第39話 森の住人
LEOにおけるクエストというコンテンツは、主にメインクエストとサイドクエストの二つに分類される。
他にも「特殊クエスト」や「緊急クエスト」と呼ばれる例外的なクエストもあるのだが、プレイヤーにとって最も身近なクエストは「メイン」と「サイド」の二種類である。
メインクエストでは主にLEOの世界を舞台としたファンタジー色の強いストーリーが展開されているが、人気が高いのは様々な角度からLEOを深堀するサイドクエストの方だった。
ストーリー進行に合わせてゲーム内設定や戦い方、アイテムの使い方などを教えてくれるチュートリアル要素の多いメインクエストとは違い、サイドクエストでは世界のどこかに存在している特定のNPCと直接出会い、関係を築き、悩みを解決するという建前で受注しなければならない。
その代わりに報酬でレア装備が入手出来たり、秘匿情報を教えて貰えたりするのだが、どこでどのNPCと出会えるかには運が大きく絡み、現実さながらの一期一会のシステムが人気の要因となっていた。
とはいえ、クロノにはそれはあまり関係のない話だ。
過去に戻って来た彼にとって、重要なサイドクエストや見つかり辛いNPCの居場所なんていうのは攻略サイトの定番の話題だった。
大学の講義の合間とか、バイトの休憩時間にスマホでネットを漁っては、「うわ、こんなクエストあったのかよ」とか「ここすぐ近くまでいったことあるな……」と一喜一憂するのがほとんど日課のようになっていた。
もちろん、膨大な量のサイドクエストをすべて把握しているわけではないが、「白麗の蔓」を加工してくれるNPCとそれに伴うサイドクエストについてはよく覚えていた。
「ここだ」
湖畔から少し離れ、森の奥深くまで進んだ地点でクロノが立ち止まる。そのすぐ後ろで背中を追っていたアオハルとユーリは同時に不思議そうに聞き返した。
「ここ?」
「ここですか?」
クロノが立ち止まったのは何の変哲もない森の中。周囲を見回しても木と林、わずかな岩が転がっているだけでそれまで歩いて来た森の中との違いもわからない。
誰かがいるようにも見えず、ましてやクロノが「加工屋」と呼んだ店があるようにはとても見えなかった。
「ちょっと工夫がいるんだよ。とりあえず見ててくれ」
クロノはそう言うと、一番近い木に向かっていく。幹の太い立派な木だ。クロノは短剣を抜き、その木に向けて振りかざす。
「やめろ人間!」
その瞬間、待ち構えていたように木の上から影が降って来て、クロノの前に立ちはだかる。
両手を命一杯に広げ、威嚇するようにクロノを睨みつけながら制止したのは、クロノの腰ほどの背丈しかない黒髪の少年だった。
「か、かわいい……」
思わずそう声を漏らしたのはユーリである。彼女の視線は少年に向けられていて、少年のみを指した言葉ではなく、彼の身に着けた衣服も込みでの感想だった。
森に似合う濃い緑の服はひらひらと揺れ動き、頭には同じ色の尖がり帽を被っている。
その姿は物語に登場する「小人」とか、「妖精」を想起させた。
「まぁ、小人なんだけど」
クロノが少年の正体を明かす。降り立った少年は「小人族」。メインクエストで名前だけ登場する「世界各地の森を守る種族」である。
「ここはトッケタ族の神聖な森なんだ! 森の木を傷つけることは絶対に許さないぞ」
少年はそう叫び、より強くクロノを睨みつける。
「そうですよ。木を傷つけるなんてダメですよ」と、状況を完全に理解しない内に少年の味方となったユーリと、興味深そうに静観しているアオハルにだけ聞こえるようにクロノは声を潜めた。
「これが小人族に会うためのきっかけなんだ。ここからは俺に話を合わせてくれ」
二人が頷く。
小人族は「森を守る種族」である。出会うためには彼らの住む森に入り、そこに生えている木を傷つけようとしなければならない。
簡単なことだが、この方法が発見されるまでに本来かかった時間はLEOのサービス開始から二年と三か月である。
それまで小人族はメインクエストにしか存在しない伝承的な存在とされていた。
LEOでは様々な生産系のコンテンツがあるが、「林業」は存在しないからである。
一応木を切って素材にすることはできるのだが、大して高くは売れず、アイテム作成するにしても店で購入する方が楽なので人気がない。
初めて小人族を見つけ出したのは「金にも攻略の助けのもならないけど、なんか木を切っていると落ち着く」という理由で伐採作業をしていた変わったプレイヤーだった。
「すまない。そんな大切な木だとは思わなかったんだ。もう二度としない。どうか許してくれ」
クロノは素直に謝罪した。元々本当に木を傷つけるつもりがあったわけではないのだが、謝罪をして誠意を見せなければ状況は一向に進まない。
受けようとしてるサイドクエストはまだ始まったわけではなく、この少年とのやり取りの先でようやく受けられるのだ。
クロノは深々と頭を下げ、アオハルとユーリにも真似をするように身振りで示した。
三人が頭を下げると、少年はやや溜飲を下げたようで、クロノを睨みつけるのをやめて「まぁ、わかってくれたならいいんだけどよ……」と心を静めてくれた。




