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第45話 対人と経験

「なんだぁ、その妙な剣は!」


 アスランがクロノの短剣に興味を示す。

 LEOに点在する「成長武器」の詳細はすでに多くのプレイヤーに認知され始めているが、実際にそれを入手したプレイヤーは少ない。


 手にしたプレイヤーの多くはアオハルのように偶然ドロップした物を使っているだけの豪運で、詳細な情報を頼りに探し出せるのは現時点ではクロノくらいだった。


 アスランも、自分たちが探していたレアアイテムの正体が「成長武器」だということにはまだ気づいていない。


 気付いていればもっと目の色を変えてクロノたちに迫っている。


「アイテムを先に取られた腹いせに自分の不利益を犠牲にしてまで嫌がらせをする」という今の状況も、クロノには十分驚異的だが……。


「さっさと町に帰ってもらうぞ」


 クロノの振った剣から、炎が直前上に伸びてアスランを襲う。

 初見の攻撃だったが、アスランはそれを勘と反射神経だけで軽々と躱した。


 そして、手に持っていた長剣を乱暴にクロノに投げつける。


 間一髪。剣を投げる時の予備動作に気付いたおかげで、クロノは長剣を防ぐ。


 あらぬ方向に跳んでいった長剣は、地面に刺さる。


 アスランはその長剣にはもう目もくれず、慣れた手つきでインベントリから代わりの武器を即座に取り出した。


 いわゆる「レア武器」と呼ばれるクロノの短剣とは違い、アスランが使っているのはどの町の店でも販売されている量産型の長剣である。


 同レベル帯のレア武器に比べて、威力も耐久力も劣る。高レベルプレイヤーになると誰も使わなくなるような剣だ。


 だが、圧倒的に入手難易度が低く、その点においてのみアスランはこの長剣を気にいっていた。


 レベルに合わせて成長するわけではなく、刀身に炎を纏うなんて芸当もできない。だが、代わりの剣は何本でも用意できる。


 アスランのインベントリには同じ長剣がいくつも用意されていて、それ故に彼は武器を雑に扱い、「投げつける」なんて一回限りの遠距離攻撃を気軽に行えるのだ。


「さすがに分が悪いか……」


 苦虫を噛みつぶしたかのように苦しい表情を見せたのはクロノの方だった。


 LEOに関する知識の量でアスランに劣っているつもりは全くなかったが、こと対人戦に関してだけは違う。


 人間の動きはモンスターの様に規則的ではなく、何戦何十戦と対人戦を繰り返しても「この動きをした時はこういう攻撃がくる」なんて予測は立てられない。


 プレイヤーとプレイヤーが戦う場合だけは、どうしたって反射神経と勘の良さ、純粋なプレイヤースキルがものを言う。


「加勢します!」


 後方からユーリが叫ぶ。


 クロノの方に走り始め、レイピアを抜いてアスランを狙う。


 だが、その剣先がアスランに届くよりも遥か手前で、ユーリは横から妨害を受ける。


 細い針のようなものが無数に飛んできて、それが彼女の横腹を狙っていた。


 寸前でそれに気付き、身をよじって躱す。しかし、数本の針がユーリの足に突き刺さる。


「ぐ……」


 痛みはほとんどない。LEOの感覚再現システムが痛みに関する再現率を低く設定しているおかげだ。


 だが、攻撃を受けたことで足は強制的に止まり、一秒にも満たない硬直によって動きが止まる。


「一対一の戦いに口を挟むなんて無粋じゃない? アンタは私が相手してやるよ。お嬢ちゃん」


 細い針でユーリを攻撃したのはエリファだった。トッケタ族の戦士と戦っていたはずの彼女は、いつの間にか戦士たちの間をすり抜けてクロノたちに近づいていた。


 彼女が手に持つ武器は刃の突いた扇形の剣。アスランとは違い、見るからにレア武器だとわかる。


「ユーリ、気をつけろ。遠距離型の特殊効果を持った武器だ」


 エリファを横目に見ながらクロノが叫ぶ。

 その武器には見覚えがあった。成長武器ではないが、LEOの実装当初に猛威を振るった「剣なのに遠距離攻撃ができる」タイプの武器だ。


 大きな扇子のような見た目をしたぞの武器には確かに刃がついていて、近接戦ではその刃による広範囲の長い払いが強力。しかし進化を発揮するのは遠距離戦で、振るたびに武器に内蔵された細い針を飛ばすことができる。


「へぇ、良く知ってるね。あんたも情報屋の類かい?」


 エリファは余裕しゃくしゃくに笑い、再び扇形の剣を振った。

 飛び出した細い針がユーリを襲い、彼女はそれを後ろに飛びのいて躱した。


「見てれば避けることはできる……でも」


 ユーリがクロノを見つめる。

 さすがにエリファを相手しながらクロノの加勢をすることはできない。


「こっちはいい。ユーリは自分の相手に集中してくれ! アオハル、お前は向こうの三人を頼む」


 クロノが叫んだ。

 その時にはアオハルはもうトッケタ族の戦士たちと戦っている取り巻き三人の元に走っていた。


 特殊クエストの発生には制限時間がある。プレイヤーが村に侵入してから五分間だ。

 クロノがアスランを倒せばそれで終わる話ではない。


 侵入者として扱われているのはアスランだけではなく、エリファと取り巻きの三人も含まれている。


 特殊クエストの発生を防ぐには、五人全員を村から追い出さなくてはいけない。


「楽しくなってきたなぁ、おい」


 高らかに笑うアスランをクロノは睨みつけた。

 すでに何分経ったのかはわからない。だが、恐らく時間は残されていない。


「特殊クエストの発生を阻止する」には絶望的な状況だった。



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