第9話 適正レベル
クロノはユーリの「見学したい」という頼みを了承することにした。
その代わり、あらかじめ条件を提示する。
「条件……ですか?」
「ああ。でもそんな難しいことじゃない『俺がどうやって情報を集めているのかは詮索しない。もし仮に知ってしまっても、それを口外しないこと』それだけ」
情報の入手限は未来の知識である。言ってもすぐには信じられないだろうが、クロノはそれを知られたくなかった。
「口外しない」ことを付け加えたのはもしもバレてしまった時の保険だ。
クロノの提示した条件にユーリはあまり納得していないようだった。
「でもそれじゃあ――」
――見学しても私は何も得られないです。
そう言おうとして口をつぐむ。無理なお願いをしているのは十分わかっていた。
一先ず今は、見学を許されたことを素直に喜ぶべきかもしれない。そんな考えが彼女の脳裏をよぎる。
――知りたいことを知るチャンスはいつか来るかも。
クロノの秘密を知っても、それを口外しなければいいのだ。「同じ方法で情報収集するな」という条件ではない。
目の前にいる相手がまさか未来人だとは思っていないユーリは少し悩んだ末に条件を飲んだ。
「それじゃあ、早速行こう。時間はあまり無駄にしたくないからね」
話は纏まった。そう言わんばかりにクロノは歩き出す。
まだ目的地すら聞いていないユーリは、せめてもう少し詳細を――と聞きたかったが、クロノがどんどん歩いて行ってしまうので、慌てて後を追いかけた。
♢
クロノがミアを連れて向かったのは「不帰の森」と呼ばれる狩場である。
適性レベルは42~45。まだ動画にはしていない、今のところクロノしか知らない狩場だ。
「ユーリさん、レベルはいくつ?」
「あ、ユーリでいいです。えっと、レベルは今28ですね」
狩場に到着するなりクロノが尋ねると、不帰の森の雰囲気に少し臆していたユーリはやや間を空けてから返答する。
――28か。案外高いな。
クロノは心の中でそんな感想を抱く。十年後、LEOの公式サポーターとして活躍する彼女は、レベルこそ上限まで上げていたが、前線に出てくるようなプレイヤーではなかった。
恐らくレベルは低いだろうと勝手に持っていたのだが、サービス開始から一か月で28レベルなら十分高い。
「でも、ここの適性レベルだと大分きついかもね。もしよかったら、パーティー登録する?」
LEOにはプレイヤー同士がチームを組む「パーティー登録」というシステムがある。これはギルドとは違い、もっと気軽に組める簡易的なチームアップという認識で、登録したプレイヤーは倒した魔物の経験値を共有できる。
「でもそれじゃあクロノさんに入る経験値が低くなるんじゃ……」
パーティーで共有する経験値の量は、魔物を倒した時にプレイヤーが取得する経験値を合計し、人数で割った値になる。
適性レベルに達しているクロノは不帰の森で多くの経験値を取得できるが、レベルの足らないユーリはそうはいかない。
プレイヤーのレベルが狩場の適性に合っていない場合、取得する経験値量に負の補正がかかってしまうのだ。
二人でパーティーを組んだ場合、取得経験値の合計を二人で割れば、ユーリは本来よりも多く経験値を取得できるが、クロノの経験値は少なくなってしまう。
「別にいいよ。一緒に行動するならその方がいいだろうし、そのうちユーリが俺のレベルに追いつけば、効率は上がるからね」
クロノは既に自分が45レベルになった時のことを考えていた。LEOのレベル上げは、レベルが上がるほど次のレベルまでの必要経験値量が跳ね上がり、大変になっていく。
ソロで効率よくレベルを上げられるのはせいぜい45レベルまでで、そこから先は一人だとキツイ。
レベルの上限は今後のアップデートで更新されて行き、採集目標のラスボスを倒す頃には95レベルに引き上げられる。
効率よくをレベルを上げるのなら、そろそろ仲間が欲しい頃合いだった。
――アレを頼むにしても、一緒にレベル上げするにしても、ユーリが信頼できるかどうか見極めないとな。
クロノは思い出したくもないリオウの顔を嫌々思い出しながら、そんなことを思った。
仲間は欲しいが、騙されるのはもう嫌だった。
ユーリが最低限信頼できるかどうか、クロノはそれを見極めるつもりだったのだ。
「でも、どうしてそんなにレベル上げを急いでいるんですか?」
不意にユーリが尋ねる。45レベル以降だと効率が悪くなる話は聞いた。しかし、クロノなら一人でも50レベルまでは到達できるのではないか。そんな気がしたのだ。
「ああ、それは――」
言いかけたのは「近々最初のアップデートが来る」という情報だった。
レベル上限解放のアプデではないが、50レベルに達したプレイヤー向けコンテンツの追加アプデだ。
その追加コンテンツにいち早く挑むために、早々にレベルを上げる必要がある。
そう口走りそうになって慌ててやめる。そんな情報をただのプレイヤーが知っているわけがない。
――発言には十分気を付けないと。
今一度自分を戒める。
「それは?」
「え? あ、ああ。いや、何でもない。そろそろレベル上げを始めようか」
下手に言い訳をすると余計怪しくなりそうだった。クロノは妙な口調で取り繕い、なんとかごまかして不帰の森に入っていく。
ユーリはまだ納得はしていなかったが、それでもクロノの後に続いた。
不意にクロノが振り返る。
「そうだ。もしスキルポイントが余っていたら、『感覚強化』ってスキルを取得しておいて。それがあるのとないのとじゃ効率が全然違うから」
ごまかすためではなく、大真面目に、クロノはそんな意味深な言葉をユーリに伝えた。
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