第53話 対人戦の戦い方
LEOのレア装備の中に、同一のアイテムは一部を除いて存在しない。
滅多に手に入らない一点ものの武器を求めてプレイヤーは奔走し、執念と幸運の果てに入手した武器で自分だけの道を切り開いていくのがこのゲームの売りである。
しかし、全く同じではない物の「特殊効果の内容が似ている」や「属性が違うだけで挙動は同じ」といった武器がいくつかあることは確かだ。
そして、過去に戻る前のLEOではそう言った類似の武器を持つ界隈の中でだけ一時流行った戦法があった。
クロノはガルーダの魔剣を振り、纏わせた炎を魔法のように操る。
渦巻いた炎がエリファの周囲を完全に取り囲み、彼女の視界を奪った。
「舐めるんじゃないよ!」
怒号と共に振った彼女の鉄扇が大きな風を生み、炎を煽る。鉄扇から弾き飛ばされた無数の棘が、炎の向こうの直前までクロノがいた場所を狙う。
そこにクロノはもういなかった。
炎に紛れて姿を眩ませたのだ。
LEOにはガルーダの魔剣のように刀身に属性を纏わせる特殊効果が付いた武器がいくつも存在し、それを扱うプレイヤーたちの間で流行った戦い方である。
システム的にプレイヤーを捕捉するモンスターとの戦いではまるで意味をなさない戦闘方法だが、対人戦では話が違う。
索敵スキルや感覚強化スキルは存在するものの、最後に頼るのはどうしても自分の目になる。
人の目による捕捉にはごまかしが効く。
そんな理由で流行ったのがこの「特殊効果を広範囲に巡らせて相手の視界を奪う」という方法だった。
視界を遮るために刀身の炎を限界まで薄く広げているため、攻撃力はほぼ皆無。目くらましに全振りした技だ。
しかし対人戦では非常に扱いやすく、汎用性も高い。欠点は「プレイヤーが複数人いるような集団戦闘では効果が薄い」ということくらい。
対する相手がエリファしかいないこの状況は、クロノの独壇場へと変わった。
「どこだ! どこに行った」
エリファは周囲を見渡し、姿を消したクロノを探す。
彼女の視界の端に何かが映った。
「そこか!」
見えた何かに向けて反射的に、凄まじい反応速度でエリファが棘を飛ばす。しかし、見えたはずの何かは既に消えていた。
再び視界の端に何かが映る。即座に首を動かすがやはり「何か」はすでに消えている。
三度目。現実世界での格闘技経験を活かしたエリファの反応速度がついに何かの正体を掴んだ。
それは「炎」だった。
一瞬にして燃え上がった炎が揺らいでいるのだ。
これもまたガルーダの魔剣を用いた対人戦用の戦い方の一つである。視界の端にわざと異物をちらつかせることで相手の集中力を奪う。
ほとんど初見殺しのような技で、慣れた相手には無視されてしまうような単純な技法。だが、エリファを苛立たせるには十分だった。
「小賢しいんだよ。こうすればアンタは出てこざるを得ないだろ!」
エリファが叫び、鉄扇をユーリとテムリのいる方へと向ける。二人を狙い、クロノを誘き出そうとしているのだ。
しかし――
「絶対にそう動くと思ったよ。これからも対人戦をするなら覚えておけ。このゲームのPVPの本質は『いかに相手を翻弄し操るか』だ。ただゲームが上手いだけじゃ勝てないぞ」
エリファが鉄扇を振る動作に入る前には、その背後にクロノが立っていた。
ガルーダの魔剣がエリファの背中に突き刺さる。痛みはないが、致命傷だった。
数秒でHPが全損するだろうとわかる手ごたえに、クロノは短剣を抜き去って距離を取る。
「偉そうに……アンタなんかアスランにやられちまえばいいのさ」
憎々し気にエリファが呟いた。クロノはそれを「負け惜しみ」だと思った。
特殊クエストから退場していく者の最後の恨み言のようなものだと。
しかし、エリファは自身のインベントリを操作し始め、そこから何か瓶のようなものを取り出す。
「おい、マジか」
その瓶の正体に気付いたクロノはすかさず短剣を構えて追撃しようとする。
エリファは瓶と一緒に取り出した手投げ式の閃光弾を使い、その追撃をかわした。
炸裂した閃光がクロノの視界を奪う。パッと光が発したかと思えば、次の瞬間にはエリファの姿は無くなっていた。
残ったのは盗賊のNPCたちだけである。
「あの人は……?」
閃光を受けたユーリが目を細めながらクロノに尋ねる。クロノは首を横に振った。
「ダメだ。逃がした。あの瓶、高純度のHP全快薬だった。こんな序盤で手に入るような物じゃないのに……」
姿をくらましたエリファは、今頃全快薬でHPを回復させているだろう。LEOがゲームである以上、どんな致命傷を受けたってHPさえ回復すれば倒れることはない。
「とりあえず、こいつら片付けるから。ユーリはテムリを守ってやってくれ」
この特殊クエストは何かがおかしい――クロノはそう感じ始めていたが、一先ず目の前の問題を片付けなければ落ち着いて考えることもできない。
NPCは人のような見た目をしているが、その行動の根本にあるのはシステムにより設定された動作だ。
どれだけ本物の人間に似ていても、動き自体はモンスターを相手にするのと変わらない。豊富な経験による先読みが可能な相手である。
「こいつらになら絶対に負けない」とテムリに宣言した通りに、クロノは瞬く間に盗賊たちを屠ってしまった。




