第57話 守り石の本尊
エリファの奇襲を退けたクロノたちは、揃って新たに村人が非難した南の避難所に向かう。
侵攻側のクエストが「モニュメントの破壊」だとクロノが見抜き、そのモニュメントが何かを村おばあに尋ねるためだ。
「村おばあ! 父さん!」
避難所に辿りつき、そこに村おばあと父親の姿を確認したテムリが一目散に駆け出していく。
二人の傍にはリリンもいた。不安げで心配そうな表情がテムリの顔を見てパァッと明るくなる。
「こら、テムリ。お前はまた勝手なことをしおって」
村おばあはそう言ってテムリの頭を小突き、それから「無事でよかった」と抱きしめる。
その様子を眺めていたクロノには、村おばあの瞳にうっすらと涙が溜まっているのがわかる。
「父さん、俺も戦ったんだ! 戦士長の息子として、立派に!」
村おばあに抱きとめられながら、興奮冷めやらぬという様子でテムリが話すと、テムリの父、タマラは力強い手で優しくテムリの頭を撫でた。
「さすが俺の息子だ。でも村おばあの言うこともきてくれ。皆心配するからな」
トッケタ族の戦士たちのリーダーでもあるタマラは、味方NPCの中での最高戦力だ。
伝令に指示を出し、タマラをこの避難所の新たな防衛者に任命したのはクロノだが、タマラは伝令からの大まかな指示だけで、避難所の防衛を的確に固めてくれていた。
背の高い二棟の建物にそれぞれ見張りを置き、周辺に戦士を等間隔で配置。森の中にも潜ませている。
それらを自分の目で一つ一つ確認しながら、「これなら大丈夫そうだ」とクロノは胸を撫でおろした。
万に一つくらいの確立だと思ってはいるが、敵がモニュメントではなくまた避難所を襲う可能性もある。
アスランたちに盗賊NPCはもうほとんど残っていないはずで、向かってくるのは五人のプレイヤーしかいない。
これだけ防備を固めていれば、クロノたちが離れた場所にいたとしても救援に駆けつけるまでの時間を稼いでくれそうだ。
「トッケタ族を象徴するモニュメントに心当たりはないか」
クロノが村おばあにそう尋ねると、ほとんど即答で明確な答えが返ってくる。
「そんなの、『守り石様』しかおらんじゃろ」
守り石――テムリが探していたあの石だ、とクロノはすぐに気づいた。
しかし、それは手のひらサイズの小さな石で、しかも村人のほとんどが持っているはずのモノ。
防衛するモニュメントだとは思えない。
「そうか、本尊だ! クロノ、村の奥に守り石様の本尊があるんだよ!」
興奮した様子のテムリが叫ぶ。やけに声が大きいのは事前にクロノがそう指示したからだ。
この特殊クエストを終わらせるには、アスランたちとの決着をつけるしかない。
侵攻側のプレイヤーも破壊するモニュメントが何か探しているはずで、防衛側のプレイヤーを見張っている可能性も高い。
アスランたちを誘き出すために、「なるべく大きな声で話してくれ」とクロノがこっそりと伝えたのである。
♢
村おばあに教えて貰った「守り石の本尊」に向かったクロノは、背後から自分たちを尾行する足音に気付いた。
「クロノさん……」
クロノと同じくらい「感覚強化」のスキルを伸ばしているユーリも気付いたようで、こっそりとクロノに耳打ちをする。
その表情が少し張り詰めているのは、尾行している者の正体を「敵」だと思っているからだ。
だがクロノは違う。追跡者の呆れはしたものの、警戒心はまったく抱いていない。
スキルの伸びがある程度同じだったとしても、強化した感覚で得られる情報には個人差がある。
それにはある程度の経験と知識が必要になるため、ユーリがクロノに追いつくにはまだ相当の時間がかかるだろう。
「いい加減に出て来いよ。追い返したりしないから」
急に立ち止まり、クロノが振り返る。後ろを歩いていたイリスとアオハルも振り返り、クロノが見つめる方向を凝視した。
「ご、ごめんなさい」
木の陰からおずおずと姿を現したのはテムリとリリンであった。
「お前……また村おばあに叱られるぞ」
呆れた様子でアオハルが言う。だがその表情はどこか楽しそうである。「こういう無鉄砲さは嫌いじゃない」と内心で思っているのがバレバレだ。
テムリがクロノたちについていく、と勝手に決めてリリンはそれに巻き込まれたらしい。
「二人ともダメだよ。ちゃんと避難所に帰って大人しくしてて」
ユーリが優しく諭してもテムリは頑なだった。
「これは村で起きた問題なんだ。人間の客人にすべてを任せきりだなんてトッケタ族の名が廃る! だから戦士長の息子である俺も一緒に行くんだ!」
と固い決意を示している。テムリに手を引かれたリリンは、「怖いから戻りたいけど、テムリのことも心配だから一緒に居たい」と小さな声で主張した。
「今から二人だけで戻らせるのも危ないんじゃない。多分僕たち、監視されているし」
イリスが意味深に周辺に視線を向ける。
テムリたちの他にも自分たちの後を追うものがいることにはクロノも気付いていた。そちらはお粗末な尾行ではなく、スキルで探知されないように対策した「ある程度対人戦に慣れている者たち」の尾行である。
「まぁ、仕方ないか。二人とも絶対に俺たちの傍を離れないこと。そして危ない時はすぐに逃げること。いいな?」
クロノが諦めてそう言うと、テムリとリリンは揃って元気よく頷いた。




