雨夜に救ってくれた高嶺の花、俺を手放す気ゼロで独占欲が重すぎる
如月先輩の家で迎えた夜は、静かすぎて逆に心臓の音がうるさかった。
リビングのソファに座る俺の前で、先輩は湯気の立つマグカップを置いた。
「飲んで。温まるわ」
その声はいつも通り冷たく聞こえるのに、どこか甘い。
俺のために用意されたホットミルクは、妙に優しい匂いがした。
「……ありがとうございます」
「礼なんていらないわ。私はしたいからしてるだけ」
先輩は俺の隣に座り、距離を詰めてくる。
肩が触れそうなほど近い。
「藤崎くん。今日は、ちゃんと眠れる?」
「……正直、わかりません」
「そう。じゃあ眠れるまで、私がそばにいる」
その言葉は、胸の奥にじんわり染み込んだ。
リナに捨てられた直後の俺には、あまりにも優しすぎる。
「……先輩、なんでそこまでしてくれるんですか」
「理由が必要?」
「普通は……必要じゃないですか」
「私は普通じゃないわ」
先輩は俺の手をそっと握った。
その手は細いのに、逃がさない強さがあった。
「藤崎くん。あなたはね……私にとって特別なの」
「特別……?」
「ええ。あなたは自分で気づいてないけど、私はずっと見てたのよ」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「リナに振り回されてるときも、
ひとりで帰ってるときも、
誰にも気づかれずに頑張ってるときも」
先輩は俺の手をぎゅっと握りしめた。
「あなたは、誰かに大切にされるべき人なのよ」
その言葉は、リナに言われたどんな言葉よりも重かった。
「……でも俺、振られたばっかりで」
「関係ないわ」
先輩は即答した。
「あなたが誰に捨てられようと、私はあなたを捨てない」
その強さに、思わず息を呑んだ。
「藤崎くん。あなたは……私が守る」
その言葉は、優しさと同時に“決意”のようなものを感じさせた。
そのとき、スマホが震えた。
画面には、見たくなかった名前。
『リナ:ちょっと話せる?』
胸がざわついた。
先輩は俺の表情を見て、すぐに察した。
「……あの子?」
「はい……」
「開いて」
「え?」
「いいから」
言われるままメッセージを開く。
『神谷、マジで最低なんだけど。
今日も他の女とLINEしててさ。
なんかもうムカつく。
恒太、話聞いてよ』
胸が冷たくなる。
リナは、もう俺の彼女じゃない。
でも、俺を“便利な相談相手”として扱おうとしている。
先輩は画面を覗き込み、静かに言った。
「……最低なのは、あの子よ」
「先輩……」
「藤崎くん。あなたはね、あの子にとって“都合のいい存在”だったの」
その言葉は痛いほど正しかった。
「でも私は違う」
先輩は俺のスマホをそっと閉じた。
「あなたを傷つける人間を、私は許さない」
その声は低く、静かで、どこか怖いほどの熱を帯びていた。
「藤崎くん。あなたは……私が守る」
その言葉は二度目なのに、重さが違った。
「リナのところに戻る必要なんてない。
あの子はあなたを大切にしなかった。
でも私は違う」
先輩は俺の手を両手で包み込んだ。
「あなたが泣くなら、私が拭く。
あなたが倒れるなら、私が支える。
あなたが傷つくなら、私が抱きしめる」
その言葉は、優しさというより“宣言”だった。
「藤崎くん。あなたはもう……私のものよ」
心臓が大きく跳ねた。
「え……?」
「勘違いしないで。
あなたを縛るつもりはないわ。
でも、あなたを傷つける人間からは、私が守る」
先輩は俺の肩にそっと頭を預けた。
「だから今日は……帰らないで」
その声は震えていた。
「あなたがいなくなったら……私、耐えられない」
その言葉に、胸が熱くなった。
「先輩……」
「藤崎くん。お願い。
今日は……私のそばにいて」
その必死な声に、俺はゆっくりと頷いた。
「……はい」
先輩は安堵したように微笑んだ。
「よかった……」
その笑顔は、リナのどんな笑顔よりも綺麗だった。
「藤崎くん。あなたはね……」
先輩は俺の手を握りしめたまま、静かに言った。
「私が、ずっと欲しかった人なの」
その言葉は、雨の夜に溶けるように優しかった。
――その瞬間だった。
玄関のチャイムが鳴った。
先輩は一瞬だけ表情を曇らせた。
「……誰?」
「わからないです」
先輩は立ち上がり、玄関へ向かった。
俺も後ろからついていく。
ドアを開けた瞬間、最悪の人物が立っていた。
「よォ、藤崎」
神谷だった。
濡れた髪をかき上げ、イケメンの顔に不敵な笑みを浮かべている。
その後ろには、泣き腫らした目のリナ。
「……なんでここに」
「リナが泣いてんだよ。
“恒太が無視する”ってな」
神谷は俺を見下すように笑った。
「お前さ、フラれたくせに元カノ無視とか、男としてどうなん?」
胸がざわついた。
リナは俺を見て、震える声で言った。
「恒太……話、聞いてよ……」
その瞬間、如月先輩が俺の前に立った。
「帰って」
その声は、氷のように冷たかった。
「は? 誰だよお前」
「この家の住人よ。
そして――藤崎くんを守る人間」
先輩は一歩前に出た。
「あなたたちの相手をする気はないわ。
藤崎くんは、もうあなたたちの世界には戻らない」
「は? 何言って――」
「帰れと言ったの。
聞こえなかった?」
その迫力に、神谷が一瞬たじろいだ。
リナは泣きながら言った。
「恒太……お願い、話だけでも……」
俺は口を開きかけたが、先輩がそっと俺の手を握った。
「藤崎くん。
あなたはもう、あの子に傷つけられる必要はないわ」
その言葉に、胸が熱くなった。
俺はゆっくりと首を振った。
「……帰ってくれ。
俺は、もうそっちには戻らない」
リナの顔が歪んだ。
「なんで……なんでよ……!」
神谷は舌打ちし、リナの腕を乱暴に引っ張った。
「行くぞ。
こんな陰キャに構ってんじゃねぇよ」
「やめて! 痛いってば!」
二人は雨の中へ消えていった。
ドアが閉まると、先輩は俺の手を強く握った。
「藤崎くん。
あなたは正しい選択をしたわ」
その声は震えていた。
「……怖かったんですか?」
「ええ。
あなたがあの子の方へ行ってしまうんじゃないかって……
怖くて、胸が苦しかった」
先輩は俺の胸に顔を埋めた。
「藤崎くん。
私はあなたを……絶対に手放さない」
その言葉は、優しさと執着が混ざった“本気”だった。
俺はそっと先輩の背中に手を回した。
「……俺も、先輩のそばにいたいです」
先輩は震える声で言った。
「ありがとう……藤崎くん……」
その夜、俺は初めて知った。
“誰かに必要とされる”という感覚を。
そして――
如月先輩の溺愛は、ここからさらに加速していく。
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また、別の作品でファンタジー日間227位をとれました。
とても頑張った作品なので、そちらもぜひ御覧ください。




