?」


「ああ、影が邪魔で身動き取れなかったからな。

 少しでも不審な動きを気取られて万が一阻止されると、画策が台無しになる。

 初動で邪魔されるのは避けたかったのだ。良くやったオリオ」


「はっ、光栄です。レガリア国王陛下」


「今はエイダン王子だ」


「はっ、失礼いたしました」


「魔術師と護衛騎士達も配置についたか?」


「はい。計画通りに」


「いいだろう。…リンドゥーテの様子は分かったか?」


「申し訳ありません。地下深くの牢屋に捕らえられているようで、

 更に守りの固い防御魔法が強力で、転移しても護衛騎士や魔術師が、

 常駐しており、近寄れませんでした」


「そうか…すべて終わったら、迎えに行けばいい。我々も向かうぞ。

 ガレリアの最強騎士団に存分に踊ってもらおうではないか」



不敵な笑みを浮かべて、歩き出すエイダン王子の周りに、

ブワリと黒い霧が発生して包み込み、その姿を隠した。

やがて霧が消えて現れたのは、金髪碧眼の青年だった───。 




* * * * * * *




「一体何の御用でしょうか?ヴァニタリス王子殿下」


「おや、セオドア文官殿」


「約束をお忘れですか?」


「先触れの件かい?」


「はい。国の王子自ら反故にするのですか?

 なので、サトミ様には会わせる事は出来ません」


「ああ…軽率だったね、申し訳ない。でも、そんなつもりは無かったんだ。

 ほら、浄化遠征先の村から荷が届いただろう?王宮にまだ残っていたんだ」


「それは、わざわざありがとうございます。

 ですが、王子であるあなた様がご足労いただかなくても、

 誰かに届けさせれば、よろしかったのでは?」


「そうだね…でも、彼女に直接届けたかったんだ」


「……では、私がお預かりします」


「すまないが貴重な魔石なんだ。だから彼女に直接渡す」


「一体何の魔石ですか?それこそ、素人が軽々に触れては危ないのですよ。

 そういう事でしたら、ステラ師団長を呼んで対応させます」


「いや、そんな大袈裟にしなくても…」




カンカンカンカンカンッ‼︎




ピクリと肩を震わせて、二人は顔を見合わせ固まった。



「何だ?この鐘の音は…」


「魔獣の襲来です。ヴァニタリス王子殿下すぐに避難を」


「…っ、魔獣⁉︎…」



突如、魔獣の襲来を知らせる鐘が、北の騎士塔に響き渡ったのだ。




* * * * * * *




「何してんの?ヴァニティーナ」


「手紙を書いてるんですの」


「誰に~?」


「聖女サトミ様と父上…国王陛下ですわ。

 デューリーンから聞いた昨日の話の内容を…」


「ふ~ん……あれ?」


「どうしたんですの?」


「瘴気がっ、王都の方から、大量の魔獣の気配がするっ!

 うわーっ始まった。ぼ、僕、隠れなきゃ、君も早く逃げなよ!じゃあね!」


「えっ⁉︎ ちょっと?」



あっという間に居なくなった、逃げ足の早い精霊を唖然として見送り、

ヴァニティーナは恐る恐る窓に近づいて、

こんな僻地からは到底見えない王都の方へ目を向けた。


当然、いつもと変わらない森と空の景色しか何も見えない。



「父上、みんな…」



私は、離れていて何も出来ない。

どうせ居ても魔力も剣も握れない私は、足手まといだけれど…。


だから、早くこの手紙を仕上げて届けなくては…


はやる気持ちを抑え、机に向かい再びペンを走らせた。




* * * * * * *




「グレンさん!」


「サトミ、今迎えに行こうと…

 国内で突如魔獣の大群が現れたらしい。

 それが真っ直ぐ北の騎士塔に向かっている。

 国王陛下から火急の伝令鳥で、ちょうどレガリア王子達が姿を消したと

 報告があった。アキラも親善大使に害されたそうだ」


「アキラさんは…無事なの?」


「大丈夫、君の身代わり魔石のおかげで命拾いしたそうだ。

 まあ、相手は殺す気だったんだろうな」


「そう。とりあえず良かった。…始まったんだね」


「ああ。大丈夫だ、必ず勝てる」


「…うんっ!」



ああ、とうとう…始まってしまった。



グレンさんは状況確認と指揮がある為、一足先に行ってもらい、

代わりにレイさんが私に付いてくれた。

私は一度私室に引き返して、着替えを終え、追放村から届いたばかりの

神聖力の水晶玉を巾着に入れ、腰ベルトに下げて持参することにした。

そして、二人揃って現場へ向かう。


みんなバタバタと忙しなく走り回って、

その緊迫した雰囲気に、心臓が大きくドクドク鼓動している。



「サトミ様、お気をつけて!」


「うん、エリカさんも避難してね」


「はい、ご無事を祈っていますぅ!」



廊下ですれ違った、侍女のエリカさんと言葉を交わし、

私たちは先を急ぐ。



「…何だ?」


「どうしたの?レイさん」


「いや…ほら、神殺しの魔石あっただろ?」


「うん」


「その気配がするんだが…気のせいか?」


「え?」



ドンッ‼︎



廊下の曲がり角で誰かにぶつかり、

顔をあげると、ヴァニタリス王子殿下だった。



…は?


何で、この人ここにいるの?



「王子殿下、そちらではありません、地下のシェルターにっ…」



後ろからセオドア様が、追いかけてくる。

私を認識したヴァニタリス王子は、悲しそうな顔をして口を開く。



「やはりサトミ殿も、参戦するのですね…」


「え?はい、勿論です。

 申し訳ありませんが、急いでいるので失礼します」


「待って下さい」


「は?」


「あなたは歴代の聖女の中でも最強ですが、体はか弱いただの女性です。

 ですから、男性と同じ現場に参加するのは反対です」


「あの…時間がないんです。

 それに、私は国王陛下より騎士団所属の聖女として、

 魔獣討伐の認可をいただいています」


「分かりませんか?あなたは、聖女の称号を持った希少で尊く、

 大切な存在なのです。なぜ、そんな命の危険のある戦場に身を置くのですか?

 その辺のただの平民ではないのですよ?」


「……平民とか貴族とか関係ないでしょ?

 議論するおつもりなら後にして下さい。今は一刻を争うんです」


「ヴァニタリス王子、いい加減にしてください。

 あなたは聖女として仕事をしようとしている、

 サトミ様の邪魔をしているのですよ?」


「だがセオドア殿、私は彼女とこうして話をする事も、

 ままならないのだ。こんな機会がなければ…」


「相手にするな、行こう。サトミさん」


「はい。レイさん」


「サトミ殿!」



すれ違い様に腕を掴まれた。

振り解こうと腕を回し上げるが、グラリと目に映る景色が反転する。

私は立っていられず体から力が抜けて、その場に膝をついた。



…え?…これ…この目眩い…覚えがある。



「サトミ様っ⁉︎ 王子殿下!何を…何をしたんですか!手を離してください」


「これ…神殺し魔石の波動か?何で王子が持っている!

 おい!サトミさんを離せ‼︎ 」




そうだ。


魔力が無力化される、あの気持ちの悪い眩暈。


何で…この王子が…




「私は、サトミ殿を王家で保護したいのです。だから…」


「まさか…彼女を力ずくで連れて行くつもりで、こんなっ、

 神殺し魔石を持って、ここに来たというのですか?」


「サトミさん、大丈夫か?おいっ」


「…っ、…大丈…夫…レイさん、連れて行って…」


「いけません!サトミ殿は今魔力が無効化されています!

 そんな状態で戦場に出るつもりなのですかっ⁉︎ 今からでも遅くありません。

 ここは前線で危ない!私と一緒に王宮へ…」



「うるさいっ‼︎ 」



膝をついて俯いていたサトミが、声を荒げて王子の手を振り払う。

いきなりの大声と暴言に、王子はギョッとして肩を揺らした。



目眩がする。少し…触れたんだ…


ああ、最悪。


あのリンドゥーテ大将が持っていた神殺し魔石は、王家が管理していたはず。

それを…この王子が勝手に持ち出したんだ。


本当になんて事してくれたの…こんな非常時にっ、

こんなに神聖力が必要な時に、何を偽善じみた綺麗事を言ってんのよ‼︎

私は王家の保護なんて必要ないって、もう話はついてるっての!



「笑わせないで…私より弱いくせに、私を保護する?何の冗談です?

 いいから、邪魔しないでください!」


「血筋の優れた指導者や賢者は、国の為に必要なのです。

 でなければ、国は成り立たない。

 弱く迷える教養のない民を導き、為政を行い、国政をまとめる役割がある。

 勿論あなたも賢く、何よりこの世界で神聖力を持つ唯一の人だ。

 貴重な人材を保護する責任が王家にはあるのです。

 どうか、分かっていただけませんか?」


「はあ?何を偉そうに詭弁たれてんのよ。

 じゃあ、平民が死に絶えて、王族や貴族だけになって何が出来る訳?

 あなた達は、パンは作れる?野菜や果物を育て、家畜の生産できる?

 家は建てられる?川を渡る橋は架けられる?服や靴は作れるの?

 それらを全部してくれてるのは、作り出してくれているのは誰?

 平民が働いて全てやってるから、国が成り立ってるの!

 普通の日常を当然のように維持し続ける平民がいるから、

 あんた達も生きていけてるんだよ!国は王族と貴族のモノじゃない!

 国民一人一人が支えた結晶が国になってるの!

 居なくても困らないのは、あんた達の方なんだよ!勘違いすんなっ‼︎」


「………本当に、あなたは賢いですね。だから失いたくないんです」


「そこを退いてください。怪我をさせたくないんです。

 私は今余裕がない。何をするか分からない…」


「なぜ、サトミ殿は、そこまでするんです?

 なぜ、自ら茨の道を望むのです?

 女性はどなたも、男性に守って欲しいと願って保護を望み、

 安全な環境を好むでしょう?」


「男も女も関係ない。

 強い立場の者や強い力を持つ者が、先頭に立って戦うのは当然でしょう⁉︎

 国民の代表として与えられた権力は、何の為にあると思っているの?

 国と国民を守る為にあるんだよ⁉︎」



ヴァニタリス王子殿下は、怒りを露わにしていながら、

理性的に反論するサトミの知性と正論に、何も言えなくなり押し黙った。


そこに、トウジが転移で姿を表した。



「姫さん、居た!

 グレン団長とステラ師団長に迎えに行くように言われたんだ…ん?

 あれ…こいつ確か第一王子じゃん。何でここにいんの?」


「トウジさんっ」


「どうした?顔色悪いぞ」


「大丈夫、連れて行ってくれる?」


「ああ。レイ副団長も一緒に行こうぜ。捕まってくれ。

 みんなもう配置についている」


「分かった。頼む」


「お気を付けて、ご武運を」


「はい、セオドア様、後は頼みます」



どうしよう…魔力回復するだろうか…

短時間の接触だったし、刺されたりして体内には阻害は受けていないから、

すぐ回復するはずだけど…


でも、とにかく行かないと。



そして、転移したその場所は、真っ黒だった。

地上だけじゃない、空にも鳥形の魔獣が飛び交っている。  



昼間とは思えないほどの黒い空。



騎士団員が討伐しづらい、飛行型魔獣を故意に用意したのだ。

でも、どうやってこれだけの数を招き入れたのか…

入国時に身体検査と持ち物検査をして、暗黒魔石は持ち込まれていないはず。


しかも最悪なことに、守りを固めた為にそれが裏目に出ている。

魔獣は国境の結界で国内に閉じ込められた状態になり、

周辺国へ追い払うこともできない。

全ての魔獣を一匹残らず討伐しないと、こちらが危ないのだ。


幸い国境の結界は、人間は踏み越える事ができるから魔獣からは逃げられる。

なので討伐が終わるまで、ガレリア国民は一時的に隣国の国境超えをし、

待避する指示が出されている。

今現在、衛兵や傭兵が村へ回って民たちを誘導しているそうだ。


私は、とりあえず怪我人用兼控えの場、野営テントで休むように、

レイさんに言われ仮設ベッドに座らされ待機になっている。

トウジさんも私の護衛で一緒に側にいてくれていた。

そして、レイさんはグレンさんに報告しにテントから出て行った。



今ここにいても私は、何の役にも立たない…本当に最悪だわ。



「グレン団長」


「来たか、レイ。サトミも一緒か?」


「はい、ですが…その…ヴァニタリス王子が余計なことをして、

 サトミさんの魔力が今、無効化されています」


「は?どういうことだ?なぜ王子がここにいる?」


「サトミさんを王宮で保護しようと、内密で来たらしく、

 セオドア殿が盾になって対応してくれていましたが…タイミグ悪く、

 廊下で偶然居合わせてしまって、神殺し魔石で彼女に触れました」


「…っ、‼︎……くそっ…なんて事をしてくれたんだ」


「俺が付いていながら、申し訳ありません」


「いや、レイは悪くない。サトミは大丈夫なのか?」


「軽い目眩を起こしています。本人は参加したがっていますが…

 今はトウジと野営テントで待機させています。どうしますか?」


「どうするも何もない。サトミに無理はさせられない。

 そして、我々はいつも通り戦うだけだ」



グレンは、目の前に跋扈している魔獣を睨みつけた。



「配置につけ、レイ。右側の指揮を任せる。ステラ師団長もフォローする」


「了解!」




全景が見渡せる丘の上から、

集結した北の騎士団を冷ややかに見下ろしている、

エイダン王子から姿を変えたレガリア国王。



さあ、ガレリア国を蹂躙しろ。──今度こそ滅ぶがいい。



そして、グレンの合図で、

一斉に北の精鋭部隊の魔獣討伐が始まった。




* * * * * * *




グレンさんの号令の声が聞こえた。

討伐が始まったんだ。

みんな…



「焦るな、姫さん。大丈夫だ」


「うん…」


「ったく、あの王子なんなん?姫さんが欲しいにしても、

 他にやり方あるだろうによ。タイミング最悪すぎだろ」


「あの人苦手なんだよね。独りよがりっていうか…」


「王族によくある自己中タイプだろ。真面に向かい合う必要ねぇって。

 厄介なのが、アイツらって悪気なく無自覚に自己完結して、

 こっちに押し付けてくるからなぁ」


「後で国王陛下に報告しなきゃ…面倒臭い…

 それより、魔獣の発生元を探さないと…」


「ああ、そうだけど、具合悪くねぇか?」


「少し目眩がするだけ。前に食らった時より全然軽いから、

 すぐ回復すると思う」



今すぐ神聖力を使いたいのに…みんなを手伝いたいのに…

なんて歯痒いのだろう。


早く回復して…早く…


腰ベルトに下げている巾着の水晶玉を無意識に触る。

これ…使ってもいいだろうか…でも、最後の手段にしたい。


魔獣討伐が始まった傍らで、

私は魔力回復を待ちながら、じっと耐えるしかなかった。




『なぜ…稀人がいない?』


「そうですね…交戦しているのは、騎士団員ばかりです」


『チッ、何処に隠れている…』


「まだコレくらいの物量では出番ではないという事でしょうか?

 随分舐められていますね」


『ふん、まあいい。出てこぬのなら炙り出すだけだ』



レガリア国王は上着を脱ぎ、

北の精鋭騎士団員たちを蔑むように見下ろし一歩前へ出た。








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