遠征最後の村
水の都で食べた、久しぶりのピザはめちゃくちゃ美味しかった。
トマトソースベースで、チーズたっぷり。
色んな種類があって、大体前の世界と似た組み合わせの具材だったが、
フルーツをのせたピザは初めてで斬新だった。
リンゴと桃とベリーのトッピングには、おったまげたが、
意外とちゃんと美味しくて、それにも衝撃を受けた。
そして私は後日、個人的に通って食べまくってしまった。
少し体重が心配になったが、ダイエットすればいいのだ。
私が過剰に喜んだせいで、聖女様お気に入りのピザ屋として有名になり、
以前より混雑しているそうだ。
そして、水の都を一週間滞在して、私たちは領主と村民、
名残惜しそうなブルー騎士に見送られて村を後にした。
その後、6日程の野営をして、
半年間続いた土地浄化遠征の最後の村にたどり着いた。
「この村は、岩を切り出して住居にしている洞窟みたいな村ですねぇ」
「同じ国内なのに、色んな文化があって面白いね。
ガレリアって本当に広大な国なんだ」
砂漠村と追放村とは、また違う制約のある土地のようだ。
山を越えると岩だらけの一見不毛の地に見える村だけど、
近づくと、岩と一体化したような家々が見えてきて驚いた。
凄い…彫刻みたい…凝った作りに感心していると、
2階建てでベランダまであって、なかなか住み心地が良さそうな作りだった。
面白いのは、屋根の部分が森林になっていることだ。
上だけ自然が残っていて、中身は住居になっている。
岩で切り出した階段が作ってあり、それを登っていくと屋根の部分へ行けて、
農作物の畑らしき物や花畑も見えている。
まるで、マインクラフトの現実化しみたいな建物だ。
「意外と賢いかもしれないですねぇ、この作り方。材料いりませんから」
「確かに…削りすぎたら、取り返しつかなくて大変そうだけど…」
「地盤落ちてきたりしないんでしょうか…少し心配になりますねぇ」
「一応補強らしき木材の梁が見えるから、見掛けより頑丈そうだよ?
ほら、あそこ、見える?」
「あら~…本当…凄いですねぇ」
皆ぽかんと口を開けながら道を進み、領主邸に到着。
ここも勿論、巨大岩を切り出した住居で、
ローマのコロッセオのような外観のその迫力満点さに、また口が開いた。
そして、建物とは正反対の奥ゆかそうな領主と挨拶を済ませて宿に向かう。
宿も岩から切り出した建物だった。
四角い単調な形だったが、内装は普通の家と変わらない装飾で、
ベットも天蓋付きの立派な物を置いてあり、何とも不思議な空間。
室内に岩剥き出しの切り出した階段があり、中二階かな?と登って見てみると
洗面所と内風呂とトイレだった。毎回ここを使用するたび、
ステージから降りてくるスター気分になり少し楽しかった。
廊下や階段も部分的に切り出し岩が剥き出しになっている所もあり、
宿の地下にある大浴場も洞窟状で、まるで洞窟探検しているみたいで、
私は終始ワクワクして興奮していた。
こうして自然と一体化した、なんともワイルドな宿に宿泊することになった。
* * * * * * *
次の日から、先に怪我人の治癒を優先して行うことになった。
この村は一番瘴気の被害が多く、小さめの範囲だったが、
あちこちに何箇所も土地浄化場所があり、負傷した人も多かった。
なので、滞在は長めの2週間。
「ありがとうよ、嬢ちゃんじゃなかった、聖女様だったな。すまんすまん」
「いいえ。魔力以外は、私も皆さんと同じ人間なので、畏まらないでください」
「はははっ。気さくな聖女様だな。
しかし、すげぇな神聖力ってのは…瘴気が消滅するの初めてみたぜ」
「え~、次の方がお待ちなので、交代していただいてよろしいでしょうか?
治癒が必要な方が、まだまだいらっしゃいますので…」
「ああ、そっか悪ぃ悪ぃ。ありがとうよ聖女様!」
「ふふっ、お大事に〜」
「……一々受け答えしなくて結構ですよ。私が相手しますから」
「はい、セオドア様」
「今回は自警団の怪我人ばかりのせいか、少々気安い方が多いですね…
下心は無さそうですが…」
「サトミに無体な真似をしたら、速攻切り捨てるから心配無用だ」
「グレンさーん?」
怪我人の治癒に5日間かかり、何とか終えた。
本当は1日で出来るのだが、そんな人間離れした万能さを披露してしまうのは、
危険なので1日10人までと、セオドア様とステラ様が制限したせいだった。
* * * * * * *
「これ、全部サトウキビ畑なんですか?」
「ええ、この村のメインの特産なのです。
国内の4割の砂糖を担っています」
土地浄化も無事終わり、村の特産サトウキビ畑を領主が案内をしてくれた。
サトウキビ畑は、普通の作りではなかった。
まるで日本の段々畑だった。
階段状に山を切り開き、上から階段から降りるように
順番に収穫していく、実に効率的な構造だ。
岩を切り出して住居を作り出す事といい、
この村の人々は、なかなか遊び心があり面白いことをする。
「…壮観な眺めです…貴重な収入源なんですね」
「はい。生活がかかっているので皆必死です。
魔獣に作物を駄目にされたくないですからね」
「勇敢な方が多いから、怪我人があんなに?」
「お恥ずかしながら、血の気が多いのか…止めても突っ込んで行って
しまうのですよ。なので、怪我をさせないように一般市民でも戦い方を
学ばせるために、自由兵役で軍務訓練を行なっています。
ほとんど全員志願してますがね」
「あ、それでこの村の方々は、体が大きな人が沢山いらっしゃるのですね…」
「はい。この村の男連中は、傭兵と同じくらいの戦力を持ってます」
「ふふふっ、頼もしい自警団ですね。最近の魔物出現率はどうですか?」
「まったく見なくなりました。お陰様で大豊作です。
聖女様が、何か対策を?」
「ん~…私だけじゃありません、とだけ」
「何はともあれ、ありがたいですよ。
この平和が子供達が大人になるまで、ずっと続くよう願うばかりです」
「そうでね。そうであるように、尽力します」
「こんな辺鄙な村にまで、足を運んでいただいた上に、
浄化も怪我も治していただいて…本当にありがとうございました。
感謝してもしきれないです」
嬉しそうに微笑む領主の顔を見て、
私は、この世界で聖女としての役割を少しだけ誇れるようになった。
* * * * * * *
僻地と思いきや、意外と農作物は育つようで、
サトウキビの次に多いのが小麦畑だった。
そして、様々な種類のパンがお店に並んでいた。
珍しいパンが多くて、いくつか買って宿に持ち帰る。
この世界のパンは、基本固くてパサパサだった。
ここも例外ではないが、クロワッサンのようなバターたっぷりのパンや
角切りチーズ入りパンなどがあり、他の村よりは美味しいパンを
作ろうとしている工夫が見える。
他にソーセージやサラミが特産品で、専門店が沢山あった。
洞窟内で畜産を営んでおり、外敵から守れるから育てやすいらしい。
土地浄化が終わり、宿に帰ってきたらエリカさんが両手いっぱいに
お土産を抱えて帰ってきていた。
「さっき、向かえの特産品店でお土産沢山買ってきましたぁ。
ソーセージとサラミ!色んな種類があって美味しそうでしたよぉ」
「え、本当?」
「ハーブとか、リンゴとか、見たことないのが沢山でしたぁ〜」
「えっ!なにそれ、凄く欲しい!ちょっと行ってくる!
グレンさん、一緒に付き合って!」
「え?あ、うん」
目が点になってるグレンさんをズルズル引きずり、特産品店へ突撃した。
そして目移りしまくり、ハイテンションで大量のサラミとソーセージを
購入したのは言うまでもない。
そして、領主様に浄化の御礼にと例のコロッセオのような外観の邸に
招待されて晩餐を御馳走になった。
今までの村のような砕けた食事会ではなく、畏った雰囲気で少々緊張したが、
前菜からメイン、デザートとフルコースの食事を美味しくいただいた。
ワインを頂こうとしたら、なぜかグレンさんに頑なに反対され、
理由を聞いても目を逸らして、はぐらかされ私は憮然とした。
そして、ここを最後に北の辺境の騎士塔に帰還することになる。
だから、みんな少し気持ちが浮き足立っていた。
最後に訪れた、この村の人達の明るさのおかげで、
いい気分のまま余韻にひたった状態で幕を引ける。
この遠征で、この国の雰囲気や現状が知れて勉強になったし楽しかった。
5年周期で浄化遠征はやるみたいだけど、私は次も楽しみになっていた。
後は、北の辺境の騎士塔に帰還するだけ。
1週間の野営になるが、
それもまた楽しい思い出になるだろう。




