親善大使来訪
「真偽判定により、真で間違いございません」
「ええ、嘘はありませんね。私もセオドア文官殿と同意です」
トウジとアキラのガレリア国への移住の意思と忠誠に、
真偽判定能力持ちのセオドア文官、及び第二王子のウィルアルドが同意し、
二人は晴れて北の騎士団へ入団が決定した。
「さて、行きましょうか。私が北の騎士塔へご案内します」
「あれ?姫さんは?」
「サトミ様は先に戻られて、お二人の部屋を準備しておられます」
「部屋?」
「騎士塔の寮です。基本的な衣食住は揃っています。食堂もありますし、
第一騎士団食堂には、サトミ様が調理と配膳を担当しています」
「は?姫さん、聖女なのに普通に働いてんの?」
「ええ、本人の希望なのです。騎士団の訓練もされています。
あなた方は、ガレリア仕込みの訓練は初めてでしょう?
結構ハードですから、頑張ってください」
こうして、北の騎士塔に新しい仲間が増えることになった。
役割的に、アキラの方は王家の影としての仕事が多くなるが、
基本は北の騎士団の所属となる。
* * * * * * *
「お初に、お目にかかります。
レガリア親善大使を務めさせていただく、オリオ・グレイシスと申します。
我が国の王子遊学の希望を受け入れていただき、寛大なご対応とお心使い、
感謝しております」
謁見の間で、王族達と護衛騎士が立ち並ぶ、張り詰めた緊張感の中、
白い正装で、浅黒い肌に銀髪、青い目で片メガネ。
レガリア親善大使オリオは、優雅に礼をとり、実に堂々としていた。
「よく、来てくれた。こうして交流するのは約350年ぶりだろうか?」
「ええ。お互い価値観の違いで誤解を生んでいた期間があったと思いますが、
今現在生きている我々には、ただの過去の歴史です。
歴史の怨恨や遺恨は忘れ、わだかまりを乗り越え歩み寄り、
ぜひ、これを機に、友好的な国交を復活させたいと考えております」
「まだ、始まったばかりで時期早々だが、そうなれればいいと、
こちらも考えておる。
だから、今回レガリアの王子殿下遊学を受け入れたのだ」
「至極光栄でございます。
ところで、風の噂でお聞きしましたが…
どうやら随分魔力の強い、聖女殿がガレリア国にいらっしゃるとか」
「さて、何の話か分からんな」
「おや、まだお教え願えませんか。光の柱は有名ですよ?」
「申し訳ないが、そういう内情的な事は、信頼関係を充分に築けてからにして
欲しいのだ。それとも…まさか、それを探れとレガリア国王の命令かな?」
「いいえ、個人的に興味があったので、好奇心を押さえきれませんでした。
踏み込み過ぎましたね…大変失礼いたしました」
「ともあれ、歓迎する。新たな第一歩として、末長く続くことを願う。
さて、王子遊学について詳細の打ち合わせをしようではないか。
護衛騎士、親善大使殿を会議室に案内して差し上げろ」
「はっ」
ふん、初対面でこうも堂々と踏み込んでくるか。
今までの我が国への襲撃の数々をまるで無かった事のように、
しらばっくれて飄々としおって。
敵国の領域の中で、随分と強気な奴だ。
厚顔無恥にも程がある。
ガレリア国王陛下とレガリア親善大使は、温度が一切感じられない
冷たい微笑みを互いに浮かべ、初めての面通りを終えた。
* * * * * * *
「今日だったな。レガリアの親善大使が来るのは」
「うん、今頃どんな顔合わしてるんだろ」
「お互いどんな駆け引きして、冷え冷えの挨拶しているのかねぇ~」
「ふふふっ、ちょっと覗いてみたいね。
もう知ってると思うけど、ここが食堂ね。横に並んで各第1~10まであって、
基本自分の所属部隊の食堂を使うけど、強制じゃないから何処で食べても自由」
「姫さんは、第1の食堂に居るんだろ?」
「そう、昼食と夕食の調理と配膳担当」
「んじゃ、まだ見習いで所属部隊決まってねぇけど、
アキラと一緒に第1行くわ」
北の騎士塔に入団した、トウジさんとアキラさんを連れ立ち塔内を案内している。
彼らは、自分たちに与えられた部屋が綺麗な上に広すぎて、落ち着かないらしい。
トウジさんは、約束通りサイラスさんにブン殴られて、
罰として治癒してもらえず、只今左頬を腫らしていて少し痛々しい。
体罰には慣れていると言っていたが、本人は平気そうなので本当らしい。
そして今現在、不気味なほど隣国の魔獣の攻撃は、鳴りを潜めていた。
「いいな、ここは。平等でお互いを認め合って助け合う。
統制が取れていて、信頼関係で成り立っている」
「うん、特に北の騎士団は、絆が強いんだよ」
「訓練クソ厳しいけどなー。死ぬかと思った」
「命がけの仕事だもの。仕方ないよ」
「姫さん、よくついて行けるなぁ…」
「毎日やってれば、慣れて体力ついてくるし、魔力出力量も比例して
レベルアップするし、いいことばっかだよ?」
「う~ん、前向きで健全すぎる。レガリアと差が出るはずだ…」
「レガリアって、訓練とかないの?天然の魔力持ちは少ないんだっけ?」
「んあ、基本そんなのねぇな。個人の資質で、強制的にやらされてるから。
魔術師連中は天然だな。あと俺の血筋的には実の父親。
ほら、あの赤毛の大男リンドゥーテ大将。
あいつは、遠く離れた場所を覗き見る、“千里眼” の能力を持っている。
しかも、面白い事に俺が近くにいると、その魔力が冴えて鮮明になるんだとよ。
だから、いっつも便利道具みたいに連れ歩きやがって、迷惑ったらなかったな。
なんでも血が繋がってると、適性なのか魔力が共鳴して倍率上がるらしいぜ?
今頃よく見えなくて、必死に目ぇ細めてるんじゃね?」
「へぇ~…今まで覗き見してたんだ…嫌な魔力。所で、レガリア国王は?」
「わかんね。あいつ本当に謎すぎて…顔も見せねーし…」
「あの教育は他責志向で、国民に祖国愛を持たせる事に失敗してるもんね」
「ああ、それに…恐怖で支配しても、信頼関係は築けねぇよ。
自分に苦痛を与え続ける相手と仲良くなんて出来るか?
命を守る為に嫌々従っているだけで、心なんて1ミリも許してねぇ。
俺らみたいに、洗脳されていない奴らは、逃げられるチャンスがあれば、
こうやってアッサリ裏切る、うっすい繋がりだけの組織だな」
「双子の王子が一人の聖女をめぐって、二人の王子の間に確執が生まれて、
元々一つだった国が、ガレリアとレガリアに分裂したの。
その時に何かがあって、こんなに拗れた関係になったんだよ」
「ふーん…」
「それが原因で、今隣国同士でこんな風になっているの。
あの三人の間で、一体何があったんだろう…」
「なあ、そんな昔のこと知って何になるんだ?」
「え?」
「もう隣国との関係は、拗れちまってる。
王子達と聖女に何があったか知った所で、今のこの状況が解決出来んの?
今の俺たちには、正直関係ないことだ」
「そうなんだけど…原因を知っておいた方が、解決策があるかもしれないし、
記録に残しておけば、子孫たちが、同じ事を繰り返さない戒めにもなるし…
それに、同じ稀人として知りたい。彼女がどんな人生を送って…
幸せだったのか…それとも…そうじゃなかったのか…」
「今は貴族も温厚で、平民と平和に暮らしてるけどよ、400年前だぜ?
貴族の絶対の権力が横行していたし、平民を恐怖政治で支配していた
身分制度の時代のが長かったはずだ。
チエコっていう前の聖女だって、悪名高いって文献にあったらしいけど、
あんたが受け取った思念は、実際は違ったんだろ?そんなもんだよ。
姫さんもレガリア国王と大将に、言ってたじゃねーか。
自分たちに都合の良いように、史実を湾曲して後世に伝えているってな。
それに、自殺したり、聖女として努めたとしても異常に短い寿命みりゃ
大体察するだろ。姫さん以外の聖女達は、都合よく使われていた。
言っちゃ悪いが…そんなに、いい扱い受けてねぇと思うぜ?
それに、この国は、女が流行病で減ったから、今は女性を大事にしてる
けどよ、それ以前は、女は男に力で支配されていただろうし…
まあ、レガリアよりは、こっちの国のがマシだったかもしれないがな」
「うん…そう、だよね。
あの時代の私の世界の女性って、大分大人しい人達だったし…
自己主張や拒否なんて、出来なかったと思う。
チエコさんは、大正時代位の女性だったから、他の聖女より、
少し自我が強かったのかもしれない…」
「俺の母親ナツミも、子供を強制的に生まされていた。
あんたら稀人は、被害者…いや、犠牲者だよ」
「そう考えると私、本当に運が良かったんだね…」
「ああ。何はともあれ、姫さんが胸を痛めて、思い悩む必要ねぇよ。
あんたは、この国の成り立ちに何の責任もないだろ」
「…うん……」
「ねえ、サトミさん、こっちは畑?種類凄いな」
「あっ、うん。アキラさん。野菜と果物と薬草を育ててるんだ。すごいでしょ?
こっちはトマトで~…‥」
私は、頭を切り替えた。
トウジさんて、会った時からそうだけど…考え方が達観してる。
聖女たちの生涯にシンクロしてしまい、落ち込んでしまった心が、
彼の言葉で少し楽になっていた。
後ろを振り向いても、それは過ぎてしまった取り返しのつかない過去なのだ。
今は前を向いて、私に出来る事をするしかない。
* * * * * * *
二人の案内が終わって、私はユキの世話をしに厩舎に来ていた。
ユキは大分落ち着いてきて、今度から討伐や遠征を共にする予定だ。
ブラシで撫でてあげると、嬉しいのか顔を摺り寄せてくる。
「ふふっ、ちょっと…くすぐったいってば~」
「サトミ」
「あ、グレンさん」
「護衛騎士2名は下がってくれ。サトミと話がある」
「はっ」
私についていた護衛騎士達を下がらせて、グレンさんが近づいてくる。
どうしたんだろう…何だか思い詰めている表情してる?
私はユキを撫でながら、彼の方に顔を向ける。
「会議終わったの?」
「ああ。その…」
「どうしたの?」
「隠していた訳ではないのだが…
君に、話さなければいけない事がある」
「うん…分かった。何?」
「俺の身分の事だ」
そう言って彼は、そっと私の手を取った。




