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第3話 二度目の初日

 ――どうしてこんなことになったのか、はたしてこれは現実なのか?


 ゲームが起動し、意識がLEOの世界に入り込んでいく感覚を味わっている最中でも、そう考えずにはいられなかった。


 得体の知れない現象に直面した時、黒野が強く感じたのは不安である。なぜ自分がこんな体験をしているのか、これはいつまで続くのか、本当にこれは夢じゃないのか。


 あらゆる疑問を抱き、それに答えはだぜないまま、頭の中でぐるぐると渦巻く。

 そうしているうちに、不安の影に隠れていたもう一つの感情がフッと顔を出す。


 好奇心だ。


 ――もし、これが夢じゃないのなら。

 ――神様がくれたチャンスだったとしたら。


 十年後の世界で、黒野はさんざんな目に合った。それは主にLEOに関する出来事で、自分は今、そのLEOのサービス開始の日にタイムスリップしている。


 これはただの偶然ではないはずだ。

 やり直せ――誰かにそう言われているような気がした。いや、そう言われているのだと思うことにした。


 このゲームを、あの攻略を、あのラスボス戦を――やり直せ。


 八時ちょうど。ゲームが起動する。恐らく、いま、この瞬間に世界中のプレイヤーがLEOを起動するのだろう。あの日の自分がそうしたかったように。


 アバターの作成画面、それから名前の選択。もろもろの必要な初期操作を黒野――クロノは流れるように進めていく。


 本来なら自分の操作キャラの見た目には気を遣う方だ。大抵のゲームは初めてすぐにアバターの見た目で悩み、早くプレイを開始したい自分の気持ちとせめぎ合わせながらアバターを作成することになる。


 でも今は、特に悩む必要なんてない。


 LEOには既にお気に入りのキャラクターアバターが存在する。覚えている限りのアバターの特徴を入力していく。


 数分後に出来上がったのは、黒髪に黒い瞳。平凡な顔立ちだが、十年来の愛着がある自キャラクターだった。


 平凡なのは自覚しているし、なんだかんだそれが一番落ち着く。出来上がったアバターで作成を完了すると、そのアバターに意識が移り変わる。


 名前の選択――これはクロノから変える気はなかった。


 必要な操作がすべて終わると、今度は視界いっぱいにオープニングムービーが流れ始める。

 クロノは迷うことなくその映像をスキップした。


 LEOの世界観をプレイヤーに伝えるための映像だ。そんなものは、十年も前から頭に入っている。


 視界が白み、目がくらむ。

 ようやく光になれたと思ったら、そこは既にLEOの世界だった。


 始まりの町リルエル。ゲームを起動したプレイヤーが最初に降り立つ町である。


「すげぇ。本当にあの日のLEOだ」


 口から感嘆の声が漏れる。リルエルの町はゲームの開始時に絶対立ち寄る町ではあるが、攻略に必要な町かと問われればそうではない。


 ここはいわゆるチュートリアル扱いの町で、プレイヤーはここで戦闘の基礎を学んだり、メインストーリーの概要を把握したりする。


 クロノは周囲に続々とプレイヤーらしきキャラクターが現れるのを見た。

 LEOの世界に「職業」というシステムはない。プレイヤーは世界各地を巡って自分だけの武器を入手し、その武器に合った戦闘方法を身に着けていく。


 初期装備は全プレイヤー同じなので、始めたばかりのプレイヤーは一目でわかる。

 クロノと同じように、安い作りの布鎧と、シンプルな鉄の剣を腰に差した連中がプレイヤーである。


 ――こんなに早く町に来てるってことは、あいつらもムービースキップ勢だな。


 一瞬、クロノは「彼らもタイムスリップしているのではないか」と疑った。しかし、町の装いに目を奪われ、田舎から東京に上京してきた若者のように建物を見上げる彼らの仕草は、とても二度目の経験者には見えない。


 ――ああ、単純にムービーをスキップする癖がついてるやつらか。


 オンラインゲームにはストーリーなどまるまる無視して、ただ純粋なゲーム体験のみに心力を注ぐ連中がいるのだ。


 サービス開始直後にムービーをスキップして町に降り立った彼らは、恐らくそういうタイプなのだ。


 やっかいだな――とクロノは思った。そういうプレイヤーたちは大抵攻略の最前線を目指すからだ。そう自分と同じように――。


 これが神か何かの思し召しで、自分にやり直すように命じているのなら――今度こそLEOのトッププレイヤーになって、ラスボスを攻略してやろう。


 クロノはそう考えていた。そこには、あの憎き大手ギルド「紅の探究者」への恨みも含まれている。特に、ギルド代表のリオウ。アイツにだけは二度と騙されてなるものか、という決意があった。


 紅の探究者よりも早くラスボスを倒すには色々と準備をしなければならない。ラスボスの実装は八年後だが、ラスボスに効果的なアイテムがいくつか頭に浮かぶ。


 それらはほとんどが一点物――ゲーム内でただ一人のプレイヤーにしか入手できないアイテムで、手に入れられるかどうかは早いもの勝ちだ。


 ムービーを飛ばすようなやつらが攻略を進め、ラスボス討伐に必要なアイテムを先に取られるのはまずい。


 そう考えると、今この町にいるプレイヤーの多くは当面のライバルということになる。


 ――何かないか。こいつらに序盤から差をつけられる、何か有用な知識は。


 クロノは必死に考えた。十年前の知識を総動員し、何か有用な攻略情報はなかったかと記憶を辿る。


 そしてふと、思い出した。


 それは、十年後にはすっかり疎遠になってしまった大学時代の友人の言葉だった。



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