略取
「なんだか、以前より豪華じゃないですか?」
「今回は、土地浄化の遠征の成功も含まれているからね」
「あ~…緊張してきた…」
「俺が先に授与されるから、やり方を見てればいい」
「グレンさん、緊張しないの?」
「慣れかな」
「…前よりは少しは慣れた気がしたんですけど…
やっぱり平気で受け流せる日がくるような気がしない…」
「ふふっ、今日も綺麗だよ。ケープがあるのが惜しいけど」
「今回は他国からの来賓が大勢いるから、顔出せないんだよね?」
「ああ、聖女の素顔は多くの人に知られない方がサトミの為だからね。
良からぬ事を企んでいるのは、隣国だけとは限らない」
「…うん、今日は王家の人達、王子様と王女様も出席だし…緊張する」
「今回は周辺国も招待しているし、君のお披露目も含まれている。
王族の外交接待も必要なんだ。それに、いくら隠したところで、
君の光の柱は見られているし、下手に詮索されるより、
聖女がいるという事実を先に見せるって目的もあるんだ」
「あ~うん。そうだよね。目立ちたくないって思っても、
限界があるもんね」
「隠せば隠すほど、興味を持ち掘り起こしたくなるのが人間の性だ。
ここで君の功績や偉大さを見せつけて、逆に牽制する形に
持っていきたいのだろう。お前たち如きには、安易に近寄れない存在だとね」
「えっ、ちょっ、失敗できないっ、緊張するって!」
「大丈夫、ケープで顔は隠れてるし、堂々としてればいい」
「あ、そっか。ケープ邪魔だったけど、こういう時助かる」
「そろそろ始まるみたいだ。さあ、行こうか聖女殿」
「ふふっ、はい騎士様」
国王陛下の衣装も、いつもより豪華絢爛だった。
表彰式が始まり、次々褒賞や勲章が授与されていく。
そして、グレンさんの番になり、カッコイイとか見惚れていたら、
いつの間にか私が呼ばれ、なんと最後の大トリになってしまっていた。
「王国の聖女、北の辺境区騎士団所属、サトミ・ヒリュウ殿」
5歩前に進み、国王陛下に礼をして膝をつき跪く。
「貴殿は、二度目の飛竜討伐、魔獣襲撃の討伐支援と守護、及び、
瘴気に犯された土地浄化の半年間の遠征を務め、村民達の生活を癒し、守り、
多大な希望を与えた。神聖力の保有者「聖女」の称号を持つ者として、
卓越した見事な務めに感謝する。
よって功績を称え、褒賞と勲章をここに叙勲する」
「ありがとうございます」
「その成功と成果は、称賛されるに相応しい。
誠に素晴らしき大儀であった」
褒賞の金券を受け取り、前回貰った聖女の勲章がキラリと光る横に、
さらに勲章が国王陛下自らの手で追加される。
わああああああ────────っ‼︎
陛下のすぐ側に立つ、目をキラキラさせて微笑む3人の王子達と、
こちらを殺す眼力で睨みつけてくる王女。温度差が凄くて風邪引きそう。
そして、ふと彼女の胸に着いている装飾品が目に入った。
珍しい…短剣のブローチなんて。
でも、何だろう…少し変な魔力を感じるけど…気のせいだろうか。
拍手喝采と歓声の中、私は一礼して壇上から降り、
グレンさんの隣に戻った。
「お疲れ様。聖女らしく堂々として立派だったよ」
「本当?もう汗びっしょりなんだけど…ケープあって良かったぁ~」
最大の難関の表彰式を乗り切って、私は肩の荷が降りていた。
ちなみに、サイラスさんの腕の再接続の件は秘匿にされている。
国王陛下は相当驚き、喜んでいたらしいが、
流石にこのチート級の魔力は、軽々しく扱えない危険な産物なのだ。
私の周りに護衛する意味も込めて、北の騎士団員達が私を囲って談笑し始める。
あ~安心するわ、この空気感。
すると、登城時に王子達と陛下に頼まれて持参した、
サンドウィッチと唐揚げとお菓子を預けた侍従がオロオロしながら、
こちらに近づいてくる。どうしたのだろうと思って歩み寄り話しかけると、
申し訳なさそうに腰を折って謝罪してきた。
何でも、王宮の厨房に一時保管のつもりでバスケットを置いていたら、
少し目を離した隙に、料理長が差し入れかと勘違いして、
サンドウィッチを食べてしまったそうだ。
あまりの美味しさに、勢い余って半分以上完食してしまったらしい。
王族に献上する食べ物を勝手に食べてしまい、
このままでは、料理長と侍従さんが処分されることになる。
食べ物の恨みは深いし、彼らが気の毒だったので、
私は王宮の厨房を借りて、サンドウィッチを作り直すことにした。
料理長や調理担当の方々も同席して、作り方を学びたいと、
ぞろぞろと連れ立って、私は大所帯の中で驚嘆の声を尻目に黙々と作って、
とりあえず食べられた分は作り終えた。
そして、材料が大幅に余ったので、調理担当の人にも手伝ってもらいながら、
作り方を指導して人数分のサンドウィッチを振る舞った。
「美味しい~!信じられない!」
「なんで、こんな組み合わせが思いつくのですか?」
「マッシュルームとチーズとオニオン!最高!」
「いや、私は卵サンドの方がっ」
「コロッケサンドだろ?」
「全部美味しいって!…お菓子も見たことない物ばかりで、美味しそう…」
「この唐揚げっていうのも…いい匂い…」
美味しい食事は、一瞬でみんなの心を近くする。
だから、大人は取引先の接待で食事会したり、飲み会とかするのか。
いや、でもあれは仕事だし、あんま楽しくないらしいが。
「よかったら、唐揚げとお菓子のレシピをお教えします。
ぜひ作ってみてください。そんなに難しくないんですよ」
私が近くにあった、黒板に材料と作り方を簡単に書いて
説明していると、料理人たちの目がキラッキラに輝いている。
そして、そこにアレンくんが駆け込んできた。
「ああっ、居た!何やってんのサトミさん!国王陛下と王子達が探してるよ!
別室に来てくれって!」
「うん、今行く」
なんとか間に合ったサンドウィッチをバスケットに入れ、侍従さんに預けた。
侍従さんは目に涙を浮かべながら何度もお礼を言い、料理長も頭を下げる。
よし、これで恩が売れた。
そして、私たちは案内された一室へ入室。
そこでサンドウィッチ含め、料理の試食会が行われた。
実は、オマケで遠征のお土産がわりに、最後の村で買った
ソーセージと刻んだキャベツを炒めた物をコッペパンに挟んで、
ホットドックもどきも忍び込ませてあった。
見たことのないパンと惣菜に、皆驚いていた。
この世界にも、タコスみたいな小麦を解いて伸ばした生地に、
肉と野菜を挟む惣菜は屋台で売っているが、
私が作るふわふわのサンドウィッチやコッペパンは、珍しいらしい。
そのホットドックをリスみたいに頬を膨らませて、口いっぱいに頬張って
目をキラキラさせてる第三王子が可愛くて仕方なかった。
陛下は、待ち兼ねた唐揚げをガツガツ食べまくり、
第一王子は、上品にサンドウィッチとコッペパンと唐揚げを黙々と食べ、
第二王子は、お菓子が特に好きらしく、他の人の分も欲しがっていた。
どうやら、みんな気に入ってくれたもよう。
アレンくんがうっかり、最近の新作ゴンリーシャーベットが美味しいと口走り、
一斉にそれは何だ?ぜひ食べたい視線がグサグサ刺さりまくって、
今度の登城で持ってくる羽目になってしまった。
王宮の料理人さん達からも、他の料理もぜひ教えて欲しいと懇願され、
今度、騎士食堂に料理人さん達が、研修に来ることになった。
予想外に、王宮の人達と仲良くなれて楽しくて、
私は、その和やかな雰囲気に油断していたのだ。
* * * * * * *
試食会が終わり、祝賀会が催される会場へ移動する。
これ、よく西洋の映画でみる昔の貴族が踊ってる舞踏会ホールそのものだ。
頭上には大きく絢爛なシャンデリア、高い天井、豪華な装飾品、オーケストラ。
そして、華やかに着飾った貴族達が優雅にくるくるダンスをしている。
まるで、映画の中に入り込んだみたい。
そういえば私、踊れないわ。
ワルツは高校生の体育の時間に習ったけど、あれとは全然違う風に見える。
立場上、踊らなくていいって言われていたし、特に気にしていなかったけど、
習っておいた方がいいのだろうか。マナー講師さんにお願いしようかな。
グレンさんに手を引かれ、様々な料理があるテーブルの前で足を止める。
「うわ~、豪華。色とりどりで綺麗。オードブルパーティー形式なんだね」
「食べてみる?君の料理よりは味気ないけど」
「あ、ワインもある」
「サトミは駄目」
「え、何で?」
「ダメったら駄目。サトミ、酒に弱い自覚ある?」
「…砂漠村の風呂事件のこと?」
「そう」
「ちぇ~…」
遠巻きにチラチラ見られていたが、
思ったより祝賀会では、誰にも絡まれなかった。
常に私を囲うように守ってくれてる、北の騎士団員達のお陰だが。
いくつかお皿に盛り付けて、口に運びムグムグしたが、確かに…物足りない。
何だろう…素材生かし切れてないっていうか…などと思考していると、
やたら王子を勧めてくる宰相が近づいてきた。
この人は、セオドア様のお父様で、エダーヴァルト宰相。
グレンさんも警戒している人で、その人に向き直り、
私の盾になって、代わりに挨拶をして話し相手になってくれていた。
ふと横を見ると、いつの間に来たのか、
ヴァニティーナ王女殿下が皿を持って少し離れた所に立っていた。
一瞬天敵に出会った気分になり、ピクリと肩が揺れる。
びっくりした…ああ、食事をしに来ただけか。
こちらに目も向けないし、そんなに警戒する必要もないかな。
会場の出入り口から、仕事があって遅れて入場してきた、
ステラ様とセオドア様の姿が見えた。
二人に手を振ろうと皿を置いたら、ステラ様が目を見開きこちらに走ってくる。
どうしたのだろうと彼らを見ていると、目の前に王女が無表情で立っていた。
いつの間に、こんな近くに…
そして、チクリと手に痛みが走り、痛みの先に目を向けると、
私の手の甲に、赤い丸い小さな玉が浮かんでいる。
これ…血?
王女は手に、あの小さな短剣を持っていた。
何?この人…私を…刺したの?
こんなオモチャみたいな短剣で…一体なんの、つもりで…
「サトミさん‼︎ 」
グラリと視界が歪んで、私は膝から崩れ落ちた。
私の名を呼びながら、走り寄ってくるステラ様の声に、
隣にいたグレンさんが振り向き、近くにいた王女を見てギョッとする。
私は目眩が酷くて、その場で蹲った。
何?これ…気持ち悪い…まさか…毒?
いいえ、違う、…これは……これは…
そして、視界が暗くなり、誰かが私を後ろから抱き込んだ。
…グレンさん?
「サトミッ‼︎ 」
グレンさんは目の前に居て、私の方に手を伸ばしている。
え…?じゃあ、今、後ろにいるのは……
慌てて彼の方へ手を伸ばす。
軽く指先が触れた瞬間───────。
「グレンさ
シュンッ‼︎
突然現れた、
黒いローブの人物に抱き込まれ、
その人物と共に、
サトミは姿を消した。




