第55話 作戦と誤算
「それで、次はどうすればいいんだ?」
クロノに諭されて気を取り直したアオハルが尋ねる。クロノが敵の動きを予測していて、それにかなり高い自信を持っているとしても、現状を客観的に見れば防衛側は良いように翻弄されている。
初動の配置を見透かされ、裏をかかれた上に村の中への侵入を許してしまったのだから。
「いや、向こうも結構厳しいと思う。控えめに言っても戦況は五分だ」
クロノは三人にそう伝え、一先ず落ち着かせた。それから努めて冷静に状況を分析し、これからの行動を支持する。
「向こうが西を派手に攻めて来たのはきっと陽動だと思う。東は俺たちが守っていて、西は避難所だった。東と西で誘導し、プレイヤーは別ルートでこっそりと侵入。その狙いは何だと思う?」
「奇襲とか?」
「でも……接敵したとたん逃げ出したんですよね?」
アオハルの意見をユーリがやんわりと否定する。アオハルは首を傾げ、また深く考え込んだ。
「偵察……もしくは何かを探していた……とかですかね」
イリスが言った。クロノは「正解」と言う代わりににやりと笑って頷いた。
「侵攻クエストの達成条件は村によって違うんだ。トッケタの村の達成条件が何か、正確にはわからないけど、ある程度のパターンは予想できる」
クロノは侵攻クエストを受けたことはない。経験したことがあるのは防衛クエストだけだ。
それでも、ネットを漁って得た知識が残っている。
それによれば、侵攻クエスト側に与えられる達成条件のほとんどは「村を象徴するモニュメントの破壊」か「指定エリアを一定時間占拠する」のどちらかに偏る。
「指定エリアの占拠……なら、まっすぐそこを目指しますよね?」
時間が経って少し落ち着いて来たらしい、ようやく頭の回りだしたユーリがクロノの説明を捕捉する。
「ああ、なるほどな。攻め場所を変えたりはするだろうけど村の中で隠密行動をする必要はないのか」
とアオハル。
三人ともだんだんとクロノの説明の意図を察し始めていた。
「それならモニュメントの破壊ですね。あの三人はモニュメントを探していたのか」
「そうだと思う。俺たちが今からやるのは単純だ。向こうが隠密で来るなら、こっちは派手に動く。村おばあにモニュメントの心当たりを聞いて、最短でそこを目指すんだ。向こうはきっとどこかで俺たちを監視しているだろうから、それだけで絶対動き出す」
アスランたちは陽動のために送り込んだ盗賊NPCの大半を失っている。当初西を攻める選択をした時にはその結果まで予測していたはずはなく、盗賊NPCを失ったのは向こうの誤算だろうとクロノは考えていた。
いくらなんでもたったの五人で防衛側の四人のプレイヤーとす数十人いるトッケタの戦士を倒せるとは思っていないはず。
クロノたちが動き出せば向こうも「作戦がバレた」と疑い始めるはずで、そうなれば「準備を整えられる前に攻め込みたい」と考える。
そんな中でクロノたちが目標のモニュメントに向かえば、それを見逃す手はずがない。
「誘き出すんだな。わかったぜ」
アオハルが拳を握りしめてやる気を示す。ユーリは深く深呼吸をして決意を固めた。
イリスが静かに頷く。
「今度は皆で固まって戦おう。敵を五人倒したら……ユーリの武器を作って、その後で『ギルド専用コンテンツ』だ」
意欲を高めるために展望を話すクロノに、三人は同時に返事をした。
♢
「何やってんだよ! ルートキーパーが現れたら引けって言っておいたはずだぞ」
トッケタ族の村の敷地内。巨大樹の影に隠れた小さな洞穴の中にアスランの声が響く。
怒られているのは命からがら逃げ込んできたエリファで、不貞腐れたように頷いている。
「仕方ないじゃないか。勝てると思ったんだから。あんな意味不明な戦い方されたらアンタだってどうしようもないよ」
「だから『戦うな』って指示を出したんだよ。アイツ、クエストが始まる前の小競り合いの時も本気を出していなかった。得体の知れない何かがありやがる」
クロノが予測した通り、エリファが敗走したのはアスランの誤算だった。
本当ならば陽動役になったエリファは盗賊NPCと共に戻り、そこから全戦力で総攻撃を仕掛けるはずだったのだ。
「おい、モニュメントってやつはまだ見つかってねぇのか?」
苛立ちに任せ、取り巻きの男の一人をギラリと睨みつける。睨まれた男は一瞬ビクッとしてたどたどしい口調で答えた。
「それらしいのはいくつか見つけたんだが、どれかまでは……見つかっちまった後から行動範囲が限られちまって」
芳しくない返答に「チッ」というアスランの短い舌打ちが響く。
まだ手はある。だが、どうするのが正解はまるでわからない。
「あのクソ情報屋……半端な情報ばかり渡してきやがって」
憎々し気に思い返したのはとある情報屋の顔である。
エリファがレア武器の情報を買い取り、クロノたちの行きそうな場所を教えてくれた情報屋と同じ人物だ。
その情報屋が、侵攻クエスト開始前の待機地点にフラッと現れた。
そしてアスランたちに侵攻クエストのコツをいくつか教えて、またフラッと消えてしまったのである。
胡散臭い男だったが、狼煙を上げずに攻め込む方法を教え、その後の戦い方も授けてくれた。
「この通りにやれば十中八九勝てる」という言葉まで残して。
ところが、いざ蓋を開けてみると思ったようには全然行っていない。
「もしかしたら俺は騙されているのか?」とアスランは疑心暗鬼になり、小さく短い舌打ちをもう一度鳴らした。




