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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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グレンの正体





「身分…?」


「ああ、言う機会を逃してしまった。その…俺は変わらないが…

 君が気にするかもしれないから、一応言っておこうと…」


「うん。分かった」


「…俺の母親は平民だが、父親が現国王陛下の弟なんだ」


「弟?……えっ、お父さんが…王弟殿下ってこと?」


「そう。争いを避けるために、王位継承権は放棄している。

 だから、王族の血は入っているが…貴族籍では、俺は王族じゃなくて、

 平民の扱いだから…その…心配しないで欲しい」


「……あ、うん。あれ?じゃあ3人の王子殿下と王女殿下とは、

 実際いとこ同士なんだよね?」


「そうだね。育った環境も違うから、全然そんな身内の感じじゃないが…

 俺は、ずっと騎士団所属だし、王宮では育っていない」


「そ、そうなんだ…うん。分かった。でも王弟殿下、見かけた事ないけど…」


「ああ、病で亡くなっている。母も同じだ」


「え⁉︎ ごめんなさいっ…無神経なこと言って…」


「いや、大丈夫だよ。もう20年も前の事だし」


「…うん。分かった。話してくれてありがとう」


「今まで隠していて、ごめん…」


「ううん。大丈夫。難しい立場だったから、隠してただろうし、

 軽々に言えなかったんでしょ?

 それに、私は変わらないよ。グレンさんは、グレンさんだもん」



彼は、王族嫌いの私の反応が心配だったのか、

ホッとした顔をした。


あ、そうか。


だから、国王陛下に結構強く出れるんだ、この人。

陛下もグレンさんには、全然怒らないなぁと思ってたけど、

自分の弟の息子、甥っ子な訳だし…なるほど。


グレンさんに求婚していた、いとこのヴァニティーナ王女殿下も、

勿論知っていたんだろうし、あの人は魔力なしの劣等感から、

強い魔力を引き継いだグレンさんの遺伝子が欲しかったのかもしれない。


そして、私を殴った後、どうやら彼女は自主的に王都を離れたらしい。

彼女からのお詫びの言葉を国王陛下から、伝えられた時は、

しおらし過ぎて、ちょっとビックリしたけど。

私はキレて怒鳴り散らしただけなのに、国王陛下にめちゃくちゃ感謝されるし…

あの我が儘王女様は、あの暴言で何か心に刺さったのだろうか。



「それから、サトミが拐われた後に、ステラ師団長から聞いたのだが…」


「うん」


「サトミの希望で、自死の暗号化の認証をしたと」


「…あっ……」


「別に怒ってないから、怯えなくていい」


「…内緒にしてて、ごめんなさい…」


「膨大な魔力を持ってしまった、自分なりの責任の取り方だって、

 分かっている…だけど、本当に最後の手段にしてくれ…」


「うん…」


「君は言った。俺が死んだら自分も後を追うと。

 それを君に、今そっくりそのまま返す」


「グレン、さん…」


「サトミが死んだら、俺も後を追う。だから…使うな」


「使いたくない…私だって、死にたい訳じゃない」


「うん…」



握っていた手に不意に力が入り、グイッと引き寄せられて抱きしめられる。

彼は、私が拐われてから距離がさらに近くなり、慎重というか…

神経質になっていた。心配かけちゃったから、仕方ないけど。



「ブルルルッ!」


「こら、ユキ邪魔するな」


「ふふっ、ユキ~、グレンさんの背中に頭突きしないの」



ガチガチ、ガチンッ‼︎



「歯を鳴らして威嚇するんじゃない。まだ調教が足りないか?」


「ブフゥ、ブルルッ、ヒヒーンッ‼︎」



尻尾ブンブンッ!パカラッ、パカラッ…



「あ、逃げた」


「全く…あれはサトミを取られたと思ってるな」


「ふふっ、グレンさんの事好きだよ。あの子。

 知らない人に、あんな風に絡んでこないもの」


「サトミ…」


「ん?」



彼はいきなり顔を近づけてきて、一瞬だけ唇を軽く重ねた。



「じゃあ、俺はもう行くよ」


「う、うんっ」



悪戯っぽく微笑みながら歩いていく彼に、ガチガチと歯を鳴らして、

威嚇するユキの頭をすれ違いざまにペシンと軽く叩き、

そのまま仕事に戻って行った。


も~…クールな顔して、いきなりこんな不意打ちしてくるんだからー。

グレンさんたらー、グレンさんたらー‼︎


私は、熱を持った赤い顔を両手で覆って、

戻ってきた護衛騎士達から、慌てて隠した。




* * * * * * *




“こんな風に恐怖で支配しても、信頼関係なんか築ける訳ないじゃない。

分かっているんでしょ?

こんな形だけ保っている砂の城、きっかけがあれば一瞬で崩れてしまう。

あなたの王子は、可哀想な人かもしれないけど、

こんな歪な考えや手助けは、本人の為にならない。

このまま暴挙を許していると、今に取り返しのつかない事になる”



ナツミ…分かっている。お前の言う通りだ。

だが、この方は……



『リンドゥーテ、オリオが隣国に入国したな』


「は、はい、陛下。親善大使として、詳細を打ち合わせ中です」


『遊学する第二王子も、待機させておかなくては。

 あと、国交復活祝いも挨拶がわりに送るか。あれは用意できているな?』


「はっ。畏まりました……あの…陛下…」


『何だ?』


「もう、終わらせましょう」


『ああ、やっと約束が果たせる』


「…ご自分の為に、生きる選択はありませんか?」


『今更何を言っている。これが、私の生き方だ』


「……………」



この方は止められないのだ。


約束を果たすまでは ──────。




* * * * * * *




「ここからここまでのイースト菌は、使って大丈夫だから、

 追加で仕込んでおいて~」


「はーい、サトミさん」


「…それ、何やってんだ?」


「へっ?あ、トウジさん。あれ?訓練は?」


「休憩中」



食堂の調理場で夕飯の準備中に、トウジさんがズカズカ入ってきた。

すっかりここの料理の虜になり、調理中に良く姿を現し見学している。



「これはね、パンに入れる自家製酵母を作ってるの。

 これのおかげで、パンがふわふわになるんだよ」


「へ~良く分からんが、こんなズラッと並んでると、標本瓶みてーだな」


「確かに、近いかも…」


「中身は全然違うけどな」


「…レガリアの標本瓶って、何が入ってたの?」


「魔力持ちの人間の残骸」


「…うっ、……」


「ああ、悪い。調理場で話す事じゃなかった」


「ど、どういう事?」


「魔石や魔道具の材料になってんだよ。もちろん稀人もな。

 頭の先から足の先まで、死んでも全て利用される」


「…材料?」


「そう。魔力持ちは材料なんだ。あいつら王族にとってはな」


「ねえ、じゃあ…神殺しの魔石って…」


「姫さんと同じ、稀人の神聖力を微量でも絞り出してまとめて作った結晶だよ。

 神聖力同士をぶつけて相殺してるんだと。

 まあ、姫さんは、魔力量すげーから、押し勝ってすぐ無効化するけど」


「その話、ステラ師団長には?」


「真偽判定の時に、全て話してある。リンドゥーテ大将の “千里眼” の件もな」


「そう…」


「大丈夫か?悪い…話すべきじゃなかったな」


「ううん」



そして、トウジが動きを止め、ゆっくり目を動かす。



「…何だ?この気配」


「え、どうしたの?」


「いや…気のせいか…?俺の転移魔法と同じ魔力の気配がした。

 転移付与した魔石使って…レガリアがコソコソ何かしてんのかもしれん」


「……えっ?」


「俺、ちょっと見てくるわ」



シュンッ‼︎



「ちょっ、トウジさん!」



トウジの姿が一瞬で消え、調理場はパニックになった。

あ~、無許可で屋内で魔力使うし…これ、後で怒られるヤツだ。




* * * * * * *




「おいっ!何やってんだテメェ‼︎ 」


「おお、誰かと思ったら裏切り者か」


「リンドゥーテ…俺の転移付与の魔石使いやがったな」


「悪いのか?これはこちらの物だ。…逃げてから、随分楽しそうだな」


「見てんじゃねーよ、気持ち悪りぃ」


「ふん。たった1個の国境の神聖力魔石を退かすのに、加護が強力すぎて

 手間取った挙句、時間が掛かりすぎたな。無駄に魔力量が多くて、

 本当に邪魔な女だ。貴重な稀人の腕を10本無くしたが…

 まあいい、何とかなった」


「ああっ⁉︎ またコソコソとみみっちい事してやがんのかっ‼︎」


「知っているか?」


「はあ?」


「大規模な攻撃で一気に攻め込むより、小さな攻撃を継続した方が、

 気分を害し苛立たせ、精神的なダメージが大きいってな。

 そして、次の攻撃に身構え、疑心暗鬼になり、長期間の緊張感に晒され続け、

 疲弊して怯えるようになる」


「正面から戦う勇気がない、陰険な卑怯者だからだろ」


「何とでも言うがいい。ほら、止めれるものなら止めてみろ」



暗黒力が付与された黒い魔石から、瘴気が漏れ出し、

黒い煙がドンドン大きく広がっていく。    


ゆらゆらと気味が悪い動きをして、ぞろぞろと出てきた魔獣が姿を表す。


真っ黒な細身の馬の姿をして、異常に長いタテガミをずるずる引きずり、

顔にベールを被り、額に長い1本の角、背中に鳥のような羽が生えている。


一見美しく見えるそれは、禍々しい魔力をまとっていた。

それが葬列のように、ぞろぞろと出てきている。



「こいつら…まさか…」


「国交復活祝いだ。受けとれ、下賤ども」



シュンッ‼︎



「待てっ、この野郎! …くそっ!早く知らせねぇとっ…」



トウジさんが許可もなく勝手に転移してしまい、私は慌てていた。

そして、彼は再び目の前に現れる。



「姫さん!」


「うわぁ!ビックリした!

 トウジさん、何処行ってたの?ダメだよ屋内は無許可で転移しちゃ…」


「国境の神聖力魔石が1個退けられた!魔獣が侵入してくる」


「は?ど、何処の?」


「地図くれ!場所に印すっから」



ガサガサと地図を広げ、その場所に印をつける。

護衛騎士に、急いでグレンさんを呼んでくれるようお願いする。

よりによって、親善大使が訪問しているこのタイミングで…

ああ、そうか…油断している時を狙ったんだ。



「神聖力魔石は触れないはずなのに…どうやったの?」


「死んだ稀人の腕使ったらしい、詳しくは知らんが…」


「…っ、……私も、討伐の準備しないと…」


「あと騎士だけじゃダメだ、魔術師も同行させた方がいい。

 あいつら特殊な魔獣だから…」


「特殊?…」


「精神攻撃して、幻覚を見せる魔獣だ。

 剣術だけの騎士じゃ、太刀打ち出来ねぇよ」




──── 精神攻撃?




私が唖然としていると、

バタバタとグレンさん、レイさん、サイラスさんが、

食堂に駆け込んできた。






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