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第49話 期待外れの開戦

 開戦の狼煙は、村の東側から上がった。

 不穏さを滲ませる赤色の煙は侵攻する側のプレイヤーがその方向から攻めてくることを示している。


 侵攻クエストが発生したプレイヤーは、ランダムで与えられる専用のアイテムやどう攻めるかの戦略を基に東西南北のどこから攻めるのか選択できるのだ。


「狼煙は一つ……か」


 東の空に視線を向けて、クロノはぽつりと呟いた。


 煙が一つということはアスランたちが攻めてくる方向も東側だけということになる。

 攻め手が複数方向から攻めてくるのなら、その数だけ煙が上がるはずだ。


 東側は村の入り口がある方向であり、周囲の森も比較的開けている。

 一目見れば攻めやすいのはわかり、侵攻するのに東側を選択するのも理解はできる。


「でも……なんか嫌な予感がする」


 攻めやすいということは当然守る側も防衛を強化する。それが定石だし、タイムスリップする前のLEOでも一番攻め込まれやすいところを一番強固に守るのはパターン化していた。


 その結果、一番攻めやすいはずの場所の難易度が最も高くなり、案外他のところからの方が攻め込みやすくなるのだ。


 クロノは対峙したアスランの様子を今一度思い出す。


 アスランはタイムスリップを経験してはいないだろう。クロノの知る侵攻クエストの定石なんて知っているわけがない。


 口ぶりや行動理念に共感はできない。だが、そこまで鈍いプレイヤーだとも思えなかった。


 少なくとも、町にクロノたちが戻ってっこないというだけでトッケタ族の村をつきとめるくらいには頭の回転が速い。


 そんな人間が、東側の防衛が固められていることくらい予想できないものなのか。

 もしくは、固められている防衛を打ち崩す策があるのか。


「どうする、クロノ?」


 アオハルが尋ねる。悩んでいる時間はあまりない。

 クロノは事前に三人に、アスランたちがどの方向から攻めてきても対応できるように作戦を伝えていた。


 その作戦をこのまま実行していいのかどうかの判断をアスランたちは待っている。


「よし、とりあえず想定のままだ。トッケタ族の戦士たちにもそう指示を出してくれ。もしも予想外のことが起こった時には、俺がなんとかする」


 クロノの決断に三人は頷き、それぞれが自分の配置につく。


 東側から向かってくるアスランたちと最初にぶつかるのはアオハルとイリスの二人だった。

 そこにトッケタの戦士三十人を加えた一部隊が東側にある唯一の正門を守る。


「お、きたぜ。あれがクロノの言っていた侵攻側のお助けNPCか」


 防護柵の内側から外の様子を観察していたアオハルが標的を見つけて高ぶった笑みを見せる。


 防衛側にトッケタ族の戦士たちがいるように、侵攻側にも数は少ないものの共に戦ってくれるNPCが存在する。


 黒い頭巾で顔を隠した盗賊NPCたちだ。

 その盗賊たちが五人、森の木々の合間を縫ってまっすぐに門を目指して走ってくる。


「イリス、頼むぞ!」


 アオハルが合図すると、村の東側にある中で一番高い建物の屋根に上ったイリスは、得意気にうなずいてから弓を絞った。


 LEOにおける武器種の中で、「弓」を扱うプレイヤーは最も希少である。

 他にいくつもの優秀な近接武器があるLEOでは、近づかれると何もできなくなる弓は不人気なのだ。


 使われるのはせいぜい遊びで狩りをする時か、パーティーでモンスターを倒すときに最初のヘイトを買う時くらい。


 しかし、イリスはそんな世界でメイン武器に弓を選んだ希少な存在である。


「右の二人、射抜いたよ」


 真下の防護柵前で迎撃の準備をするアオハルにイリスが報告する。

 わざわざ弓を扱うだけあって、その腕前は相当なものだった。


 イリスの扱う弓の矢にはトッケタ族お手製の麻痺毒が塗ってある。

 長時間動きを止めるほど強力な物ではないが、一定時間動きを鈍くさせる効果がある。


「よし、第一陣出撃!」


 アオハルの号令で、待機していたトッケタ族の戦士三十人のうち十人が門の扉を開いて出撃する。


 出撃と同時に門はすぐ締まり、出撃した十人はイリスの矢で動きが鈍った右の二人を標的にする。


 人数差がある上に麻痺毒を喰らった盗賊二人は成す術もなく、トッケタ族槍に打ち取られた。


 クロノの授けた策は「一撃離脱」。防護柵を盾にして矢で敵の動きを縛り、三陣に分けたトッケタ族の戦士たちが敵の戦力を削いでいく作戦だった。


 右の二人の倒したトッケタ族は、風のように速く走り門を潜りぬける。その間に屋根の上のイリスが左の三人の盗賊を順に射抜き、アオハルの号令で第二陣が出撃する。


「敵の人数も少ないし、なんか拍子抜けするくらい簡単だな」


 余裕しゃくしゃく、こんなに準備する必要もなかったなと言わんばかりにアオハルが呟く、しかし、少し高いところからこの戦況を見ていたイリスは違う感想を持った。


「いや、なんか変だよ。攻めて来たのが五人、それもNPCだけなんて。いくら何でも適当過ぎる」


「そうか? こういうシステムって他のゲームには中々ないし、向こう側も攻め方をわかっていないだけじゃないか?」


 アオハルとイリスが東側の門の前で戦闘を開始した頃、その反対の西側でイリスの懸念を証明するかのように異変が起こっていた。


 この作戦で後衛を担う、ユーリが配置された場所である。

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