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第60話 二つ目の攻防

 本尊の影に隠れて、戦いを見守っている者が二人いる。

 テムリとリリンだ。


 テムリのことが心配でついて来たリリンは、ユーリとエリファの戦いをジッと見ていた。

 そして、ユーリのレイピアが折れるのとほとんど同時に、走り出していた。


「リリン?」


 テムリの制止も聞かず、目指したのは本尊近くにひっそりと建てられた祠だ。

 トッケタ族の人間が守り石の次に大事にしている物で、村で育てた野菜や武具などを奉納し、村の安全を願う祀りごとに使われる。


 丁度先日、村で一番の加工屋が、新作の武器を奉納し、守り石の加護を貯めているはずだった。


 祠の扉を躊躇なく開ける。普段なら子供が勝手にそんなことをすれば村の大人に怒られるが、今はそんな時ではない。


 奉納されていた武器を咄嗟に掴み、それをユーリに投げつける。


「お姉ちゃん!」


 リリンの声に、エリファとユーリの二人が同時に反応した。

 エリファは謎の声に一瞬の警戒を示し、ユーリは視界の端にリリンの投げた何かを捉える。


 一瞬の警戒が、戦いの流れを変えた。


 エリファの追撃が遅れ、その間にユーリは投げられた何かを掴む。

 それが武器であることは触れた瞬間にわかった。


 鉄製……にしては質感が微妙に違う。固く冷たいが、どちらかと言えば植物のようだった。


 武器の使い方はその形状から推測するしかない。


 ユーリは手にしたばかりの武器をエリファに向けて振り払った。


 長い蔓のような鞭がエリファの腹部を襲う。


「ぐはっ」


 不意を突かれてエリファが後方に跳ぶ。重い一撃だ。威力でいえば鉄扇「カザキリ」と同等。


 その威力を生み出しているのは鞭事態のしなりであり、重いわけではないのでユーリの追撃の手は緩まない。


 鞭を振り、さらなる追撃をしかける。


 武器の名前を確認している暇はなかった。それがレア装備なのか、何か特殊効果があるのかも知りはしない。


 対人戦の基本として、絶えず自分のステータスに目を通す癖があるエリファだけが、その鞭の特性を身をもって体験していた。


「麻痺付与……なんて」


 ユーリが鞭を振るたびに、エリファの動きが止まる。

 ステータスの名前の隣に雷のようなマークが付与される。「麻痺状態」を表すマークだ。


 その麻痺が鞭が身体に当たるたびに更新されていく。


 打たれるたびにHPは削られて行き、同時に麻痺で動けなくなる。動けないのだから、追撃をよけることはできない。


「反則だよ……こんなの。対人戦で、こんな一方的な武器があって言い訳ないだろう」


 エリファの悲痛な叫びはユーリには届いていなかった。

 ただこのチャンスを逃すまいと一心不乱に鞭を振っていたため、他のことに気付ける余裕がなかったのだ。


 そして、ようやく我に帰れたのは手にした武器が壊れた時だった。


「耐久値……?」


 手元に残った壊れたばかりの鞭を見つめ、ユーリが呟く。

 インベントリには「試作品:白麗の蔓」という名前の武器が入っていた。それまでのLEOでは見たことのない「耐久値」という項目があり、それがゼロになって「全損」していた。


 それよりも気になるのは武器の名前だ。「白麗の蔓」は元々ユーリたちが求めていた武器の名前のはずだ。


 それが何故今手元にあるのか、皆目見当もつかない。


 そして、この時になってようやくユーリは「自分が戦闘中だった」ことを思い出した。


 武器が壊れてしまったということは、形勢は再び逆転。エリファの反撃が来る。そう思い身構えたのだが、さっきまで対峙していたはずのエリファの姿は、もうどこにもなかった。


 ♢


「イリス、この戦い終わったらうちのギルドに入れよ」


 ユーリとエリファが戦っていた反対側。取り巻きの三人と戦っていたアオハルがイリスの方を振り返って言う。


 その後ろで弓を打ち終えたばかりのイリスがくすっと笑う。


「なんだか死亡フラグみたいだね」


 ユーリとエリファの戦いとは違い、こちらは半ば一方的な展開になっていた。


 イリスの正確な射撃を前に、取り巻きの三人は無闇に近づくこともできずに近くの森に身を隠した。


 そこから奇襲をかけて遠距離主体のイリスを倒そうとしたのだが、今度はそれをアオハルが阻んだのだ。


 両手剣を主体とし、守りを固めたアオハルを前にしては三人がかりでも崩すのは容易ではなかった。


 さらに、アオハルに時間を稼がれればすかさずイリスが応撃してくるのだ。


 人数差はあれど取り巻き三人は攻め方に苦戦を強いられ、迂闊に飛び込むこともできなくなっていた。


「この戦いはようはクロノが向こうのリーダー格を倒せるかどうかだ。それまで俺たちは時間稼ぎに近い。だからどうせなら、今後の展望でも話しておこうぜ」


 アオハルは走りながら言った。二人が走り続けているのは、森に身を隠した三人がユーリやクロノの方に向かわないようにするための警戒だった。


 走りながら、イリスは息をするように弓を引き、三人組が少しでも影を見せれば矢を放っていた。


 その機動力の高さ、クロノに負けないレベルの感知能力、弓の腕。

 全てを踏まえた上で、アオハルはイリスを自分たちのギルドに誘ったのだった。

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