第56話 苛立ち、そして勘違い
イライラは中々収まらなかった。
最近はずっとそうだ。どんなゲームをしていても、気づけば苛立っている。LEOをプレイしているのは単純に人が多いから。
特別面白いゲームだとは思っていないし、やめられないほど熱中しているわけでもない。
ゲームを純粋に楽しめなくなっている。
アスランは自分の中の苛立ちを紛らわせるように仲間に当たり散らす。パーティー内の力関係が他のメンバーに反論を許さない。
現実世界でも付き合いのあるエリファでさえ、気まずそうにしている。
「アイツ……なんか変なんだよ。やけにこのゲームに慣れているっていうか、この先に起こることを全部知っているみたいで……」
アスランをなだめようとエリファが口にできたのはその程度の言葉だけだった。
アイツ――とはクロノのことである。
アスランはもう一度小さく舌打ちをした。
「そんなことをはわかっている」と叫びだしたいのをぐっとこらえる。
「やけにゲームに慣れている」、「この先に起こることを全部知っているみたい」、どちらもアスランが感じていたことだ。
最初の戦闘でクロノの妙な余裕に気付き、警戒していた。だからこそエリファに「クロノとは戦うな」と忠告しておいたのに、それを無視して突っ込んだ挙句、情報屋から預かった大切な回復アイテムを消費までした。
どいつもこいつも思い通りに動きやがらねぇ。それに、どいつもこいつも偉そうにしやがる――アスランは心の中で悪態をついた。
前半はパーティーメンバーに向けられたもの。後半は、クロノだけでなく他に二人の顔を思い浮かべていた。
一人は情報屋だ。
破格の値段で情報を寄こした謎のプレイヤー。口車に乗せられてここまでやって来たが、今になって「どうにも胡散臭い」と感じ始めていた。
いくら情報を商売にしているとはいえ、アイツは色々と知りすぎている。ゲーム内の攻略情報だけでなく、俺たちの動きまで――。
そう感じ始めたことで「俺は操られているのではないか」という疑念が生まれ始めていた。それが苛立ちの要因になっている。
もう一人は……考えてみれば、その人物がすべての始まりだった。
以前プレイしていたゲームで知り合い、そのよしみでギルドに誘われた。
最初は楽しく、仲良くやれていたと思う。だが数か月も経つとだんだんと違和感を持ち始める。
声、話し方、ふとした時の態度。その全てがどこか薄っすらこちらを舐めているようで鼻につく。
ギルドメンバーでダンジョンに潜れば、上手い言い訳で皆を納得させて自分ばかりがいい装備を持っていく。
何かトラブルが起きれば、目立たないよにしれっと責任逃れをする。
口癖のように「いいチームワークだ」というくせに、自分が一番チームを何とも思っていないのだ、ということに気付いてから、アスランはその人物が嫌いになった。
大金をはたいてまでレアアイテムの情報を求めたのは、全てその人物を出し抜くためだ。
レアアイテムさえ手に入れば、ギルド内でもそれなりの地位に辿りつけるはずだ。そうすれば、もうギルドの代表が一人好き勝手にふるまうことも無くなるはず。
アスランが苛立ちを感じている一番の人物とは、所属するギルド「紅の探究者」の代表、リオウだった。
「そういえば、あのルートキーパーってやつ、うちのギルマスがギルドに誘っているんだよな?」
「なに?」
話の流れを変えようとしたのか、それとも単純に空気が読めないだけなのか、取り巻きの内の一人の男が思い出したように呟いた。
初耳の情報に、アスランが思わず耳を傾ける。
「いや、その頃にはまだ『ルートキーパー』とは呼ばれていなかっただろうし、あくまで噂だけどな。『紅の探究者』を設立する前に、声をかけたらしいぜ」
「それで? 断られたのか?」
「さぁ、入っていないってことはそうなんじゃ……でもギルマスは『断られた』とも『了承を得た』とも言っていなかったな」
LEOを効率的にプレイするには、ギルドへの参加が不可欠なはず。何も知らない初心者ならばいざ知らず、あの妙に物知り顔で、プレイヤーに「ルートキーパー」なんて呼ばれるようなプレイヤーがそれを知らないとは思えない。
リオウがしっかりと勧誘をしたのなら、あのクロノというプレイヤーは紅の探究者に加入する利点に気付いたはずだ。
と、アスランは自分が加入した時の状況を思い出しながら考えた。
実際にはクロノはリオウの顔を見て逃げるように立ち去ったのだが、アスランがその事実を知っているはずもない。
「断られた……とは限らないんじゃねぇか。うちのギルドはそこそこ大きくなっているし、実力もある。設立前でもその辺は保証されていたはずだ。だったら、断ったのは向こうじゃない。何か理由があって、こっちから断ったんじゃねぇか?」
核心をついている――アスランはそう思った。その推測が間違っているなんて微塵も思わなかったのは、そう思い込みたかったからかもしれない。
外に偵察に出ていた取り巻きの一人がタイミングよく戻ってくる。
「あいつら、なんか同じ方向に向かい始めたぞ。予想したモニュメントの一つがある方向だ」
その報告を聞き、アスランは「勝った」と言わんばかりににやりと笑った。




