レガリア国王
「レガリア国王ってどんな人?」
「知らね。会ったことねぇから」
「一度も?」
「ああ、声さえ聞いたことねぇよ。俺たちは下賤の忌み子の血筋だからな。
御目通りなんて、夢のまた夢」
「そう…」
まだ山深い森の中で、今はお昼の休憩中である。
パチパチと焚き火の前で、キノコの串刺しを焼きながら、
私たちはレガリアの王宮を目指し移動していた。
「今回の取引だけど、あなた達二人の解除だけでいいの?」
「ああ、何で?」
「だって、他にも稀人の血筋の人は沢山いるんでしょ?」
「そうだけど、もう洗脳されちまってダメなんだ。誰も話を聞きやしねぇし。
逃げようって気力もないって、言った方が正しいかもな。
それに今、中途半端に解放しても、洗脳解けてないから
足引っ張られる可能性もある。
閉鎖的な中で行われる、永遠に終わらない暴力、虐待、体罰、口撃…
痛みと恐怖ってのは、行動や思考を容易に支配できるんだ。
今じゃ稀人の血筋で、正気を保っているのは俺とアキラだけだ」
自由と行動を奪い、尊厳を踏みにじり、人格を壊して、
恐怖と絶望を植え付けて思考停止させる。
まるで、カルト教団のマインドコントロールだ。
「………そう…」
「姫さん、覚えておきな。
全てを正したり、救ったりするのは時間が必要だ。
いくらあんたが聖女でも限界がある。気持ちは分かるが一気には出来ねぇよ。
まずは、出来る範囲から始めようぜ。
あんたが正義感が強いのは分かるが、そう焦るな」
「うん、分かってる」
「そろそろ良さそうだ。食べよう、トウジ、サトミさん」
「うん。いい香り~美味しそう。いただきます」
「あ~うめー。キノコ食うと、姫さんに貰ったあのサンド思い出すなぁ」
「生きて帰れたら、いくらでも食べさせてあげる。
サンドウィッチの具は、あれだけじゃなくて、他にも沢山あるんだよ」
「おしっ、意地でも生きて帰らねーとなっ!」
「俺も食べたい…」
「ふふっ、勿論二人共だよ」
トウジさんの転移魔法は、1回の移動距離は最大50km可能。
1日に250km移動が可能で、それ以上使うと体が限界を迎えるそうだ。
ただし一人の転移時のみ。
人の1日徒歩の移動距離は50kmが限界。馬なら3時間程だろうか。
だから到底追いつけない。これが無制限で使えれば、彼は無敵だろう。
今現在は3人分の転移負担があり、1日の移動距離は83kmが限界で、
徒歩も含めて王宮へ行くのが2日位かかるそうだ。
途中、小さな村や、街に立ち寄って、食べ物などを購入したり、
食堂に立ち寄ったり、宿を取って宿泊したりした。
そして、この国へ足を踏み入れて感じたのは、
質素で陰鬱で暗い国ということだった。
庭に草花なども全くない。ただ生活するのに精一杯という雰囲気。
人々が生き生きと自由に暮らしている、隣国ガレリアとは全く違う。
宿の部屋に入り、窓を開けて外をみる。
「なんていうか…ガレリアとは全然違うね」
「こっちは富が王族共にみんな吸い上げられてるからな。
質素で暗いだろ?」
「うん。皆んな表情が暗いし…覇気がない」
「俺らほどじゃないけど、国民も雑な扱いだからな」
「そっか…」
「明日には王宮に着くから、体休めておきな、姫さん」
「うん。宿敵と初対面だし」
「言っておくが、国王は用意周到だ。油断しないで、最初は大人しくしてろよ」
「分かってる。今までの攻撃スタイル見てると、相当臆病だよね」
「はっはっはっ、言われてやんの。
でもな、キレると臆病者は強者より狂暴なんだぜ」
「自分の強さを過信してる単細胞な人より、厄介なのは分かってる。
臆病な人は、対策案を何重にも用意してるもの」
「姫さん、その知識はどこから学んだ?」
「前の世界でこういう系の映画とか小説とか、沢山あったんだよね…」
「映画?」
「えーと、こっちで言う観劇みたいな物。創作物の映像化されたもの」
「へぇ~…今度さ、姫さんの世界の話じっくり聞かせてくれよ」
「うん、いいよ。魔法は向こうの世界では幻想だけど、
その代わり科学や技術が凄いんだから」
質素なお風呂をすまして、すぐにベットに入り就寝した。
村に入る前に、胸につけていた勲章と腕輪を仕舞うように、
トウジさんに言われ、内ポケットに保管してある。
金目の物を身につけていると、村人に物乞いされるそうだ。
祝賀会のままの衣装だから、トウジさんのローブを着て移動している。
次の日、3度転移して、とうとう王宮についた。
暗い森に囲まれ、その小高い丘にそびえ立つ黒い城。
黒い鉱石を材料にしているのか、大きな要塞のような王城。
見るからに威圧感がある重厚さ。
「……ここ?」
「ああ、ここからは私語は出来ない。聞かれてるからな」
「分かった」
「頼んだぜ、姫さん」
「そっちこそ、裏切らないでよ?」
城から伸びた長い橋を大きな図体の男と、もう一人侍従のような男が
ゆっくり歩いて、こちらに近づいてくる。
髪が真っ赤…顔立ちも…似てる。間違いない。
この人…トウジさんの父親だ。
「遅かったな。何をしていた」
「うるせぇな。連れてきただろ」
「ふん、いいだろう。そのまま国王陛下に引き渡す。
魔力封じの手枷をして、連れて来い」
私を一瞥して、クルリと踵を返し歩き出した。
挨拶もなしだし、偉そうでや~な感じ。
いくら稀人だろうと自分の息子なのに、何あの態度。
本当に道具としてしか見てないんだ。
魔力封じねぇ…
私は今、神殺しで魔力が使えない体になってるけど、念には念をか。
後ろから付いてきた死んだ目の侍従に、無言でガチャリと手枷をかけられる。
「……………」
そのまま、黒い城に足を踏み入れる。
ああ、嫌な雰囲気。
息が詰まるほどの暗さと圧迫感、邪悪な魔力がアチコチから感じる。
城内も黒いし暗い。
ポツポツと長い廊下には蝋燭の照明があり、豪華とは程遠い質素な造り。
うわ〜、ここに長い間居たら、病気になりそう…
ガレリアの白く荘厳な城とは、何もかもが正反対だった。
そして、何度も何度も、重く頑丈そうな鍵がいくつもある扉を通り、
階段を上がり、窓からチラリと外を見ると相当の高さまで来たようだ。
無言で私の両脇を歩くトウジさんとアキラさんの表情は、
さっきまで話していた時と対照的な能面のような無表情。
少し不安になって、トウジさんの横顔を見ていると、
視線に気がついた彼は、口の端を上げて片目でウィンクする。
良かった…いつもの彼だ。
「ここで少し待て」
偉そうな赤毛の大男は、そう言って一番重厚な扉を開け、
マントを翻し姿を消した。
多分、この先にレガリア国王がいる。
私はゴクリと喉を鳴らし、姿勢を正した。
* * * * * * *
5分後位に、扉が開かれ入室させられた。
国王は、どんな顔してるのかと思っていたら、
壇上には分厚いカーテンが引いてあり、姿は全く見えなかった。
何これ。
両側には、魔術師らしき人達が立っている。
そして、その中でも異常な数の鎖が身体中から出て、
それが様々な方向に、繋がっているのが見える魔術師がいた。
ああ、この人か。
魔法契約して奴隷を縛っている人だ。
これ、私にしか見えてないんだろうな。
それにしても、凄い数なんだけど…
トウジさんの首から繋がっている鎖を辿って、彼の鍵を先に見つけて、
ピンしておいた。次にアキラさんのは…あ、あれか…よし、ピンと。
全く…何百人に契約魔法使ってんのよ、この魔術師。
「レガリア国王陛下の御前である。頭が高い。跪け、下賤の稀人」
あの赤毛の男が、謁見の間に響く声で言った。
誰が下賤だ、誰が。
両脇にいるトウジさんとアキラさんが、手枷をされている私の両腕を持って
転ばないように跪かせてくれた。
「ふん、神聖力を持った稀人でも、神殺しには流石に屈服したか。
まだ効力は切れていないようだが、念の為新しい神殺し魔石をもってこい。
この娘の無力化を継続して拘束する」
「はっ、只今」
「あの~、私をどうするつもりでしょうか?」
「許可もなく口を開くな!」
「そっちこそ勝手に誘拐しておいて、何偉そうに命令してんのよ」
「黙れ!国王陛下の御前だ。不敬だぞ!」
「私にとってこの人は国王じゃない。
ただの人攫いに、なんで敬意を表さなくちゃいけない訳?」
「このっ、早く神殺しの魔石を持ってこい、魔術師!」
「ねえ、顔も見せられない臆病な王様?
どうして、私はこんな扱いを受けなきゃいけないんですか?」
『………………』
「あれ?だんまり?」
「この子娘!口の聞き方を知らんのか!
お前達、稀人は我々の先祖に害を与えたのだ。
この扱いは自業自得、当然の報いなのだ!」
なぜか赤毛の大男が答える。お前じゃないっつーのっ!
姿を表さないレガリア国王のことを少しでも探りたいのに、
邪魔しないで欲しい。
てゆーか、存在感なさすぎじゃない?この国王。
本当に、あのカーテンの向こうにいるのだろうか…
「その時に害を与えたのは、私じゃない」
「そんなのは関係ない。その血を持って生まれたこと自体が罪なのだ。
お前たち稀人は我々にとって敵であり、憎むべき厄災。
恨むなら、己の血筋を呪うがいい!」
「答えになっていない。恨まれ方が斜め上すぎて、理解不能でーす」
「せいぜい嘯いていろ、貴様は無効化された上に魔力封じで、
どうぜ逃げられん。ここで死ぬまで我々に従い、奴隷となり、道具となり、
その卑しい血筋を役立ててやるのだ。光栄に思え!」
「お断りよ。勝手に決めんな。こっちは拐ってくださいなんて頼んでない。
隣国ガレリアへの攻撃も、どうせ自分本位な理由なんでしょ」
「あの国は、お前たち稀人と共に、先祖から何もかも奪ったのだ!
この攻撃は、正当な理由であり正義なのだ」
「はあ~、その具体的な内容も、肝心な理由も説明しないし…
何もかも奪ったって…今でもこの国存続してんじゃん。
で、だから何⁉︎ 先祖ってどれくらい昔の事を言ってんの?
さっきから意味不明だし、ねちっこくて、未練がましいんだよ」
「リンドゥーテ大将、魔石持ってきました!」
「早く黙らせろ、このバカ女を!」
「こっち側が一方的に悪い風に言ってるけど、あなた達は何一つも悪くない訳?
今生きている私や、あの国の人たちが一体何をしたっての。
私はね、あんた達の勝手な召喚のせいで、もう元の世界に戻れないんだよ。
自分達のしたことを棚に上げて…誘拐犯が偉そうに、ふざけんな!」
「ひ、姫さん…ちょっ…ケンカ売りすぎっ…」
「どう思おうと、これは許されない罪を犯したお前達の歴史の中の真実だ!
心から反省し、我々に平伏して従い、許しを乞う、それがお前ら下賤供の
唯一の償い、救済への道なのだ」
「何それ。その許されない罪の証拠は?言うだけなら誰だって出来るでしょ。
大昔の事で、なんで今の私たちが悪なのか、確たる証拠を出しなさいよ。
それに一方の主張だけなんて、それが真実かどうかもわからないじゃないの。
人間なんて、自分の都合の良いように捻じ曲げて、責任逃れするんだから。
だから、あんたの言う事なんか信じない!」
「ええい、うるさい!
魔術師、早くその娘を取り押さえて、神殺しと隷属の契約魔法をしろ!」
「何勝手に、私を隷属させようとしてんだよ!
私は今、納得いかない説明と偉そうな態度と理不尽な言いがかりで、
猛烈にムカついてんのよっ!」
あーもうダメだ。全然話が噛み合わない。
話せば話すほど腹が立ってくる。
どんだけ恨みが深いのか知らないけど、
お前が悪い、こっちが被害者だって、固定観念で凝り固まって、
建設的な話が出来やしない。
情報を引き出そうとしたけど、これは無理そうだ。
もういい、さっさと去ろう。
私は、魔術師に繋がっている鎖を辿り、
トウジさんとアキラさんの鍵めがけて、
神聖力を放った。




