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第4話 成長する武器

 彼は同じ大学の同級生だった。

 ゲームを通じて仲良くなり、LEOのサービス開始当初は彼も熱中していた。


 その熱量はクロノに負けず劣らずで、大学在学時は何度か一緒に遊んだこともあるのだが、就職を機にだんだんと疎遠になってしまった。


 気付いた時にはゲームのフレンドリストから彼の名前は消えていて、「ああ、あいつはもうゲームを辞めてしまったんだな」と少し寂しくなったことまで思い出す。


 気を取り直して、クロノは彼との会話を思い返してみた。


 あれは確か、LEOサービス開始から一か月後くらいのこと。


 大学の講義で一緒になった友人は、しばらくLEOがどんなに面白いゲームなのかを熱く語った後で、不意にこんな話題を提供してきた。


 ――知っているか? リルエルの近くにある古い井戸の底に、隠し武器があったらしいぞ。


 ――隠し武器?


 ――ああ、なんでも魔物を倒すとプレイヤーと一緒に成長する武器で、それがあれば序盤の探索では困らないらしい。


 そんな内容だった。その話を聞いた時、クロノは「へー」と曖昧に返事を返すだけで、特に関心は示さなかった。


 というのも、その頃にはクロノはある程度高いレベルに達していたから、友人の言う「序盤の探索で困らない」という話題に食指が動かなかったのである。


 ――今更手に入れたところで意味ないよな。


 そんな風に考えたと思う。しかし、それは間違いだったとすぐに気づいた。

 似たような性能の武器が、その後もしばしば発見され、その度に話題に上がったのである。


 成長武器の成長上限は当時まだ不確定で、「序盤は使える」という評価だったのが、「中盤でも割と悪くない」に変わり、高レベルプレイヤーが増えだした頃には「終盤でも全然使える。むしろ装備を代える手間とか費用を考えたら成長武器の方がいい」という評価に変わった。


 その評価に誘われるように成長武器を求めるプレイヤーが続出し、プレイヤー同士の取引では「現実世界ならマンションが買える」と揶揄されるような値段にまで高騰していた。


 その頃にはクロノも成長武器が欲しくなっていたが、時すでに遅く、手に入れようにも手が届かない高嶺の花になっていた。



「よし、成長武器を手に入れよう」


 記憶によれば友人にその話をされたのがサービス開始から一か月後。話題になったプレイヤーが成長武器を始めて発見したのは三週間後だったはずだ。


 今ならば十分間に合う。


 ――問題は成長武器が隠されている井戸がどこにあるかだが。


 残念ながらそれも記憶に頼るしかない。あれだけ毎日の様に眺めていた攻略サイトも、今はまだ何も書かれていない白紙状態だろうから。


 クロノは友人の話と、当時ゲーム内で話題になっていた内容をすり合わせ、井戸を探すことにした。


 リルエルの町には続々と人が増え始めていて、目に見えて人口密度が上がっている。クロノと同じタイミングで町に来た他のプレイヤーたちもそろそろ動い始めるようだ。


 彼らは恐らく、町の外に出て魔物と戦うのだろう。他の多くのゲームがそうであるように、LEOではレベル制を採用している。

 魔物を倒し、獲得した経験値でレベルを上げ、スキルポイントを貯めてスキルを得るのだ。


 隠し武器を探している間に他のプレイヤーは幾分かクロノよりレベルが高くなるだろう。

 しかしクロノは気にしなかった。


 ――レベルの差は後でどうにでもなる。今は先ず隠し武器だ。装備の善し悪しで、今後の俺の攻略速度も変わってくる。


 そんな思いを胸に抱えて、町を飛び出す。


 幸いなことに、目当ての井戸は割とすぐに見つかった。


「○○のクエストで立ち寄る廃墟の近くらしい」


と友人が語っていたのを思い出せたおかげである。


 十年も前のことなのに、不思議と友人の言葉はすらすらと思い出せた。クロノにとって、あの日々がそれほど楽しく、思い出深い物だったからかもしれない。


 「○○」の部分はどうしても思い出せなかったが、道中に廃墟が出てくる序盤のサイドクエストにはいくつか覚えがあった。

 そのすべてを片っ端から調べ、数件目の廃墟で目的の井戸を発見したのだ。


 井戸は石造りで、苔むしていた。朽ちかけた木の蓋を外し、中を覗きこんでみるが暗くて底は見えない。


 試しに拾った石を投げ入れてみると、割と近いところで乾いた地面に当たる音がした。


 そんなに深くはない、水も引いている。


 ――罠とかないよな?


 隠し武器のことは思い出せたが、それを手にしたプレイヤーの詳細は覚えていない。友人はそこまでは話していなかったと思うし、ゲーム内で噂を聞いた時も大して気に留めていなかった。


 多少の不安を抱えつつ、クロノは井戸の淵に足をかけて、勢いよく飛び込んだ。

 現実世界ならこんな得体の知れない場所に飛び込むなんて絶対にできないが、生憎これはゲームだ。


 LEOでは死ぬと最後に立ち寄った町の入り口で復活するが、無駄にするのはそれまでに費やした時間くらいでデスペナルティはない。


 それを知っているからか、躊躇は少ない。


 井戸の底に足がつく。浅いと言っても数メートルはあるだろう。これまた現実世界では怪我をしてしまう高さだが、ゲームの中ならこのくらいはどうってことない。


 暗闇に目を凝らしながら、「松明を持ってくるべきだったな」と少し後悔する。

 LEOの各町で購入できる松明は序盤に訪れる暗いところの探索では必須級のアイテムだ。


 それを失念していた自分にすこしばかり舌打ちをしてから、飛び込んだ井戸の入り口から差し込む光だけを頼りに、クロノは周囲を探した。


 井戸の中はそれなりに広い。元は水がはっていたのだろうが、今は乾いている。

 少し探しているうちに目は暗闇に慣れていき、クロノは隅に小さな箱があるのを発見した。


 ――なるほど。事前に何かあることを知らなければ、こんなところ探さそうなんて奴はいないな。


 箱を手に取り、微かに笑う。実際には一か月後にここを自力で見つけるプレイヤーがいるのだが、その物好きのことは一先ず置いておく。


 期待に胸を膨らませ、クロノは箱を開けた。

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