レガリア王子の来訪
「サトミは…どんな様子ですか?ステラ師団長」
「はい。一見、落ち着いて普通に見えますが、精神状態は大分深刻かと…
過去のトラウマに無理やり対峙させられて、忘れかけていた記憶を
全て思い出したのです…感情の処理が追いつかないのでしょう」
「そうか……よりによって、レイが不在の時に…
レガリアの大将を捕らえたそうだな。俺はまだ対面していないが」
「あちらは、激怒したサトミさんに切り刻まれて結構な重症ですね。
転移魔石を胃に隠し持っていて、そこもザックリ貫かれてます」
「別に死んでも構わないが、命に別状はないんだろう?」
「ええ一応、死なない程度の応急処置はしました。
貴重な捕虜で人質ですし、それに…敵国の襲撃の証拠ですから仕方なく。
でも、全体の4割程しか治癒してませんので、今は相当痛いでしょうし、
苦しいでしょうが……まあ、私も知ったことではありません」
「彼女に会っても?」
「少しお待ちを…これを見てから、会ってあげてくださいませんか」
「…これは、記憶魔石か?サトミの前の世界の…」
「はい。彼女がどんなトラウマを抱えているのか、
理解して共有して欲しいのです。
多分サトミさんは、自分で話さないでしょうから。
彼女を一番身近で支えられるのは、グレン団長あなたです。
それに、遅かれ早かれ…知ることになります」
「そうだな。分かった…何だか盗み見をしてるみたいで心苦しいが」
「今の彼女は、心が逃げ場を失い、自意識の喪失状態の混沌にいます。
無感情になり…諦めているとういか…心を閉ざしている状態です。
泣いたり怒鳴り散らしたりしていた方が、まだマシなのですよ。
生きようと踠いている意思の現れで、まだ対処のしようがあり、
こちらの言葉もまだ届くのです」
「言葉が、届かない状態という事か?」
「はい。今のサトミさんは、防衛本能が働いて殻の中に閉じこもり、
辛うじて生きて息をしている感じです。
自責の念と罪の意識で凝り固まった、その殻は非常に固く、
第三者が何を言っても跳ね返されて心に響かないのです。
心配なのは、何かきっかけがあれば…いつでも生きるのをやめてしまう。
そんな感じの情緒で危険な状態です」
「……分かった。これを確認後に彼女に会いに行こう。
ステラ師団長は、これを見たのか?」
「触れた時に、少しだけ見えてしまいましたが、全てではありません。
ですが、その時ですら少々心にきました…グレン団長もご注意を」
「……ああ、了解した」
俺は、その記憶を見てしばらく動けなかった。
あの明るくて優しい彼女からは、想像できない生々しい過去の痛ましい記憶。
この吐き気のする陰惨な仕打ちは、実の父親とは思えない。
何より身内による暴行は、第三者に傷付けられるより、子供にとって残酷だ。
信じていた一番身近な大人から、逃げ場のない環境で、
毎日理由の分からない暴力に晒されて、どんなに恐ろしかったか…
そして子供なりに考え、悩み抜いて、傷ついて…あの行動に出たのだろう。
そんな彼女の犯した罪を誰が責められると言うんだ。
逆にこんな環境にもかかわらず、彼女は不思議なほど、
変に拗れず、真っ直ぐ育ったものだ。
サトミの世界は平和だった。
それゆえに、そんな目にあう者は少なかったのだろう。
それとも、表に出にくかったのかもしれない。
だからこそ、周りの理解を得られずに、孤立して追い詰められ、
自分を家族を守るために、こうするしか無かった。
彼女は父親を殺した自分を責めている。
しかし、これの何が悪いのか俺には理解できなかった。
こんな父親は、殺されて当然ではないか。
家族を守るどころか、自分の鬱積の吐口を非力な者達に向けて、
憂さ晴らしていた最低最悪の男だ。
ああ、そうか。
彼女の世界では、これさえも許されないのか…
どんな理由があろうとも、人を殺してはならない。
では、どうすれば良かったんだ…黙って毎日暴力を受け入れろと?
弱者は、強者の支配下で泣き寝入りしろと?
なんで関係のない部外者のルールや判断で、
被害者が我慢を強いられ、罪の意識を持たなければならないのだ。
平和なのも考えものだな…
人々が怠惰になり、共感性が低く、偽善的で、危機感がない。
サトミは、こちらの世界の方が向いている。
「サトミ…」
「…グレン、さん」
「…………」
ノックをして彼女の私室に入ると、ソファに座り本を読んでいた顔を上げた。
確かに一見普通に見えるが、目が何処か遠くを見ている。
俺は、彼女の隣に座り抱き寄せた。
力なく俺の腕の中に収まる小さく細い体。
胸がズキリと痛み、同時に元凶の父親に怒りが湧いてくる。
「ガラス割って散らかして、ごめんなさい。
片付け手伝おうとしたけど、休んでろって断られちゃった」
「もう綺麗になっているから、気にしなくていい。
サトミこそ、立て続けに災難だったな。怪我はない?」
「うん。私は大丈夫」
声に張りがないし…彼女はどこかぼんやりしている。
殻に閉じこもっている状態…これは静かに深淵へ心が侵食されているのか。
「君のおかげで、リンドゥーテ大将を現行犯で捕らえる事ができた。
隣国へ今回の襲撃の証拠として、突きつける切り札になる」
「うん…でも、証拠があってもレガリアは関係なさそう。
多分、もうすぐ最後の襲撃をしてくると思う」
「ああ、国王陛下も俺たちも、それは感じている」
「うん…そうだね」
「サトミ…」
「うん?」
「前に、君は言っていたね。神様は私を許さないと」
「…え?ああ。サイラスさんの腕の再接続の報告の時に、ステラ様に言った事?
あれは、別に深い意味はないの。なんとなく口から出ただけで…」
「君は神様に許されていないんじゃない。
君を許していないのは、君自身だ」
「……え?」
「ステラ師団長から渡されて、君の記憶の魔石を見た。すまない勝手に…」
「…………知って、しまったの?」
「これから君と、この先ずっと一緒に居たいと思っている。
サトミをずっと悩ましている問題を理解して、少しでも君が楽になるように、
手助けする必要があると思った。
君は性格的に、辛くても一人で抱え込んで話したがらないだろう?
だから…申し訳ないと思ったが、見させて貰ったんだ」
「………私は、許されない罪を犯したの。自分の父親を殺した。
それでも、一緒に居てくれるの?」
「勿論だよ。それに、俺は君がやった事を悪い事だとは思っていない」
「人を殺したのに?」
「正当な自己防衛だ。殺意を持たれて当然の事を父親はした。
それに抵抗する事でさえ、君の世界では罪なのか?」
「…この世界と私の世界では違うの…だから、罪は罪だし…許されないの」
「神様には、会ったことある?」
「え?……いいえ?」
「会った事もない存在が不確かな神様は、
人間が倫理観や道徳観を意味づける為に作った戒めの偶像だ。
なぜ、そんな存在を恐れる必要がある?
さっきも言ったが、君を許していないのは、君自身だ」
「……………」
「サトミは、充分苦しんだ。
君は前の世界では、その罪を忘れられず、良心の呵責と憎悪に縛られたまま
生きなくてはならなかった。さぞ…辛かったし、窮屈だっただろうと思う」
「………っ、…」
「でも、この世界では、その行いは自分を守る為の正当な権利であり、
防衛であり当然の行いだ。毎回運良く誰かが助けてくれる訳ではない。
自分を守れるのは、自分だけなんだよ。
こっちの世界は死がもっと身近だし、常に命の危険にさらされている。
サトミの世界は、信じられないほど平和なんだろうけど、反面、
被害者には随分辛い現実を突きつけていると思う。
報復も出来ない、抵抗もできない、第三者が考えたルールで、
加害者の人権や立場まで考えて、冷静に判断を下すなんて…。
被害者は理不尽に命を奪われ、生き残ったとしても、恐怖に黙って耐えて、
死ぬまで傷を抱え、我慢を強いられる事になるのに。
それでは、弱者は一方的にやられ損じゃないか。
悪いのは、どんな理由があろうとも加害してきた奴だ。
それに抵抗した被害者にまで、罪を背負わせて自責の念を持たせるなんて、
間違っている。それが平和だと言うのなら、俺は到底賛同できない」
「…うん…私もそう思っている。だから、息苦しかった…
でも、私のした事は…私の世界では罪になる…」
「では、悪意を持った者と、どう向き合うんだ?
人の痛みがわからない、化け物にどう対処するんだ?
君の世界のルールは、弱いものに一方的に我慢させて、
とりあえず事を丸く納めて、平和だって嘯いている腰抜けにしか見えない」
「……私も…それがずっと…歯痒かった。加害者を更生させる目的もあるし、
被害者や遺族からの報復の連鎖を無くす為の公正な裁きのつもりなんだろう
けど…被害者側は、何も救われないもの」
「よく聞いて、サトミ。この世界では、君のした事は間違っていない。
それに、君がどんな罪を犯していようと、過去に何があっても、
俺が好きなのは、それらを経験して乗り越えてきた今の君だ。
今のそのままのサトミを愛している。
君は、ここに戒めとして落とされたんじゃない。
前の世界での試練は、ここで幸せな人生を送るためだ。
そして、俺と出会った。そうは思えないか?」
「……っ、‼︎……」
「だから…戻ってきてサトミ」
グレンは、少し体を離して両手で頬を挟むように触れ、
サトミの額に口付けを落とす。
目を瞬かせて、サトミの瞳に光が戻り、やがて動かなかった表情が崩れて、
泣きそうな顔をして目を見開く。
美しく透明な黒い瞳から、ポロポロと落ちる涙。
「…あ………」
「おかえり、サトミ」
「……グレンさ…っ…」
「良かった、いつもの透明で綺麗な君の瞳だ」
「ありがとう…私、私グレンさんが、グレンさんが大好き」
「俺の方が好きだよ」
「えっ」
「ふふっ」
「……私、まだ時々変になるかもしれない。
また落ち込んで、面倒くさい存在になるかもしれない。
それでもいいの?」
「大丈夫。俺は君の全てを受け止めるし、君を害するものは全て排除する。
一瞬で大蛇丸焦げにできる俺の強さを知ってるだろ?」
「あはははははっ、うん」
「それに、俺は君を尊敬している。自分の過去の不遇を嘆いて捻くれたりせず、
そんなもの微塵も出さずに、誠実で善良な心を忘れずに生きてきた。
なかなか出来る事じゃない」
「私は……父親と同じような人間になりたくなかった。
でも、お母さんは優しくて誠実で、素敵な人だった。
それを見本にしただけだよ」
「それに気がつく事が出来る君は、賢いし素晴らしい人なんだ。
よくここまで生き抜いたね」
「ふふっ、グレンさん前向き過ぎて逆らえないなぁ…」
「俺は独占欲強いから、もう逃さないよ」
「…う…ん…」
彼は体を屈めふわりと私の肩に顔を埋めて、
長い両腕で私の腰と頭を巻き付けるように、強く強く包み込んだ。
温かで慈愛に満ちた、愛慕の抱擁。
この人の腕の中は、なぜこんなにも安心するのだろう。
私の罪も彼は丸ごと受け入れて肯定し、ずっと重くのし掛かっていた
自責の念を取り払ってくれようとしている。
彼の優しさは充分過ぎるくらい伝わったし、心から嬉しかった。
でも、私はこの世界の人間には、まだなり切れていない。
グレンさんが肯定してくれても、やはり何かで罪を償う必要がある。
でなければ、私は彼の横に並んで普通に生きていけないと、
何処かで…そう思ってしまう。
だから、聖女の仕事をして人々の手助けをしながら、
それは考えて行けばいい。
償いは、ここでも出来るのだ。
* * * * * * *
「なんと!隣国の大将を捕えただと⁉︎」
「はい。サトミさんを捕らえるつもりで来たようですが、
見事に返り討ちでボコボコにされました。
厳格な地下牢に魔力封じを装着して、半殺しの状態で収容しています」
「よし、流石サトミ殿だ。でかした!国境の暗黒魔石と並んで証拠になる」
「そのかわり、サトミさんが…精神攻撃を受けて、
深層心理の悪夢を利用され自意識の喪失状態で深刻な状況です。
その辺のケアは、グレン団長にお願いしてありますが…
立ち直るまで、少し聖女としての仕事はご遠慮願いますか?」
「ああ、構わぬが…なんて事だ…大丈夫なのか?」
「ええ、多分大丈夫かと…彼女は強い女性です。
幻覚で恐怖の対象に向かい合いながらも、自分より3倍近くある
リンドゥーテ大将に、剣術で圧勝しましたからね。
それに、彼女にはグレン団長と北の騎士団員がついています」
「サトミ殿に負担が行き過ぎているな。国王として、不甲斐ない限りだ」
「彼女も承知の上です。臣下として、褒賞を弾んであげてください。
それより、明日レガリアの王子が来ますが、準備はどうですか?」
「万全の体制だ。問題ない」
「ようございました。
ああ、レガリアの童話の本なのですが、魔力検閲終わったので、
サトミさんに渡します。義務教育の教科書の内容はセオドア文官殿が、
大体は説明したらしいですし、気が滅入るプロパガンダの内容なので、
童話なら気分転換になるかと」
「童話の方の内容は、大丈夫なのか?」
「はい。良くあるお話です。少し変わっているといいますか…
いやに具体的なので、誰かをモデルに描いているのかもしれません。
魔力を流すと投影が動くので、演劇みたいで中々楽しいのですよ」
「お主がいいというのなら、許可しよう。
ああ、そうだ。南の倉庫にある荷をサトミ殿に持って行ってくれぬか?
非常に大量で、馬車3台分くらいあるのだが…」
「はい。何の荷ですか?」
「浄化遠征に行った村から、サトミ殿にお礼の品々の追加が届いたのだ。
特に砂漠の村と水の都、追放者の村、最後の遠征先の岩の村から大量にな。
砂漠の村は、サトミ殿が土質改良したおかげで作物が育ちまくって、
村が豊かになったと大変感謝していた。是非また立ち寄って欲しいそうだ」
「そうですか…それは良かった。サトミさんも、きっと喜びます」
「サトミ殿の事をくれぐれも頼むぞ、ステラ師団長殿」
「勿論です。私に出来る事全てをかけて、お守りします」
* * * * * * *
「こらっ!あなた何てことを!」
「えっ、何?なんで怒ってんの?」
「私、今入浴中ですのよ!」
「見れば分かるけど」
「……あなたの世界では違うかもしれませんが、女性の入浴中に
浴室に入ってくるなんて、非常に無礼で紳士的ではないのです!」
「あ?そうなんだ。泡で全然見えないけど、
でも僕、人間の裸見ても何とも思わないから安心して」
「そういう意味じゃない‼︎ 私が嫌なのです!出て行きなさい!」
お湯をかけられて、浴室から追い出されたデューリーンは、
不貞腐れながら、目に入った寝室のベッドにボスッとダイブする。
そして、今度は飛んだり跳ねたり無邪気に遊び出しす始末だった。
精霊には人間の常識など、お構いなしだった。
今まで、自分の我が儘で周りを振り回してきたヴァニティーナは、
今度は自由に振舞う精霊に、自分が振り回されていた。
精霊って…まるで猫みたいだわ…
自分勝手で、気紛れで、
だけど嫌いになれない魅力があるのだ。
「ね~、ヴァニティ~ナ~、テーブルにあるお菓子食べていい~?」
「ちょっ、は、半分は残しておいてくださいませ!
私のお茶の時間のお菓子ですのよ!」
「分かったぁ~、いっただきまぁ~す」
入浴を終えたヴァニティーナが見た物は、ケーキを半分かじり、
クッキーも半分かじり、全てのお菓子が半分かじった状態で残っていた。
しかも、ベッドの上で遊んで跳ね回ったせいで、
羽毛布団の羽毛が散らばっていて、そっちも大惨事だった。
「そういう意味じゃありませんわ…」
「えー、だって半分残せって言ったの君じゃーん!
全部食べたかったけど我慢したのにーっ!何なの、もー!」
「……………」
僻地で静養するつもりだったのに、
なぜ私は精霊に絡まれて、振り回されているのかしら…
こうして、呼んでもいないのに友人だからと自由気ままに遊びに来ては、
好き勝手に大暴れして荒らして帰っていき、いつも後始末に追われるのだ。
足をプラプラさせながら、ソファで頬を膨らませている水色の精霊は、
ふと真顔になって、ヴァニティーナを見た。
「あのさー、この国に隣国の奴らが入り込んでるでしょ?」
「え?ええ。隣国の王子が遊学に来ているわ。
確か、親善大使と護衛騎士と魔術師も伴っているはず」
「ふぅ~ん…だからかぁ…」
「なんですの?」
「王都の方から、嫌な気配がする。僕の大嫌いな瘴気の気配だ。
あいつらアレをあちこちに撒き散らして、魔獣を増やしまくったんだ。
その汚れのせいで、森や山の精霊が弱って消えていったんだよ。
そして僕は弱体化して、ずっと隠れる羽目になった」
「……そう、だったの…お気の毒に…」
「聖女様の国境結界が蹴散らしてくれて、僕はなんとか生き延びたけど、
沢山の精霊や妖精が、あいつらに殺されたんだ。
最近は、結界のせいで魔獣を嗾けられなくなったから、
他の方法で何かしてくるつもりだと思う。嫌な気配するもん」
「それは、分かっているの。あえて受け入れているのよ」
「また、全面戦争するの?昔みたいに」
「…昔?」
「うん。確か二回あったはず。レガリア王子が聖女様拐ったみたいな理由で」
「あ、あなた、そんな昔から、生きているんですの⁉︎」
「生きるっていうか、精霊だから存在してるんだよ。
でも、長い時間を過ごすと、記憶も曖昧になって来てるけどね」
「……………」
「嫌だなぁ…またあんな風になるの…せっかく元気になったのにー。
だから、人間って嫌いなんだよ」
「そうね。あなた達からしたら、いい迷惑よね。
ねえ、なぜ戦争になったか知っているの?デューリーン」
「うん、僕近くで見ていたもん」
父上からの手紙で、何気なく書いてあった言葉。
サトミ様は、ガレリアとレガリアの双子の王子と初代聖女キヌとの間に、
何があったか知りたがっていたと…
もしかしたら、解決の鍵になるかもしれない、と。
「あなたが知っている事を私に教えてくださる?」
「いいよ~、そのかわりお菓子全部食べていい?」
「ええ、どうぞ。そんな食い荒らされたの、私は食べませんから」
「やったー♪」
今ままで私が迷惑をかけた分、少しでも返さなくては。
ヴァニティーナは、お菓子を食べ終わった上機嫌な精霊の話に、
ジッと耳を傾けた。
* * * * * * *
「お初に、お目にかかります。
レガリア国、第二王子、エイダン・セス・レガリアと申します。
今回の遊学の件、受け入れていただき至極光栄にございます。
寛大なご対応感謝いたします」
「よく、来てくれた。こうして王族同士の交流は、実に喜ばしい事だ。
国を代表して訪れている大役で緊張しているだろうが、
どうぞ気楽に過ごして欲しい」
「ありがとうございます。
父上より…国王陛下より、無礼になるような振る舞いには、
くれぐれも気をつけるよう、言い聞かされてここに来ました。
ですが、私もまだまだ未熟者ゆえ、そのような発言がありましたら、
遠慮なくお叱りいただければと思います。
私自身、遠い昔の過去の歴史については、何ら思う事はありません。
まず、ガレリア国のことを知り、お互い過去の遺恨に振り回されずに、
前向きに、新たな友好な国交をと望んで遊学を希望させていただきました。
よろしくお願いいたします」
「うむ、まだ年若い身でありながら、高尚な心がけであるな。
そうなれればいいと、こちらも考えておる。
長旅疲れたであろう、これからそなたが過ごす部屋を用意してある。
案内させよう。我が国の第二王子ウィルアルドが、そなたと年が近い。
付添人として努めさせてもらう。ウィルアルド挨拶を」
「はい。ようこそガレリアへいらっしゃいました。
初めまして、ガレリア国、第二王子ウィルアルド・テオ・ガレリアです。
貴族学院でも同じクラスなので、私が付添人としてご案内されて貰います。
これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。半年間お世話になります。
精一杯学ばさせていただきます」
ウィルアルド王子殿下と共に歩き、謁見の間を出て行こうとしている
エイダン王子をステラ師団長は、ジッと観察していた。
浅黒い肌に少し長い白髪、青い瞳…
金髪碧眼のウィルアルド王子殿下と身長も体格も同じくらいだ。
親善大使のような太々しさは無く、穏やかで誠実そうに見える。
そう、お手本のような謙虚さだ。
だが…この王子の気配は…
ウィルアルド王子は真偽判定持ちだし、私も鑑定魔法を持っている。
その対策なのか…探られないようにか、阻害魔法が施してある。
まあ、まだ敵国認定なのだろうし、警戒してこれ位の防衛策はしてくるか。
それにしても、この王子…実年齢より随分落ち着いて見える。
年齢を偽っているのかもしれない。
そんなことを思考しているステラ師団長の方へ、
不意にこちらに顔を向けたエイダン王子は、目を細めてニッコリ笑った。
王族特有の作り笑顔。
貴族なら誰でもする、あの心を隠す仮面の微笑み。
ステラも微笑み返し、頭を軽く下げる。
………何だ?この違和感は。
まるで異形のモノが、
人間の真似ゴトをしているように感じてしまう、
この違和感は……。
* * * * * * *
────南の辺境、国境見廻り中の騎士団員の会話
「なあ、何かおかしくねぇか?」
「ああ?なにビクついてんだよお前」
「全然魔獣がいないなんて、今まで一度も無かっただろ。
前より全然少なくなったけどザコ魔獣でさえ、いないってどういう事だ?」
「…確かに、いつもは国境の向こうに、いつも何匹かうろついていて、
聖女様の結界に弾かれて逃げていくもんな。それすらいない」
「気配も、しないんだよ」
「…異変ではあるから、報告しておくか」
「まるで、今は姿を潜めて時期を待ってるみたいじゃねぇか…」
「おい、不吉なこと言うな」
「通達あったけどよ、全面戦争になる可能性があるから、
覚悟を決めておけって…あれ、本当なのか…」
「こっちは今のところ動きはないが、前に遠征調査で来てくれた、
北の騎士団所属のあの可愛い聖女様、何度も襲われてるらしいぜ?
あの精鋭部隊が手こずっているのなら、俺らなんて一溜も無いだろうな」
「え~、南は魔獣少ないから配属希望したのによ~」
「ったく、腑抜けやがって。北の騎士団に聞かれたら殺されるぞ。
それに、今は何処でも危ないって言われてるだろ。油断するなバカ」
「分かったよ。聖女様といえば、食堂の料理が彼女のおかげで、
激的に旨くなったんだよな。その辺は感謝だわ」
「ほら、見廻りさっさと終わらせて、旨い夕飯食いにいくぞ!」
* * * * * * *
「サトミ様、大丈夫なのですか?もう少し休んでもいいのですよ?」
「大丈夫です。ご心配お掛けしました。セオドア様。
私は動いていた方が落ち着くんです」
食堂に行こうと廊下を歩いていたら、セオドア様と鉢合わせて、
彼と歩きながら話をしていた。
会う人会う人、まるでテンプレートのように、
みんな同じような顔をして同じことを聞いてくるから、
ちょっと面白くなって来てしまい、笑いそうになる。
「そういえば、隣国の王子はどんな感じでした?」
「ええ、私も初顔合わせに立ち会いましたが、普通の人間に見えました。
阻害魔法を纏っていて、真偽魔法が働きませんでしたが…」
「そうですか。当たり前だけど、まだ警戒してますね」
「ステラ師団長も、少し嫌な感じがすると言っていました。
サトミ様には、接触させる事はないよう対策しますが、
向こうから近づいてくる可能性は高いでしょう。
引き続き警戒をお願いします」
「はい、分りました。あの隣国の大将は?」
「王宮の最下層の地下牢に厳重に管理されています。
監視騎士と魔術師が常駐してますし、治癒も死なない程度しか、
処置していないので、あの状態と体力では逃げられないでしょう」
「そう、ですか…何か喋りました?」
「いいえ全く。
ああいうタイプは、口が堅く何をしても喋らないでしょう。
レガリア国王陛下の右腕の大将ですから、
忠誠心が他の臣下とは、全然違うのですよ」
いくら正気を失いかけていたとは言え、少しやり過ぎただろうか。
でも、こっちも余裕なかったし仕方ない…
向こうは私に対して、明らかに害する気だったし。
しっかりしないと。今は落ち込んでなんていられない。
私が狙い撃ちされるのは、分かっていた事だ。
だから、みんな私を守ろうとしているんじゃない。
そして、私だけじゃない。
みんな感じ取っている。
レガリアは今回の王子の来訪で、
絶対何か仕掛けてくると─────。
受難続きでトラウマもようやく落ち着いたサトミには休んで欲しいので、
今回は穏やかな時間が流れています。
がっ!役者が揃った所で、次回からいよいよクライマックスに突入します。
そして私は、長かった歯医者通いが終わって全て完治しました。
超歓喜♪もう絶対虫歯にならないぞーっ٩( ‘ω’ )و エイエイオー




