第46話 タイムリミット
アオハルにとっても、ユーリにとっても初めての対人戦だった。
特にユーリは、ゲームであっても「人を攻撃すること」を心のどこかで忌避していて、パラサイトマッシュルームと戦った時のような動きが出来ていない。
それでも懸命に食らいついていくが、エリファの容赦のない攻撃がじりじりとHPを削っていく。
「ハッ! 話題のトッププレイヤー、ルートキーパー様とその御一行も大したことねぇんだな。拍子抜けだぜ」
バカにしたようなアスランの笑いがクロノに向けられる。
クロノはユーリを助けに行きたかったが、アスランに阻まれて思うように動けずにいた。
アオハルも同様で、取り巻き三人の攻撃を凌ぐだけで精一杯だ。
そして無情にも、タイムリミットを告げるシステム通知がその場の全プレイヤーに届いた。
【特殊クエストが発生いたしました】
クロノたちには「防衛クエスト」の開始を告げるシステム通知。アスランたちには「侵攻クエスト」の開始を告げる通知だ。
戦闘が一時中断され、クロノとアスランは同時にメッセージを表示させる。
そこに記載された概略を流し読みして、アスランはにやりと笑った。
「なるほどねぇ。面白いじゃねぇか」
侵略者側に提示された特殊クエストの内容。それは対人戦を想定したものであり、アスランの好みに合っている。
概要を読み終えるころ、アスランたちの身体がほんのりと輝き出し、浮き上がる。
「どうやら俺たちは侵略者側のスタート位置まで強制転移させられるらしい。その辺はまるっきりゲームだが……仕切り直しってことだ。待ってろよルートキーパー、すぐにまた会えるからよ」
アスランはそう言って姿を消した。エリファも、取り巻きの三人も、同時に「開始位置」に転移したのだ。
特殊クエストには双方に準備時間が設けられている。村を攻めるため、あるいは守るために必要な準備、どこを攻めるのか、どこを守るのかの配置決めや特殊クエスト専用で用意されたギミックの使いどころなど、戦略を練るための時間だ。
目の前から敵がいなくなったことで気が抜けたのか、ユーリはその場にしゃがみ込んだ。
クロノとアオハルは彼女の元に向かう。
「大丈夫か?」
クロノがそう声をかけると、ユーリは今にも泣きだしそうな顔で、しかし決して泣くまいと耐えつつ、やや力のない声で弱音を吐いた。
「ごめんなさい。私、全然何もできませんでした。人を傷つけるのが怖くて……一回も攻撃できなかった」
ユーリの中で様々な感情が渦巻く、人に悪意を向けられたことに対する恐怖とか、初めての対人戦による緊張感とか、不甲斐ない自分へに悔しさなど。
張り詰めていた糸が切れるとともにそれらの感情がどっと押し寄せ、今は軽いパニック状態である。
「いや、仕方ない。全部いきなりすぎたからな。むしろ、そんな中でよくやってくれた方だよ」
ユーリを落ち着かせようとクロノが声をかける。励ますためのごまかしではなかった。
他のゲームにも当てはまることではあるが、対人戦にはハマる人とハマらない人の差がはっきりと表れる。
そして、LEOにおいてそれはかなり顕著だ。
リアルさを売りに作られ、ほぼ再現された五感のせいで、対人戦にもリアルさが追及されてしまうだ。
よりリアルな対人戦は、他のどのゲームよりもハマる人間を選んだ。現実では味わえないような高揚感と緊張感。
生きるか死ぬかギリギリの戦いを疑似的に体験することに熱中するプレイヤーが続出する一方で、他のどのゲームよりも対人戦を嫌悪するプレイヤーも多い。
LEOでどれだけ他のプレイヤーを傷つけても現実に支障が出ることはないが、追及されたリアリティのせいで人を傷つけることそのものを現実と同様に忌避してしまうのだ。
クロノの見立てでは、ユーリは間違いなくそのタイプ。突発的に起こった戦闘とはいえ、荷が重かったに違いない。
「悪い、俺も大して動けなかった。この特殊クエストってやつ、止めたかったんだろ? 始まっちまったな」
アオハルも気まずそうに頭を下げる。
ユーリほど対人戦に及び腰ではないが、人と戦うのはモンスターと戦うのとはやはり違った。
クロノが「止める」と言った特殊クエストが始まってしまったことで、アオハルも止められなかった自分に不甲斐なさを感じている。
「ああ、でも仕方がない。特殊クエストの発生自体を止めたかったのは、アイツら自身にペナルティがあったからだ。それは止められなかったけど、防衛さえできれば俺たちに影響はないよ」
クロノが特殊クエストの発生自体を防ごうとしたのは「アスランたちのことを思って」の部分が大きい。
侵攻クエストが発生した時点で侵略者側のプレイヤーは村の施設を永久的に使用できなくなるためリスクが大きい。
それを知らずにクエストが発生してはあまりに不憫だと思ったので止めようとしたのだが、それを説明してもアスランは聞く耳を持とうとしなかった。
それなら、もうどうしようもない。クロノは、「後は自分たちのためだけに防衛クエストを達成すればいい」と割り切っている。
「あの……」
一息つく三人に、声をかける者がいた。
クロノはトッケタ族のNPCが特殊クエストに関することで話しかけてきただと思ったが、そうではない。
「この特殊クエストってなんですか?」
特殊クエストについて聞きに来たのは間違いない。ただそれはNPCではなく……クロノが全く予期していない、見知らぬ一人のプレイヤーだった。




