第36話 PKプレイヤー
激しい炎を上げてパラサイトマッシュルームが燃え続ける中、その一区画だけが不自然に燃え残っている。
白い菌糸に囲まれた壁のような場所に光る球状の核が半分埋もれた状態で顔を出していて、その横宝箱も同じように菌糸に包まれていた。
かなりの年代物だ。見るからに古く、ところどころ錆びている。ただ、施された装飾は精彩で古くても立派な物に見えた。
その外観が中身に対する三人の期待感を煽る。クロノ自身、「白麗の蔓」を実際に見るのは初めてだった。
「開けますね……」
ユーリが慎重に、期待感を高めて宝箱を空けようとする。
「いや、先に核の破壊を――」
とクロノが言いかけた時だった。
「あれー? なんかもうボス倒されてねぇか?」
最深部の入り口付近から唐突に声が聞こえた。
三人が振り返ると、そこにいたのは五人のプレイヤー。アスラン、エリファとその取り巻きたちである。
「ええ、被ったの? 面倒くさいなぁ」
燃え盛る化け茸を横目に見ながら、エリファが鬱陶しそうに言う。
それで諦めるはずもなく、五人はゆっくりとクロノたちの方へ近づいて来た。
「なんか騒がしいと思ったんだよな。急いで正解だったぜ」
アスランは既に片手剣を抜いており、それを携えたまま近づいて来る。
まさかいきなり斬りつけてくることはないだろう、とクロノは思ったが明らかに不穏な空気が流れていた。
クロノの後ろでユーリが身を強張らせる。それをかばうようにアオハルが前に一歩踏み出して、クロノの横に並んだ。
「あんたたちもアイテムを狙っていたのか。悪いな、見ての通り俺たちが先にボスを倒しちまった」
アオハルがアスランたちに向けて言う。彼らも目的を同じとしていたことは知っているが、「知っていて横取りをした」となると角が立つ。
あくまで穏便に済ませようと、アオハルはその事実を隠した。
言葉の裏には「だから諦めてくれ」という意味が込められている。
アスランはそれを理解し、そして鼻で笑った。
「おかしいなぁ……おかしいよ。この場所の情報を買った時、情報屋は『まだ誰にも教えていない独占情報だ』って言っていたんだよな?」
「そうよー。だからすごく情報料も高くついたわ」
突然、仰々しい態度でアスランが喋り出し、それに合わせてエリファが答える。
クロノたちが戸惑うほど唐突な切り口で、何もかもが嘘くさく見えるほど大袈裟な喋り方だ。
「ならおかしいよなぁ。アイツらはどこでこの情報を手に入れたんだろうなぁ」
「アイツら」と言いながらアスランはクロノたちの方を剣で示す。それに合わせて、エリファと取り巻きのプレイヤーたちがにやにやと笑い始めた。
「何が言いたい」
クロノがそう問うと、アスランは「それを待っていた」と言わんばかりににやりと笑った。
そして、それまでよりも一際大袈裟な演技でこう言った。
「お前ら! 俺たちの話を盗み聞きしていやがったな? そして最深部で待ち伏せして、俺たちを襲うつもりだったんだ!」
クロノはアスランたちが一体何を始めたのか、ようやく理解した。
理屈の通らない言いがかり。その真意は……「PKをするための大義名分作り」である。
「お前ら、やられる前にやり返せ!」
アスランが叫ぶと、他の四人が「待っていました」と一斉に武器を抜いて走り出す。
クロノは力強く舌打ちをした。
「ふざけやがって」
アスランたちの行動に怒りがこみ上げる。この慣れた雰囲気、明らかに常習だ。
LEOにおいて「他のプレイヤーをキルする行為」は禁止されているわけではない。
ただ、ペナルティは存在する。他のプレイヤーを攻撃すると、全ての町で「指名手配」の扱いになり衛兵のNPCに追われることになる。
そして捕まると、NPCによってリアルな取り調べが行われ、状況を加味した罰が付与されるのだ。
一番思い罰で「禁固刑」。他者に対する攻撃の理由が悪質とAIに判断されると、所持アイテムをすべて没収された上に現実時間での一日分の時間を町の地下牢で拘束されてしまう。
だが、「状況的に仕方がなかった」と判断されればお咎めなしもあり得るのがLEOにおけるPKだ。
アスランたちの三文芝居はそのための布石だった。
クロノたちが何故ここにいるのかなんて本当はどうでも良い。問題は「先にボスを倒されてしまった」という事実。
自分たちがレアアイテムを入手するには最早クロノたちから奪うしか方法はないが、下手に動けばペナルティを受けてしまう。
アスランたちは「AIの判定を欺き、罪を軽くする方法」を心得ていた。
クロノはタイムスリップする前、アスランやエリファと同じ紅の探究者に所属していた時のことを思い出す。
その時もあまり関係は深くはなかったが、ギルドホームで彼らが会話しているのを見聞きした覚えはある。
「また襲われちまってよぉ。返り討ちにしてやったぜ」
得意気に話すアスランを見ても、その時は大したことは思わなかった。「やけに襲われる奴だな」とか「対人戦が好きなんだな」という程度だ。
だが、もしかするとそのほとんどが今と同じように難癖をつけて無理矢理PKに仕立て上げただけなのではないか。
そんな疑念が生まれ、嫌悪感を抱く。
それがまかり通るのなら、それはもはや「PKプレイヤー」と何も変わらない。
「まぁ、盗み聞きしていたの本当だけどな」
アスランたちには聞こえないようにそう呟いて、クロノは彼らに対して背中を向けた。




