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初めてのお泊まり会で、先輩が甘すぎる

「次はもっと甘やかす準備、しておくね」


澪先輩がそう言って微笑む。

その笑顔があまりにもやわらかくて、

胸の奥がじんわり熱くなった。


「もう十分甘やかされてますよ」


そう返すと、

先輩はくすっと笑って、

俺の髪をもう一度そっと撫でた。


「まだ足りないわ」


その言い方があまりにも自然で、

本気でそう思っているのが伝わってくる。

先輩は本当に、

俺を甘やかすことに迷いがない。

それが嬉しくて、

でも同時に照れくさくて、

どうしていいかわからなくなる。


ベッドの端に並んで座ったまま、

先輩は俺の肩に寄りかかっていた。

そのぬくもりが心地よくて、

離れたくないと思ってしまう。

しばらくそのまま静かな時間が流れて、

やがて先輩が小さく顔を上げた。


「ねえ、藤崎くん」


「はい」


「今日、このまま泊まっていくでしょう?」


あまりにも自然な口調だった。

まるで確認というより、

もう決まっていることをやさしく口にしたみたいな響きだった。


「……そのつもりです」


そう答えると、

先輩はほっとしたように笑った。


「よかった」


その一言が、

思っていた以上に嬉しい。

先輩は俺が泊まることを、

ちゃんと楽しみにしてくれている。

それが伝わるだけで、

胸の奥が甘く満たされていく。


「じゃあ、お泊まり会の準備しないとね」


「お泊まり会、ですか」


「そう。

せっかくなんだから、特別感ほしいでしょ?」


先輩はそう言って立ち上がると、

俺の手を取った。

指先が触れたと思った次の瞬間には、

自然な動きで恋人つなぎになる。

もう何度かしているはずなのに、

やっぱりそのたびに心臓が跳ねる。


「先輩、手……」


「だめ?」


「だめじゃないです」


「なら、このまま」


先輩は少しだけ得意そうに笑って、

そのまま俺をリビングへ連れていく。

手をつないだまま歩く部屋の中は、

さっきまでと同じはずなのに、

どこか違って見えた。

先輩の部屋なのに、

もう少しだけ自分の居場所になった気がする。



「まずは飲み物とお菓子かな」


キッチンの前で立ち止まりながら、

先輩は楽しそうに言った。


「映画でも見ながら、のんびりするの。

お泊まり会っぽいでしょう?」


「たしかに、ぽいですね」


「でしょ?」


先輩はうれしそうにうなずく。

それから、つないだ手を離さないまま

棚を開けようとして、少しだけ困った顔をした。


「……片手だとやりにくいわね」


「離します?」


そう聞くと、

先輩は一瞬だけ考えて、

それから首を横に振った。


「やっぱりやだ」


その返事が可愛すぎて、

思わず笑ってしまう。


「そんなにですか」


「そんなに」


先輩は真顔で言い切った。

そして少しだけ俺の手を揺らす。


「今日はいっぱいつないでたいの」


その言葉に、

胸の奥がまた熱くなる。

先輩は本当に、

こういう甘いことをまっすぐ言ってくる。


「じゃあ、俺が取りますよ。

何出せばいいですか?」


「クッキーの缶と、ポテトチップス。

あと、冷蔵庫の中にジュースあるから」


「了解です」


手をつないだまま、

俺が棚を開けてお菓子を取り出す。

その様子を見て、

先輩はなんだかすごく満足そうだった。


「こういうの、いいわね」


「何がですか?」


「一緒に準備してる感じ」


たしかに、

ただお菓子を出しているだけなのに、

妙に楽しい。

先輩と手をつないだまま、

同じことをしている。

それだけで、

何気ない時間が特別になる。



準備が終わると、

先輩はリビングのローテーブルにお菓子を並べ、

ソファに座って俺を見上げた。


「藤崎くん、こっち」


「はい」


隣に座ると、

先輩はすぐに俺の腕に抱きついた。

ぎゅっと、というほど強くはない。

でも離したくない気持ちが伝わるくらいには、

しっかりとした抱きつき方だった。


「先輩」


「なに?」


「今日はほんとに甘えんぼですね」


そう言うと、

先輩は少しだけ照れたように笑った。


「だって、お泊まり会だもの」


理由になっているようで、

なっていない。

でも先輩らしくて、

それがたまらなく愛しかった。


「嫌?」


「嫌なわけないです」


「よかった」


先輩はそう言って、

さらにぴったり寄り添ってくる。

腕に伝わるやわらかな体温に、

胸の鼓動が落ち着かない。


「映画、何見ます?」


「んー……あんまり難しくないやつがいい。

今日は、藤崎くんとくっついてのんびりしたいから」


その言い方が甘すぎて、

また顔が熱くなる。


「先輩、さらっとすごいこと言いますよね」


「本当のことだもの」


先輩は平然としている。

でも耳が少し赤い。

それを見つけると、

こっちだけが照れているわけじゃないんだとわかって、

少しだけ安心した。



映画を流し始めても、

先輩はほとんど画面を見ていなかった。

俺の腕に抱きついたまま、

ときどき肩に頭を預けたり、

指先を絡めてきたりする。


「先輩、映画見てます?」


「見てるわよ」


「絶対あんまり見てないですよね」


「……ちょっとしか見てないかも」


素直に認めて、

先輩はくすっと笑った。


「だって、藤崎くんが隣にいるほうが気になるんだもの」


そんなことを言われたら、

もう映画どころじゃなくなる。

先輩は俺の手を取って、

自分の膝の上にそっと乗せた。


「手、あったかい」


「先輩の手もです」


「ほんと?」


「はい」


そう答えると、

先輩は嬉しそうに指を絡めてくる。

そのまま、

俺の肩にこてんと頭を預けた。


「こうしてると、安心する」


小さな声だった。

でも、その一言がすごくうれしい。


「俺もです」


「うん」


先輩は満足そうに目を細める。

それから、

ふと思いついたみたいに顔を上げた。


「ねえ、藤崎くん」


「はい」


「ハグしてもいい?」


あまりにもまっすぐなお願いに、

一瞬だけ息が止まる。

でも、断る理由なんてどこにもなかった。


「……いいですよ」


そう答えた瞬間、

先輩は本当に嬉しそうに笑って、

そのまま両腕を伸ばしてきた。

俺も自然に受け止める。

ふわりと抱きしめた先輩の体はあたたかくて、

やわらかくて、

胸の奥までじんわり満たされていく。


「……ふふ」


耳元で、先輩が小さく笑う。


「これ、好き」


「俺もです」


「よかった」


先輩はそう言って、

俺の背中にそっと腕を回したまま、

しばらく離れなかった。

強く抱きしめるわけじゃない。

でも、ぬくもりを確かめるみたいに、

やさしく包み込んでくれる。


そのまま少し時間が過ぎて、

先輩はようやく顔を上げた。

でも腕はまだ離れない。


「もう一回してもいい?」


「先輩、今日ほんとに甘いですね」


「今日は特別」


そう言って笑う先輩が可愛くて、

俺は小さくうなずいた。


「何回でもどうぞ」


「……うれしい」


先輩は少しだけ頬を赤くして、

もう一度ぎゅっと抱きついてきた。

今度はさっきより少しだけ長く、

少しだけ深く。

それでもどこまでもやさしいハグだった。



映画が半分くらい進んだころには、

先輩はすっかり俺にもたれかかっていた。

片手はつないだまま、

もう片方の腕は俺の腰に回っている。

まるで離れる気がないみたいで、

そのことがどうしようもなく嬉しい。


「そろそろお風呂とか、順番決めます?」


そう聞くと、

先輩は少しだけ考えてから、

俺の肩に頬を寄せたまま答えた。


「……もうちょっとこうしてたい」


その声が甘くて、

思わず笑ってしまう。


「じゃあ、もうちょっとだけ」


「うん」


先輩は満足そうにうなずいて、

つないだ手をきゅっと握った。


お泊まり会は、まだ途中。

お菓子も残っているし、

映画もまだ終わっていない。

このあとお風呂に入って、

寝る前にまた少し話して、

きっとベッドに並ぶころには

今よりもっと胸がいっぱいになるんだろう。


でも今はまだ、

その少し手前の、

いちばん甘くてやさしい時間の中にいる。


先輩のぬくもりを腕の中に感じながら、

俺はそっと息をついた。

こんなお泊まり会なら、

何度でもしたくなる。


そしてたぶん先輩も、

同じことを思っている。


そう感じられるくらい、

澪先輩のハグも、手のぬくもりも、

今日はいつも以上に甘かった。

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