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第7話 変わらぬ運命

 クロノが攻略情報を動画にして投稿したのは、ひとえにお金のためだった。


 大学時代のクロノ――黒野はとにかくお金がなかった。

 両親を無理矢理説得した手前、仕送りには頼れず、一人暮らしの生活費をすべてバイトでまかなっていたからだ。


 大学に比較的通いやすいエリアで安アパートを見つけたが、それでも大学生活を送りながらの一人暮らしは楽じゃない。


 講義のない時間は大抵バイトのシフトを入れていたし、休みもほとんどなかった。それでも貴重な時間を割いてゲームに没頭していたのだから、若さとはすごい。


 十年後の未来からタイムスリップしたクロノは思った。


 あの生活をまた繰り返せるか?――と。


 もちろんそうしなければ生きてはいけない。しかし、せっかく過去に戻ったのにバイトばかりしていたのでは、ゲームの攻略は進まない。


 肉体的な若さを取り戻したとはいえ、気力的に持つのかどうかも不安だった。


 そのことに気付いたのは、初日の夕方ごろである。

 ラッピー狩りで効率化したおかげでレベルはみるみる上がり、11になっていた。


 狩場というのはレベルの適性がある程度決まっていて、上がりすぎると逆に効率が悪くなる。


 そろそろこの狩場に用はないな――とそんなことを考えていた時、ふと気づいた。

 この情報を動画にすればいいのではないか、と。


 動画の広告収益はバカにできない。タイムスリップした現在も、十年後の未来も「動画クリエイター」という職業があるくらいだ。


 動画編集のノウハウは全くないが、誰も知らない攻略情報がある。


 狩場とか、誰でも手に入れられるアイテムとか、自分に損がない情報を公開する分には問題ないのではないか。


 そう考えて、試しにルルシラ平原のラッピーの情報を公開してみた。すると、大した編集もしていない動画にも関わらず、思惑通り動画はバズった。


 その後も攻略動画を上げてみる。序盤に役立つアイテムを入手できるサイドクエストとか、そこそこ性能の良い武器を作成してくれるNPCの居場所なんかの情報だ。


 どれもクロノにとっては大して意味のない情報である。序盤には役立ってもゲームが進行するにつれて使えなくなったり、今は強くても今後のアップデートで弱体化される予定のものだったり。


 成長武器のような、将来自分が使うかもしれない重要な攻略情報は何一つ明かさなかった。

 それなのに、動画の再生回数は出す度に上がっていった。


 おかげで収益化の審査も無事に通り、バイトで稼ぐよりも遥かに多い収入を得た。

 これでバイトを辞められる。攻略に集中できる――そう思っていたのに。


「あ……い……う……」


 言葉が上手く出てこない。表情は固まり、ただ信じられない物でも見たかのように目だけが見開かれる。

 開いた口がふさがらないとはこのことだ。


 目の前に現れたリオウにクロノはただ驚くことしかできずにいた。


 ――なんでこいつが。

 ――まだ会うには早いはずだ。

 ――なんで俺の名前を知っている。


 脳が無駄に回転し、意味のない問いを投げかける。だが、そのどれか一つでも直接リオウに問いかけた言葉はない。


 リオウに初めて出会ったのはLEOのサービス開始から三年後。黒野が大学を卒業し、割と自由にゲームをする時間が増えてからだ。


「動画見たよ。君、LEOに詳しいんだね。よかったら僕と一緒にギルドを作らないか?」


 目の前にいるリオウが問いかける。クロノの名前を知っていたのは動画を目にしたかららしい。

 彼の言葉がクロノの持つ未来の記憶と重なる。


 ――LEOに詳しいんだね。よかったら僕の作ったギルドに入らないか?


 違うのはギルドを「作る」か「入る」かだけ。恐らくこの時点ではリオウはまだ紅の探究者を設立しておらず、これから仲間を集めていくのだろう。


 クロノを裏切り、苦しめたあのギルドを――。


 クロノはようやく理解した。どうあっても自分はリオウと出会う運命だったのだ、と。

 彼はゲームに詳しい人材を求めていて、その標的となるのがクロノだったのだ。


 過去に戻り、攻略情報を公開したことで目を付けられる時間が早まってしまったのだろう。


 ――迂闊だった。


 クロノは心の中で自分を戒めた。選択を間違えてしまった気がした。

 情報を公開してお金を稼ぐなんてバカなことは考えず、ひっそりと目立たないように攻略の準備を進めていればよかったのだ。


 それで多少生活が苦しくなったとしても、リオウに目を付けられるよりもずっといい。


 ――いや、待てよ。


 クロノは急に冷静になった。過去――正確には未来の自分と今の自分では状況が違う。

 今の自分はリオウに騙されることを知っている。

 何も知らず、おだてられるまま紅の探究者に入団した自分とは違う。


 断ればいいのだ。


「いや、俺は――」


 ギルドに入る気はない――そう言おうとして、また口ごもる。リオウの目をまっすぐに見てしまったからだ。


 瞳の奥が全く笑っていない。無機物でも見ているかのような、冷たく何の感情も籠っていないあの目だ。


 その目を見た途端に、どんな言葉を吐き出せばいいのか分からなくなってしまった。――その時だった。


「あー! 本当にいた!」


 大きな声が耳に届く。反射的に振り向くと少女が一人立っている。驚いた様子ではしゃぎ、クロノの方を指さしている。


 どこか見覚えのある少女だ――とクロノは思った。



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