第43話 特殊クエスト
「特殊クエストねぇ……」
アスランはバカにしたように鼻で笑う。
クロノの言葉を信じていないわけではない。信用したとしても「それが引き上げる理由にはならない」というだけだ。
正直、アスランはここまで来たはいいものの、この先どうするのかをあまり深くは考えていなかった。
洞窟で虫型のモンスターの大群に囲まれ、気が付くと近くの町に死に戻っていた。
仲間たちは「レアアイテムを横取りされた」と憤り、アスランもこのままでは終わらせないと意気込む。
「奴らは恐らくこの町に帰ってくる。後をつけて仕返しの隙を狙うぞ」
と仲間に指示を出し、町の入り口と転移石を割って転移する時の登場場所の両方を二手に分かれて見張ったが、クロノたちは一向に姿を現さない。
「もしかすると俺らに待ち伏せされているのを察して目的地を変えたのかもしれない」
そう気づいたアスランはエリファがレアアイテムの情報を買い取ったという情報屋にすぐに連絡を取り、多額の情報料を払ってクロノたちの向かいそうな場所を推測した。
情報屋は洞窟で入手できるレアアイテム「白麗の真手」のことを教え、それを加工するためにはトッケタ族の村に行かなければならないと伝え、その村の場所まで教えてくれた。
しかし、サイドクエストことは何も教えてくれなかった。
結果としてアスランたちは教えられた通りに森の中を進み、村にたどり着くことはできたが、侵入者扱いになってしまったのである。
そして、ここまで来たのは良いとして、この先どうするかをアスランは考えていなかった。
怒りに身を任せて突き進んだのは良いが、クロノの言う通り今更レアアイテムを強奪するのは難しい。
PKをすれば憂さ晴らしにはなるだろうが、インベントリにしまわれたアイテムまで奪い取ることはできない。
ただの憂さ晴らし程度で終わらせるには割に合わない。レアアイテムの情報料に加え、クロノたちの居場所を突き止めるのに使った情報料、洞窟での屈辱の分も踏まえれば単純な嫌がらせでは納得できないところまできている。
そんなことを考えながら、アスランはクロノをにやにやと笑いながら見つめた。
「俺たちがここに居続けると、相当困るみたいだなルートキーパーさんよ。良いことを聞いたぜ。こうなったら、何が何でもここに残り続けてその特殊クエストってやつを発生させてやる」
自分の利を求めるのではなく、相手の不利益を見越した言動。その歪な憎悪にクロノは居心地の悪さを感じた。
侵攻クエスト、防衛クエスト、その二つの特殊クエストが発生して困る可能性があるのはこの場にいるプレイヤー全員だ。
侵攻クエストは侵入者側、つまりアスランたちに発生するクエストで、内容は単純だ。
時間経過によってアスランたちの扱いが「侵入者」から「侵略者」に変わり、トッケタ族との戦いが本格的に始まってしまう。
NPCに付与された対プレイヤー用のバフは無くなり、NPCを殺害することも可能になる。
アスランたちは村人を全滅させれば特殊クエスト達成となり、莫大なお金と経験値を入手できる。
防衛クエストは、侵入者が村に現れた時に村に滞在しているその他のプレイヤーに発生する特殊クエストだ。
内容は侵入者側から村を守ることで、侵略者となったプレイヤーを全員排除するか、あるいは専用の拘束アイテムで捉えることでクエストが達成される。
こちらの報酬は特にない。達成で得られるのは村の平和と村人からの盛大な感謝くらいだ。
だが、報酬を目当てにできなくとも防衛側のプレイヤーは必死に村を守る必要がある。
侵略者側のプレイヤーが侵攻クエストを達成してしまうと、その舞台となった村は半永久的に壊滅状態となり、村の施設も利用できなくなってしまうからである。
クロノはその事実をアスランたちに伝えるか悩んだ。
トッケタ族の村には加工屋の他にも希少な回復薬や珍しいアイレムを売っている素材屋などがある。
それらの施設を扱えなくなることはゲームの攻略においてかなりの痛手となってしまう。
LEOにはトッケタ族の村に似た村が他にもいくつかあり、そのほとんどの村でこの二種類の特殊クエストが発生する。
過去に戻る前のLEOでこのクエストの詳細が明らかになったのはとある一つの村が壊滅した後だった。
その時の侵略者側のプレイヤーたちは、確かに莫大な報酬を受け取ったようだがその後は犯罪者としてすべての町から指名手配され、LEO内のほとんどの施設が利用できなくなっった。
特殊クエストに関係していないプレイヤーたちも村の施設を利用できなくなったことで不便を強いられ、LEO内やネット上の様々なところで波紋を生んだ。
結果として、そのたった一つの村壊滅事件以降、全プレイヤーの中で共通認識となったのは「もしも今後他の侵攻クエストが発生した場合、その他の全員のプレイヤーが力を合わせてこれを阻止しなければならない」ということである。
クロノはアスランを睨みつける。そのにやけ切った表情に「説明しても聞き入れてはくれないだろう」と見切りをつけた。
そして短剣を構え直し、ゆっくりと深呼吸をする。
「今度追加されるギルド専用コンテンツのために、今この村に無くなってもらうのは困る。だから悪いけど、強硬手段で行かせてもらうぞ」
クロノの構えたガルーダの魔剣が深紅に輝きだした。




