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第8話 いずれ有名な配信者

 銀髪の長い髪、ファンタジーのエルフを思わせる白い肌と長い耳。美少女アバターと言って相違ない外見の少女を前に、クロノは「見覚え」の理由を探った。


 未来のどこかで会ったのだろうか。紅の探究者のメンバーではないし、その他に交流のあったプレイヤーはほとんどいない。ましてや女性プレイヤーなんて――。


 目の前にリオウがいることを言っとき忘れて、クロノは自分の記憶を遡った。しかし、リオウの方は会話の邪魔をされて少しムッとしたらしい。


 外面を取り繕う普段の彼らしくはない少し棘のある言い方で、


「誰だい君は?」


 と少女に尋ねる。一方、少女の方も中々胆力のある性格のようで、リオウの言葉を無視して──というかそもそも眼中にないといった様子でクロノの方へ歩み寄った。


「あの、クロノさんですよね? 私、ユーリって言います。動画を見て、あなたを探していたんです」


 ユーリ。――その名前を聞いてクロノはようやく思い出す。十年後、LEOの公式サポーターとして売れに売れた配信者の名前だ。


 言われてみると、LEOの公式配信で見る顔にそっくりのアバターだった。リオウは彼女のファンを公言していたはずだが、今はまるで知らない様子だ。


 ――もしかして、今はまだ売れていないのかもな。


 ユーリは昔、駆け出しのネットアイドルだった――紅の探究者のメンバーがそんな話をしていたのを思い出す。今がちょうどその「駆け出し」の時なのだろう。


「あ、あー! ユーリさんね。はいはい、さっき連絡を貰った――」


 どちらにせよいいタイミングだ。この状況を上手く使わない手はない。


 クロノはすかさずユーリの手を取った。それからリオウの方に向き直り、


「すいません。どなたか知りませんが約束があるんで――」


 と勢いそのままに断りを入れ、ユーリの手を半ば強引に引っ張ってその場を去る。


 ユーリは突然のことに理解が追い付いていないらしく、「え? え?」と短く声を上げながらクロノに引きずられていく。


 もちろん約束などしていない。咄嗟に出た方便だ。しかし、そうでも言わなければ、クロノにはこの場を切り抜ける方法がなかった。


 ちらりと後ろを振り返るとリオウは呆然としているらしく、特に止める動きを見せないまま立ち止まっている。


 ――よかった。追ってこない。


 そうホッとしつつ、町中を右へ左へと適当に曲がり、外に向かう門から十分に離れた人目につかない裏路地でクロノは足を止めた。


「本当にすいませんでした!」


 ユーリの手を離してクロノがまず最初にしたこと。それは謝罪だった。


 自分にとって耐えがたい状況だったとはいえ、見ず知らずの女性の手を急に掴み、強引に引っ張った。さらに人気のない裏路地に連れ込んだともなればできるのは精一杯の謝罪しかない。


 地面に頭をこすり付ける勢いで土下座をし、それから懸命に事情を説明する。


「はー、なるほど。さっきの人とあまり話したくなかったんですね」


 未来から来たことがばれないようにリオウとの関係などを搔い摘んだ説明だったにもかかわらず、ユーリは意外にもすんなりクロノの言い分を認めてくれた。


 謝罪の誠意も認めて許してくれる。しかし、その代わりに


「ゲームを攻略するところ、見学させてくれませんか?」


 と申し出たのである。これにはクロノの方が驚いてしまう。


 相手は未来の有名配信者だ。そんな人物が攻略を見学したい? 一体なぜ?


「それはもちろんクロノさんの攻略情報があまりにも優れているからですよ」


 クロノが素直に疑問をぶつけるとユーリは当然でしょうとでも言いたげな表情でそう返した。


 それからクロノの動画が他の動画に比べていかに優れているか、「投稿の頻度」だとか「情報の正確性」だとかをつらつらと並べ立てる。


 クロノにしてみれば「そりゃ未来から来ているからな」と思うような内容ばかりなのだが、彼女はそれを知らないのだから疑問に思うのは当然だった。


 ここでもクロノは自分がどれだけ目立つ真似をしていたのかを客観視して、少し後悔することになる。


「わかっているんです。『クロノさんがどうやって攻略の情報を手に入れているのか』それを聞くことがどんなに失礼なことなのかは。配信者にとってネタ元の情報は商売道具と同じですからね」


 でも――とユーリが付け加える。


「どうしても知りたいんです。そこに何かがある気がして……ただの勘なんですけど」


 それが本当ならすごい行動力だ。それに勘もかなり鋭いことになる――ユーリの話を聞いてクロノはそう思った。


 そこに何かあるのは間違いない。クロノは未来の記憶を持っているのだから。しかし、何の前情報もなしに勘だけでここまで来たのなら、その行動力には素直に感服する。


 それが、彼女の動画投稿の根本的なところにある「姿勢」のようなものなのだと、クロノはなんとなく思った。


 同時に、なんだか後ろめたい気持ちになる。


 彼女は自力で頑張っているというのに、自分と来たら――言ってしまえばズルをしているわけだ。

 未来で誰かが入手するはずだった情報を先取りして公開しているだけなのだから。


 ――でも今更バイト生活には戻れないしな。


 収益化の申請が通ったことで、安易にもバイトは辞めてしまっていた。動画収入は既にクロノの生活をさせる糧になっている。


 せめて目立たずに収入を得られる方法があればいいんだけど――そんなことを思いつつ、何気なくユーリを見遣る。


 すると、クロノの頭の中で突拍子もなく一つの名案が思い浮かんだ。



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