転移魔獣と再接続
嘘…なに…これ…
ゾワリと身体中が総毛立つ。ドクドクと心臓が大きく早鐘を打っている。
よく見るとサイラスさんは、
左胸に魔獣の角で貫かれて、真っ赤に染まっていた。
その、位置…心臓なんじゃ…?
嘘、嘘、嘘、嘘 ‼︎
私を庇って…私のせいでっ…
咆哮をあげて、再び噛み殺そうとしてくる魔獣に向けて、
恐怖より怒りが込み上げてきて、魔獣に向けて神聖力を放った。
「うるさいっ!あっち行け‼︎ 」
光の柱に貫かれ断末魔をあげながら、魔獣はあっけなく黒い煙になって消えた。
ああ、もっと、もっと私が早く対応できていれば…
な、なんで何もなかった空間から突然現れたの?
全然気配が無かったのに…どういうこと?
こんな、こんな魔獣がいるなんてっ。
そんなことより、サイラスさんの治癒…
でも…腕は?…腕はどうしたらいい?
欠損って元に戻るの?
「ははっ、相変わらず神聖力ってすげぇな……っ、…大丈夫か?サトミちゃん」
「う、うん。でも、サ、サイラスさん、腕がっ…胸に角が…」
「転移してきたんだ。あの魔獣…」
「え?」
「転移してきた…いや、転移させられたのか…?
意図的にサトミちゃんを狙って、真っ直ぐ向かってきていた」
そんな会話をしているうちに、サイラスさんの腕から血が滴り落ちる。
サイラスさんは、私を噛み殺そうとした、魔獣の口に右腕を出して私を庇い、
さらに正面から角で心臓を貫かれたのだ。
「おっと、止血しないとな…」
戯けながらサイラスさんはそう言うと、切断面の出血が止まった。
なんでこの人は、心臓刺されて腕が飛んでるのに、
平気そうに飄々としてるんだ?
混乱して動揺しながらも、私は疑問に思った。
「サイラスさん、あの、痛いでしょ?待って今、今治癒するからっ」
「大丈夫だ。俺は身体強化能力保持者だ。
切断された部分も止血できるし、痛みも消せる。
それに、魔獣の角に心臓を貫かれたけど、
サトミちゃんの身代わり魔石のお陰で命を落とさずにすんだ。
四肢の欠損は、いくら君が聖女でも不可能だ。
魔力の無駄使いするな」
「え?あっ、そっか!身代わりの魔石が働いてくれたんだっ!よ、良かった。
でも、腕、右腕……利き腕なのに…」
「心配するな。腕がなくても生きていける。
それに、俺はいつでも死ぬ覚悟は出来ているから、
サトミちゃんが気に病む必要はない」
「だめっ、死ぬなんて…ダメだよ、そんなのっ、そんな事言っちゃダメ!」
腕をどうしようか、頭をフル回転して考えていると、
自分の世界の医療技術を思い出していた。
…再接続できる、かもしれない…
そこに、グレンさんとレイさんが、騎士塔から飛び出すように
こちらに走ってきた。レイさんが瘴気と私の魔力を探知したんだろう。
「サトミ、サイラス!無事か?レイから言われて、急いで来たのだが…」
「なんでいきなり瘴気が…二人とも大丈夫か?おい、なんだ、その血!」
「グレンさん、あのっサイラスさんの腕、腕拾って持ってきてください!
そ、そこにあるので…」
「は?…腕? どこに………なんて、ことだ…」
一瞬驚いた顔をしていたが、
グレンさんは、急いで落ちているサイラスさんの腕を拾ってきてくれた。
私は小刻みに震える体を押さえながら、矢継ぎ早にお願いをした。
「それと、サイラスさんの腕に凍結魔法の保護をお願いします!
私が、私が、腕を再接続するからっ」
「あ?ああ…わかった…再接続?…それより何があった?」
「さっき、いきなり何もない空間から魔獣が現れたんです!
私を庇って…私のせいでっ、サイラスさんがっ、サイラスさんがこんな…」
「転移してきたんだ。あんなの俺も初めて見た。だから対応が遅れてこのザマ。
サトミちゃんを明らかに標的にしていたな」
「転移だと?なんだっ、それは」
「それに、さっき言っていた再接続ってなんだ?サトミさん。
もしかして、腕を繋げられるの?」
「はい、レイさん。多分出来ると…とにかくやってみます。
でも、ここじゃ傷口に雑菌が入るし…早く医務室に…先にサイラスさんの
腕の傷口の消毒をお願いします」
「分かった。詳しい話は後にしよう、サイラス動けるか?」
「おう、全然大丈夫だ。あ、団長、腕自分で持つわ」
「なんだ、このシュールな光景は…」
「俺も自分の腕なんて持ったの初めてだよ。はっはっは」
* * * * * * *
彼女の無事を確かめて、浅く息を吐く。
ひとまず危機は脱したか…。
「あ~あ、やっぱダメだったなぁ。やるねぇ、北のナンバー3」
「腕の欠損は、もう戦力外だろう。ふん、ひとまずこれでいい。
最強部隊の上層部の一人を潰せたんだ。
本当は聖女を始末したかったが、これはこれで僥倖だろう」
「さあ、どうかねぇ?」
「トウジ、貴様いつまでも反抗的だな。命が惜しくないのか?」
「いつまで、こんなコソコソ攻撃すんの?みみっちぃ」
「黙れ!いつまでも口の減らない奴だ。また窒息させられたいのか?」
「はいはい、うっせぇなぁ~」
転移させる時、俺が遅らせたのは、ほんのコンマ一秒だ。
それ以上やると、こっちのお偉方に気取られてしまうからな。
それに反応して、姫さんを守ったあの騎士の瞬発力。
勿体ねぇな…片腕じゃ、もう騎士は無理か…。
いくら聖女でも、欠損をどうにか出来るはずねぇし…
………そう、だよな?……
いや、姫さんは規格外だ。
もしかしたら…もしかするかもなぁ…?
とりあえず、最悪にはならなかったが…
でも次会った時に、あの実直なお姫様は、超ご立腹だろうな…あ~あ。
* * * * * * *
「じゃあ、始めますね…」
「ああ、いつでもいいぜ」
サイラスさんにベットに横になって貰い、腕の支えをレイさんにお願いして、
私は、そこに神聖力を流し始めた。
化膿しないように、傷口の細菌を死滅させて…傷口を塞いで…
よし、次は…切断された骨を結合形成………
神経と血管と関節…筋肉繊維を接続して…少し…少しずつ…
焦らないで丁寧に…一つづつ………慎重に………
切断されて、欠損した真皮組織を補充して…
これで肉芽組織に表皮細胞が移動していくのを更に促進。
最後に、傷ついた細胞を戻して…
それらを定着させるために、暗黒力も少し流す…と…。
…多分、これで大丈夫…かな…?…
一度細胞が傷ついてるから、体が自動修復しようと、
炎症が起こるかもしれない…暗黒力で落ち着かせてるから大丈夫だと思うけど…
念の為、サイラスさんには今日は安静にしてもらおう。
時間にして10分位だったが、凄い集中力と魔力量で私はクタクタだった。
気がついたら、顔にいく筋も汗が伝っている。
私は大きく息を吐き、サイラスさんの様子を見る。
顔色は…大丈夫みたい。
「…多分、これで上手くいったと思う…サイラスさん、腕動くかな?」
「あ?ああ……おおおおっ、すげぇな!普通に違和感なく動くぞ!
すごく腕が温かい。驚いた…本当に君は規格外だな。
ありがとうな、サトミちゃん!」
「ううん。私こそ。守ってくれてありがとう。
良かったぁ~、治って…」
見守っていた、グレンさんとレイさんの表情が驚愕に変わっていく。
「欠損を修復して接続できるなんて…こんなの、聞いたことないぞ…団長」
「ああ、俺も驚いてる」
「君は、どこまで実現可能なんだ?サトミさん」
「わかりません…私も初めての試みだったので…正直半信半疑だったんです。
私の世界でも、医療技術では再接続は可能なんです。
だから…出来るかなって、勝手に思い込んでやってみただけなんですけど…」
「サトミの世界は、どれだけ発展しているんだ?」
「死者も蘇らせたり、しないよな」
「あははっ、それは流石に無理です!こちらより色々発展してますけどっ!」
「流石に、これは箝口令が必要だ。王家が益々サトミに執着しそうで嫌だが…」
「そうだな、他にあの現場を見たものは居ないな?サイラス」
「ああ、レイ。俺とサトミちゃんだけだった。…だから、狙われたのかもな」
「今回の転移魔獣は、国境に神聖力魔石があるせいで、
いつもの襲撃が出来なくて、この手段に出てきたんだろう。
例の赤毛の諜報員の接触の可能性の件もあるし…
今度から騎士塔の外では、サトミには常時2名の騎士を付ける。
サイラス、体調が良くなったら状況の詳細を聞かせてくれ」
「了解、グレン団長」
「え…騎士2名?めんどくさ…」
「サトミ?」
「はいっ、わかりましたっ!」
「しかし、守りを硬くすればするほど、色んな手を次から次へと…
魔獣を転移させるなんて…魔力活用の手段が予想外すぎて油断ならないな。
俺の探知も急襲には、余り役に立たないし…」
「そうだな。逆に考えれば、相手の手札をこちらが次々潰している現状だ。
だから、追い詰められて必死なんだろう。
今後、予測不可能な的を絞った襲撃が増えるだろうな」
「サトミちゃんの存在を完全に認識して、狙ってきている。
あちらにとっては、相当都合が悪い存在なんだな」
「ああ……サトミにも先に状況の詳細を聞きたい。
陛下やステラ師団長、セオドア文官にも報告義務があるからね」
「は~い。あの…食堂の夕食作った後でいいですか?」
「君って人は…ふふっ、分かった」
* * * * * * *
「あ、これ、まだこんなにあるんだ…」
夕食の下ごしらえを済まして、余った食材を仕舞いに入った保存庫で、
大量に積み上げられた、南の辺境騎士団からの御礼の大量の品を見つめる。
見かけも味も、私の世界でいうマンゴーそのものだった。
名前はゴンリーっていうらしい。微妙に名前が違うのがあって少し混乱する。
これ、美味しいけど…多すぎなんだよなぁ。
切ってデザートとして食堂でも出していたが、全然消費できない。
…いっそ、シャーベットにするか…
さっきの魔力消費で、体が暑いし冷たいの食べたい。
私は調理場の片隅で、それを半冷凍状態に魔法をかけて、
それを潰してシャリシャリ状態に潰していた。
「お?何だ、何だ。また何か面白いことしてるな」
「あ、ジンさんいい所に。味見して貰えません?
ゴンリーを凍らせて潰しただけですけど…」
「…ほお?凍らせ、た?」
「はい、私の世界ではシャーベットって言うんですけどね。はい、どうぞ」
「おお、シャリシャリしてるぞ…どれ…」
冷たいのが予想外だったのか、ジンさんは目を見開き、
口を押さえて、悶えながら変な動きをした。
そして、私の方へ向き直り、驚愕した顔で口を開く。
「な、なんだ、これ!こんな食感の食べたことねぇ!しかも美味い!
これ暑い日は、体が冷えていいな!」
「えーと…デザートに出していい?」
「おお、いいぞ!こりゃ団員の反応が楽しみだ!」
「えー何、何?何騒いでんの?あ、サトミさん、また何か新しいメニュー?」
「うん、調理担当のみんなも味見してくれる?
南の騎士団から御礼のゴンリーで作ったデザートなんだけど」
「うわー久しぶりの新メニュー!食べる食べる!」
そして、みんな口を押さえて、悶えながら変な動きをして感動していた。
この世界では、氷は飲み物に入れるだけで、こんな風に食べるのはないらしい。
そういえば、ここでアイス見たことないもんなぁ…
そのうち、かき氷とかアイスクリンとか作りたいかも。




