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第44話 防衛の意味

 両者の剣が激しく打ち合わさる。

 火花のエフェクトが舞い、手にはずしんと重い衝撃。


 クロノは手数の多さで、アスランは一撃の重さで、どちらも相手を倒す一心で剣を振る。


 通常時ならトッケタ族の村はセーフエリア扱いで、戦闘を行ったプレイヤーは例外なくトッケタの戦士たちの標的になる。


 しかし、侵入者出現から特殊クエストの終了までの間だけはその限りではない。

 おかげでクロノは心置きなく戦えるが、それは同時にアスランへの一定の自由も保証してしまう。


 もしもクロノがアスランに負けてしまったら、アスランはこの場に残りクロノだけが別の場所で復活することになる。


 一時的にセーフエリアではなくなったトッケタ族の村では復活できず、一番近い他の町で復活するのだ。


 そうなれば、いくらトッケタの戦士たちの加勢があったとしてもアオハルやユーリだけで防衛することは難しい。


 アスラン側の人数はたったの五人。トッケタの戦士を合わせた防衛側の人数の方がはるかに多く、一見すると有利に見える。


 しかしその実、この一連の特殊クエストは初見ならば侵略側のプレイヤーが有利になるように作られている。


 侵略側のプレイヤーにはクエスト達成のための目標が明確に表示されるのに対し、防衛側には「侵略者から標的を守れ」という指示しか出ずに後手に回るしかないのだ。


 本来これはどうしても人数の少なくなる侵略側のプレイヤーに与えられるハンデのようなものだったが、この状況では防衛側のプレイヤーへの足枷にしかならない。


 クロノがいなければ、防衛側は何をすればいいのかもわからないまま、アスランたちに侵略されてしまうだろう。


 それでも、この場で負けてしまった場合のリスクを背負ってでも、クロノはアスランに挑むしかなかった。


「特殊クエストが発生して困るのは俺たちだけじゃない。侵略者側のお前たちは、クエストが発生した時点でこの村の施設を永久に利用できなくなるんだぞ」


 特殊クエストが発生し、防衛側のプレイヤーが村を守り切った場合、村は残り施設の利用も再開される。


 しかし、その場合でも侵略クエストを発生させたプレイヤーだけは二度と村への立ち入りを許可されず、施設利用もできなくなってしまう。


 クロノがその事実を明かしても、アスランはバカにしたように鼻で笑うだけだった。


「それがどうした。たかがゲームだ。その中の一つの村が利用できなくなったって、大した痛手じゃねぇ。それよりも今は、お前に嫌がらせすることの方が俺には重要なんだよ」


 完全な憂さ晴らし。アスランの言い分は逆恨みに近い。

 しかし、この時点での全LEOプレイヤーに共通する考え方も混じっている。


 クロノ以外の他のどのプレイヤーも、ゲーム内のたった一つの村が崩壊しても特に大きな感情は抱かないだろう。


 リアルな体験ができるといっても所詮はゲーム。そこに住むNPCは本当に生きているわけではないし、村もシステムの一部に過ぎない。


 誰だってこう考える。


「その村が無くなっても他の何かで代用できるんでしょ? だってゲームなんだから」


 過去に戻る前のLEOではそうだった。


 その時に消滅した村はトッケタの村とは別の村だったが、多くのプレイヤーが「二つの特殊クエスト」という馴染みのないコンテンツには興味を示し不便さに不満を漏らしはしたが、消滅した村に関心を向け、嘆くものはいなかった。


 当時はただLEOに熱中するだけのクロノでさえ、それは同じだった。

 クロノが、そしてこの時興味を示さなかった多くのプレイヤーが、後悔するのはもっと先のことだった。


 何年後かに追加された大型アップデート。追加されたのは新ダンジョンで、難易度はそれまでのどのダンジョンよりも難しかった。


 理不尽にも思えるほどのそのダンジョンに多くのプレイヤーから苦情が殺到したが、運営側は頑なに調整は入れず、新ダンジョンはLEO内でもかなり上級者向けのコンテンツになってしまった。


 それだけならばまだよかったが、話題になったのは海外のとあるハッカーのリークした内部情報だった。


 曰く、新ダンジョンには明確な攻略法があり、とある村で入手できるアイテムを使うことで難易度を下げられる設定だった、というものだ。


 そのとある村というのが特殊クエストで初めて消滅した村だった。


 クロノの知る限り、その村の代わりとなる村、あるいはアイテムはその後も追加されることはなかった。


 この一件で全プレイヤーが知ることになったのだ。


「LEOには何かで補えることはあっても、完全な代替コンテンツは存在しないのだ」


 といことに。


 現実の世界と同じで、失われた物は二度ともとには戻りはしない。


 その事実に気付いた時、それまでは「不便になる」という理由だけで防衛クエストに参加していたプレイヤーたちの意識が変わった。


 ゲーム内のお気に入りの場所、あるいは未来の攻略のために、どんな場所であっても守り切ってやろうという気概が生れたのだ。


 今のプレイヤーにはそれが全くない。

 クロノ以外、その時のことをまだ経験していないのだから当然だ。


 今この場で、トッケタの村を本気で守ろうとしているのはクロノだけだ。

 ユーリもアオハルもその重要性を理解できてはおらず、アスランたちに至っては遊び半分ともとれる言動で村を侵略しようとしている。


 クロノは、アスランに聞こえないくらい小さな声で、しかし明確に思いを込めて呟いた。


「ここの加工屋はな、後でラスボス攻略に必須級のアイテムを作れる唯一の店になるんだよ。絶対に侵略なんてさせねぇぞ」


 打ち合う度に輝きを増していたガルーダの魔剣がひと際眩い光を放ち、刀身が炎を纏った。

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