第48話 開戦準備
「へぇ、すごく詳しいんですね。クロノさん」
特殊クエストについて詳しくクロノが説明するとイリスはそう言って感心した。
二人は村の外周に防護柵を張り巡らせる作業をしていて、その傍らにクロノは今この村で起きていることをイリスに説明したのだ。
二人とは反対の側の外周ではアオハルとユーリが同じ作業に精を出している。
「悪いな、巻き込んだみたいになてしまって」
クロノがそう謝罪すると、イリスはクスリと笑う。
「クロノさんだって、巻き込まれた側じゃないですか」
最初はなんとなく、勢いに飲まれて作業を手伝わされていたイリスだがクロノの説明を聞いた後も「自分には関係ない」と作業を中断することはなかった。
むしろ「僕もこの村が無くなるのは嫌です」とより精力的に働いてくれている。
「僕、趣味でブログをかいているんですけど、この村を見つけた時のことも書こうと思っていたんです。そこにこの話を付け加えればもっといい話が書けます」
そう言って快く笑うイリスを前に、クロノは少し複雑な気持ちになった。
この発言でイリスが「クロノの記憶の中の情報源」であることはほぼ確実になったが、思い出せる限り彼のブログに「特殊クエスト」に関する記載は一切なかった。
初めて侵攻クエストと防衛クエストが発生し、一つの村が完全に消えてなくなったのはトッケタ族の村発見からしばらく経ってからのことだったはずだ。
未来がまた少し変わってしまう――もう何度目か、タイムスリップ後のLEOで自分の記憶とは少し違う展開が起きる度にクロノは少し不安になる。
この変化の原因は恐らく自分で、本来いるはずのない、異物となった自分の存在が時の流れに影響を与えてしまっている。
それが良いことなのか悪いことなのか、自分だけでは判断のしようがなくもしかしたら何かとてつもなく大きな問題があることをしてしまっているのではないか、そんな不安を抱え続けていた。
「おーい、あっちの柵は設置し終えたぞ」
クロノとイリスのところにアオハルとユーリが戻ってくる。その頃にはクロノたちの作業もほとんど終わりかけていた。
「防護柵を張り巡らせる」といっても、それは特殊クエスト専用に用意されたアイテムを等間隔に並べていくだけの簡単な作業だ。
専用のアイテムは設置した数秒後に自動的に木製の柵に切り替わり、かつそこに巻き付いた棘だらけの蔓がスパイクの役割をして敵の侵入を阻む。
それを等間隔に、外周を一周して配置したので、トッケタ族の村はあっという間に棘だらけの蔓に周囲を囲まれた要塞に変わった。
「すごい見た目だけどよ、これ火をつけられたら一瞬で終わるんじゃないか?」
不気味過ぎる見た目に若干引きつつ、アオハルが苦言を呈す。
棘の蔓の攻撃力は高そうだが、柵の素材は木だ。火に弱いのではないかというのは誰でも思いつく不安要素だろう。
「大丈夫だよ。あの柵の素材はトッケタ族の神聖な木だから、神聖な加護によって守られている。木なのに耐火性も高い」
「おいおい……あれだけ切るなって言っていた木でできてんのかよこの柵……」
アオハルは半ば呆れ気味にそう言った。
「ご都合主義……」と、思っていることがそのまま聞こえてきそうな表情だったが、クロノはそれに対し曖昧に笑い返すだけでツッコミはしない。
一応、トッケタ族の神聖な木に関しては細かい設定があり、トッケタの村でサイドクエストをこなしていくと紐解くことができるのだが、それを説明している暇はなかった。
「クロノ―! 言われた通りにしてきたぞー!」
柵の設置を終えた四人の走り寄ってきたのはテムリだった。傍らに少女を連れて、その手を握ったままもう片方の手を懸命に振っている。
その顔は何故か泥だらけで、傍目から見れば泥遊びをした少年が無邪気に駆け回っているように見える。
「テムリ、ありがとう」
クロノがそう言ってテムリの頭を撫でると、テムリは嬉しそうに鼻をすすった。
初めて会った時の警戒心はもはや片隅にも残っていない。
村のために戦うクロノの姿を見て完全に心を許した様子だ。
「リリン、君も手伝ってくれたのか。ありがとうね」
テムリの連れてきた少女にイリスが視線を合わせて礼を言う。
リリンと呼ばれた少女は恥ずかしそうにうつむいて、それから小さく頷いた。
この少女がイリスと森で出会ったトッケタ族の子供であり、彼を村まで案内したNPCである。
二人はクロノの指示に従って、村の中のいたるところに防衛用のアイテムを置いてきたところだ。
テムリが泥だらけなのは大人では通りづらい狭く地面と近いところを何度も通り、頼みごとを急いで遂行してきた証だ。
お礼を言われて二人はどこか満足そうにしている。
とんがり帽子にひらひらした民族衣装。新たに増えたトッケタの子供にユーリが「か、かわいい」と打ちのめされている。
どこか緊迫しきりだった空気はいつの間にか少し和らいでいて、四人に自然と笑みが生まれた。
「もうそろそろ時間だな。何としても俺たちで村を守り切ろうぜ」
アオハルがそう言って拳を前に突き出す。
「私、がんばります」
ユーリがそれにそおっと自分の拳を合わせる。
「微力ながら、手伝わせてもらうよ」
イリスの手も差し出される。
「よし、行こう」
最後にクロノが拳を突き出して、四人の円陣は完成した。




