第42話 顔見知りの侵入者
トッケタ族の喧騒の正体は「何か村に侵入したらしい」と三人に思わせるのに十分なほど村人たちを殺気立たせていた。
村おばあの家から一歩外に出た三人はすぐにその様子に気付き、槍やら剣やらを携えて同じ方向に流れていくトッケタ族の戦士たちを目で追いかける。
彼らが向かう先には集団が丸く陣取っていて、今まさに乱戦の真っ最中だった。
侵入したのはモンスターか、それとも敵対する部族のNPCか。トッケタ族が何と戦っているのか確認しようと乱戦に注目した三人の目に飛び込んできたのは見知った顔だった。
「あの人、さっきの……」
「五人全員揃ってるな」
信じられないものを見たというようにユーリが、半ば呆れ気味にアオハルが呟く。
クロノも、小さくため息を吐く。
「アイツらがどうやって居場所を突き止めたのかは知らないけど、目的は多分俺たちだろう。このままじゃ面倒くさいことになる。とりあえず止めに行くぞ」
クロノたちは急いで乱戦の中心へ向かった。
「俺も行く!」
テムリがそう言って三人を追いかけようとしたのだが、その首根っこを村おばあに掴まれる。
「お前はここにいんしゃい」
テムリは村おばあに掴まれたまま、乱戦に飛び込む三人の姿を見送った。
「おお、やっぱここに居やがったか! お前のこと思い出したぜ。話題の『ルートキーパー』さんよぉ!」
アスランがクロノを見つけて叫ぶ。
向かってくるトッケタ族の剣や槍を軽々と躱し、彼らを押しのけてこちらに向かってくる。
トッケタ族の戦士は強い。辺境の隠里とはいえ、セーフエリアに認定されている一つの町のようなものなのだ。
そこに住む戦士たちは有事の際に力を発揮し、町の衛兵とそう変わらない戦闘能力を有している。
にもかかわらず、アスランがそれをものともしないのは「物量」のせいだった。
パラサイトマッシュルームに操られた大量の魔物の群れを経験した今のアスランにとって、一つの村が有している数十人程度の戦士を相手にするのは何の問題もない。
一応、町の衛兵やトッケタの戦士たちには「プレイヤーとの戦闘における強化バフ」というものが存在するため、時間がかかればかかるほどアスランたちの不利は大きくなる。
それでも、戦士を押しのけてクロにに迫るくらいは運動能力の高いアスランには容易だった。
振り下ろされた剣をクロノは短剣で受け止める。対人戦が苦手とはいえ、さすがにこのくらいはお手の物だ。
「へぇ、良い短剣だな。それがあの洞窟の戦利品か?」
打ち合わせた剣を通して押し合いになるところ、力強く振り払われたアスランの長剣に対して、クロノはその力を利用するようにして一度飛びのく。
アスランの口ぶりから、クロノは彼らの狙いがやはり自分たちであることを確信した。
「レアアイテムはもう完全に俺たちのインベントリに入った。ここから無理に奪うことはできないぞ。このままじゃお前たちも面倒くさいことになる。さっさと仲間を連れてこの村を出ろ」
クロノはそう忠告した。
アスランたちがどうやってここに来たのか、クロノには大体の見当がついている。
プレイヤーがトッケタ族の村にくる方法は二つあり、もう一つの方法を使えば時間のかかるサイドクエストを受ける必要はない。
そのもう一つの方法とは、とても単純な話だった。「村の位置を記憶して直接乗り込む」それだけである。
村の手前にある「迷いの森」は侵入者を阻み、守り石を持ったものしか通さない。ただ、それはあくまでそういう設定があるという話だ。
迷いの森は時間の経過で姿が変わり、迷路のように入り組んでいるため直接村を見つけることは難しい。難しいのだが不可能ではない。
森が姿を変えると言ってもそれは有限で、いくつかのパターンがある。パターンさえ掴めば目印を決めて順序だてて進み、守り石なしで村にたどり着くことも可能というわけだ。
ただ、クロノはこの方法で村に入ったことはないし、これからも誰かにこの方法を進めようとは思わない。
「守り石なしでこの村に入ると今みたいに『侵入者扱い』になる。そして村から敵対され、村の施設も利用不可になる。一時的なものじゃないぞ。お前、視界の端に数字が表示されていないか」
クロノの忠告を受けて、アスランは視線を自分の視界の端に飛ばす。クロノの言う通り、そこには不穏な雰囲気の数字が表示されていて、だんだんとその数を減らしている。
何らかのカウントダウンであることは明白だった。明白だったが、アスランは特に気にも留めていない。
「五分。たったの五分だ。その時間侵入者が村に居続けると特殊クエストが発生する」
クロノは諭すようにそう言った。「この話を信じて、どうか立ち去ってくれ」という願いを込めて。
特殊クエストとは、メインクエストともサイドクエストとも違う。プレイヤーの行動がとある条件を満たした場合にのみ発生する突発性の高いクエストのことである。
今回の場合、トッケタ族の村で発生する特殊クエストは二つ。「侵攻クエスト」と「防衛クエスト」である。
そして、この特殊クエストの発生だけは何としても阻止したいというのがクロノの思いだった。




