第54話 タイムリーパーの攻略者
クロノの動きはユーリにはよくわからなかった。
動き自体に特出したところはない。プレイスキルという点ではアオハルも同等の技量を持っているし、少し差はあるもののユーリだって大きく離されているわけではない。
それなのに、クロノの動きはまるで違って見えた。
盗賊たちが武器を振り上げるよりも早く足を踏み出し、剣が降り折らされる頃には短剣で致命傷を与えている。
それは「NPCを本気で攻撃でるかどうか」の違いだとユーリは思った。しかし、それだけではないような気もした。
複数いる盗賊たちを相手にしているにも関わらず、クロノは左右に機敏に動き一太刀も浴びることなく倒していく。
その動きはまるで「先の動きが分かっている」ように見える。武器の性能や基本的なプレイヤースキルなんかではなく、本質的な何かが違う気がした。
「ふう……だいたい倒したよな」
短剣を修め、クロノが一息つく。
人型のNPCはHPがゼロになっても消滅するわけではなく、「お、覚えてろよ」とお決まりの捨て台詞を残して逃げていくというのは仕様だった。
「クロノさん、まだ逃げた村の人たちが……」
戦闘の緊張とクロノの動きに対する放心からようやく解放されたユーリが心配そうに告げる。
クロノはそれに自信ありげな笑みを返して、
「多分、大丈夫だ」
と言った。その言葉の意味を証明するように東の門の配置についていたアオハルとイリスが合流したのはそれから数分後のことである。
「侵入した盗賊NPCのほとんどは倒せたと思います。村人も無事です。クロノさんからの伝言の通り、南を第二の避難所にしてトッケタ族の戦士たちに守ってもらっています」
「ありがとう、イリス。それで、アイツはどうしたんだ?」
涼しい顔で報告をするイリスの後ろで、アオハルが不満そうに不貞腐れている。
クロノは不思議そうな顔をして、その理由をイリスに尋ねた。
「えっと……盗賊たちを倒す道中で侵略者側のプレイヤーを三人見かけたんですが、接敵する前に逃げられてしまって」
アオハルとイリスの二人はクロノから伝言を受け取った後、言われた通りに侵入した盗賊たちの討伐に向かった。
村人の逃げた方向と盗賊たちが追っていった方向の見当がついていたので、盗賊を見つけること自体は難しくなく、倒すのも苦労はなかった。
特に、弓を扱うイリスは感覚強化と視覚を研ぎ澄ませるスキルを取得していて、索敵して、遠距離からも攻撃して、と大活躍だった。
その途中でいつの間にか村に侵入していた敵側のプレイヤー――アスランとエリファの取り巻きたち三人を見つけたのだが、戦闘に発展する前に相手が逃げ出してしまったのだ。
一番戦闘が激化しそうな東の門前に配置され、感情を高ぶらせていたアオハルにとっては拍子抜けするようん展開だったのである。
「つまり不完全燃焼ってことか」
クロノは半ば呆れたようにため息を吐いた。あまりにも単純すぎる理由に思わず肩の力が抜けてしまう。
「すいません、取り逃がしてしまって」
イリスは悔しがっているわけではなさそうだが、取り逃がしたことには責任を感じているようだ。
だがクロノは逆にイリスの報告に感謝した。
「正直推測できる向こうの動きは二通りあったんだ。イリスのおかげでかなり高い確率で一つに絞り込めたよ」
そう言ってイリスを労った後視線をアオハルに向ける。
「安心しろよアオハル、俺の推測通りに向こうが動きてくれるなら、暴れまわるチャンスはまだあるからさ」
過去に戻る前のLEOで流行った戦術の基本形は特殊クエストが発見されてからしばらくして、対人戦に熱意を上げるプレイヤーたちによって生み出された。
最初に生まれたのが「狼煙を上げずに多方面から攻撃し、かく乱する戦法」である。
この仕組みはかなり単純なもので、「戦闘開始地点で狼煙を上げた後、最短ルートで別の場所に移動する」というだけである。
単純すぎる故に盲点で、特殊クエスト発見からしばらく試されることのなかったこの戦法は侵攻クエスト好きのプレイヤーの間では「やらない意味がない」と言われるほどの常識的な扱いになった。
そしてそこからいくつもの攻め方が生まれ、「○○式」と呼ばれる戦術がいくつも発展していったのだ。
その中で特に事前準備が必要なく、序盤でも実行可能な戦術はクロノの言う通り主に二つ。
その二つの内、プレイヤーが隠密的に動いて実行するパターンは一つだけだった。
アスランたちが独自の戦法で攻めてくる可能性もあるが、その場合でも対応できる自信がクロノにはあった。
そして、アスランたちは恐らく自分の知っている攻略法を使ってくるという自信もあった。
ここまでの間に感じていた違和感。
アスランたちが「白麗の蔓」の情報を仕入れて洞窟にやってきたことから始まり、トッケタ族の村を簡単に見つけたこと、狼煙を上げずに攻め込む方法を知っていたことを踏まえ、
「アスランたちの背後には、自分と同じような存在が黒幕として存在している」
という確信に近い予想。すなわち、向こう側にも「タイムリーパーの攻略者」がいるという予想だった。




