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もう一人の防衛者

 クロノは目の前に現れたプレイヤーを見遣る。

 羽根つきの帽子をかぶった少年風のアバター、身に着けた装備はクロノも知っているレア装備の一点もので、帽子の下から伸びた茶色い髪がさわやかさを演出している。


 装備に見覚えはあるが、その少年に見覚えはなかった。


「君は?」


 クロノが尋ねる。


 アスランの仲間であれば侵攻クエストの開始地点に転移させられたはずだ。そうでないということは、偶然ここに居合わしただけのプレイヤーということになる。


 まさか自分たちの他にも、それも自力でトッケタ族の村に正攻法でたどり着いたプレイヤーがいるとは思っておらず、クロノは若干の戸惑いを隠せていない。


「イリスって言います。少し前にこの村に来たんですけど、騒ぎになっててびっくりしちゃって……。遠巻きに見ていたら妙なクエストの通知が」


 イリスと名乗ったプレイヤーは簡単に事の経緯を説明した。


 森の浅いところで採集をしていたイリスは、夢中になってしまい森の奥深くに迷い込んだ。


 どれだけ迷っても転移石を砕けば町に帰れるので気にしていなかったが、森の奥の巨木を斧で切りつけようとしたところトッケタ族の少女に諫められたという。


「巨木を斧で? 大した素材にもならないし、重量制限に引っ掛かるだろう」


 話を聞き、クロノが疑問を呈する。


 LEOではプレイヤーは自身のインベントリを自由に管理することができるが、制限が全くないわけではない。


 制限の一つは重量に関するものので、インベントリ内のアイテムの総重量が規定値を超えるとプレイヤーの足は遅くなり、転移石を使っての転移もできない仕様になっている。


 バックパックの装備やアイテムの使用で重量の上限を増やすことはできるのだが、それにも限度があるためプレイヤーは持ち運ぶアイテムや入手するアイテムの重量を気にかけるのが常識だった。


「いやー、まぁそうなんですけど……」


 イリスは少しバツが悪そうに言葉を漏らす。それを伝えるのは嫌だとばかりにくぐもった声で口にした言葉は「でも好きなんです」というシンプルなものだった。


「このゲームすごくリアルじゃないですか。だから、自然の中で斧を振ってるとなんだか心が安らぐんですよ。僕、都会育ちだからそういう経験したことないし、現実でやろうと思うと色々とハードル高いし……」


 イリスがやたら言い訳がましく言葉を続けるのは、この話をした時に言い反応が返って来た試しがないからである。


 大抵は興味なさそうな曖昧な反応を返されて、そうでない場合も共感は得られない。

 そういう反応を返されるたびにイリスは好きなことを否定された気持ちになるのであまり自分から話したい話題ではなかった。


 しかし、クロノの反応はイリスの思っていたものとは違った。


 クロノは一瞬驚いたような表情を見せ、それから妙に納得したようにうんうんと頷き始め、終いには「なるほどな」と呟いたのである。


 無反応ではなく、否定もされないことにイリスはホッとして喜んだ。


 実際クロノもイリスに興味を持ち始めていた。木を切ることが好きだという部分に共感したのではなく、自分の中でイリスの正体に辻褄があったからである。


 思い出したのは、過去に戻ってくる前の攻略記事。

 一人のプレイヤーが自身の体験をブログに記しただけの、ほとんど日記のような記事だったがLEOのほとんどのプレイヤーが興味を示した攻略情報の一つである。


 そこには森で少女に出会ったこと、その少女が提示するクエストを進めていくと森の中の隠里に案内されたこと、その隠里がメインクエストに登場する小人族の村だったことが丁寧な文体で記載されていた。


 クロノがユーリとアオハルを連れて森に入った時、トッケタ族の村に入るための参考にした情報源である。


 つまり、クロノはそのブログを書いたのがイリスだと確信したのだ。

 そのブログの作成者もLEOでは素材アイテムばかりを集めているという変わった人物だった。


 特に伐採の作業が好きで暇さえあらば森に木を伐りに行くという点もイリスと共通している。


 自分がいつそのブログを読んだのか。時期までは定かではなかったのだが、実は自分たちが訪れた今現在と期間が被っていたことにクロノは驚いたのだ。


 そして、自分の頭の中でピースを一つ一つ当てはめて言って、イリスがブログの制作者だろうということに見当をつけた。


 それをほぼ確信した時のクロノの感情は何とも言えぬ満足感に溢れていた。


 例えるならば、テレビで見聞きしていた有名人に偶然会った時のあの感じ。


 クロノにとって、攻略の手助けをしてくれるタイムスリップ前の情報源たちはそれほど大きな存在だったのだ。


「あの……クロノさん?」


 様子のおかしいクロノをユーリが訝しんで覗き込む。ハッとしたクロノは頭を左右に激しく振って邪念を取り除いた。


 今はそんなことをしている場合ではなかったと思い出す。


「偶然とはいえ、こっち側のプレイヤーが一人増えてくれるのはありがたい。イリスさん、悪いけど少し協力してくれ」


 クロノは口早にそう言うと、防衛クエスト開始までに与えられた準備期間の猶予を最大限活かすためにユーリ、アオハル、そしてイリスの三人に口頭で説明しながら、手を動かして防衛の準備を開始した。

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