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第40話 小人の探し物

 少年は自らを「トッケタ族のテムリ」と名乗った。


「テムリは木の上で何をしていたんだ? 木を傷つける人がいないか見張っていたのか?」


 クロノが尋ねる。自然な会話の様に見えて「クエストの発生を促しているのだ」とアオハルとユーリは理解した。


「……いや、実は少し探し物を」


 テムリは一瞬口をつぐみ、言いづらそうにしながら呟いた。その所作はとてもNPCとは思えない。


 LEOの技術力に感心しながら、ユーリが聞き返す。


「探し物?」


「いや、なんでもない。これはトッケタ族の問題だから人間には関係ない。忘れてくれ」


 テムリはそう言って足早に立ち去ろうとする。その背中にクロノが声をかける。


「もしよかったら手伝わさせてくれないか。大切な木を傷つけようとしたお詫びがしたい」


 ピタ……と効果音が聞こえてきそうなほど、テムリはハッキリと足を止めた。

 ゆっくりと振り返ったその目はキラキラと輝き、今にも泣きだしそうなほど切羽詰まった様子が伝わってくる。


 その表情の中に嬉しさも滲ませつつ、テムリはクロノたちに一歩近づいた。


「本当か?」


 テムリはジッとクロノの目を見つめた。相手がNPCだとわかっていながらも、これだけ正面から見つめられた経験に乏しいクロノは少したじろいだ。


「あ、ああ。手伝わせてほしい」


 辛うじてそう応えると、テムリの期待に満ちた表情がぱあっと弾けた。


「お前たち、いい人間なんだな! さっきは勘違いして悪かった。本当はすごくすごく困っていたんだ。助かるよ!」


 堰を切ったようなテムリの発言に、今度はアオハルとユーリが目を見張る。

 変わり身の早さに驚いたのだ。


「小人族は人を信じやすい種族なんだ。そのせいか、サイドクエスト関係で出てくるときは『人に騙された』系の話が多い」


 テムリには聞こえないようにクロノが小声で二人に耳打ちする。


 三人に同時にシステム通知が届き、「サイドクエスト受注」の旨を知らせてくる。

 それぞれが慣れた手つきでクエスト画面を開き、内容を確認した。


 サイドクエスト名「小人の探し物」。状況をそのまま表しただけのタイトルに、三人はそのまま目をクエスト詳細に滑らせた。


 それと同時にテムリが話始める。


「実は、村おばあに預かっていたトッケタ族の守り石をどこかに落としてしまったんだ。それがないと俺は村に帰ることができない……どうか一緒に探してくれ」


 クエストの詳細に記載された通りの内容をテムリが話し、三人は手伝いを了承する。


「どこで落としたのかは覚えていないのか?」


 クロノがそう尋ねると、テムリは両腕を組んで考え込みながら「うーん」と唸り始める。


 このサイドクエストはクロノたちが求めている「加工屋」にたどり着くために必ず受けなければならない。


 その理由は単純で、加工屋がトッケタ族の村の中にあるからだ。

 このサイドクエストをこなすことで出会ったトッケタ族のNPCとの信頼関係を築き、クエスト達成後に村に招待されるという流れになる。


 ただ、このサイドクエストは一種類ではなく、森の中で出会うトッケタ族のNPCにはランダム性があり、クエスト内容も出会ったNPCによって微妙に変化する。


 過去に戻る前のLEOでもトッケタ族の村を訪れていたクロノも、テムリやこのサイドクエストとが初見だった。


 当時、村に招待されるきっかけになったサイドクエストも確か「守り石の捜索」だったとクロノは記憶している。


 その時はどう探したのか――地道に根気よく森の中を探して数時間かけて見つけたような覚えがあった。


 今度はもう少し早く見つかるといいが――まだ悩んでいるテムリを見つめながらクロノがそう思っていると、横から顔を覗かせたユーリが助言する。


「そういう時は、今日一日の自分の行動を思い返してみるといいですよ」


「行動?」


 ユーリの言葉にテムリが首を傾げる。


「はい。今日、どこに行ったか、何をしたか。一日の始まりから順番に思い出すんです。そうすると、案外落とした場所をすっと思い出せるかもしれません」


 やけに説得力のある言い回しだった。意外そうにクロノがユーリを見つめると、彼女は少し照れたように舌を出す。


「実は私もよく物を失くすんです。だからその時の対処法を……」


 ユーリは現実世界の実体験を元にアドバイスしたようだが、LEOではこういうきっかけでクエストが進むことが往々にしてある。


「えっと……朝は起きて、顔洗って、ご飯を食べて――」


 テムリは素直に、そしてやけに具体的に自分の行動を一つ一つ口にしていく。


 それが本当に経験した行動なのか、あるいはそう設定づけられているのかクロノにはわからなかったが、わざわざく口を挟んで作業を中断させるようなことでもないので黙っておく。


「それで村おばあに頼まれて川に魚を……あっ!」


 ユーリの言ったように、テムリは「すっと思い出した」ようだ。


「あそこだ。多分あそこ! 早く、早く行こう!」


 そう言ってテムリが突然走り始める。目的の場所に向かうつもりらしい。

 クロノたちは、慌ててその背中を追いかけた。

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