解除と脱出
パキンッ、パキッ‼︎ ジャラジャラジャラ…
繋いでいる鎖の先にある、南京錠の鍵に神聖力を狙い撃ちして粉々に壊し、
トウジとアキラの契約魔法を一瞬で解除した。
今まで彼らの首に巻きついていた鎖も、バラバラと崩れ消えいった。
そして、魔力封じの手枷も砕いて、ブン投げる。
「な、何だ!この光はっ‼︎」
「解除した‼︎ 」
「えっ、もう?姫さんマジ?」
「あっ、本当に奴隷紋消えてる!消えてるぞ、トウジ!」
「よし、もう自由だ!飛ぶぞ‼︎ 二人とも掴まれ!」
「ま、待て!」
魔術師が狼狽しながら腕を伸ばし、新たな契約魔法をトウジに放つ。
鎖は真っ直ぐトウジめがけて首に届き、グルグルと巻きついた。
ジャラジャラッ、ジャリンッ、ガシャン!
「あーうっぜえ、また首に奴隷紋の鎖が巻きついて来やがった!
姫さん、再解除頼むわ!」
「分かった、すぐ解除する!えーと…もー鎖多すぎっ!
…あっ、鍵……みっけっ!…」
「何が起こっている?おい、副師団長!何やってる!」
「そ、それがっ…あのっ…」
「おい、トウジ!待て!この恩知らずがっ!」
「はあ?恩なんて一度も感じたことねーわ!バ────カッ‼︎」
「逃げられると思っているのか?ガレリアに行ってもお前たちは敵だ!
ここから逃げても、どうせ殺される運命なんだぞ!」
「それは、ここにいても同じだろ。
俺たちがどうしようが、テメーにゃ関係ねぇだろ!うっせーな‼︎」
「この国以外で生きていけると思っているのか!」
「解除完了っ!行こう!」
「了解、流石姫さん!あばよ、ゴミ野郎共!」
シュンッ‼︎
「トウジ‼︎」
トウジとアキラ、そして聖女は、転移魔法で姿を消した。
訳が分からず、その場で茫然とするレガリアの大将と魔術師達。
「おい、何だ?何が起こっている?何で逃げられた!
神殺しと魔力封じが効いてないのか?
なぜ、あの二人まで契約解除された?」
「魔力封じは…あの娘は魔力量が膨大で…効いていなかったようで…
神殺しの効力も同じ理由で…既に切れていたようです…
トウジとアキラの…契約魔法は…神聖力で…あの娘に2度、
解除されま…した…」
「は?」
「一瞬で……申し訳、ありません…間に、合いませんでした…」
「国王陛下、申し訳ありま…」
『アレを放て』
「は?…で、ですが、この国の民も犠牲になりますが…」
『それが何だ?いいから放て。絶対に逃すな。手に入らぬなら殺せ』
「はっ」
一瞬、この目が信じられなかった。
なぜ、あんなにも似ている。
キヌ…
私の心を捕らえて離さない、誰より恋い焦がれ、愛執し、
その美しい喜びを知った後、私の心を深淵へ突き落とした。
狂おしい愛憎を抱かせた、聖女キヌ。
消さねば…そうしなければ…
私 は ────────── …
* * * * * * *
「はっはー!姫さん、あんた最高だぜ!」
「一瞬だったな…」
「でも、冷や冷やしたな~…
一国の王様にああもズケズケ言うとは、いい度胸してんな」
「だって、ムカついたんだもん。全然要領得ない事ばっか言って。
これでも我慢したんだよ?」
「はははっ。さて、後は逃げるだけか…帰りはルート少し変えた方がいいな」
「行きのルートは最短だったけど、あの大将にバレてるからね。
多分、追手を放ってるだろうし…」
「え?でも人間と馬じゃ、トウジさんの転移に追いつけないでしょ?」
「魔獣飼ってんだよ、あいつら。地下牢にたんまり」
「あ〜、そっちかぁ…」
「徒歩も入れて、少しでも移動した方がいい」
「ああ、そうだ。学校の図書館寄って行くわ」
「え、何で?」
「ほら、伝説の童話の本、あとこっちの義務教育で使ってる教科書が
あった方がレガリアの教育方針が分かるし、いい土産になると思うぜ?」
「なるほど。近いの?」
「向かう方向に1校だけある」
こうして、トウジさんが転移で本もあっさり手に入れて、
私達はその後も、転移を繰り返しガレリアに向かった。
そして、途中で小さな村の宿に宿泊して、
明日にはガレリアに入国できる予定だった。
「…俺たち、本当にもう自由なんだな」
「姫さんを信じたのは間違ってなかった。だろ?アキラ」
「ああ…」
疲れて寝息を立てているサトミをじっと見つめ、微笑む兄弟。
3つの衛星が浮かんでいる夜は、不気味なほど静かだった。
* * * * * * *
「父上、サトミ様が帰ってきます!」
「…ん?」
「夢にサトミ様が出てきました。男性2名を連れ立って!」
「もしかして…予知夢を見たのか?」
「はい!」
「お前の願望ではないのか?間違いないか?」
「間違いありません。そうであればいいとは思っていましたが、
赤毛の男性と茶髪の男性二人を連れて、北東方面から帰国されます。
でも、追手がかかった状態で危ういので、北の精鋭部隊に待機して
貰った方がいいと思います」
「赤毛の男?まさか…そうか。北東だな?」
「はいっ!」
「分かった。どれ位で戻るか分かるか?」
「多分、明日の午前中だと…予知夢で父上が報告を受けたのが、
定例会議中でしたから」
「なるほど…、よし、迎えを待機させよう。よくやったセラデュード」
「はいっ!」
第三王子のセラデュードは、時折予知夢を見る。
他には、火と風の2属性の魔法を持ち、兄妹の中では一番魔力量が膨大だった。
こうして、北の精鋭部隊は、早朝より北東の国境付近に待機して
サトミ達を待つことになった。
* * * * * * *
「ふぁ~、おはよー」
「ああ、姫さん、おはよう」
「簡単な朝食買ってきたから、それ食べたら早めに出発しよう」
私たちは、味気ないパサパサのパンと豆のスープを腹に入れ、宿を後にした。
そして、再び深い森に入ろうとした時、
村の方から、物凄い轟音と悲鳴が聞こえてくる。
「な、何?」
「なんだ、追っ手か?」
「早く行こう、トウジ、サトミさん!」
そして、大きな黒い物がズルリと姿を表した。
真っ暗な巨大な大蛇。
赤く光る瞳で見やり、大きな口を開けて家を破壊し、
人々を襲っている。
「うわっ、キモッイ‼︎」
「くそっ、見つかったか…行くぞ!」
「ねえ、村の人たちまで襲ってない?」
「魔獣にそんな配慮できねーよ。それ分かって放ってるんだ、アイツらは」
「酷い…」
「こっちに引き付けてから飛ぶか。そうすりゃ、この村からも離れるだろ」
「うん、神聖力使っていい?」
「ああ、その後すぐ飛ぶぞ。多分次の追手が来るから、倒してる暇はない。
姫さん、この先のこと考えて、魔力温存しておいてくれよ?」
そして、私は神聖力をその大蛇に放った。
光の柱がその大蛇を貫き断末魔の咆哮をあげて、大蛇は一度消滅した…
かと思いきや、なんと口の中から再び大蛇が飛び出して、姿を表したのだ。
「ぎゃーっ!どうなってんの⁉︎ 新しいの出てきたっ!」
「あー、こういうタイプか。何回まで有効か分かんねーけど、
逃げるが勝ちだな。もういいだろ、標的がこっちに移った」
「やだー、マトリョーシカみたい‼︎」
「は?何それ?」
「えーと、ロシアの有名な民芸品で、中からひと回り小さな人形が、
次々繰り返し出てくる入れ子‼︎ でもコイツは、そんな可愛い物じゃない!」
「なんだそりゃ、ははははっ!」
「ちょ、笑ってる場合じゃないって、トウジ!追いつかれる!」
「はいはい、今飛ぶって!」
黒い体をウネウネさせて追いかけてくる様は、まさに悪夢だった。
蛇嫌いの人は、一瞬で失神する気持ち悪さだろう。
私たちは充分に引き付けて、転移魔法でその場を離れた。
村人たちが心配だったが、こちらも余裕がない。
「後、どれ位~?」
「結構、徒歩でも稼いだからな、俺は多分後50km飛べる」
「もう少し歩いた方がいいな…」
「今飛べば、多分ガレリアの国境近くには行けそうだが…」
「ルート変更しただろ?」
「あ~、そっか…」
「何なの、あの気持ち悪い魔獣…」
「キメラ作ったんだろ」
「え…複合体ってこと?」
「ああ…気色悪いこと平気でやるからな、アイツら」
「……………」
ガレリアとは魔法の使い方が全然違う…
本当に隠と陽のような、対照的な隣国だ。
それに、国の名前もガレリアとレガリアで似過ぎている。
この2国間の諍いも、聖女の文献と共に調べてみよう。
道なき森の中を3人で歩き続け、最後の転移をした。
「あ~、やっぱ届かなかったか…」
「でも、もう目の前だよ。後200mくらいで国境だ。
充分歩いていける」
「もう大丈夫だと思うが、急いだ方がいい」
もう国境は目前だった。
良かった…逃げ切れたみた…
ドッ、オオオォォォォォ────ォオン‼︎
突然、轟音と共に、目の前に黒い塊が落ちてきた。
あの巨大な大蛇だ。
「なん、でっ…転移してきた?嘘でしょ⁉︎」
「ああ…くそっ、俺の転移魔法も魔石に付与されてんのが腐る程ある。
多分、それを使ってやがる」
「あと、少しの所で…」
「引き返せっ!…おっと…やべーな、こりゃ…」
「やだっ!何で増えてるのっ?」
後ろを振り返ると、もう一匹いたのだ。中から出てきたのだろうか…
そして、大きく口を開けてもう一匹ずるりと出てきた。
気がつくと私達は、この三匹の大蛇にグルリと囲われている。
「私が、神聖力放つから…」
「駄目だ。さっき見ただろ。神聖力は、継続的な速さに弱い。
すぐに別のが出てきて、食い付かれるぞ」
「でもっ、他に方法がないじゃない!」
「あんたをよっぽど、逃したくないんだろなぁ…」
トウジは、はあ、とため息を吐き項垂れる。
そして、ボソリと呟いた。
「あ~…最悪。せっかく、自由になれたってのによぉ~…」
「……え、何?」
「いいか、良く聞け。
転移魔法は枯渇したが、風魔法はまだ少し使える。
俺が国境側の一匹を吹っ飛ばす。その間に走って国境を越えろ。
ガレリアに行けば、姫さんの結界でコイツら魔獣は通れない。
この先200mだ。足場悪いが全速力で走れ。コケるなよ?」
「え?…ちょっと、待って‼︎ 何するつもりなの?」
「蛇は俺が引きつける。…アキラ、姫さんのこと頼むわ」
「トウジ…」
トウジは、くるりと踵を返して後ろに向き直り、
手を前に掲げた。




