第41話 迷いの森の隠里
「あった、あったよ!」
小川のほとりでテムリが片手を掲げて飛び跳ねる。その手に持った「守り石」を三人に見せるためだ。
少し離れたところをそれぞれ捜索していた三人は、その声を聞いて顔を上げ、安堵の表情を浮かべた。
「結構かかったな……」
ぽつりとアオハルが呟く。
ユーリの起点で落とし物をした場所ぬ見当をつけたテムリだったが、肝心のその場所があまりにも広すぎた。
「夕食用にここで魚を取ったんだ。その時転んじゃったから……たぶんその時」
テムリは小川の上流の当たりで転んだという。問題はその時に川の中に入って水浸しになってしまったから、落とし物が川の中なのか川岸なのかはわからないということだった。
テムリが転んだあたりを四人で一通り調べ、「どうやらこの辺りにはなさそうだ」と小川の流れに沿って手分けして捜索を開始した。
「『守り石』っていうくらいだから『石』だろ? 川の流れで少しくらい動くことはあるだろうけど、そうそう流されてはいないんじゃないか」
そう指摘していたクロノの言葉の通り、テムリが見つけた守り石は、彼が転んだ場所から程近い川底にあったようだ。
その場所を探したのがテムリで、捜索にそれなりの時間がかかったことを踏まえると「このクエストはもともと一定時間かからないとクリアできないのかもな」とクロノは思った。
過去に戻る前の自分よりも遥かに早く達成できたものの、思っていたよりも時間がかかった、という感じだ。
今まで見てきた攻略情報のどこにもそんな記載はなかったが、長年LEOを嗜んできた感覚のおかげか、なんとなく確信に似た自身があった。
これから攻略が進み、アップデートが増えれば「加工屋」の需要も上がってトッケタ族の村はプレイヤーで賑わうことになる。
もう少し検証は必要だが、ユーリの動画のネタとして使えるかもしれない。
そんなことを思っているうちに、テムリは三人に感謝の言葉をさんざん述べていたらしい。
クロノの代わりに応対していたアオハルとユーリが困り気味に苦笑するくらいに勢いだったらしく、二人とも助けを求める視線をクロノに向けていた。
「よかったな、テムリ。これで村に帰れるんだろ?」
クロノがそう声をかけると、テムリは長々と続く感謝の言葉を途中で止めて、ハッと我に返る。
「そうだ。早く帰んないと村おばあに叱られる。……そうだ! 皆も俺の村に来ないか? 『守り石』を探すのを手伝ってくれたって皆に紹介したいからさ」
クロノの知る通りの流れだ。
三人はそれを了承し、テムリに案内されてトッケタ族の村へ向かった。
♢
「すごい……。なんていうか、『隠里』って感じですね」
頭上を見上げたユーリが息をするのも忘れるくらい村に見惚れている。
三人が訪れたトッケタ族の村は「迷いの森」と呼ばれる森の奥深くに存在していた。
迷いの森はその名前の通り侵入者を阻み、「守り石」を持っていないと容易に通り抜けることもできないというのがLEOの公式設定である。
「一応入る方法は他にもあるんだけど、そっちは全くおすすめできない」
と補足したクロノの言葉はユーリとアオハルの耳をただ通過するだけだった。
いくつも並ぶ太い幹の巨大な木々は、それまでの森とは比較にならないほどの存在感を放っている。
その太い枝には木造造りのお洒落な家が建ち並び、木と木の間には同じく木製の橋がいくつも張り巡らされている。
それらを照らすのは葉の隙間からこぼれる陽光で、キラキラと緑みを帯びた村の光景は言葉を失うほど幻想的なものだった。
初見の衝撃、感動に襲われていないのはクロノだけで、二人とも村に夢中になっていた。
「おーい、こっちだよ! まずは村おばあに紹介するから」
いつの間にか村の中ほどに進んでいたテムリが三人に向けて声をかける。
二人の反応に「そういえば俺も昔はこうなったな」と苦笑するクロノと、声をかけられてハッとした二人は、テムリの後に続いた。
テムリが「村おばあ」と呼ぶ高齢の女性は、トッケタ族の村長のような存在である。
彼女は立派な木の上に建てれた立派な家に三人を招き入れ、手厚く歓迎する。
腰の曲がった村おばあが三人にお茶を淹れようと立ち上がるのを見て、テムリが先に動く。
仲睦まじい祖母と孫を見ているようで和んだ三人は差し出された甘い香りのするお茶を一口ずつ啜った。
「テムリの帰りが中々遅かったからねぇ、心配していたんだよ。『守り石』を探すのを手伝ってくれてありがとうねぇ」
村おばあは聞き心地の良い声色で改めて三人に感謝の意を伝える。
NPCとはいえ高齢の彼女に頭を下げられて、三人ともかしこまったように頭を下げ返した。
「最近は人間との交流も減ってきていたけどね、村人の恩人なら話は別だ。好きなだけこの村に居てくれていいし、この村で助けになれることがあるなら何でも言っておくれ」
クロノにとっては以前も聞いた言葉。ほとんど「定型文」と化した会話を聞いていた時だった。
家の外、トッケタ族の村が騒がしくなるのを三人は同時に感じた。
お祭り騒ぎ……というのだろうか。しかし、もっと殺気立った騒ぎの様に思える。
「こんな展開、初めて来た時にはなかったぞ」と思うのと同時に、「招かれない客が来たね」と村おばあが低い声で呟くのをクロノは聞いた。




