第61話 両手剣と弓
「ギルドか、僕はここには息抜きで遊びに来てただけだけど、君たちとなら楽しそうだ。クロノさんにも興味があるしね」
イリスは笑いながら返事をした。クロノが何故、あそこまでLEOに詳しいのか純粋に気になっている。
「けど……」
「けど?」
「この戦いを時間稼ぎにするのはもったいないよ。やり合うなら、徹底的にだ」
続くイリスの言葉に今度はアオハルが笑った。
「結構好戦的な性格なんだな。余計気に入ったぜ」
アオハルの真横、茂みから黒い影が飛び出した。取り巻きの内の一人が、懲りずに奇襲を試みたのだ。
誰よりも早く反応したのはイリスだった。茂みから取り巻きの一人が飛び出す直前にそれを感知し、姿を見せるのとほとんど同時に弓を引き絞っていた。
放たれた矢が、男の肩を射止める。
「クソッ、やっぱこいつら強いぞ!」
肩を押さえ、再び茂みに戻ろうとする男をイリスが追撃する。二の矢を男の足に、三の矢を反対の肩に命中させる。どちらも麻痺毒を付与した弓だった。
「対人戦が得意なのは君たちだけじゃないんだよ。……まあ僕の場合、シューティング専門だけどね」
イリスがLEOをプレイする理由は、本人の言う通り「息抜き」のためである。普段は他のゲームをプレイしていて、少し疲れた時にLEOにログインするのだ。
現実と見紛うばかりのLEO、それも自然の多いこのゲームは「癒し」にはもってこいだったのだ。
普段プレイするのはもっぱらガンシューティング。いわゆるFPSゲームであり、歴も長い。対人戦という経験だけでいえばアスランたちにも引けは取らない。
まさかその経験がLEOで活きるとは思ってもいなかったが、弓を外す気はしなかった。
「本音を言えばAKがほしいところだけど、君たち相手ならこれで十分かな」
イリスは再び矢をつがえる。弓矢の麻痺毒は弱く、男の動きを完全に封じることはできない。しかし、取り巻きの男はとても避けられる気はしなかった。
「仕方ねぇ、こうなったら総力戦だ。数の差でケリをつけるぞ」
茂みの中から残りの二人が同時に飛び出してきた。
奇襲を仕掛けるタイミングを伺っていたのだが、仲間を失うリスクと天秤にかけ、仕方なく飛び出してきたのだ。
取り巻きたちの言う通り、数の差ではイリスたちの方が不利だった。
しかし、アオハルにとっては願ってもいない展開である。
「隠れ合いでちまちまやるのは性に合わなかったんだ。出てきてくれて感謝するぜ」
「時間稼ぎ」という発言は嘘ではない。クロノがアスランに勝てれば人数差は埋まる。それだけでなくリーダー格を失った相手は動きが鈍り、勝敗が決まるのは目に見えている。
村を守れるのならそれでも全く構わないが、唯一の個人的な問題をアオハルが上げるとするのなら、「自身の不完全燃焼」である。
「いい加減すっきりとケリをつけようか」
アオハルは両手剣を振り上げた。そのまま横に薙ぎ払い、飛び出してきた二人をまとめて狙う。
アスランとエリファの取り巻きと言っても、ただついて回る金魚のフンではない。それなりに対人経験をこなしてきて、実力もある。
ただの薙ぎ払い攻撃を受け止められないわけがない。
取り巻きの二人はそれぞれ正面に剣を構え、向かってくる両手剣を同時に受け止めた。
二人にとって想定外だったことが二つある。
一つは、ただの薙ぎ払いにしか見えなかったアオハルの両手剣の一撃が、思っていたよりも強力だったことだ。
クロノと共にLEOをある程度プレイしてきたアオハルは武器の熟練度も相当上げている。それに加え、暇を見つけては月闇の塔に足を運び、ユニークスキルの獲得にも時間をかけた。
その結果、前線のプレイヤーの中でも高い防御力と、一撃の威力を手に入れていたのである。
アオハルの放った一撃は、それ一つで油断した取り巻き二人を弾き飛ばすだけの威力があった。
それに加え、もう一つ予想外だったのがイリスの援護である。
イリスは、アオハルが剣を振る直前に弓に矢を二本、つがえなおして放っていた。
矢は取り巻き二人の足をそれぞれ射抜き、それにより弱い麻痺毒が二人の動きをコンマ数秒奪う。
その二つの自称が相まって、アオハルの一撃は二人を完全に吹き飛ばすまでの威力になった。
「ぐっ……」
「がはっ……」
一人は地面に強く頭を打ち、もう一人は気に背中を打ち付ける。
どちらもすぐに体勢を立て直せないほどにダメージを受けた。
アオハルは木に背中を打った方に狙いを定め、両手剣を振り上げる。
「イリス、もう一人を!」
アオハルが叫ぶ前に、イリスはもう次の矢をつがえていた。
アオハルが両手剣を振り下ろす。薙ぎ払いではなく、垂直に振られた剣が男を両断した。
イリスの矢は地面に倒れた方に向けられる。麻痺毒付与の矢ではなく、通常矢だ。
弓矢の中では最も威力の高い矢だが、普通に扱えば、相手のHPを全損させるには正確に弱点を射抜かなければならない。
普通の人なら至難のそれを、イリスはいとも簡単にやってみせた。
放った矢はまっすぐに男の脳天を捉え、貫いた。
飛び出してきた取り巻きの二人は、ほとんど同じタイミングで青い塵のエフェクトと共に姿を消した。
「嘘だろ……」
最初に麻痺毒を受けた男だけが一人残る。
その全てが、麻痺の効果が切れるまでのわずかな時間で起こったのだ。男は自分の目を信じられなかった。
「悪いな、この村はどうも大事な拠点らしい」
「NPCとはいえ、知り合いになった子供たちもいるしね」
アオハルとイリスは最後にそんなセリフを残し、残った一人も討ち取った。




