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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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初代の聖女





「逃げられた、だと?」


「アキラも稀人と共に国境越えしたようです。

 トウジの転移魔法は…支配できないと厄介なのです。

 大将もご存知でしょう?」


「くそっ、アキラもか…」


『逃げたか…しかも、寄りによってガレリアに、あの魔力が渡るとは…』


「陛下…申し訳ございません。

 やはり、トウジの転移魔法は…驚異となりました」


『なぜ、あの二人だけ洗脳出来なかった?』


「分かりません。共通しているのは、同じ母親から生まれたぐらいで…」


『……ナツミか、あの女は最後まで反抗的だったな。

 普通は逃げられぬと諦めて、大人しく従う所を…

 何をしても屈せずに、死ぬまで悪態をついていた気の強い女だった。

 お前は、あの女と契っていたな。お陰でトウジが産まれたが、

 結果こんな事になっている。あの強情さは、母親譲りか…』


「……………」


『あるいは、赤子の二人にナツミがこちらに気取られぬ様、

 何かしていたのか…』


「……どうあれ、もう事は起こったあとです。どう致しますか?

 嗾けた追手の重続キメラも、北の団長にあっさり消炭にされてしまいました」


『チッ、やはり邪魔だな、北の騎士団は…』


「皮肉にも、それを強く育ててしまったのは、我々です」


『ふん。まあいい。今しばし様子をみる。待機せよ』


「は?ですが…」


『今回の稀人誘拐未遂で、ガレリアがどう動くか待つ。

 こちらも戦力を温存しなければならぬ』


「はっ」


『それから、国内から微量でも魔力持ちが居れば集めておけ。

 魔道具の材料にする』


「ですが、もう大分消費してしまいました。

 これ以上は、魔力持ちが枯渇してしまいます…」


『構わん。居なくなったら、またどこかの部落から、捕らえてくればいい』


「畏まりました…」




* * * * * * *




国王陛下と第三王子とステラ師団長に、

報告会で再開した途端、挨拶途中でいきなりガバと抱きつかれて

困惑したが、どうやら非常に心配してくれていたようだった。



「無事でよかった。良く戻ってくれた…」


「ふぁ、ふぁい」


「父上、サトミ様が潰れています!」


「お?おお、すまん、すまん。嬉しくてな、つい…」



第三王子が予知夢を見て報告してくれたお陰で、

予め待機させたグレンさんが対応し、私達の危ない所を救出できたのだ。

その件に関してお礼を言うと、第三王子は満面の笑みで、

ホットドックがまた食べたいと、キラキラお目々で要求してきて、

私は、また王宮の厨房を借りることになった。


ステラ師団長が、私たちの移動ルートをずっと追跡していた

地図を見せられ、その正確性に驚愕。凄い…GPSじゃん。

人工衛星じゃなくて人間衛星。さすが頂点の魔術師。


その書き出されたルートは、行きも帰りも、実に正確だった。

特に大蛇から逃げ惑った場所が、右往左往してジグザグしてて、

皆んなで慌てふためいていた様子を思い出し、少し笑ってしまった。

なんでも、この追跡のせいで、ステラ師団長は魔力を使いすぎ、

昨日1日中寝込んでいたそうだ。



「この追跡凄いですね…ステラ様は、もう大丈夫なんですか?」


「ええ、1日中泥のように寝て体力回復しましたから、問題ありません。

 このルートに沿って、詳細を聞かせて貰えますか?」


「はい、えーと…夜に拐われたので、ここの廃墟のお城に泊まりました。

 それで次の日は………」



その地図を指差しながら、私が拐われていた時の一通りの詳細は伝え、

レガリア国内の今の状態についても全て話した。


レガリアの王族や魔術師は、こちらの外見とあまり変わらなかったが、

村人は、皆浅黒い肌で、グレーの髪色の人が多かったのが疑問で尋ねた所、

なんでも、山岳地帯の民族を部落ごと拉致してきて、国に住まわせたらしい。

後で、その歴史は図書館で詳細は聞くことになるが、

なんとも歪な作りの国のようだ。


そして、トウジさんとアキラさんも同席の元、

彼らは稀人のハーフで、奴隷紋で支配されていたことも伝えたら、

隣国の稀人への扱いの酷さに、皆驚いて騒ついていた。


話の途中で思い出し、トウジさんが手に入れてくれた、

レガリアの伝説の童話絵本と義務教育の教科書を提出すると

貴重な資料だと、非常に喜ばれ感謝された。



「おお、これ、魔力を流すと演劇みたいに投影が動くんですねぇ…」


「え?凄いっ!」


「ちょっと、ステラ師団長」


「おっと、失礼、セオドア殿。会議中でした。

 後でゆっくり見ましょうか、サトミさん」



そして、隣国の国王との謁見のやり取りを説明していると、

主にアレンくんと北の騎士団員達は、予想通りの私の暴れぶりに、

終始肩を揺らして笑いを堪えていたのが、どうにも解せない。



「ブフッ‼︎」


「ちょっと、今笑ったの誰?」



グレンさん以外の北の騎士団員全員が手を上げて、私は半目になる。

国王陛下も横に顔を逸らしているが、肩が揺れているのを私は見逃さなかった。



「しかし、いくら神聖力を持っているからと言って、

 契約魔法を第三者が解除など…聞いたことがない。

 サトミさんには、どのように見えているのです?」


「はい、契約者から魔術師に鎖が繋がって見えるんです。

 その先に南京錠のような鍵があって、それに神聖力を当てると

 解除されました。人によって違う風に見えるかもしれませんが…」


「なるほど…」


「聖女サトミ殿は、全属性持ちですが、不得意な魔力はあるのですか?」



第一王子が急に質問してきて、少しびっくりした。

今までの対応を思い出し、一瞬眉間にシワがよりそうだったが、

よく考えて冷静に答える。



「はい。得意、不得意はあります。

 神聖力は、正直一番身体に馴染んで使いやすいし強力です。

 全属性といえど、全てが強力で完璧ではないんです。

 例えば、火魔法はグレンさんには敵いませんし、

 風魔法もアレンくんの方が強いです。まあ、器用貧乏というか…」


「もし、トウジさんの転移魔法が使えれば、サトミさんは無敵になりますね」


「そうですね。ステラ様。トウジさんがこっちに付いてくれたのは、

 凄く優位になったと思います」



この話し合いで、もしかしたら、

トウジさんは私専属の護衛騎士になりそうだった。

転移魔法は守りに最適だと、皆の意見が合致していたのだ。

グレンさんは、ちょっと渋顔だったけど。


最後追い立てられた巨大蛇の詳細の件は、

気持ち悪かったのか、みんな凄い表情して恐々聞いていた。

あの入れ子構造は、重続のキメラというらしい。

隣国はどれだけ魔力研究をしているのかと、ステラ様が驚愕していた。



「しつこくウネウネ追ってきて、本当に気持ち悪かったです」


「もう、やめてサトミさん…」


「あれ?アレンくん、蛇苦手?

 本当に大変だったんだから。口の中から、次から次へと黒い蛇が出てき…」


「ぎゃーっ‼︎ もういい!分かったからっ!」



他にも色々話したり聞きたかったが、とりあえず今回は報告だけで切り上げ、

これからの具体的な対策は、上層部会議でまとめるそうだ。


そして、サラッと陛下が宣言したが、

レガリアの王子の遊学をあえて受け入れるらしい。

私には会わせないと言っていたが、向こうが黙っているとは思えない。

来週、その打ち合わせで隣国の親善大使を迎えるそうだ。


ガレリアとレガリアの長年の因縁と元凶も聞きたかったが、

それもセオドア様が、聖女の文献観覧時に資料も交えて、

説明してくれるらしい。




* * * * * * *




パシンッ‼︎



王宮の図書館の禁書庫を目指し、セオドア様と王宮の廊下を歩いていたら、

なぜか謹慎中で牢屋にいるはずのヴァニティーナ王女と

曲がり角で鉢合わせた。


そして、いきなりの平手打ちである。

このクソ王女。

あ~、一回やり合わないとダメか。


慌ててセオドア様が、私を庇うように前に出る。



「ヴァニティーナ王女殿下?なぜここに?

 陛下の命で、地下牢にぶち込まれてたはず…んんっ、失礼、

 謹慎として地下牢に収容されていたはずです。

 …サトミ様、大丈夫ですか?」


「お前のせいで!私はこんな扱いを受けているんだから!

 当然よっ、この尻軽女‼︎ 」


「…それで?」


「は?」


「それで、何なんですか?

 これっぽちの暴力、ちょっと痛いだけで、私はどうにもなりませんよ?」


「…っ、お前っ!」


「こ~んな中途半端な嫌がらせしてないで、

 私が本気で憎ければ、殺す勢いで来てくれません?

 そうしたら、私も同じように返して、決着がついてスッキリしますから!」


「サトミ様、ちょっと言葉が物騒ですが…少々お待ちください。

 衛兵を呼びます」


「結構です、セオドア様。

 この方は、私が憎くて憎くて仕方ないんです。

 私もこれ以上絡まれるのは、うんざりなのでケリを付けます。

 さあ、命がけで私に向かってきてください。それとも短剣が必要ですか?」


「お前は魔力があるでしょ!

 どうせ私が敵わないからって…よくもそんな舐めた口をっ…

 卑怯者‼︎」


「魔力は王宮内では、基本使用禁止です。

 それに私、魔力が膨大でも肉体は普通の人間なんです。

 あなたと同じで簡単に死にます。

 そのかわり、私は騎士団の訓練を受けているので、

 丸腰でもあなたよりは強いですけどね。

 さあ、どうぞ?王女様は、護身用の短剣を持っているはずでしょ?」


「ふん、いい気なものね。王族相手にその太々しい態度。

 偶然恵まれた魔力と立場を簡単に手に入れて、  

 聖女なんて持て囃されているせいかしら?」


「あなたみたいな、尊敬も信用も出来ない血筋だけの王族に跪けと?

 地位も権力も財力もあり、5人の夫もいる。

 愛してくれる家族もいる。一体何が不満なんですか?」


「お前なんかに、分かるものですか!何もかも楽して手に入れたクセに‼︎」


「じゃあ、代わってよ」


「は?」


「ある日突然、知らない世界に落とされて、いきなり魔獣に追いかけられて、

 死にかけた所を騎士団に助けられたのに、元の世界に帰れない。

 家族から引き離されて、いつも庇ってくれる肉親のいない世界で、

 一人ぼっちになってみなさいよ!

 望んでもいない膨大な魔力を持たされて、聖女として生きるしかなくてっ…

 そんな絶望的な中で、心を通わせたグレンさんを

 私から取り上げようとしてくる、意地悪な王女に絡まれて!

 挙句に、短剣で刺されて誘拐までされて、隣国には厄災の忌み子呼ばわり!

 私は、望まれてこの世界に呼ばれたんじゃない!

 レガリアが、ガレリアを攻撃する目的で、魔力暴走を起こさせる為に、

 兵器として召喚されただけの捨て駒なんだよっ!

 それを知った時の私の気持ちが分かる?

 あなたは私をずるいって言うけど、これが羨ましい?笑わせないでよっ!

 何もかも持ってるのは、あんたの方じゃない‼︎

 私はっ、全て奪われて……ここにっ、居るしかないのっ!

 …ねえ、代わってよ。代われるなら、こんな私と代ってよ‼︎」



震える拳を握りしめ、サトミの顔と声は怒りに満ちているが、

黒い瞳からは、ボロボロと涙が止めどなく流れ出ていた。



「私は、もう自分の世界に戻れない、もう家族にも会えないっ…

 少なくとも、あなたには家族がいるじゃないの‼︎

 魔力がなくても、愛してくれる家族がっ‼︎ 」



ヴァニティーナ王女は、目を見開き、両手を力強く握り締めて、

唇を固く閉じサトミを凝視していた。


そして、この騒ぎを聞きつけた衛兵がこちらに走ってくる。



「衛兵、王女殿下が牢屋から抜け出していた。連行しろ。

 それから、何者かが手引きしたのか調べ、それも陛下に報告するように」


「はっ、畏まりました」


「サトミ様、後は彼らに任せて、我々は行きましょう」


「……………」



サトミは、クスンと鼻を鳴らし、目を真っ赤にしたまま無言で頷き、

セオドア文官に手を引かれて、図書館へ向かった。


王女殿下は、無言でその後ろ姿を見送りながら、

衛兵に連れられ、大人しく牢屋に戻って行った。




* * * * * * *




セオドア様に、後日にしなくていいかと気遣われながら、

私は今、天井が3階立てはあろう高さの巨大な王宮図書館にいる。

そう、歴代聖女の文献の観覧の為だ。


あんな王女のせいで、やっと過去の聖女の事を知る機会を逃したくない。

セオドア様に綺麗なハンカチを渡され、涙を拭いつつ、図書室に赴いた。


私も拐われたり追われたりして、疲れて余裕のない所に理不尽に絡まれ、

いい加減イラついて、キレて八つ当たりした感は否めない。

だけど、言いたい事言えて少しスッキリした。


中二階もありその規模の大きさと膨大な本の数に圧倒された。

その中を突っ切って、更に奥に禁書庫はある。

ちなみに一般人は観覧できないので、私とセオドア様だけの入室になる。


鉄格子とドアにすごい数の鍵…厳重だなぁ。さすが禁書庫。


ジャラジャラと大きな鍵をぶら下げながら歩くセオドア様は、

執行人みたいで何か怖い。



「さて、扉だけでも5重になっているので急ぎますね」


「すご…厳重すぎ…1日で文献読み切れます?」


「無理でしょうね。何日か通わないと読破できません。

 それに、我が国の歴史の詳細もサトミ様はご希望でしたよね?」


「いや、全てを知りたい訳じゃないんです。隣国との長年の因縁というか、

 仲違いの原因を知りたいんです。そこに聖女が絡んでいるみたいなので…」


「ええ、では、歴代の聖女の一生を順番にサラッとお見せしましょうか。

 やっと開きました、どうぞ」


「はい、うわ…ここも広い…」


「まずは、聖女の文献を持ってきます。

 年代別な記録なので、飛び飛びで別書籍に記録されているので、

 相当の冊数になりますが…適当に座って待っていてください」


「はい」



近くのソファに座り、周りを見渡す。

凄い…この部屋も中二階がある。

こんな荘厳な図書館、映画の世界でしか見たことない。


奥から司書さんが、紅茶と焼き菓子をお盆に乗せて、

机に置いて行ってくれた。


目の前にどんどん分厚いアルバムみたいな本を運んでくるセオドア様。

机に山積みにされ、とうとう向こう側が見えない壁になった。



「何度も修復された年季の入った古い書籍なので、

 なるべく優しく取り扱ってください。こっちから一番古い書籍です。

 あとは、歴史書を探して来ます」


「わ、わかりました…」



何時間かかるのだろうと途方に暮れながら、

パラパラと中身を読み始めた。


あ、あった。召喚または落ちてきた稀人…聖女の歴史…と…


これ、この年数だと…400年前位? 


私の世界だと、江戸時代くらいか…


そんな昔から…こっちの世界に稀人が落ちてきていたんだ。




ガレリア王子と一行は、

魔獣狩りの最中、奥深い森の中で偶然、ある娘と出会う。


言葉が通じず、その娘は怯えて落ち着かない様子だった。


姿は、見たことが無い美しい模様の衣を纏い、

腰には、また美しい太い帯を締め、

黒髪には、美しい繊細な装飾、黒目、

そして、色白で折れそうな細い体。


怯える彼女に、

優しく真摯に根気良く向き合った王子が名を名乗ると、

娘は意味が分かったのか、安心したのか、

自らを指差し、




“キヌ” と名乗った。






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