第51話 精一杯の勇気
味方のNPC、トッケタ族の戦士たちの多くは東の門の防衛に回っている。
西の避難所を守るのはユーリを含めた数人だけ。
攻め込んできた盗賊NPCはその数倍はいて、とてもではないが守り切れる人数差ではない。
それでも、ユーリはレイピアを構えて自分から果敢に立ち向かっていった。
少しでも臆して足を止めたら、盗賊たちは非戦闘員の村人たちを襲い始めるだろう。
そうさせないためには自分にヘイトを向かわせなければいけない。
ユーリはそう理解していた。
「へぇ、頑張るわね」
勝ち誇った余裕の笑みを浮かべたまま、エリファは戦いには参加してこない。
まるで「自分が出るまでもないでしょ」という態度だ。
その態度には腹が立つが、ユーリには助かる展開だ。
盗賊たちの間を縫って素早く動き、小刻みに斬りつけて翻弄する。
村人に意識を向けさせないようにするだけで精一杯で、とてもプレイヤーまで相手にしている余裕はない。
切羽詰まった状況だが、逆にそれが功を奏す。もっと冷静な展開で戦うことになっていたなら、「人にしか見ないNPC」を攻撃することにもっと躊躇していたはずだ。
戦いながらユーリはちらりと周囲に目を向ける。
非難していた村人のほとんどは、村の南――クロノが第二の避難先として指定した方へ逃げていった。
残っているのは避難所を守るために少しだけ配置された戦士たちだけだ。
大雑把に見て、ユーリが盗賊たちのおよそ半数を、戦士たちが残りの半数を受け持って戦闘をしている。
しかし、全ての盗賊を抑え込めるはずもなく、何人かが戦闘を避けて村人を追って行ってしまった。
追われている人たちを助けないと……でも――。
一つ突くたびにレイピアの耐久が減っていく。
クロノに貰ったそれなりに強い装備ではあるが、「終盤まで使える強武器」ではない。
最初は翻弄されていた盗賊たちもだんだんとユーリの動きに慣れて来て、動き回れるスペースを潰すようにじりじりと距離を詰め、それぞれの隙間を埋めていく。
村人を追いかけていった盗賊たちを追撃する余裕は正直ない。
「とにかく、クロノさんにこの状況を伝えないと……」
西側で上がった爆音と煙、異変には気づいているかもしれない。クロノも、アオハルも、イリスも既にこちらに向かってくれているかもしれない。
でも……「かもしれない」である。
この状況ではユーリは三人に助けを求めることもできず、希望的観測に頼るしかない。
「えっ……」
突然目の前に鉄の剣が迫る。考えに気を取られてしまい反応が僅かに遅れた。
顔を逸らし何とか避けようとしたユーリに、ギリギリのところで剣先が触れる。
HPがごっそりと削れる感覚……。盗賊の一人が闇雲に振り回した剣を受けてしまったのだと理解するのに一瞬の時間が必要だった。
体勢を崩したユーリは前のめりに倒れ込み、すかさず盗賊たちが囲みこむ。
マズい――ユーリは自分に向けられるであろう集団攻撃に備えて身構えた。
この人数の攻撃を喰らえば、間違いなくHPはゼロになる。
HPがゼロになったプレイヤーは復活して特殊クエストに再び参加することはできない。
ただでさ人数に差があるのに、ここでユーリが離脱してしまうと形勢は大きく傾いてしまう。
諦めるわけにはいかない――レイピアを握り直し、倒れた姿勢のまま振り回す。
みっともなくてもいい。ただの悪あがきでもいい。少しでも、ほんの少しだけでも自分が生きられる可能性があるのなら諦めてはいけない。
盗賊NPCたちは、自分たちに割り振られた性格設定に則って下卑た笑みを浮かべて距離を詰めてくる。
最後の最後まで足搔こうとするユーリをあざ笑うかのように、盗賊の一人が剣を振り上げた。
「やめろー!」
叫び声が盗賊の動きを制止する。
ユーリと盗賊たちの間に影が割って入る。
幼い声、低い背丈……。子供が一人、剣を振り上げた盗賊に向かって体当たりをした。
大人と子供の体格さがあっても、不意の体当たりは有効だった。盗賊はバランスを崩して倒れ込み、振り上げていた剣をその場に落とす。
体当たりをした少年――テムリはすぐに立ち上がり、その剣を奪うとユーリをかばうようにして構える。
「テムリくん……」
ユーリは自分を守る小さな背中に驚愕の声を漏らした。
もうとっくに逃げたと思っていたのに、逃げていて欲しかったのに、テムリは建物の影に身を潜め、ずっとユーリの様子を伺っていたのだ。
突然の奇襲に一瞬警戒を示した盗賊たちだが、その正体が子供だとわかると、途端に余裕を取り戻した。
「ちっ……なんだこのガキ」
倒された盗賊が起き上がり、腹立たし気にテムリを睨みつける。
ユーリは、剣を構えたテムリの足が震えていることに気付いた。
震える足で、それでも懸命にテムリは立ち向かう。
「トッケタ族戦士長の息子、テムリだ! 侵略者どもめ、ここからは俺が相手だ」
勇ましい声。立派なセリフ。
だがそれは、盗賊たちに嘲笑しか生まなかった。
自分の背丈とそう変わらない長剣をようやく持ち上げただけの少年に、戦う力がないことは誰の目にも一目でわかる。
テムリもろともユーリにトドメを刺そうと、盗賊たちはそれぞれが武器を振り上げた。




