表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/50

電気を消したあと、眠れない澪が「起きてる?」って囁いてきたので、朝までずっと幸せでした

「うん、話そう」


そう返すと、 暗闇の中で澪が小さく息をついたのがわかった。

その気配だけで、 すぐ近くに澪がいることを改めて実感する。

つないだ手はまだ離れていなくて、 指先に伝わるぬくもりがやさしかった。


「……なんかね、 ほんとに眠れなくて」


澪の声は、 昼間よりずっと小さくて、 でもそのぶん甘かった。


「隣にあなたがいるって思うと、 うれしいのに、 どきどきして」


そんなふうに言われたら、 こっちだって平気でいられるわけがない。


「俺もだよ」


そう答えると、 澪は少しだけ布団の中で動いて、 さっきより近くなった気がした。


「ほんと?」


「ほんと。 こんなに近くで寝るの、 やっぱり緊張する」


「……よかった」


その一言には、 安心したみたいな響きがあった。


しばらくのあいだ、 俺たちは暗闇の中で小さな声を交わした。

今日買った枕のこと、棚を組み立てたこと、歯ブラシを並べたときに澪がすごくうれしそうだったこと。

どれも今日の出来事なのに、 もう少し前のことみたいに感じる。


「今日ね、 洗面所で歯ブラシを並べたとき、 ちょっと泣きそうなくらいうれしかった」


澪がぽつりと言う。


「そんなに?」


「うん。 だって、 ほんとに二人分になったんだって思ったから」


その言葉が胸にしみる。 澪にとっても、 今日という日は特別だったのだとわかるからだ。


「俺も、 棚を見たときすごくうれしかった」


「棚?」


「うん。 あそこに俺のものが増えていくんだって思ったら、 なんか……ちゃんと居場所をもらえた気がして」


そう言うと、 澪はつないだ手をきゅっと握った。


「居場所、 これからもっと増やすから」


その声は、 暗闇の中でもわかるくらいやさしかった。


「マグカップも、 タオルも、 スリッパも。 少しずつ増やしていきたいの」


「そんなに増えたら、 ほんとに半分住んでるみたいになるな」


「……だめ?」


少し不安そうな声だった。


「だめじゃない。 むしろうれしい」


そう答えると、 澪はほっとしたように笑った気配を見せた。


「よかった」


それから少しだけ間があって、 澪がまた小さく囁く。


「ねえ」


「うん?」


「今日、 名前で呼んでくれたの、 すごくうれしかった」


その言葉に、 胸がまた熱くなる。


「俺も、 呼べてうれしかった」


「もう一回呼んで」


暗闇の中でそんなことを言われるのは、 反則みたいに甘かった。


「……澪」


呼ぶと、 すぐ隣で澪が小さく息をのむのがわかった。


「うん」


たったそれだけの返事なのに、 どうしようもなく愛しい。


「もう一回」


「澪」


「……ふふ」


澪は本当にうれしそうだった。

見えなくてもわかるくらい、 声がやわらかい。


「好きな呼ばれ方って、 こんなに違うのね」


「そんなに?」


「そんなに」


澪はそう言って、 今度は自分から少しだけ手を引き寄せてきた。

そのせいで、 肩が軽く触れ合う。


「近い」


思わずそう言うと、 澪はくすっと笑った。


「暗いから、 ちょっとくらいいいでしょ」


「理屈になってない」


「でも、 離れたくないの」


その一言で、 もう何も言えなくなる。


「……俺も」


そう返すと、 澪は満足したみたいに静かになった。

しばらくして、 会話の間隔が少しずつ長くなっていく。

眠気が来たというより、 安心して力が抜けてきたのだと思う。


「ねえ」


また澪が小さく呼ぶ。


「うん」


「明日、 一緒に大学行けるの、 ちょっと楽しみ」


その言葉に、 思わず笑みがこぼれる。


「俺も楽しみ」


「一緒に出るの、 なんか特別な感じする」


「たしかに」


「朝、 ちゃんと起こしてね」


「澪こそ起きてよ」


「起こしてくれたら起きる」


甘えるみたいな言い方に、 また胸がくすぐったくなる。


「じゃあ、 ちゃんと起こす」


「うん……お願い」


その声は、 もう少し眠たそうだった。


「おやすみ、 澪」


「……おやすみ」


今度こそ、 その声は本当に眠りに落ちる直前みたいにやわらかかった。

つないだ手はそのままで、 俺たちは少しずつ眠りに沈んでいった。


目が覚めたとき、 最初に感じたのはぬくもりだった。

まだ薄暗い朝の気配の中で、 俺の腕にやわらかな重みがある。

視線を落とすと、 澪がすぐそばで眠っていた。


いつの間にか、 つないでいた手はほどけていたけれど、 その代わりみたいに澪が少し寄ってきていて、 肩が触れ合っている。


寝顔は驚くほど無防備で、 昨日まで大学で見ていた澪とは少し違って見えた。

きれいで、 やわらかくて、 見ているだけで胸があたたかくなる。


「……澪」


小さく呼んでも、 もちろん起きない。 そのかわり、 少しだけ眉が動いて、 また安心したみたいに眠り続ける。

このままずっと見ていたくなるけれど、 そうもいかない。

今日は大学がある。

俺はそっと体を起こして、 澪の肩をやさしく揺らした。


「澪、 朝だよ」


「……ん……」


「起きないと遅れる」


「……あと五分」


寝起きの声は、 昨日の囁きよりさらに甘かった。


「五分したらもっと起きたくなくなるだろ」


「……じゃあ、 三分」


「減っただけで同じだよ」


そう言うと、 澪はうっすら目を開けた。 まだ眠そうなまま、 俺を見上げる。


「……ほんとに起こしてくれた」


「約束したから」


すると澪は、 少しだけ笑った。


「えらい」


「褒める前に起きて」


「うん……起きる」


そう言いながらも、 澪は布団をぎゅっと抱きしめていて、 まるで離れたくないみたいだった。

でも数秒後、 ようやく観念したように起き上がる。

寝ぐせのついた髪のまま、 ぼんやりしている姿が妙に可愛くて、 思わず笑ってしまった。


「なに?」


「いや、 朝の澪も可愛いなって」


言った瞬間、 澪は一気に目を覚ましたみたいに頬を赤くした。


「……朝からずるい」


「澪にだけは言われたくない」


そう返すと、 澪は少しだけ照れながら笑った。


朝の支度は、 昨日の夜とはまた違う意味で特別だった。

洗面所に並んだ歯ブラシを見て、 澪がまたうれしそうに目を細める。


「やっぱりいい」


「朝からそれ言うんだな」


「言うわよ。 だって好きなんだもの」


そう言って、 澪は自分の歯ブラシを手に取る。 その隣に俺の歯ブラシがある光景が、 もう自然に見え始めているのが不思議だった。

朝食は簡単にトーストとコーヒーだったけれど、 二人で向かい合って食べるだけで十分幸せだった。


「なんか、 ほんとに一緒に暮らしてるみたい」


澪がぽつりと言う。


「朝から破壊力あること言うな」


「本当のことだもの」


澪はそう言って笑い、 それから少しだけ真面目な顔になる。


「でも、 こういう朝、 またしたい」


その言葉に、 胸の奥がじんとした。


「またしよう」


「うん」


澪はうれしそうにうなずいた。


支度を終えて部屋を出るころには、 もうすっかりいつもの朝の時間だった。 でも、 気持ちは全然いつもじゃない。

玄関で靴を履いていると、 澪がふと俺の袖をつまむ。


「ねえ」


「うん?」


「大学まで、 一緒に歩くのうれしい」


その言い方があまりにも素直で、 胸がまたあたたかくなる。


「俺も」


そう答えると、 澪は満足そうに笑った。


マンションを出て、 朝の空気の中を並んで歩く。

昨日ここを一緒に帰ってきたときとは違って、 今日はここから一緒に出発する。

そのことが、 なんだかたまらなくうれしかった。


駅までの道でも、 澪は何度か俺のほうを見て笑った。

特別な話をしているわけじゃない。

今日の講義のこととか、 眠かったこととか、 そんな何気ない会話ばかりだ。

でも、 その全部が甘く感じる。


電車に乗って、 大学の最寄り駅で降りて、 キャンパスへ向かう道を二人で歩く。

見慣れたはずの景色なのに、 今日は少し違って見えた。

昨日の夜を知っているからだろう。


この隣にいる澪が、 ただの先輩じゃなくて、 俺の居場所を作ってくれた大切な人なんだと、 何度でも実感してしまう。

大学の門が見えてくると、 澪が少しだけ歩幅をゆるめた。


「着いちゃうね」


「そうだな」


「でも、 なんかうれしい」


「何が?」


「昨日の続きのまま、 今日が始まってる感じ」


その言葉に、 俺も自然と笑った。


たしかにそうだった。

お泊まり会は終わったのに、 幸せは終わっていない。

むしろそのまま朝へつながって、 今もまだ続いている。


そう思えることが、 どうしようもなくうれしかった。

澪は最後に小さく笑って、 俺のほうを見る。


「じゃあ、 今日も頑張ろうね」


「うん、 澪も」


名前で呼ぶと、 澪はやっぱり少しだけ照れた顔をした。

でもその表情は、 昨日の夜よりずっと幸せそうだった。


こうして、 甘すぎるお泊まりの翌朝は、 二人で大学に着くところまで、 やさしく続いていった。

もし『続きが読みたい』『応援してやるか』と思ってくださったら、下にある【ブックマークに追加】や【評価の★】をポチッと押していただけると、さらに順位が上がり執筆の物凄い励みになります!

また、別の作品でファンタジー日間116位をとれました。

とても頑張った作品なので、そちらもぜひ御覧ください。

また、この作品で日間18位、週間33位にランクインしました。

毎日18時10分と7時40分に投稿するのでぜひ見てください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ