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第35話 化け茸の弱点

 クロノとユーリはパラサイトマッシュルームの目の前までたどり着く。


「モーションが変わるぞ!」


 クロノが叫び、その言葉の通りに化けキノコは動きを変えた。

 直前までの連続した触手の動きではなく、一つにまとめた数の力で自分の周囲をまとめて叩き潰そうとする。


 振り下ろされた触手をクロノは軽々と、ユーリは間一髪で躱す。クロノが叫んでいなければ危なかったかもしれない。そんなタイミングだった。


「わかっているなら最初から教えておいてくださいよ」


「それじゃつまらないだろう。それに、ちゃんとユーリなら避けれるタイミングで教えてる」


 必死なユーリの抗議をクロノは楽しそうに受け流す。

 実際、楽しかった。


 紅の探究者のような他人行儀な雰囲気ではなく、ソロの孤独感でもない。

 気心の知れた友人とゲームをするのはこんなにも楽しかっただろうか。


 三人でギルドを作ると決めたあの日から、クロノはずっとそんな風に感じていた。

 ギルド名がまだ決まっていないという点だけは締まらないが、それでも関係ないほどに今のLEOが楽しい。


 単純にラスボスを倒したかった最初の頃とはまた違う。もちろんラスボスは倒したい。そのための努力も惜しまない。でもそれは……できれば皆で成し遂げたい。


 そんな風に思い始めていた。


「そろそろ胞子の時間だぞ! 気をつけろよ」


 後方でアオハルが叫ぶ。

 パラサイトマッシュルームは再び息を吸うように空気を取り込み始め、胞子をまき散らす準備をする。


「ユーリ、スキルだ!」


 クロノの指示にいち早く反応し、ユーリはレイピアを構えた。

 使うスキルはわかる。このタイミングでクロノが指示を出した意図を正しく理解する。


 レイピアには強力なノックバック効果の付与された剣術スキルがある。


 ユーリが武器の熟練度を上げ、プレイスタイルの方向性に迷っていた時に、「使い勝手がいいから覚えておくといい」とクロノに教わったスキルだ。


 ノックバックスキルは強力な突き攻撃で、受けた相手は数メートル後退する。

 ただそれだけではなく、ノックバックする時に一瞬硬直時間が発生し、モンスターの技を中断させる効果もあるのだ。


 パラサイトマッシュルームは地中深くに触手を根のように伸ばし、身体を固定している。


 そのためスキルによるノックバック効果は得られないが、硬直の方は効果があった。

 ユーリの突き攻撃を受けたパラサイトマッシュルームの動きが止まり、必然的に胞子が吐き出されない隙が生まれる。


 クロノはその隙を逃さずに、自身の愛用する短剣「ガルーダの魔剣」を握る手に力を込めた深紅の刀身がさらに赤く輝く。


 強力な一撃を叩き込む前に、クロノは二つのことに感謝した。


 一つは、ガルーダの魔剣をサービス初日に取りに行ったこと。あの判断は間違っていなかったと断言できるし、序盤で入手した「成長武器」はクロノ自身のレベル上げに伴って成長し、固有能力まで取得するに至った。


 もう一つは、パラサイトマッシュルームと戦闘の経験が一度だけあったことだ。

 過去に戻る前のLEOで、クロノはまさしくこの場所でこのモンスターと戦っている。


 目的までは思い出せない。その時には既に「白麗の蔓」は入手されていたはずだからレア武器が目当てではないはずだ。


 道中に出てくる昆虫モンスターの素材を欲したのか、あるいはサイドクエストで立ち寄ったのか。


 理由は定かではなく、記憶も曖昧。洞窟の入り口を思い出せないという失態も犯したものの、これだけは良かったと言えることがある。


「弱点を思い出せてよかった」


 そう呟き、振り払ったクロノの短剣から赤い火花が散った。

 ガルーダの魔剣の固有能力「斬りつけた対象を燃焼させる」能力だ。


 クロノの記憶によるとパラサイトマッシュルームには厄介な特性があった。

 胞子を飛ばし他のモンスターを操るというのもその一つだが、他にももう一つ。


 胞子を蓄えた状態のパラサイトマッシュルームは斬られても再生するのだ。

 斬り落とした端から新しい身体が生えていき、通常の戦い方では時間がかかる。


 そこで有効なのが火を使った攻撃だった。

 斬りつけて、さらに胞子ごと燃焼させることで再生は止められる。さらに、火は瞬く間に全身に燃え移り、パラサイトマッシュルームを焼け焦げにしてくれる。


 過去に戻る前のたった一度の戦闘では、そのことを知らずに相当に苦労した。

 終わってから「どうすればよかったんだ」とネットを漁り、入手した情報を今になってようやく思い出したのだった。


「すげぇ。目の前でこんだけ燃えていてもあまり熱くないし、煙臭くもならないのはゲームの良いところだよな」


「でも恐ろしいです。キノコのあの顔みたいな部分が苦悶に満ちていて……残酷すぎる。もう絶対キノコ食べられない」


 アオハルがわざわざ近づいてきて炎の前で暖を取り、ユーリはトラウマをさらに悪化させたらしく顔を青くする。


「悪い、ちょっと無理させ過ぎたか」


 とクロノは少し反省し、お詫びもかねてパラサイトマッシュルームの後方を指さした。


「ほら、後は核を砕けば討伐完了だ。それと……横にあるのが今回のご褒美だ」


 クロノが示した方向には、パラサイトマッシュルームの核になる光る球状の物体と、その横にひっそりと置かれた古びた宝箱があった。

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