表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/56

ガレリアへ





「待って‼︎」


「ちょ、姫さん離してくれよ。もう、これしかねぇんだよ」


「私、全属性持ちだから!」


「え?」


「風魔法で一気に飛べる。まだ全然魔力あるし、やった事ないけど多分飛べる!

 あ、でも蛇って火の方がいい?それとも水?」


「は?全属性……嘘…だろ?」


「ガレリアに着くまで、あなた達を信用しきれてなかったし、

 内緒にしてたけど、もういい。ここまで来た仲間だもの!

 ねえ、国境はもう目の前なんだよ?こんな所で死ぬつもりなの?

 自由になるんでしょ?それが夢だったんでしょ?」


「…っ、……アンタって人は、…ははっ」


「皆一緒にガレリアへ行くの‼︎ 分かった?」


「…分かったよ。んじゃ、俺が一匹吹っ飛ばすから、

 姫さんは、俺たちを風魔法で国境まで一気に頼むわ」


「うん!二人ともちゃんと受け身とってね。

 3人分も飛ばすの初めてで、加減わかんないから!」


「はははっ、よし、行くぞっ!」




ドォォンッ‼︎




大きな黒い塊が、バタバタとうねりながら吹き飛ばされ、

その間を縫って、国境目指し風魔法を吹き曝した。


後ろにいる大蛇が追ってきた気配はしたが、もうこのまま突っ切るしかない。


勢いがつき過ぎて、体がどうにかなりそうな中で、

二人は私を挟む体勢でガッチリ抱き合っていた。




「伏せろっ‼︎ サトミ!」




あ、この声…


グレンさんの声が聞こえて、慌てて姿勢を低くして地面スレスレを飛び、

頭上で灼熱の業火が、激流のような勢いですれ違って行く。

そのまま皆で絡まりながら、ゴロゴロと国境を越えた。


顔を上げると、口を開けて追いかけてきた大蛇は、

グレンさんの火魔法を喰らって、バッタンバッタンのたうち回っている。



「は、ははっ!こ、越えたぞっ!」


「いてて…やった…」


「はあ~、良かったぁ~」



狂ったように体をうねらせて、暴れる黒い大蛇に向けて、

グレンさんは、右手を上げて火魔法を火炎放射器のごとく放ちまくっていた。

念動力(サイコキネシス)で押さえつけているのか、

蛇は縦型に吊り上げられた格好で動けず、巨大な火柱が上がっていた。




ギエエエエェェ──ッ‼︎ ギィャァァアァァ─────ッ‼︎


ゴォオオオオオオオオォオォォォ──────ッ‼︎




す、凄い迫力…火祭りみたい。



「おお、流石。北の最強は容赦ねーなぁ…」



業火に焼かれ、炭のように消えていく三匹の大蛇。

相変わらず、グレンさんの火魔法エゲツない…。

あんなデカイ大蛇が全く歯が立たず、中から出てくる隙も与えて貰えず、

あっという間に焼かれてしまった。

そうか、蛇は火魔法が有効と…学習した。



「サトミさん」


「サトミちゃん!」


「サトミさん!」



…あ、レイさんとサイラスさん、アレンくんもいる…



「み、みんなっ…」



今頃私は、足がガクガクして立ち上がれなくなった。

必死に手を伸ばすと、大蛇抹殺済みのグレンさんが颯爽と戻ってきて、

力強くグイッと腕を取り、私の体ごと引っぱり上げる。

フワッと優しく抱きしめられて、一瞬で胸が熱くなる。



「無事で良かった。お帰りサトミ…」


「う、うん…た、ただいまっ!グレンさん。

 助けてくれて、ありが、とっ…」



ああ、グレンさんだ…私の大好きなアイスシルバーの瞳。


帰って、…来れたんだ。


私は安心したせいか、

感情が爆発して涙が止まらなくなり、

グレンさんにガッシリしがみ付いて、

子供みたいにワンワン泣いた。




* * * * * * *




「私の助けは…必要ありませんでした」


「そ、そうか…」


「彼女は、強いですね。

 隣国の国王に怒鳴り散らした時は、肝が冷えましたが…

 いやはや逞しい。さすが、飛竜落とし姫です」


「ブフッ…う、うむ」


「敵国の諜報員も味方につけて、連れ帰ってきますし…

 私が出る幕は、全くありませんでした」


「うむ、ご苦労だった」


「ですが、神殺しの魔石は短時間ですが、確かに効果はあるので、

 今後も聖女サトミ様には、注意が必要かと思います」


「そうだな、また何か仕掛けてくるだろうな…」


「相手を相当、怒らせてましたからね」


「…隣国の王子遊学の件を受け入れるか」


「あえて、ですか?向こうは今、暴発寸前ですよ?火に油では?」


「ずっとチクチクとやられっぱなしでは面白くない。

 そろそろ、王族らしく挑発…いや、外交の駆け引きをせねばな。

 まさか、このタイミングで受け入れるとは、向こうも思っておらんだろう。

 それに、レガリアも己の王族を人質に取られることになる。

 こちらが何を画策しているのか苦慮して、せいぜい思案に暮れるがいい。

 側に置いてその策謀を暴き、返り討ちにしてやるわ」


「永年の因縁を…終わらせるのですね」


「ああ、いつかこうなるのは分かっていたのだ。

 決心がつかぬまま、ここまでズルズル過ごしてしまった。覚悟を決めよう。

 さて、手始めに泣いて嫌がるだろうが、宰相を隣国に使いに出すか」



サトミの追跡と救助を任していた影からの報告に、苦笑と唖然と感心をしつつ、

国王陛下は、サトミの逞しさに惚れ込んで、益々彼女がお気に入りになった。

ギャーギャー煩いヒステリックな女の気の強さとは違い、   

サトミの信念からくる、実直な強さと賢さは本物だったのだ。


そして、その強さに感化され、国王陛下も覚悟を決めたのだった。




* * * * * * *



 

「………ん……あ、れ?…」


「ああ、目が覚めた?」


「ここ…?」


「君が連れ拐われてから、ずっと王宮の一室を借りているんだ。

 連日会議もあったしね。疲れただろ?まだ休んでいるといい」



私は天蓋付きの豪華で大きなベッドに寝かされていた。

傍に腰を掛けた普段着のグレンさんが、覗き込んでいる。

部屋にグレンさんの私物もあるし、私たちの相部屋らしい。

そうか、王宮かぁ…本当に隣国とは雰囲気が明るくて全然違う。



「…私、泣きながら寝ちゃったんだ…報告もまだだったね…

 あっ、あの二人は?」


「ああ、サトミを助けて、協力してくれたのは感謝してるし、

 嘘を言ってないのは分かってるけど、一応敵国の諜報員だったからね。

 まだすぐに受け入れたり、信用できないから、申し訳ないけど、

 今は貴族用の牢屋に入って貰ってるよ。

 大丈夫、粗悪な扱いはしていないから心配しなくていい。

 正式な真偽判定後に、二人の希望もあって北の騎士団に入団させる予定だ」


「そっかぁ、ありがとう…良かった」


「サトミ…」


「ん?」


「守れなくて、ごめん…」


「そんなっ…あれは仕方ないよ。私も予想外だったし…」


「無事で良かった…本当に…」


「私、グレンさんの元に必ず帰るって…言ったでしょ?」


「うん、そうだね。……お腹空いてる?」


「ううん…それより、お風呂入りたい」


「じゃあ、一緒に入ろうか?」


「も~!」



私が手を振り上げて軽く彼の肩を叩くと、

グレンさんは笑いながら私の手を取り、手の甲に口付けを落とす。

あ~寝起きにやめて。心臓ドックンドックンしてるって。



「ははっ、今日はゆっくりするといい。

 明日報告をまとめるから、ステラ師団長とセオドア文官も同席する」


「うん、分かった」


「そうだ、腕輪だけど…」


「あっ、取られると悪いから、内ポケットに入れてたんだ!」


「ちゃんと見つけたよ。はい、着けてあげる」


「ありがと…良かった…失くしてなくて」



腕輪をはめた後、グレンさんは微笑んで、お互い顔が自然に近づき

口付けを交わした後、縋り付くように強く抱擁し合った。


ああ、帰ってこれたんだ…この腕の中に…




* * * * * * *




お風呂も済ませて、少し小腹が空いた私は、

恩を売っておいた王宮の料理長のパトリックさんに頼み込み、

厨房を貸して貰い、素材も提供して貰って、今料理中である。


私が食べたい以前に、今地下牢にいるあの二人にも、

お礼も兼ねて差し入れしてあげたい。

トウジさんが好きだって言ってた、マッシュルームオニオンチーズサンド、

あと卵サンド食べさせたい。

余裕があったので、ロールキャベツとチーズオムレツと

デザートのシュークリーム、ベリーロールケーキも作った。


あ~王宮の厨房って広くて、食材豊富で作るの楽しい~♪

ザワついて見物してる料理人たちに囲まれながら、私はサクサク作った。


王都でもケーキや焼き菓子は売っているが、基本みんな生地が硬くてパサパサ。

私のふわふわスポンジやふわふわパン生地は珍しいのだそうだ。

そういえば、いつも最初は皆目をひん剥いて驚いてたもんなぁ。

リアクション良すぎて、こっちは楽しいけど。



「よし、出来た~♪」


「おお~…また見たことない料理だ」


「余分に作ったので、良かったら召し上げってください」


「やったー‼︎ ありがとうございます!」



私の分とあの二人の分、果実水も追加でワゴンに乗せてゴロゴロ廊下を歩く。

今日は、サイラスさんとレイさんが護衛でついてくれている。

グレンさんは、国王陛下に呼ばれて会議中である。



「サトミちゃん、元気だなぁ…もっと、ゆっくりしてればいいのに」


「あ~うん。でも、もう充分休んだし。

 地下牢の二人もお腹空いてると思うし…」


「あの二人、サトミさんをずっと心配してたよ。

 敵国の諜報員にエライ懐かれちゃって、君って人たらしだよね」


「あははっ、取引はしたけど、私の方が沢山助けて貰ったんだよ。

 あの二人が居なかったら、私は多分帰って来れなかったし、

 それにあの人達は奴隷紋で隷属されていただけだもの。

 少ししかレガリアの様子を見てないけど…

 あんな環境で、良く正気を保っていられたと思う」



地下牢に続く階段の横にエレベーターがあり、そこに乗り込み、

ゴウンゴウンと重い音をあげてエレベーターは下がっていく。

陰鬱な雰囲気を想像していたけど、地下牢でさえキチンと整備され、

王宮内と大差のない清潔感だった。

シンプルな廊下に並ぶドアが、重厚で鉄格子になっているだけの違いのようだ。


しばらく歩いていると、扉の前で王宮の護衛騎士が腰を折って礼をする。


何個もある鍵を開け、重厚なドアが開け放たれた。

そこに入ると、鉄格子の部屋が2つ並んでいる。

二人はベットに横になって眠っていたのか、のそりと体を起こして、

こちらを見ると、すごい勢いで体を跳ね起こした。



「姫さん!」


「サトミさんっ」


「ごめんね~、来るの遅くなって。

 食事持ってきたから一緒に食べよう」


「大丈夫なのか、あんた…」


「うん。安心して泣いちゃって…そのまま寝ただけ。

 それよりここ、居心地悪くない?」


「いいや?向こうの国で、与えられてる豚小屋より全然快適。

 シーツも清潔でベットも柔らかいし、部屋も綺麗だし。

 個別の浴槽にお手洗い。充分な設備だ」


「うん、俺たち敵国の諜報員だったのに、この扱いは破格の待遇だよ」


「……そっか、もう少し我慢してね。お腹空いてる?」


「良い匂いだな~…もしかして、姫さんの手作り?」


「そう、トウジさんの好きなマッシュルームオニオンチーズサンドもあるよ」


「おおっ!やったぜ!さっすが姫さん!」



トレーにのせて彼らに食事を渡して、今後のことについて話したが、

二人とも北の騎士団に入団を希望していて、それで恩を返したいそうだ。


トウジさんの転移と風魔法はもう知っていたが、

今回活躍の場が無かったアキラさんは、幻影魔法で姿を変えられるそうだ。

特定の人物に姿を変えて、情報収集したり敵国の派閥を対立させたり、

相手に幻影を見せる事も可能で、隠密で動くタイプらしい。

ちなみにヴァニティーナ王女殿下に、短剣を売りつけた商人は、

幻影魔法で姿を変えた彼だった。



「二人とも凄いね。こっちには居ないタイプの魔力だから、

 歓迎されると思うよ」


「俺たちは、あんたの寛大で公正な判断と対応に、心から感謝してる。

 姫さんは、この世界の希望であり良心だ。

 俺たちは生涯、誠心誠意尽力して忠誠を誓う」


「えっ、いや、過大評価、過大評価!

 それに、そんなに簡単に忠誠誓ったりしちゃダメだって!」


「もう決めたんだ。観念しろよ」


「えぇ~…」


「凄いな、サトミちゃん。下僕ができたぞ」


「下僕?違うでしょ?ぶ、部下みたいな感じ⁉︎」


「俺たちは別に下僕でもいいが…

 てゆーか、北のナンバー3…なんで右腕あんの?」


「あの転移魔獣…お前かっ‼︎」


「おい、まさか姫さんが、くっ付けのか?」


「あ~まあ、そうです。再接続しました」


「マジでなんなん、あんた…神様かよ」


「おい赤頭!後でお前っ、一発殴らせろっ‼︎」


「サイラスさん、それは私が制裁済みだから」


「サトミちゃんの細腕じゃ、大したダメージねぇだろ」


「めちゃくちゃ馬鹿力で、ぶん殴られたけど…

 まあ、いいぜ。命令とはいえ、卑怯な奇襲だったし」


「うわ~超美味ぇ───!何これ!」


「おい、何先食ってんだよ、アキラ!」


「トウジもいいから食べろよ、こんな美味い料理初めて食った」


「まあまあ、とにかく温かいうちに食べよう?」


「これは、やっかましいのが来たなぁ~。賑やかになりそうだ」


「おう、入団したら、しっかり鍛えてやるからな!赤頭!」


「俺はトウジだ、ナンバー3!」


「サイラス副団長補佐と呼べ!赤頭!」


「ああっ⁉︎ 」


「あはははっ、もう、うるさいってば~」



賑やかに喧嘩しながら、美味しい食事に感動しまくり、

益々忠誠を誓う二人に苦笑いしつつ、とりあえず何とかなって良かったと、

私は胸を撫で下ろしていた。


そして、私の頭の端には、微かな不安感も居座っている。

次に迫り来る、レガリアの暗い影をどうしても拭いきれないからだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ